露出が多い=えろ恥ずかしい、と思っていました(泣)
『運命の選択肢、選べ⋯⋯』
モヤのかかった、ノイズで構成された機械の声。
前にも一度経験した事がある気がする、そんな声。
何を意味しているのか、今も分からない。今の俺がいるところはどこだろうか。
真っ白で、目に見えぬ道を進む。
『運命の選択』
同じ言葉を何回も連呼される。
◆
「⋯⋯ん?」
いつもと同じ起床時間。夢の内容を鮮明に思い出せる。
運命の、選択。
同じ夢が二回も来たんだ。これは何かしらの意味を持っている。
なにかの選択でミスするのだうか?
⋯⋯仲間を二度も全滅に追い込んでいるんだ。
もしもそれが運命だと言うのなら、俺は全力で抗ってやる。
もう、誰も失わせはしない。
リビングに向かう。そこには徹夜したと思われる妹が居た。
「ねぇねぇ。たけのこの山ときのこの里、どっちが良い?」
なるほど。
夢はこれを示唆していたのかもしれない。
「俺はたけのこ派だからそっちちょうだい」
「ほーい」
妹から投げ渡されたたけのこの山をキャッチして、食べる。
食事には気を使っているが、お菓子を食べない訳じゃない。
時々恋しくもなる。
「美味い」
◆
運命の選択を終えて俺はギルドにやって来た。
今日は土曜日、そろそろ四層に向けて本格的な準備を始めようと考えている。
問題はゴブリン達の個々の強さとゴブリンとウルフの連携だろうか。
武器も新調してやりたいが、いかんせん金がない。
家族との約束の一つで、探索者としての活動費は自分で稼ぐ必要がある。
武器の他に防具、便利道具や回復アイテムなどなど、必要経費はやたらと多い。
配信者としての投げ銭システムや広告収入も、一定の条件をクリアしないとならない。
俺の場合はまだ日数が経ってないために条件を満たせていない。
そして所持金は悲しきかな、わずかの六千円である。
俺の武器、防具、そしてユリの武器によって簡単に消え去ったからね。
「ゴブリン一人一人に武器を与えるにしても、一つ一万以上だからな」
それに全員に同じ武器って訳にもいかない。
ゴブリン達にも個性があり、得意不得意があるのだ。
当面は金稼ぎと訓練、それを脳内で決めながら受付に向かう。
受付でやるべき事を終わらせ、更衣室に。
「今日土曜日だからサキュ兄朝からライブするかな?」
「確かにするかもな。俺らも探索があるから、帰ってから観るか」
「そうだな。⋯⋯今回は魅了あるかな?」
「あって欲しいなぁ。そろそろパンティーが見たい」
俺は無意識にロッカーの中に頭を突っ込んでいた。
後ろの男達から『なんだアイツ?』って目を向けられる。何となく分かるんだからな!
ぐすっ。
今のところチャンネル登録者数は五万人と嬉しい事に好調である。
まさかこんな近くに五万人中の二人がいるとは思わなかった。
⋯⋯でも求められている事は分かりやすいな。
「ふっ。その望みは永遠に叶わないがな」
俺の憧れた探索者は強い。俺だっていずれ強さだけでサキュ兄と呼ばれる時代が来るさ。
「⋯⋯あれ? サキュ兄ってだけでサキュバス確定だから、無理じゃね?」
改名しようかな。
ダンジョンに入ると強制的に種族に切り替わり、人間に戻る事はできない。
「飛行練習もだいぶしたし、どこまでやれるか今日で把握しておくか」
ユリが右斜め後ろを歩き、ライムは俺が抱いている。なんかここが定位置だよね。
残りのゴブリンとウルフはユリの後ろ側を歩いている。
「この辺で良いかな」
人気が無い事を確認して、俺はカメラを起動した。
「おはようございます。サキュ兄だよ」
“挨拶が普通だ”
“もっと胸とか尻とか露出させようぜ”
“サキュ兄よりもそこらの軽装探索者の方が露出度多いって良く考えると不思議”
“サキュバスの配信者なんだから誰よりもエロくあろうぜ”
“今日も魅了するんですよね”
“そろそろウルフの魅了を配信で観たいな。チラチラ”
“おはようございます”
“ユリちゃんこんにちは! デュフフ”
ユリがコメント欄を眺めている。
「スマホにあまり目を近づけすぎるなよ? 視力が悪くなる。後、下を向くのも良くない。背筋が悪くなる。猫背になると体が固くなっちゃうから注意だ」
「はい!」
日本語の勉強でもしているのだろうか?
幾多の漢字が混ぜられたコメントで日本語を覚えれるのかな?
「エロ」とか「脱げ」とか、そんな言葉をユリに覚えて欲しくないなぁ。
「あ、スライムだ」
スライムは二体のゴブリンで捕えて、ライムが食べる。
それで魔石だけが残る。楽で良いね。
「いつか数が増えたら、半自動的に金稼ぎができる用になるのかな」
“その時にはきっとサキュ兄のメンタルは金剛並だね”
“そんな光景が来る事を切に願う”
“じゃ、魅了頑張ろうか”
“脱いじゃう?”
そうだよなぁ。そうなるよなぁ。
二層に降りて、ゴブリンを三体発見した。
これなら一度の羞恥だけで三体も魅了できる事になる。
「やるか」
俺が魅了を決意する。
「ご主人様、無理はいけませんよ」
「ありがとうユリ。でも、やらんとね」
種族としての能力を活かしてこその探索者だ。
ユリは心配してくれたけど、仲間のゴブリンは口をニンマリと歪めている。
ユリの睨みを見ても尚、その笑みは崩れない。
想像力は高そうだな。ゴブリン達。
「それじゃ、いつもの会議始めますか!」
「いえっさー!」
「もしかしてユリが一番乗り気じゃないだろうな?」
「⋯⋯ソンナコトアリマセン」
ねぇ、なんでカタコト? それと目を逸らすな!
閑話休題、コメント欄で視聴者達と議論を重ねる。
殆どはコメント欄で盛り上がり、その中で俺が意見を採用する形となっている。
「早く読めるようになって私が選びたい!」
悔しそうに握り拳を作り、歯を食いしばって震えている。
ユリ、やっぱりお前も視聴者側だったんだな。
⋯⋯救いはウルフ達とライムか。
「うぅ」
議論だけで心がすり減る。
ライムをギュッと抱きしめて、ウルフに顔を埋める。
ある程度進むまでこれで心を癒そう。
やり方が決まったので、俺はゴブリン達の前に出る。
「クソ。クソクソ」
“今回は露出度そんなに多くないぞ(ニヤニヤ)”
“サキュ兄が好きなやり方だ(ニッコリ)”
“良かったな(ニッコリ)”
“ほれ、さっさとやれ(聖人)”
ゴブリン達に尻を向けて、防具を限界まで締める。
目標は尻のラインが見えるようにだ。それがコメントで決まったポージング。
だけどまだ完成じゃないんだぜクソが。
左手を伸ばして、中心部に指を向ける。
死にたい死にたい死にたい。オロロロロロロロ。
「た、ためひて、試してみる?」
俺は一体、何をさせられているんだろうか。
もう何も考えたくないし何も思いたくもない。
俺は大切な何かを、失った気がする。
魅了には成功しました。⋯⋯はぁ。
「死して尚、悔いは多い」
うつ伏せで地面に棒のように真っ直ぐ倒れる。
「お疲れ様ですご主人様」
「ユリ、鼻息荒いぞ」
「え?」
鼻と口を抑えた。
「嘘だ」
「ご主人様の意地悪!」
ゴブリン達に睨みを利かせてくれたから、俺の味方だと思ったのに。
今は新たに仲間になったゴブリン達に仲間のゴブリン達が色々と教えている。ウルフ達も同様だ。
“露出は少なかったろ?”
ユリが見せてくれたそのコメント、確かに露出は無かったさ。
全くもって無かったさ。
だけど、そうじゃないんだって分かった。
露出が無くても、十分死ねるくらいに恥ずかしいわ。
ほんと、視聴者達ってなんでこう言うの思いつくのかな。鬼だよ鬼。
「さて、そろそろ移動するか」
ゴブリン達のところに向かいながら、剣を鞘ごと取る。
「あわわ」
ユリがちょっと震えてるね。
俺は殺意を込めてゴブリン達の中心に剣を突き立てた。
気配を殺していたから気づかなかったようだな。凄く驚いて震えている。
「そろそろ、『どうやって仲間になったか』って話し合いは止めようか? ゴブリンの言葉が分からないと思ったら大間違いだからな?」
触れ合っていくうちになんとなく、言葉が分かるようになった。
どのように仲間になったか、それは仲間になる経緯に魅了が入る、つまりはどうやって魅了されたかの話し合い。
救いはユリのように人語を話さない事だな。視聴者には伝わらない。
“ゴブリンの言葉を聞きたいと思ったの初めて”
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此度、三十話を越えました。これも皆様の応援のお陰です。ありがとうございます。