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魅了ラッシュ、仲間増えるね(泣)

 ゴールデンウィークの三日間は合宿のために配信もできないしダンジョンにも入れない。


 その事を視聴者に伝えると、想定内のコメントが多数寄せられた。


 “今までの階層のモンスター全員魅了しようぜ”

 “総集編だ総集編”

 “そしたら皆満足できる”

 “ウルフ魅了の新たな可能性も模索しよう”


 ユリ達の希望もあり、俺達は全種類のモンスターを魅了する旅へと出る。


 ただ、一層に関しては魅了しても旨みが少ないため、いつものようにライムの分裂体を放置して二層から本番となる。


 ゴブリン三体の群れを発見した。


 「それでは。魅了会議を始めますっ!」


 全員がスマホに群がる中、俺は心を無にして壁にもたれて座る。


 すると、隣にアイリスが腰を下ろした。未だに戦斧を買えてなかった。


 本当にそろそろ与えないとならんな。


 「ん?」


 アイリスの纏う気配がいつもよりも薄い気がする。気のせいか?


 「アイリスは混ざらないのか?」


 「俺が入っても、結果は変わらない。楽しみは取っておくんだぜ」


 そんな笑顔で言われて嬉しい言葉では到底無いのだが、口に出さないで我慢した。


 時間は経過して、ポーズが決まった。


 それはI字バランスである。


 細かい事になるのだが、今回は太ももを強調させるらしい。


 前回のY字バランスの時は下に流れるように落ちるズボンを利用して、股へと目線をやった事により魅了した。


 故に、今回は太ももだけで魅了するらしい。何を言っているか分からない?


 安心しろ。俺も分からない。


 「今思ったけど、これって視聴者がプレイヤーで俺が操作キャラなんじゃ?」


 どっちが配信者か分からなくなってきたな。


 さて、辛いのはこの後もなんだ。心を無にして、頑張るぞい!


 「頑張れ姫様!」


 「姫様言うな!」


 “かわいい”

 “ゴブリン魅了は見慣れているからね”

 “周り全員ボブ以上なのに、ゴブリンを入れて大丈夫かね?”

 “まぁ期待って事で”


 “ワクワク”

 “ちゃんとセリフも言うんだよ”

 “コボルトにもして欲しい”

 “薄い本の作者は捗るねぇ”


 俺は三体のゴブリンの前に出る。


 足を上げてズボンを下げ、太ももを露出させて腕を回す。


 「⋯⋯」


 ペロリ、なんでこんな事をしないとならないのかと、自問自答しながら自分の太ももを舐めた。


 汗の味も何もしないが、良い気分では無いのは確かだ。


 「き、君らも、舐め⋯⋯りゅ?」


 噛んだ。


 “噛んだな”

 “めっちゃ噛みましたな”

 “顔がりんごのようだ”

 “赤さはりんごと良い勝負”


 「ふぐっ」


 俺は膝を折り、地面にうつ伏せになる。


 俺は何をしているんだ。本当にっ!


 しかも噛んだ。めっちゃ噛んだ。


 恥ずかしさが限界突破した後、俺はホブゴブリンの屈強な肉体に持ち運ばれる。


 「目指すは三層!」


 ユリが先導してやがる。


 ウルフ達が自分の背中に乗せろとホブゴブリンに言うが、聞かなかった。


 次はウルフの魅了だから、ちょっとした嫉妬もあるのだろう。


 今ではホブゴブリン達の方が強い。


 「コボルトとゾンビの名前のコンセプト考えてなかったな」


 運ばれながら、別の事を考える事にした。


 途中、ゴブリンの大軍と遭遇したが、ウルフ達とユリ、ローズ、アイリスの鬼人キッズ達により瞬殺された。


 「ん〜?」


 なんか、普段よりも少しだけキレが良い?


 気のせいかな? 俺が剣の軌道を見切れて無い?


 気配が薄くなった事が気のせいでは無いのなら、ユリ達はどのように成長しているんだ?


 分からない事が増えてしまった。


 微妙な変化で、視聴者達には分かってないようだ。


 「てか、逃げられないようにホブゴブリンに運ばれながら、視聴者のコメントも見れる状態にされるって実は拷問?」


 その悪魔達の言葉を俺の視界に入れないでくれ。


 時間よ過ぎ去れ⋯⋯現実は酷いモノで問題なく三層へと到着した。


 ここからはウルフ魅了に入るのだが⋯⋯簡単なウルフ魅了に問題が発生した。


 当然、悪魔達の囁き(ささやき)によってだ。


 “キスして終わりとかヤダねっ!”

 “ウルフに魅力を感じてもらうぞ!”

 “露出では意味が無いから格好とか?”

 “尻尾フリフリの装備をつけるとか?”


 “仲間のウルフに尻を嗅がせて同族アピ”

 “四足ポーズか”

 “それだけだとエロ⋯⋯ゲフンゲフン。視聴者サービスに欠けるよな”

 “単純なエロでは獣はなびかない”


 ユリ達が真剣に考えている中、ローズが仲間のウルフ達に質問をした。


 最短の解決策を見出してしまったのだ。


 「⋯⋯似ている形の部分、お尻に魅力を感じるそうです」


 ローズの機転により視聴者に火種がばらまかれた。


 それは瞬く間に巨大な火炎へと姿を変える。


 “確かに。ケツの形は皆同じか”

 “サイズの違いはあれど、ウルフも人間もケツは変わらん”

 “尻尾と耳のアイテムが欲しいところ”

 “テイム時に求愛アピールの尻クンカクンカがあるからね。重要な事だ”


 “ならば前々から会議の議題に挙がるジャック・オーなんでどうだろうか?”

 “採用”

 “セリフを考えるぞ!”

 “オー!”


 ユリ達が盛り上がりを見せたので、そろそろ結論が完成するだろう。


 ポーズのイメージを固める為か、ユリとローズがやっている。


 二人は仲間にそんな醜態(しゅうたい)を晒しても恥ずかしくないのか、真剣に議論していた。


 その度に血の気が引いていく。


 「アイリス、俺は怖いよ」


 「俺は楽しみ!」


 クソ野郎がっ!


 ホブゴブリンやコボルト、ゾンビと言った人型のモンスターも真似をする。


 ポーズは確定しているっぽいな。


 しかも、仲間のウルフによって微調整までされる。


 ポーズと言葉が決まり、後は俺がそれを実行するだけ。


 「ふぅ。やっぱり帰らね?」


 「ダメですよご主人様。頑張ってください!」


 「姫様しかできない事だぜ!」


 「僭越ながらこの自分(ローズ)も成功を願ってます」


 お前らの期待が重いっ!


 俺はウルフの前に出る。


 背を向けて、身体を倒して腕を組みながら地面につける。


 足を開いて尻は斜め上を目掛けて上げる。しっかりと輪郭を出して尻を強調させる。


 “さぁ、言葉を!”

 “もう真っ赤。だけどHPはゼロじゃないね!”

 “良き眺め”

 “長文じゃないぞ!”


 「わ⋯⋯」


 言葉が震え、残り三文字が上手く出せない。


 奇怪な動きにウルフはこちらを警戒している⋯⋯と思う。


 「⋯⋯ん。ワン。ワンワン」


 「ワンワン」たった四文字の簡素なセリフと言う名の鳴き声⋯⋯なぜかはしらんが最後にもう一度しっかりと言葉に出してしまった。


 魅了は失敗して欲しかった。だって、普通に魅了できるって言う前例が欲しくなかったもんっ!


 そもそもこれになんの魅力を感じる!


 “なんと言う背徳感”

 “やべぇ。止まらねぇ”

 “ぐへへ”

 “あー本当に尻尾と耳が欲しい”


 悲しみを胸に、今度はウルフに寝させられホブゴブリンに周りを固められて、四層へと向かった。


 四層はコボルト⋯⋯コボルトはウルフを人型にしたような見た目であり、サイズはそこまで大きくは無い。


 ゴブリンに感性が近い為、魅了はそこまで難しくは無い。


 「あぁー」


 いっそゾンビになった方が楽なのでは、と良く分からない思考になりつつ会議が終わるのを待った。終わるなと願いながら。


 俺の願いは神に届く事無く、無慈悲にも終わってしまった。


 精神力のパラメータが数値的に現れているなら、今はまだゼロに近いと言えよう。


 「ふっ。それで俺に何をしろと?」


 コボルトの前に出て、決まったポーズを決める。今回はポーズ重視でそこまでセリフは長くないし恥ずかしいモノでも無い。


 足を開いて座り込み、前かがみになって右肘を地面に着けて、右手を顎に。反対の左腕は胸を強調させるために胸下に持って行き、突き出すように上げる。


 「いらっしゃい」


 ウインクをしながら伝えると、魅了は成功する。


 胸を強調するために、胸元のボタンは外しているのできちんとつける。


 “くっ。この程度ではさすがに慣れたか”

 “サキュ兄が平然としている⋯⋯だと?”

 “もしかして⋯⋯ウルフの魅了が恥ずかしすぎて心が砕けたか?”

 “敗北感”


 仲間に加わったコボルトを見ながら、俺は無心となった。悟りを、開いたのである。


 最後、五層のゾンビ。


 今の俺ならば何が来ようとも問題ないと言える確信がある。


 さぁ、かかってこい視聴者ども!


 「【月光線(ムーンレイ)】!」


 背後で昇る光により、俺は影に染まる。


 翼は限界まで閉じて身体の輪郭を目立たせ、腕を広げて迎え入れる準備をする。


 露出は無い。しかし、どうしても客観的に考えてしまう。


 「おいで、ぞ、ゾンビさん⋯⋯アナタの、臭い⋯⋯体液で⋯⋯わ、わた、わたしを、⋯⋯染めてください」


 ゆったりとした艶かしい声音を意識しろ、と言われたのですると、サキュバスだからか、その辺の調整は実に完璧にできた。


 だが、恥ずかしくて上手く言葉が出せなかった。こんな言葉をゾンビに向かって俺が言うのだ。


 想像して欲しい。知性のないゾンビに向かって誘惑する様を。


 今、自分の顔を想像もしたくない。


 相手からもカメラからも俺は影に染まってただのシルエット。


 だからこそ⋯⋯恥ずかしいのである。言葉を言うだけでも、どう言う状況なのかを想像してしまう、させてしまうのだ。


 しかも、誘っているのが自分なのでなおさらだ。


 「もうこんなのアウトだろ⋯⋯」


 まだ、胸元を少し出した方が恥ずかしくないぞ。セリフが恥ずかしい。クソっ!


 魔法が収まり、項垂れる俺の姿はしっかりとカメラに収まった。


 “勝った!”

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