表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/244

運命とは時に⋯⋯

 俺は人狼に向かって踏み込んだ。


 速度を乗せた斬撃を放つが、颯爽とそれを回避される。


 「逃げるな! いや、隠れるな!」


 人狼は断崖の陰に潜んだ。


 気配が感じ取りにくい。


 “地の利は相手にありだな”


 ここはアイツの餌場だ。


 ここに入った時点で俺達は絶対的な不利を背負っている。


 地形を把握して利用している狩人と、全く知らずに入り込んだ獲物。


 だが、獲物にも牙はある。


 「どこから来る?」


 ユリと共に警戒していると、影が動いたのを見た。


 すぐさまその方向に顔を動かしたが、真反対の方向からゴブリンの悲鳴が聞こえる。


 「クソっ!」


 一体を斬り裂いてはどこかに隠れる。


 「大丈夫か!」


 出血が酷い。


 だけどギリギリ命は残っている。


 いやらしい戦い方をしてくれるな。


 「⋯⋯なんでだ。なんで俺に殺気が来ない」


 俺を殺す気は無いのか?


 そんなはずはないだろう。


 再び影が動く。ゴブリンの方を向いて人狼が出た場所に素早く反応する⋯⋯はずだった。


 「居ない?」


 「あがっ!」


 「ユリ!」


 ユリの額が浅く斬られる。


 「問題ありませんっ」


 「クソクソ」


 “落ち着け”

 “これが狙いだな”

 “冷静にならんと”


 恐怖と不安が俺の心を掌握する。


 心臓が高鳴り血の巡りが加速。


 早く何とかしないと、また失ってしまう。それが頭の中でグルグルと渦を巻いている。


 しかし、そこから生じる焦りが俺の弱さとなった。


 「ゴブリン!」


 一体、また一体と俺は反撃もできずに次々とゴブリンが斬り捨てられる。


 さらにはウルフまで。


 仲間が命を落とそうとしている。


 何もできない。弱い自分。


 「嫌だ」


 心が折れそうだ。


 俺のせいで何回も全滅する⋯⋯どれだけ仲間を死なせたらこの地獄は終わると言うのか。


 否、そもそも地獄に終わりなど無い。


 「ご主人様⋯⋯」


 「ユリ」


 弱々しい手で裾を掴む。


 既に何回か斬られた事により、血まみれだ。


 反対に俺は一切攻撃されず、無傷である。


 確実に俺以外の奴らを狙って来ている。


 一箇所に固めたら一気に斬られる。


 どうするのが正解なのか、俺には分からない。


 「大丈夫です。ご主人様は、強いですから」


 そんな慰めは要らない。欲しい訳じゃない。


 どうにかしないと。何とかしないと。


 「あっ」


 目の前でゴブリンの背中が袈裟で斬られる。


 その時に見た人狼の顔は⋯⋯嗤っていた。


 餌と言う雑魚を倒すのがそんなに楽しいか。そんなに面白いか。


 無意識に握る拳に力が入り、爪が肉にめり込んで血がポトポトと垂れる。


 『運命の選択』


 何回も全滅しないとならないのか。


 ここで三回目の全滅を経験するのか。


 『道を選べ』


 夢の中に出て来た声が脳内で再生される。


 運命?


 全滅を繰り返す運命だと言うのか。


 ふざけるな。ふざけるじゃねぇ。


 「これ以上、もう、仲間を失うのは嫌だ」


 『運命は分岐する』


 全滅する運命が定まっていると言うのならば、道を変えてやる。


 全員で生き残り勝利する、その運命の道へ。


 「運命を他人に決められて、たまるか!」


 逆流するような血の流れを感じる。


 “目が光った?”

 “魅了?”

 “どうしたサキュ兄。何とかしないと!”

 “お願いだからもう誰も死なないで。辛いんだよ”


 “ゴブリン達が死ぬのも辛いし、その後のサキュ兄を観るのも辛い”

 “頑張れ!”

 “覚醒するならさっさとしてくれ”

 “早く!”


 『人狼が出て来る100%』


 テロップと共に俺の視界に映る。


 断崖の陰から飛び出て来る人狼。


 その標的が視える。


 「ようやく捉えたぞ人狼」


 ゴブリンに振るわれるはずだったその刃を防ぐ。


 なんだこの感覚。


 驚いてもおかしくないはずなのに、今はすごく冷静だ。


 「視える、分かる、起こりうる確率が」


 相手の出る場所や襲う所が視えれば、防ぐ事は可能だ。


 その後も何回も相手の攻撃を先読みして防いだ。


 「仲間をお前は何人斬った。ここに来た人間を何人斬った。次はお前の番だ」


 これは怒りなのだろうか。


 人狼とテロップしか視えない。


 100%の値は外れる事無く、確実にその運命は当たる。


 『運命は分岐する』『道を選べ』『前へ進め』『運命は決まっている』


 頭の中でノイズを纏った声が何回も何回も鳴り響く。


 「そろそろ、こっちからも攻めて行こうか」


 人狼が再び断崖の中に隠れたので追いかける。


 『人狼発見、90%』


 確定ではないがほぼ確実。


 俺がそっちの方向に断崖を足場にジャンプで接近していると、逃げ隠れする人狼を発見した。


 翼を広げて向きを変え、空気を蹴って加速して接近する。


 俺が振り下ろす剣に気がついた人狼は瞬時に剣を挟み防ぐ⋯⋯だが、全身の体重を乗せた力に押される。


 ギリギリで押し切れずに弾かれる。


 「もう逃がさない。仲間の分まで、俺がお前を斬る」


 ◆


 ユリは痛む身体よりも主の攻防に目を惹かれていた。


 魅入られていた。でも、何かが違う。


 仲間が斬られるだけだった。


 しかし、主の瞳が真っ赤に輝いた直後から全ての攻撃を防いでみせた。


 まるで敵が出て来る場所が最初から分かっていたかのように動き、防いだのだ。


 そして慣れてから攻撃に転じた。


 形勢逆転、やられる一方だったユリ達は今や、敵をずっと押している形である。


 主の方が実力的には上であり、今まで以上に攻撃は正確である。


 だからこそ、ユリは戸惑いを隠せない。


 なぜならばそこに、今の戦いに、主の剣術に、ユリの憧れは無かったからだ。


 魅せられ、憧れ、敬愛し、そして目指した強さ。


 今はそれを全く持って感じない。


 ユリの憧れた強さはそこには無かったのだ。


 ◆


 相手の攻撃が分かる。


 いくつもの運命が様々な確率を示し、一番高い所から刃が飛んで来る。


 全てを防ぎ弾き反撃する。相手の攻撃は全て届かない。


 しかし、致命傷に至る攻撃ができない。


 「チィ」


 人狼は身軽だった。


 生きる事に全力を注いで俺の攻撃を避けている。


 足りない。


 手数が足りない。


 あと少しで押し切れる。コイツを倒せる。


 倒してから色々と考える。今のこの状況とか。


 不思議な事はいっぱいだ。


 だけどまずは、目の前の人狼を倒す。


 「ぐっ」


 剣と剣が交わり火花を散らした瞬間、どこかに隠し持っていたボウガンが放たれて翼を貫通した。


 「ああああ!」


 翼に受けた攻撃の痛みを瞬く間に全身に広がる。だけど俺は止まらない。


 全滅すると言う腐った運命に抗い、別の運命を開拓するために。


 俺の足も剣も止まらない。


 「ライム!」


 ユリの叫び声が鼓膜を揺らした。


 ライムがぴょんぴょんと俺の方に来ていたのだ。人狼の口元が歪む。


 「ッ!」


 『ライム死亡50%』


 運命を示すテロップが視える。


 人狼と同時に動き出した。


 ライムに振るわれる剣を弾き、すかさず蹴りを腹に飛ばす。


 「ライムどうして!」


 ぴょーんっと俺の腹に体当たりして来る。軽くだが。


 ライムの形が変わり、ゴブリンの剣を模倣する。


 「まさか」


 俺はそれを左手に握った。


 ゴブリンの剣にしては軽いし、とても貧弱だ。


 だけど、無いよりかは全然良い。


 「ライム、ありがとうな。使うぞ」


 俺は人狼に肉薄する。


 逃がす事も仲間を攻撃する事も許さない。


 舞い上がる斬撃の雨で人狼を攻撃する。


 「お前の攻撃は視えるんだよ!」


 一方的な攻撃。


 ‘’二刀流!”

 ‘’なんか普通に様になってるな”

 ‘’もしかしてサキュ兄の全力って二刀流だったりする?”

 ‘’速いな”


 もっと強く、もっと速く、そして倒す。


 「これで、終わりだ!」


 何百回と浅い斬撃を与えて、トドメの一撃として深く、深く袈裟で斬り裂いた。


 舞い上がる血飛沫を気にする事無く、俺は仲間達の所に戻った。


 「ごめん」


 地面に倒れて、血を流すゴブリン達。


 「クソがっ」


 この眼がもっと早く来ていたら、こんな光景は見てなかった。


 地面に膝を着いて、殴る。


 自分に対する怒りだ。弱い、自分への怒り。


 何回も何回も地面を殴る、肉がちぎれ血が出ようとも、骨がミシミシと音を鳴らしても、殴り続ける。


 「また失った」


 ゴブリンの生存⋯⋯ゼロ、同様にウルフも全員地面に倒れている。


 ユリが短刀を杖にして俺の隣に立つ。


 「ごめんユリ、ライム。また、まただ。また失ってしまった。クソ!」


 倒せても、失ったモノは取り戻せない。


 運命は決まっているとでも、変えられないとでも言うのか。


 「まだですご主人様。皆生きてます」


 「え?」


 そう言われて集中してみると、テロップが出現した。


 『ゴブリン死亡90%』


 とても高い確率⋯⋯だけど生きている確実な証明。


 「皆⋯⋯死んでない?」


 「はい。あやつの殺す技術は確かに高かったです。ですが、ご主人様が皆に生きる力を技を教えてくださった。だから皆はギリギリ、命を繋いでおります」


 人狼は肉薄してから、一瞬だけ止まり攻撃する。


 それだけで、皆は生きるための行動をできた。


 「ご主人様、誰も死んでおりません」


 「ああ。急いで手当しよう。危険な状態だから」


 「はいっ!」


 良かった。本当に、良かった。


 “皆死んで無いの? やった!”

 “良かった。鬱にならないで済む”

 “急いで応急処置や”

 “まじで良かった。コイツらはさらに強くなるな。そろそろ名前を与えてやろうよ”


 “ありがとう神様”

 “覚醒したのでもう負けないね”

 “フラグか?”

 ‘’余韻に浸りたい”


 “味方死亡無しで勝利おめでとう!”

お読みいただきありがとうございます。

評価、ブックマークとても励みになっています。ありがとうございます。

次回はお久しぶりの掲示板です。

皆様が気になるであろうコボルト魅了はもう少し先です。m(_ _)m

これからも応援してくださると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ