信念曲げたら剣は弱くなる
部活の面々が揃い、部長の挨拶が終わる。
「さて、今日の内容なんだが」
部長がホワイトボードに今日やる内容について書く。
『三人一組の模擬戦』
とある。
「少しだけでも人それぞれの能力を把握して来たと思う。そこでチーム戦を行いたいと思うんだ」
チーム戦、か。
俺は普段からチーム戦みたいのをやっている気がするけど、大きく違う。
後ろで観察しながら仲間が戦うのを眺めているのと、一緒に戦うのとでは大きく違うのだ。
ユリと一緒にダークウルフと戦って思った事がある。
それは、俺がチームプレイに不慣れと言う事だ。
ユリと別れてタイマンに持ち込んだ。その方が有利だと思ったからだ。
その結果がご存知の通り。
今回の仲間は人間でありゴブリンでもユリのような鬼人の子供でもなければウルフ達でもない。
知能があり、各々が訓練過程を終えている。
「それじゃ。最初だから好きな人となろうか。今度からはくじ引きで仲間を決めるよ」
俺はヤマモト達のところに向かった。少しでも息が合った方が良いだろう。
「一緒にやらね?」
「おー」
「三人ならこのメンツだな」
ヤマモトとサトウの同意を受けた。
「え」
「ん?」
後ろから声を出されたので、振り向く。
そこには手を伸ばしているクジョウさんがおり、ゆっくりとその手を下げた。
「どうしたんですか?」
「いや、何も」
「クジョウさーんチームまだなら一緒にやろー!」
遠くから声をかけられて、彼女は金髪をふわりと靡かせてそっちの方向に向かって歩いていった。
どことなく、とぼとぼとした歩き方な気がする。もしかしたら独特な歩行法かもしれない。
「なんだ?」
振り直ると、ヤマモトとサトウが殺気を飛ばして唾でも吐くんじゃないかと言う雰囲気を醸し出している。
「けっ。なんでもねぇよ。なぁサトウ」
「ああ。俺達はいつも通りだよなヤマモト」
二人で意気投合し、俺に殺気を向けて来る。
チームが決まって、適当にチームに番号が与えられる。
そして代表じゃんけんで俺達のチームは余った場所に当てはまる事になった。
「お前じゃんけん弱いのな」
「今後のバトルはじゃんけんで決定だ」
「おい待てなんのバトルだ」
代表は俺。
相手の指先の動きなどを見て勝ってやろうと思ったのだが、言葉と同時に拳を上下に振るので上手くできなかった。
予想外の行動に混乱し、慌てて出した結果、俺は敗北者となったのだ。
対戦相手が見つからなかったのはクジョウさんのチームだった。
「げっ。これは一回戦敗退だな」
「リタイアすっか」
「お前達に足掻く心は無いのか」
「「皆無」」
まじかよ。
リタイアなんて俺が許さず、木の剣を受け取って順番が来るのを他の対戦を見ながら待つ。
時間が経つにつれてヤマモト達の顔に雲が立ち込める。
「どうしてそんなに暗いんだよ」
「「勝ち目がないから」」
なんか俺まで負ける前提じゃないか?
順番が回って、俺を中心に左にヤマモト、右にサトウが立つ。
対して相手の中央はクジョウさんである。
「右の人は懐に入られるのを苦手としている、左の人はステップが弱いからスピードで撹乱するのが良いよ。ヤジマくんは私が相手する。問題ない?」
「う、うん」
「大丈夫だよ」
なんかクジョウさんの圧が凄い気がする。
部長の合図と同時にありえない速度でクジョウさんが俺の首目掛けて突きを繰り出した。
最速の一突だったのか、風を斬る音が聞こえた。
「あ、あぶねぇ」
ギリギリで屈んで回避したが、危うかった。
継続して攻撃は繰り出され、振り下ろされた刃をバックステップで回避。
「あの。クジョウさん。怒ってますか?」
なんとなくそんな気がして、俺はそう問いかけた。
返事は首を傾げながら言われる。
「怒ってない」
「ほんとですか?!」
それにしては突きの鋭さが以前に増して上がっている気がするんですけど。
そりゃ探索や訓練はしているだろうし、常に成長しているから突きの精度が上がっているのは当然だ。
しかし、その刃に込められた感情は以前とは全くの別物だ。
「私が怒っているように見える?」
「相変わらずの真顔ですが⋯⋯圧を感じます」
「負けたくないのかもね」
間合いを詰めるのが本当に速いな。
相手の攻撃を見切って回避するだけでも難しい。
てか、なんかさっきから違和感を感じるんだが。
「⋯⋯もしかして『縮地』ですか?」
「そう」
「クジョウさんが本当に高校生か怪しくなりました」
「私そんなにシワあるかな?」
自分のほっぺをムニムニしながら確認する。⋯⋯それはむしろシワを増やしているのでは無いだろうか?
そんな茶番は終わり、再び高速の連撃が繰り出される。
クジョウさんの突きは一回の予備動作で五連撃を繰り出す異常性を秘めている。
一秒以内に五連撃だ。
懐に飛び込めばその突きを崩す事は可能だろうが、以前にやってしまっている。
彼女のような実力者は同じ轍を踏む訳ない。
「やっぱり、君と闘うのは楽しい」
「同感ですが、俺は当たらないように必死ですよ」
だけどやはり人間の身体は良い。
幼い頃からこの身体だから、剣技が馴染んで違和感が無い。
サキュバスの方が身体能力が上のはずなのに、イメージ通りに剣技が繰り出せない。
それはただ単に、種族としての修行不足だけど。
「次行くよ」
「ご申告どうも!」
予備動作、肩を後ろに引きながら狙いを定める。そして繰り出す突き。
その引き具合で何連撃か掴める。
「二連撃!」
火力を重視した連撃を回避すると、追撃の蹴りが俺を襲う。
ギリギリで腕を盾にしたが、痛い。
「肉弾戦をご所望で?」
「今回は本格チーム戦を前提としている。体術や攻撃と攻撃の隙間に変則的な攻撃を埋め込む。君もできるよね?」
できるさ。
例えば突きを弾いた後に蹴りを飛ばす事ができる。
だけどしない。
「そろそろ、俺から行きますよ!」
地を蹴って接近すると、相手も同様に肉薄して来る。
間合い管理が完璧に近い彼女がこの手を使うとは思っていなかった。
俺が飛び込み攻撃範囲に入るのを待つのかと思ったら、攻めて来るか。
だったら、突きだとは考えにくい。
突きが回避されたら大きな隙ができ、近距離だとアタックチャンスを生み出してしまう。
「シュッ!」
「らっ!」
振るわれる斬撃に俺の斬撃が重なる。
「突きしかできないと、しないと思ってた?」
「そうとは思ってませんが、このタイミングで来るとは思ってませんでした」
互いに力を込めて押す。
力は男である俺の方が上であるが、それを利用されたら終わりなので注意だ。
多少の力量など技量の前では簡単に覆される。
さらに、今回は蹴りも混ぜて来るので長居は無用だ。
「蹴りは当たらない」
「残念」
本当にそう思っているのか怪しいところ。
押し合いの中で力を抜かれたら重心が前に行く。そこを狙われて爪先が迫った。
予想していたら回避は可能だ。
「さて、どうしたものか」
クジョウさんの研鑽された突きを突破するのはとてつもなく難しい。
懐に飛び込む方法は対策されている可能性がある。
ならばどうするか。
「ヤジマくんも体術使って良いんだよ」
「俺は使わない」
即答する。
静まった空間の中に二人の男の声が響く。
「頑張れヤジマ!」
「俺達の分も!」
⋯⋯既に負けていたか。
俺が即答した内容に不満そうな気配を出すクジョウさん。
表情は変わってないが、なんとなくそんな気がする。
「別に手加減をしている訳じゃない。敵でもなんでもない人に拳も足も振るわない。それが俺の憧れた探索者だ」
「今は模擬戦の敵だよ」
「それでもだよ。これが俺の信念だ。信念を曲げたら、俺の剣は弱くなる」
ちなみにこれは訓練時の先生の言葉である。
信念があるから剣士は強いのだと。
「良い言葉だね。だったら私も剣だけで闘う。フェアに行こう」
「ありがとう。俺はできないから高速の連撃も止めてくれたら嬉しいな」
「それは剣の技術だから無理」
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