きちんと持ち帰ろう
手当は終わった。
「死んだら許さんからな」
“そろそろ名前付けてあげたら?”
“お疲れ様”
“サキュバス的な褒美をあげてみては?”
“そろそろ終わりそうだな配信”
コメントを観ながら休んでいると、名前が上がって来た。
名前、確かにそろそろ良い頃合か。
「俺の中の知識だけしかないけど、それでも良いかね」
ゴブリンにはユリと同じように花の名前に関するようにした。
ウルフはそうだな。
「ゴブリンが花ならウルフは鉱石にしようかな」
鉱石の名前をウルフに与えた。
ウルフのボスには『ダイヤ』と言う名前を与えた。
名付けも終わった。
“見た目が同じだから名前で言われても変わらんかもしれん”
“サキュ兄は個別にちゃんと識別できているっぽいね”
“やっぱ本人と視聴者とでは違うか”
“どこで判別してるんだ?”
ゴブリン達の見た目は大きく変わらないが、何となくで個体ごとの識別が可能だ。
さて、そろそろ帰りたいところだしこの空間を少し探索してから戻るか。
周囲を探して、血の臭いを追って行く。
「やっぱりあったか」
この空間に入って来た人間が装備していた武具。
奴はサイズも考えずに人間の装備をしていた。
そのせいで本来の動きはできてなかったのかもしれない。
ま、今となっては関係ない事だけど。
「大雑把に十六人くらいか」
もしも上級探索者ならあんな奴あっさり倒せただろう。
しかし、そんな人はここを通る事は絶対にない。
ここを通るのは十層を突破した事の無い探索者だけであり、この時期なら初心者も多い。
調査に入るにしても、具体的な場所が分からなければ難しいところだろう。
ダンジョンで全滅したパーティの行方なんて、滅ぼしたモンスターしか知りえない。
今回は運命を確率として視る事のできる眼に助けられた。
「もしも俺が他の種族で来ていたら、この人達のようになっていたのかもしれないな」
両手を合わせて目を瞑り、安らかに眠る事を願う。
探索者である以上、このような危険性は当然存在する。
「これを運ぶのは骨が折れそうだな」
それでも帰って来ない事を心配している人はいるだろうから、持って帰らないのは俺の探索者としての流儀に反する。
骨もあるけど、一緒に持って行くか。
“魔族だからね。平然としてるね”
“普通だったら恐怖するところだけど”
“サキュ兄だったら普通でも平然としてそう”
“サキュ兄の中身は人間だから恐怖するって”
「持って行くのですか?」
「ああ。手伝ってもらえるか?」
「もちろんです」
他のゴブリンには難しいだろうから、俺達二人で持って行くか。
人狼の装備していた防具は俺が攻撃しまくったせいでボロボロだけど、許してくれるだろう。
人狼の装備していた物と魔石を持って、俺達は帰路に着く。
途中で配信を終える。
次はライムについて詳しく調べようかな。
ダンジョンの出口前に到着したので、一旦止まって点呼を行う。
うん。死にそうなくらいに青ざめているけど生きているな。
「遺品は俺が全部運ばないといけないんだよなぁ」
ま、やるしかないか。
まずは一部を持って出口からギルドに向かう。
出口の番号は『B』か。
これを覚えて、受付に向かう。
他の探索者にさっきの出口が使われて、遺品の装備がお粗末に扱われるのは避けたいところ。
できれば列を譲ってもらいたいところだが、そこまでわがままはできない。
しかし、俺の持っている血の滲んだ装備を見たら普通の探索者は察する。
「それだけか」と前の人に聞かれたので、「違う」と答える。
すると、その人が先導して列を譲ってくれた。
お礼を述べて、空いた受付に向かう。
「すみません。Bの出口前に他の遺品を置いているので、回収して来ても良いですか?」
「⋯⋯そうですか。分かりました。お願いします」
受付嬢さんは苦しい表情をしてから、言葉を絞り出した。
どんな人でも人の死は辛いんだろう。
肉を食われ、傷ついた骨と装備を何往復かして全て受付に運んだ。
骨を見た時に立ちくらみをして、倒れそうになった。
種族が魔族だと、生命の死に対する恐怖心が和らぐらしい。
骨を触った時の感触が今も手のひらにベッタリと張り付いている。
「これで全てですか?」
「はい。自分が確認した中では」
「お疲れ様です。申し訳ないですのですが、状況説明は可能でしょうか?」
「もちろんです」
俺は四層で出会った人狼について説明して、この遺品を拾った経緯を伝えた。
それを聞きながらパソコンをカチカチしている受付嬢を見ていると、やはりプロだなって思う。
一度もその手を止めて聞き返す事をしなかった。
「ありがとうございます。こちらで処理をして遺族の方へと送らせていただきますが、問題ないでしょうか?」
「もちろんです」
「それから、人狼の魔石とコボルト、ウルフ、ゴブリンの魔石の換金に入ります」
「お願いします」
人狼が元々使っていただろう武器と防具はどこかで捨てたと思われる。人間の武具の方が性能が良いから。
モンスターの持っていた武具はダンジョン内でいずれ消える。
「⋯⋯武具の性能的にやっぱり被害者は全員初心者なのかな。明日は我が身。気を引き締め直さんとな」
家に到着して、ドアを押した。
「兄さんおかえり。今日遅いね」
我が妹は行儀が悪く、ポテチを食べながら自分の部屋に向かおうとしていた。
カスが廊下とかに落ちそうなので、食べながらは止めて欲しいところだ。
「何?」
「あーいや。遅くなったのは色々とやる事があってな」
「ふーん。んじゃ」
手続きとかが色々と時間がかかった。
鍛錬を休むのは個人的に嫌だが、今もまだ人間の骨などを抱えた感覚や臭いが残っている。
「はぁ。ダンジョンの中だと平然としてたのに、不思議だな」
リビングに行くと、プンスカしたアリスが椅子に座っていた。
俺の箸を握っている。
「まずはなんて言おうか」
「おかえり」
「ただいま。遅くなったのは理由があるんだ」
俺は今日起こった事を言い訳するようにアリスに話した。
かなりしっかりとした内容に納得してくれたようで、両親への告発は免れた。
そして晩御飯にもありつけた。あんまり食欲は無かったが、食べない訳にはいかないので詰め込んだ。
翌日、二人で学校へと向かっている。
「目がゴロゴロする」
「大丈夫か?」
「ああ。視界は問題ないんだが」
目の奥側がゴロゴロするって言うか、ムズムズするって言うか、良く分からないけど違和感がある。
昨日は何ともなかったのに、今日は起きてからこの有様だ。
朝のルーティンでの飛行練習でも治らなかった。
疲れかな。
目の違和感が取れる事無く、学校へと到着した。
「やぁ、ナグモさん」
「あ、シオトメ先輩! おはようございます!」
相変わらず、俺に向かって敵意の眼差しを向けて来るシオトメ先輩。
そんなんじゃいずれアリスに気づかれそうなモンだけどな。
目が⋯⋯。
「今日は眠そうだね」
さっきのは敵視はどこへやら、爽やかな笑顔で言って来る。
俺が眠い時なんて、校長の長話の時だけだ。
これは目に違和感があるから、細めているだけだ。
「昨日は帰りが遅かったからね。それが原因ですよ。ね?」
「まぁ、はい」
アリスのさり気ないフォローに便乗しておく。
「帰りが遅い? 夜遊びは良くないよ。夜は危険だからね」
その言葉は偽りでもなんでも無さそうだった。そのように感じた。
「そうですね」
夜遊びする時間があるなら、ダンジョンに行くか訓練するな。
何が楽しいのか分からんし。
昼にはだいぶ良くなった。
「なぁヤマモト、サトウ」
「「なんだ?」」
「テニス部のシオトメ先輩について何か知ってる事ある?」
知っているとは思わないが、一応聞いてみたら、殺意を込めて弁当の具材を突き刺した。
「あのモテモテイケメン野郎がなんだってぇ?」
「お前も美女二人から話しかけられるからって、俺らを下に見てるんだろ! 分かるんだからな!」
「おっけ。それだけでだいぶ分かったわ」
帰り、アリスが終わるのを待ってから一緒に帰った。
目も完璧だ。
「え」
なんだこれ。なんなんだよ、これ。
「どうしたのキリヤ?」
一体、何があるって言うんだ。
『十年後死亡100%』
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早く魅了タイムになってくれと願いながらこの話は進みます