ライムの検証と五層へ
ダンジョンに入って移動してから、カメラを起動してライブ配信を始める。
すると、すぐに人は集まってくれる。
現在の登録者数は嬉しい事に九万人を超えている。
大半の視聴者は男だと思ったのだが、実は男女比は半々と驚きの結果が出ている。
どうしてそうなっているのか、ぶっちゃけ分からない。男にしか需要がないと思うんだけどね。
「今日、まず始めにやるのは、ライムの検証です!」
人狼の戦い時にライムはゴブリンの剣となり俺が使っていた。
ゴブリンの剣を使った事は一度もないが、切れ味は本来よりも落ちていると思ったのだ。
だが、ゴブリンの剣はとてもボロボロであり本人以外が使うと簡単に壊れるくらいに耐久性が無い。
だと言うのにライムが変身した剣は壊れる事無く使えたのだ。
「俺の憶測では耐久値無限の代わりに性能が下がった武器⋯⋯ライム、剣に成れるか?」
ライムはゴブリンの剣に変身した。
重さはとても軽く、剣を持っている感覚がかなり乏しくなる。
軽いが感触は確かに剣そのものと言える。
コボルトの武器を食べさせたらその武器の性能を手に入れる事ができるかもしれない。
“来たか検証動画”
“切り抜き班はしっかりと内容毎に分けてね”
“軽いのねふむふむ”
“切れ味も同じだったらさすがにチートだからね”
ユリが読める漢字を含めて言葉に出してくれる。
ただ、凄く感覚的な話になってしまうのだが、人狼の時よりも切れ味は上がっている気がする。
どう言う訳か⋯⋯。
「ライムって同じ物を食べれば食べるほど、その性能に近づくって言う仕様があったりする?」
言葉がしっかりと通じているか分からないが、スライム状態に戻ったライムは身体の一部を伸ばして円を形成する。
それは正しいと言っているのかもしれない。
“同じ武器を沢山食べさせれば、耐久値無限で同等の性能の武器が手に入るって事かな?”
“さすがに変身できる武器に上限とかあるよな?”
“魔剣とか能力付きの武器も複製できたらサキュ兄の軍隊めっちゃ強化されるんじゃね?”
“それを買うお金が⋯⋯”
“コボルトの武器さっさと食べさせようぜ”
“これは二刀流サキュ兄が主流になるのでは?”
“分裂とか他には何ができるの?”
“ゆりちゃんあいしてる”
ユリが読み上げた最後の一文は無視するように釘を刺した。
ひろがなオンリーは完璧に読める事を視聴者は知っている。悪用はやめて欲しい。
他にできる事、ライムに質問してみた。
特にアレをやってと言ってもできるか怪しいしね。
できる事をしてもらう。
ライムはプルプルと震えて、三体に分裂した。
分裂なので、一体一体の体積は小さくなる。
「でも、俺と初めて会った時⋯⋯普通のスライムと同じサイズだな」
あまり気づかなかったが、スライムを食べたライムの体積は増えていた。
確認のために野生のスライムをゴブリンに捕まえて来てもらい、しっかりと観察した。
“確かに同じ”
“微々たる変化だったのかな?”
“体積が大きくなっているの全然気づかなかった”
“色々と不思議だなスライムは”
分裂した個体も全員武器に変身できる。
情報を共有しているのかもしれない。
分裂体はライムと同じ事ができるらしく、スライムを食べる事も可能だった。
「スライムを食べ続ければ体積が増えて、実質同品質の武器が無限に量産できる訳か」
だけどそのためには一層にいないとならない。
「分裂体を一体ここに放置して、ひたすらスライムを食べる事は可能か? その後、また一つに戻る事は?」
ライムはできると言う意味で円を作った。
問題ないようだ。
ならばライムの分裂体を一体、あるいは複数体一層に放置していけば、どんどんとライムは強化される訳だ。
“それだと他の探索者に間違って倒されない?”
そのコメントを聞いてハッとさせられた。
確かに、ここには俺達以外にも当然、他の探索者もいる訳だ。
同じ見た目のスライムなので、倒される可能性はある。
「うーむ。他のスライムと区別かできたら良いんだけど」
そう言うと、ライムは分裂体の方を向いた。
何をするのかと皆で見守っていると、そいつの身体が鋼色に変色した。
「メタルスライム!」
一層のレアモンスターであるメタルスライム。そいつの魔石はとても希少で高く売れる。
じゃないな。うん。
触ってみたが、感触はぷにぷにすべすべでとても柔らかく、スライムと全く変わらない。
色だけと言う訳だ。
「食べた色に成れる的な?」
今も綺麗な鋼色って訳ではないしね。ゴブリンの剣の色。
だけど、色が変えられるなら他のスライムと区別は可能だ。
ライム分裂体を放置して体積増やしちゃおう作戦は問題ないだろう。
「試すか」
俺は自分の髪の毛を一本抜いて、ライムにあげた。
「良いなぁ」
そんなユリの呟きに背筋がゾワッとする。
“ユリちゃんの一言が性格を物語っている”
“戦いではあんなに真剣で皆を先導しているのに⋯⋯”
“犯罪の臭いがプンプンするぜ”
“真顔はやめい。笑いが止まらんって”
一旦ライムは一つに戻り、二体に分裂した。
片方は本物でもう片方は分裂体。
分裂だが分身に近いのか、特に自我があると言う訳ではないらしい。
そいつにライムが指示を出したのか、銀色に変わる。
「おお。髪の毛の色と全く変わらない」
“オソロだね”
これなら問題ないだろう。
「複数の色を混ぜるって事はできるか?」
できるらしい。
指先をちょっと切って、血をライムに垂らした。
その行為に皆が慌てていたが、問題ないと言葉にすると落ち着いた。
ライムは銀色と赤色を混ぜた色となった。
俺の目って真っ赤だからね。血のようにどす黒くないけど。
分裂体を一体放置して、スライムを食べて貰う事にした。
後は一気に四層まで進む。
食べ過ぎると他の探索者に迷惑がかかるので、程々にと忠告はしておいた。
「ご主人様ご主人様」
三層を歩いて四層へ行くための階段へと向かっていると、ユリが慌てた様子で話して来る。
「どうした。とても嫌な予感しかしないけど」
「我々の比率を同じするのはどうでしょうか?」
「え」
“良いぞユリちゃん!”
“仲間で初期から一緒の言葉は視聴者のコメントよりも何億倍も重いよなぁ!”
“見よ、あの希望に満ちて輝いている瞳を!”
“無下にできるのか。否、サキュ兄はできるはずがないのだ”
ゴブリンや他の仲間達も期待の眼差しを向けて来る。
特にゴブリンのローズとアイリスが凄く押して来る。
「お、お前ら⋯⋯」
俺は忘れてはならない。
魅了に関して俺の味方はいない。
誰もが魅了を期待して、俺の背中を不思議と意気投合して押して来るのだ。
クソッタレが。
二時間と経過して、死にたい気持ちになりながら俺達は五層に向かっている。
新たなにウルフ二体、コボルト一体を魅了した。それ以上は精神的に無理!
俺、頑張った。頑張ったんだよ。
ウルフの魅了は簡単だけど、した後がとても大変なんだよね。
サキュバスとしての力が上がっているのかな⋯⋯。
“仲間が多くなったね”
“サキュ兄達はちゃんと名前で区別できているけど、俺らは一目で分からん”
“同じ顔と姿”
“五層か。サキュ兄の本領発揮だな”
五層の主なモンスターはゾンビである。
スピードは遅いが防御力は高く、物理攻撃にかなり強い特徴がある。
心臓である魔石を破壊するか、四肢を切り離せば討伐は可能だ。
後は弱点属性の魔法か破壊力の高い魔法でのゴリ押し、死霊系特攻の能力のある武器での攻撃はかなり有効。
尚、俺はサキュバスと言う魔族の種族だが魔法は一切使えない。
能力を持った武器なんて高くて買えない。
故に倒す方法は二択になる。
「さぁ! ゾンピを探して進んでこう!」
魔石を破壊するか四肢を切断して倒すかの二択しか俺には無い。
それしか無いのだ!
無いからさ⋯⋯皆ワクワクしながら歩かないでよ。
「はぁ。まずは普通に倒すからな」
“魅了する言質取った!(ゴリ押し)”
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