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全力で隠れるなら水を浴びよ

 ご飯は既に大広間に用意されており、学校ごとに同じ空間で食べられる。


 「山の中だから魚が少ないのは仕方ないか」


 写真を撮る許可を貰ってから、ご飯の撮影をする。


 アリスと家族に送る為である。


 「アリスに送るの?」


 「そう。頼まれてね」


 風呂も代表達が集まって順番を決めて、入る事になっている。


 部長がお忙しいそうのを眺め、支えている副部長に心の中で敬礼をしておく。


 夜はすんなりと寝れて、いつもと同じ時間に起床する。


 さすがに早いか⋯⋯。


 「朝のルーティンをするにしても、ここは家じゃないしな」


 他にも起きている人はいるだろうし、目が完全に覚めたら、走ったりして軽めの運動をしようかな。


 クジョウさんも早起きなのか、外に出るタイミングで遭遇した。


 「おはよう」


 「おはようございます」


 二人で軽めの運動をした後、朝食の時間に食堂に向かう。


 朝食はバイキング形式であり、様々な料理が並んでいた。


 栄養を気にして料理を選び、机に運んで食べ始める。


 「おいヤジマ!」


 「なんだねサトウ」


 「アレ見ろよアレ!」


 食事中に大きめの声を出すのも良くないのに、指を向けるのか。


 とりあえず、黙らせるためにも俺はその方向を見る。


 「なん、だと」


 それはこの世のモノとは思えない、そんな光景が広がっている。


 驚愕のあまり、俺は無意識に手の力を緩めて、箸を皿の上に落としてしまう。


 その光景とは⋯⋯ヤマモトが女子校の制服を着た女子と談笑しながらご飯を食べているモノだった。


 「なんであんな美人が⋯⋯いいや。ヤマモトにそもそも女子が話しかけるか?」


 「失礼承知の上で同意する」


 サトウの意見に同意してしまった。


 一晩⋯⋯まだ出会って間も無いと言うのに何があったんだ?


 「なんで俺には声がかけられないんだ!」


 「待てサトウ。それはまだ早計だ。もしかしたら、ヤマモトから声をかけた可能性がある」


 「だがしかし⋯⋯もしかして俺達は、日頃の行いが良すぎて、逆に女子から引かれていた。つまり、日頃の俺らを知らない相手なら⋯⋯イける?」


 そんな結論に至ったサトウは自分に香水を振りかけ、近くの席に座っている女子校の生徒のところに向かった。


 あんな臭い香水をかけてしまったら、誰も寄りつかんだろ。


 「やぁそこのおじょ⋯⋯」


 「え、なんか話しかけて来たんだけど」

 「キモー」

 「整形してから出直して欲しいよねぇ」


 見事に撃沈したサトウはトボトボとした足取りで戻って来た。お前の勇気、忘れないぜ。


 ⋯⋯二分くらいは。


 まぁ、ヤマモトが誰とどうなろうが関係ない事かな。


 一応、運命の魔眼が何かを示すかもしれないので、使って確認しようかな。


 もう一度ヤマモトの方を見ると、隔てるようにクジョウさんが現れた。


 食べたいモノを一通り選んで、俺の隣に来たらしい。


 「ここ、良かった?」


 「大丈夫ですよ」


 「お隣座るね」


 サトウは未だに摩訶不思議(まかふしぎ)な光景に疑問をグチグチと零している。


 驚きはしたが、それまでだ。


 目の前の男は怒りと嫉妬で爆発しそうだけど。


 「⋯⋯大丈夫そう?」


 「大丈夫。ある程度発狂したらいつも通りに戻るさ。俺達にできる事はただ、この狂った人間を暖かく見守ってやる事だよ」


 「そう」


 朝食の時間は終わり、休憩してから外に集合するように指示される。


 準備を終えてから、外に向かうとカマクラがクジョウさんをナンパしていた。


 「なぁ、連絡先くらい良いだろ?」


 「今回の合宿以降関わらない人の連絡先は必要ないと思う」


 「いやいや。今後も良好な関係を続けようじゃないか」


 「必要ないと思う」


 そんな互いに一歩も引かない会話をどうしようかと眺めていると、クジョウさんと目が合った。


 本の一瞬で僅かな動き、もしも素人なら相手に後ろに何かいると思わせるだろうが、クジョウさんはそんなミスしなかった。


 その視線を受け取ったので、俺はカマクラへと手を伸ばす。


 気配を消す事はせず、むしろ大っぴらに出す。呼吸を深くして、足音を出す。


 「あぁん? って、何かと思ったらヒョロヒョロ野郎じゃないか」


 「特徴を覚えておいてくれてありがとう。そろそろ時間だからね。クジョウさんと一緒に行きたいから誘いに来たよ。迷惑だったかな?」


 皮肉を交えつつ、クジョウさんを解放する流れに持って行く。


 「そんな事ない」


 カマクラにこれ以上何かを言わせまいと、素早く俺の手を取って下駄箱に向かう。


 一瞬だけ、カマクラから殺意を感じたが、無視で問題ないだろう。


 「あの、クジョウさん?」


 「ん?」


 「別に手を繋ぐ必要は無いと思うよ?」


 止まって、握っている手を見つめるクジョウさん。


 「ごめん。そうだね」


 「謝る必要も無いよ」


 下駄箱に向かい、互いに靴に履き替える。


 そこで問題が発生した。


 「靴が無い」


 「え?」


 クジョウさんの靴が下駄箱から無くなっているのだ。


 下駄箱を間違えた⋯⋯なんてのは無いか。俺の隣に入れていたから。


 考えられるとすれば、誰かが嫌がらせ目的で隠したかあるいは変態が持ち去ったか。


 どちらにせよ、魔眼の力が上手く働いてくれたら見つかるかな。


 「あそこか」


 全ての下駄箱から運命のテロップが出され、一つだけ『ナナミ靴100%』とあったので確認すると、しっかりと靴が入っていた。


 「私の靴⋯⋯なんで?」


 疑問に持つ俺達だが、他の人はただ単に入れた場所を間違えたと思っただろう。


 これがゴミ箱や靴を入れる場所以外から出て来たのなら嫌がらせは周知される。


 「⋯⋯迷惑な」


 ボソリと呟いた俺の言葉に反応する者は誰一人と居なかった。


 午前に行う内容が発表された、それは『かくれんぼ』である。


 隠れる側は気配を殺して潜む力を、探す側は気配を感じ取る力を必要とする。


 子供が良く外で遊ぶモノは色々と戦いに役立つ能力に関わる。


 俺は最初、見つける方になった。


 範囲は山の中で旅館の主が保有している土地の敷地内。目印として柵が用意されている。


 隠れる際、一つの場所に留まる必要は無いので、状況に応じて隠れる場所を変えても良いらしい。


 種族の力はダメと言うルールもある。空を飛べたら上から見れちゃうしね。


 そんな訳でかくれんぼは始まった。


 気配を薄くできる人しかこの場にはいないだろう。


 しかし、臭いや魔眼の力をどうにかしない限り、俺から逃れる事はできない。


 「まず一人目」


 「ヒッ!」


 土管の中に屈んで木の葉を被っていた人を発見して、次に向かう。


 木の上に居ようがバレないようにジリジリと移動して逃げようが確実に捕まえる。


 結果として、三番目くらいの順位で収まった。


 カマクラは二位であり、俺の事を上から目線で煽り散らかした。


 一位はうちの部長だった。


 結果の整理をしていると、クジョウさんが隣に立つ。


 「範囲が広かった⋯⋯」


 「そうだね。それに隠れる場所も多かった」


 思っていた以上に、ね。


 隠しギミックとかあるし、ここはただの山と思わない方が良いだろう。


 ちなみにヤマモトとサトウは最後まで隠れきった。その能力を邪な気持ちで使わない事を祈るばかりだ。


 今度は俺達、見つける側は隠れる番となった。


 「ここで確率を信じるのもなぁ」


 ちょっとした手違いで、確実に見つからないと示された場所で見つかる可能性がある。


 故に、隠れる側では魔眼の力を使わないでおく事にした。


 足音を完全に消して、足跡を残さないように、あるいは騙す為に残して、木陰に隠れた。


 「臭いで見つかっちゃうからな」


 俺は持って来た水を頭からぶっかけた。五月に入ったばかり、寒い。


 鬼が来た時にはさらに集中して気配を殺し、相手を見ている事がバレないようにする事にも意識を向ける。


 結果、寒い思いをしただけはあり、最後まで隠れきった。


 ヤマモトとサトウは同率三位である。


 タオルで拭きながら、着替えの為に部屋に戻る。


 その時にクジョウさんが歩み寄って来て、当然の疑問をぶつけられた。


 「何があったの?」


 「全力を出した結果さ」

お読みいただきありがとうございます。

遅れて申し訳ありません。

すみません、12月5日(火)まで更新をお休みします。リアルが忙しくなってます。ごめんなさいm(._.)m

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