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地の利は相手に有り!

 翌日の日曜日、俺は午前中は広い場所で訓練を行い、午後から四層に向けて出発した。


 全体的な雰囲気は上の階層と変わらないので新鮮な感じはしない。


 だが、出現するモンスターにコボルトが増えている。


 狼の顔や身体をしていて二足歩行。身長はゴブリンくらい。


 しかし、ゴブリンよりもそのパワーは大きくて、ゴブリンの数で表すと五体分と言われている。


 何より、嗅覚が人間以上ウルフ以下と、優れている。


 “昼休憩の隙間時間で観に来ました”

 “コボルトの武器に切り替えれるかな?”

 “魅了が楽しみだぜ。ゴブリンと同じ方法だよな?”

 “ワクワク”


 まずは先にコボルトを発見した。しかし、その数は二体。


 「複数いるだけでも厄介だな」


 曲がり角の陰から確認して呟く。


 武器は⋯⋯二体とも剣か。


 武器もしっかりと取れるし、ゴブリン達の持つ武器よりも良い。


 購入できる武器と比べたらお粗末だが、金が手に入るまではゴブリンの武器にちょうど良いかもしれない。


 「ご主人様どうしますか?」


 「そうだな」


 俺は分析する。


 俺達のゴブリンは一体で二体分のゴブリンくらいの戦闘力は有している。


 それだけ技術が上がっている。


 そしてユリはウルフを単騎で討伐できるくらいには強い。


 そして四体のウルフ。


 「ん?」


 ウルフは群れとなってその中で一番強い奴がボスと言う扱いであり、俺の前まで歩いて来て、強い眼差しを向ける。


 行ける、そう言っているように感じる。


 他のゴブリンもやる気に満ちている。


 「問題ないか。⋯⋯一体は俺が相手するから、もう片方は全員でやれ。ユリ、君が動くかは君の判断に委ねる」


 「はい。お任せ下さい」


 「決して慢心も油断もするなよ」


 「もちろんです」


 俺達は曲がり角から飛び出した。


 “最初は恒例のサキュ兄無双だね”

 “サキュ兄なら二体同時でも勝てそうだけど、ちゃんと仲間にも機会を与える、良いと思います”

 “頑張れサキュ兄! 勝ったら魅了タイム!”

 “最初はかっこいい、そして可愛いに繋がるんですよね知ってます”


 まずは一体のコボルトを引き剥がす必要があるな。


 俺は右側にいたコボルトに剣をゆっくり目に振り下ろす。反応されて防がれる。


 カキン、と金属音を轟かせて火花を散らせる。


 翼を広げて足を浮かせ、全体重を剣に乗せて押し込む。


 相手が防御で手一杯になったタイミングで腹を蹴り飛ばす。


 吹き飛んだコボルトに地面を蹴って一瞬で肉薄する。


 片割れが追いかけてこようとするとが、それをウルフに乗ったゴブリンが阻止する。


 「アナタの相手は我々です。多勢に無勢ですが、悪く思わないでくださいね」


 俺はコボルトを引き剥がしたので、戦う事にする。ここからが本番。


 「パワー任せの攻撃は躱しやすい」


 コボルトはゴブリンよりもパワーがある。


 だからこそ、そのご自慢の力で叩き斬る大雑把な振りを行う。


 故に軌道が単純で読みやすく、簡単に回避が可能だ。


 それにパワーがあってもスピードはそこまでない。


 ちゃんと相手の動きを観察していれば、回避は容易だ。


 「うっし」


 振り下ろしを横に身体を捻って回避する。


 隣をブォンと言う音を立てて通過する剣を一瞥もしないで、振り終わりの隙を狙う。


 力任せに振るわれるからこそ、攻撃後の隙がとても大きいのだ。


 次の行動に繋がる動きをしないから。


 剣を握っている方から攻撃すれば、防御も間に合わない。


 技術と速度なら仲間のゴブリンの方が上、パワーもユリに劣るだろう。


 「まずは一撃」


 いきなり首を狙う事はしない。


 最初の戦闘はコボルトの基本動作を見るために行っているのだ。


 一体一体に個性はあっても、師匠のいないモンスターでは戦い方が似たり寄ったり。


 だからこそ、最初の戦闘でコツを掴めば後々の力となる。


 「来い」


 腹を深く斬り裂いた事で警戒したコボルトは自分から攻める事はなかった。


 “どうするサキュ兄?”


 「だったら」


 俺はあえて自分から攻める事にした。


 俺の間合いに入れて、コボルトのように片手で剣を大雑把に、ただ強く振り下ろす。


 俺の動きを見ていたコボルトはアレを真似する。なんとも雑い。


 しかも、タイミングがズレたので僅かにカスる。


 だけどコボルトはそれを意に返さず、追撃を仕掛ける。


 「分かりやすいな」


 そう来ると思ったよ。自分が深手を負った動きや攻撃は使いたいよな。


 それが強いって勘違いするよな。


 とても単純だ。だからこそ、読める。


 「マヌケめ」


 俺は剣を振り上げた。


 右側を真っ直ぐに斬り裂いて、右目を潰した。


 目が潰れればその痛みで悶え苦しむ。当然攻撃の手も止まる。


 「苦しませる考えは無いよ」


 トドメの袈裟斬りを行って、相手の命脈を断つ。


 「ユリ達の方は⋯⋯」


 剣に付着した血を薙ぎ払いつつ、ユリ達の方を確認する。


 「ふむ」


 足を攻撃して移動能力を奪ってからトドメを刺した⋯⋯ってところだろうか。


 「お疲れ様みんな」


 「ご主人様。ありがとうございます」


 ライムに中の肉だけを食べて貰い、素材は回収する。


 コボルトの剣は⋯⋯腕相撲大会のランキング順に渡しておこう。


 ゴブリンの使っていた剣よりも丈夫で切れ味は良いはずだ。


 ただ、これまでずっと戦って来た相棒だろうから心苦しいかもしれない。


 そう思ったのだが、渡すと凄く喜んで使っていた剣はポイ捨てした。


 道具に対して愛着とかないのかな?


 「ほんと、壊れないのが不思議なくらいにボロボロ」


 ライムが物欲しそうに見上げてくる⋯⋯ように感じる。


 もしかしてさ。


 「まじか」


 “スライムって剣食べるのか”

 “知らんかった”

 “弱いスライムなんて誰もテイムしようとは考えないしな⋯⋯難しいし”

 “てか、心のないスライムってテイムできるのかな? サキュ兄は特別だからともかくさ”


 コメント欄が盛り上がる。


 「ライムってこんなの食べてもお腹壊さないんですね。不思議です」


 ユリが不思議そうに見つめる。


 スライムだから問題ないのかな?


 時は流れて俺達は開けた場所に出た。


 そこは地面から先端に行くにつれて尖ってく伸びた断崖がいくつも存在した。


 「障害物と言うか遮蔽物と言うか、そう言うのに使われそうだな⋯⋯不意打ちに気をつけろよ」


 コボルトがそこまで頭の良いモンスターではないが、油断しているとまた失ってしまう。


 だから常に警戒しておかないとダメなのだ。


 「中心の方は薄暗い⋯⋯なんだこの臭い」


 鼻を突き刺すような悪臭を捉えた。


 ここまで濃くて、吐き気のする臭いか。


 「これは⋯⋯血だ」


 “犬?”

 “ウルフ達も警戒しているね”

 “サキュ兄の嗅覚ヤバない?”

 “どうして分かった”


 ここまで濃いとなると何人も死んでいる可能性がある。


 同じ場所で何人も?


 トラップでもあると⋯⋯違う。


 そうじゃないな。


 トラップだったらここまで臭いが広範囲に広がってない。


 血を出しながらあちこちに移動した⋯⋯つまりは戦っていた可能性が高い。


 あくまでも臭いだけの推察で考えすぎと言う可能性もある。


 危険は少しでも排除した方が良いか。


 「皆、急いでここから離れるぞ」


 嫌な感じがする。この空間には何かがある。


 きっと俺達を不幸と絶望のどん底に叩き落とす何かだ。


 先頭のゴブリンが走り出し、皆で走る。


 「翼が邪魔だ!」


 ついでに尻尾も!


 “サキュ兄は飛べば良くない?”

 “飛べば障害物無いで?”

 “相変わらず人間のような動き。サキュバスらしい動きをしよう”

 “飛べ”


 走っていると、俺の本能が危険アラームをけたたましく、全身に響かせた。


 暗い中、一筋の銀閃が走る。


 刹那、ゴブリンの腹から真っ赤に輝く鮮血が空を舞った。


 「えっ」


 斬られた勢いか、ゴブリンが俺達の後ろに吹き飛んだ。


 ゴロゴロと転がり、血で線を描きながら断崖にぶつかる。


 「なんだ、お前は⋯⋯」


 そして、俺達は直面する。


 再び、逃げ出したくなるような相手に。


 その名も『人狼』。


 四層に出現するレアモンスターでありコボルトの上位種。


 見た目はコボルトをそのまま大きくした感じだ⋯⋯だが、目の前の奴は少し違う。


 握る剣も、身にまとっている防具も、モンスターのソレではない。


 サイズが合ってないのだ。しかもちぐはぐ。


 それが示す事はただ一つ、殺した人間の武具を奪った。


 ここが奴のテリトリーなら、俺達に逃げ場は無い。倒さないとならない。


 後ろから微かに聞こえる命を繋ぐ呼吸⋯⋯急がねばならない。


 「行くぞユリ、何回も失ってたまるか」


 「はいっ!」

お読みいただきありがとうございます。

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