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合宿の始まり

 魅了ラッシュを終えた翌日、ゴールデンウィークの初日へと入った。


 駅の一角へ集まり、部長が点呼をする。


 ヤマモトとサトウは微妙に似合ってない服装であり、出会い目的なのは一目瞭然だろう。


 電車とバスを乗り継いで目的地に向かうらしい。


 「一般の人達に迷惑はかけるなよ」


 「部長、どうしても俺達に言うんでしょうか」


 「日頃の行いは模範的な我らにっ!」


 部長の忠告に疑問を持つ二人だが、歩いている美人な外国人をナンパしに向かい、副部長に制裁されていた。


 そんな事がありつつ、電車に乗り込む。


 旅行客が増す時期、電車の中は混み合っていた。


 席が空いていても、俺は常に立っているタイプなので問題ないのだが。


 「どんな人達がいるのかな」


 強い人がいるらしいので、とても楽しみだ。


 電車を降りたら、バス停で一時間待機となった。


 「クジョウさん。申し遅れました。私服、とても似合ってますね」


 「どうも」


 「アナタが着るモノ全てが喜んでいるでしょう」


 「良く分からない」


 ヤマモトとサトウのテンションの上がりように他の全員が少しだけ引いていた。クジョウさんも若干引き気味だ。


 ⋯⋯そう言えば、皆私服だった。


 服なんて性能面でしか見てないし、似合っているとか似合ってないとか良く分からないんだよね。


 下手な事は言えないし、俺は黙っていよう。


 ⋯⋯過去に素直な感想を漏らしてアリス及び妹に怒られた経験がある。


 「ヤジマくん、どう思う?」


 バスを静かに待っていたら、裾を引っ張られて感想を求められた。


 動きやすい格好と言う前提があるため、今回は素直に言っても大丈夫かな?


 「軽そうな服で動きもあまり阻害しないと思うし、良いと思うよ」


 「だよね」


 ちょっぴり嬉しそうなクジョウさんの声音を聞いて、俺は何も間違ってなかったと心の中で安堵する。


 バスを使って旅館へと移動する。


 山の中にあり、昔から探索者達が訓練ために泊まる場所らしい。


 その為、山の中には探索者が訓練に使う道具とかが残っているとか。


 「正確には、訓練場だったところを一般人でも利用できるように旅館にしたって感じだな。健康促進のための施設もある」


 部長が皆に補足するように旅館の説明をしてくれた。


 旅館の女将さんに案内されて、部屋へと入る。


 広い部屋で、俺達の学校は二部屋借りている。男子と女子で分かれているのだ。


 「真反対の部屋だからな。屋根を伝って移動すれば⋯⋯」


 そんな下賎なヤマモト達の会話を聞き逃さない部長は圧を込めて警告した。


 ちなみにここの旅館関係者、皆が腕利きの探索者だったらしいので、多分ノゾキとかできない。


 俺も集中してないと気配を感じれないし。


 荷物の整頓が終わったら、まずは学校同士の顔合わせがあるため外に向かう。


 「女子校! 女子校!」


 「可愛い女の子! 可愛い女の子!」


 「お前らまじでやめろ」


 外で待っていると、ゾロゾロとメンバーが揃って来る。


 とてつもない強者の気配は無い⋯⋯強さを偽っている人間がいるかもしれない。


 「いきなり警戒で観察するのは関心しないぞヤジマ 」


 「すみません部長。ついクセで」


 「お前はどんなクセを持ってるんだ」


 代表同士の挨拶が始まる。


 代表なだけあって、どの人も纏う気配は強いと思わせてくれるが、うちの部長はその中でも別格な気がする。


 もしかしたら他の二人が実力を偽る程の実力者だった場合があるので、あくまで憶測でしかないが。


 「それでは、まずはこちらで決めていた一日目にやる事を伝える、それは鬼ごっこだ。初めての環境、慣れない地形で相手を追いかける。あるいは逃げる。種族の使用は禁止、鬼の比率は一対三とし、こちらでランダムで決めさせてもらう。それまで各自自由行動だ。ただ、遠くまで行く事、森の中の探索は禁止だ」


 フェアにするために森の探索はなしか。


 だけど、先生との訓練を思い出せばこのくらいの森なら迷う事は無いな。


 スマホは⋯⋯圏外か。思っていたよりも山の中だな。


 あるいはそのように調整されているのか。


 「おいおい。代表挨拶で強そうな奴がいるから、ちょっとは期待したのにこんな雑魚もいるのか」


 「ちょ、いきなり他校に喧嘩売るのは止めましょうよ。バカみたいじゃないですか」


 「うっせぇよ」


 そう大声で言ったのは、黒髪でトゲトゲ屈強な男だった。


 なんだこいつ、とか遠巻きで見てたら俺と目が合った。


 「やべっ」


 面倒だとすぐに分かった。魔眼の力が無くてもね。


 すぐに目を逸らしたが⋯⋯逆にそれが良くなかったのだろうか。


 ソイツはズカズカと俺に歩み寄り、覗き込むように懐に入って来た。


 ギロリと睨んで来る瞳に反射した俺が写る。とても面倒くさそうな顔だ。


 「はっ。お前はこの中で一番弱いな」


 その男の言葉を聞いた、我が学校の部員達は全員がクエスチョンマークを浮かべている様子。


 嬉しい事だと思うが、ちょっと気恥しい。


 サキュ兄の魅了タイムのような恥ずかしいとは全然違う。


 「そうだね。でも、最初の印象だけで情報を確定させると足元すくわれますよ?」


 「はんっ。くだらねぇ忠告だな。俺は強ぇ。だからちょっとした油断程度で負けたりはしねぇよ」


 「⋯⋯そっか」


 慢心が残酷な未来への扉と知らないのか。


 一触即発の空気、言い争いが発展しそうな中に足を踏み込んで来る人がいる。


 金髪をなびかせて割り込んで来たのは、クジョウさんだ。


 「ヤジマくんは弱くないよ。⋯⋯少なくとも、君よりかは強い」


 「⋯⋯言うじゃねぇか」


 一瞬言葉に詰まった?


 「お前、中々に強いな。気に入った。俺の彼女に⋯⋯」


 「興味無い。お断りします」


 早いっ。まだ言葉の途中だったのに断りを入れた。


 綺麗なお辞儀まで⋯⋯慣れてるな。


 「面白ぇ。本当に、俺はお前が気に入ったぜ。じゃあな」


 なんだったんだろうか。


 「そう言えば名前は?」


 普通こんな状況だと名前は聞かないのか、俺の言葉に空気が凍る。


 刹那、男が笑いだした。


 「肝は座ってるか。そりゃあ探索者だからな。鎌倉(カマクラ)だ。覚えておけ」


 「俺は矢嶋霧矢(ヤジマキリヤ)


 「雑魚の名前なんてすぐに忘れる」


 その後、代表達による鬼が発表される。


 俺、クジョウさん、カマクラに部長も入っている。


 合計の人数は12人であり、この合宿には48人が参加している事になる。


 鬼は逃げる人が森の中に入ってから三分後に走り出せる。


 「おっと。これはイージーじゃないか」


 魔眼の力が発動して、逃げる人達の場所を運命の確率として表した。


 その中には確定のモノもある。


 「人が通った後の空気って苦いんだよね」


 犬は人が通った後を臭いで追いかけるが、俺は人が通った後の空気の味で追いかける。


 自然な空気の中に人間が通ると空気は苦くなる。


 運命の魔眼と合わせて最短で最初の人を捕まえる。ズル? 使えるもんは使え精神だ。


 何かを出し渋って取り返しのつかない事になるよりかは全然良い。


 模擬戦や決闘なら正々堂々を信条としているけどね。


 「ん?」


 運命の魔眼の確定してたテロップが消えた。


 スンスン、と鼻を動かして臭いを嗅ぎとる。


 犬並みの嗅覚は無いが近くに人間が入れば⋯⋯その臭いは掴める。


 「上か」


 「ヒッ!」


 木の上に乗った人を発見したので、速攻で登る。


 地面に着地して逃げるのを見て、木を蹴飛ばして追いかける。


 「は、速いっ!」


 「タッチです」


 捕まった人は両手を上げて最初の地点へと戻る決まり。


 それを見送り、俺は次に向かう。


 「急に上向くし⋯⋯怖いよあの人」


 そんな呟きは既に聞こえなかった。


 人数が多いせいで、魔眼の情報量が多く、視界をテロップで埋め尽くす。


 確率の低いのは視えないようにしたい。


 ムーンレイさんと出会ってから人間状態だと0か100で使える。この辺もどうにかしないとな。


 その後も同様な方法で捕まえて行き、全体に広がる集合合図で最初の地点に戻る。


 捕まえた人の数がそれぞれ言われて、俺が一番多かった。


 「ちぃ。たまたまだろ」


 カマクラのそんな言葉が、俺の鼓膜を微かに揺らした。

お読みいただきありがとうございます

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