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百合展開は妄想の中で

 「ふぅ。魅了する時とは違う気持ちで辛かったぜ」


 包帯は巻いたし、後は怪我が治るのを待つだけだな。


 「ご主人様!」


 ユリが俺に抱きついて来る。ライムも擦り寄る。


 「このまま、いても良いですか?」


 能力を使ってしまった弊害なのだろうか。


 生暖かくなったユリの身体を俺からも抱き寄せて、時間が経過するのを待った。


 軽く触っただけでもユリは声を高める。


 「これは最終手段だな」


 ライムはユリがおかしい事に戸惑って、俺の方を見ている。


 大丈夫と示す為に撫でる。


 仲間のゴブリンがダークウルフの魔石を持って来てくれた。それと毛皮。


 肉はウルフ、骨はライムが食らっている。


 ゴブリンに解体の技術を教えている。


 ライムの食べて素材だけを回収するのでは時間がかかったりするからね。


 さっさと必要な物は回収しておきたいのだ。


 数が多いと、放置する時もあるしね。


 「ありがと」


 魔石を受け取り、能力の効果が切れるまで待った。


 元に戻ったユリは先程までの行動を振り返り赤面し、痛みに悶えて顔を青くしていた。


 コロコロ変わるユリの表情に苦笑しながら、とある場所に向かって足を進める。カメラも戻しておく。


 “ユリちゃんが戻ってる”

 “なんでや!”

 “だいぶ待ったで”

 “よーやっと見れる。ユリちゃん!”


 “ユリちゃんの百合展開はなかったのか?”

 “くっそ!”

 “どこいってんだろ?”

 “もっと見せようぜ”


 “未だに恥じらう心があるのかサキュ兄よ”

 “もうサキュバスである事を受け入れたんじゃないのか?”

 “サキュ兄、視聴者の心を汲み取ろうぜ。さぁ、もっかいだ!”

 “興奮ユリちゃんまた見たい!”


 俺達が来た場所は初めてダークウルフに出会った所、二度目の全滅を味わった所。


 「見てるか? こうしないと浮かばれないし、成仏できないと思ってな」


 俺は地面に魔石を置いて、剣で砕いた。


 「ご主人様!」


 「これが俺なりの弔い方なんだ。短い間だったけど、俺に仕えてくれてありがとう。ダンジョンの中だけど、安らかに眠ってくれ」


 “ちょっとカッコイイとか思ってしまった”

 “くわばらくわばら”

 “南無阿弥陀仏”

 “視聴者の考えを持ったゴブリンは永遠に動画と記憶に残る”


 ユリは元々ゴブリンだ。


 俺のやっている事の意味が分からないのか、ずっと疑問を浮かべている様子。


 それはライムや他のゴブリン達も一緒である。


 「はは。いずれ分かるよ。今日はキリが良いのでこの辺で終わります!」


 “お疲れ様!”

 “次待ってます”

 “サキュ乙”

 “また明日”


 配信を終え、俺はダンジョンを出る為に一層に向かう。


 その時にウルフに乗って、移動する。


 怪我しているからか、皆が気遣ってくれた。


 「翼の扱いは今後の課題だな。尻尾も気をつけないと」


 人型だけど人間の身体じゃない。


 違う部分が存在する事を視野に入れて、特訓しないと命に関わりそうだ。


 「反省すべき点は多いな」


 「そんな。ご主人様がそれなら私はもっと⋯⋯」


 同じようにウルフに乗って移動しているユリが顔を暗くする。


 ライムが心配そうに震えるのを見て、口角を緩めた。ライムを安心させるように。


 それでも乾いた笑みは彼女の気持ちが沈んでいる事を表している。


 「ユリ。この世に完璧なんてないんだ。だけど完璧を目指す。突き詰めようとしたら、どんだけでも成長できるんだ。今の不安や後悔を全部成長に繋げるんだ。俺も皆も、そして強くなる」


 「はい!」


 ゴブリン達も武器を上げて賛同する。


 帰っている途中ですれ違ったゴブリンを狩りつつ、ギルドに戻った。


 モンスターカードは意識していると手のひらに乗せた状態で出られる。


 「あれ? この前の凹んでいた子じゃないか」


 「あ。先日はどうも」


 前に最初の全滅を味わって心にダメージを追っていた時、励ましてくれた先輩の探索者だ。


 探索に行くのか、武器を持っている。


 たまたますれ違って声をかけてくれたようだ。


 ガッツリ凹んでいる所を見られている手前、少しだけ気まづいな。


 「⋯⋯良い顔になったな。嬉しい事でもあったのか?」


 「そ、そう見えますかね?」


 「ああ。前と違って晴れ晴れしている。これからも探索者を続けるのだろう? 頑張れ⋯⋯違うな。互いに頑張ろう」


 「はい」


 少し嬉しい気持ちになり、換金してから帰路に着く。


 問題は山積みだ。


 仲間の強化をする為に武器防具の強化は必要だし、翼の扱いも考えモノだ。


 飛行戦を最短で慣れるには、部活で飛行能力のある人と闘う事だろう。


 ⋯⋯が、その場合俺がサキュバスだとバレる。


 ネットで調べている感じ、今のところこのような性別の変わる種族は俺だけしか発現してない。


 サキュ兄と言う配信者までバレてしまい、部活のメンバーにそれらが知られてしまう。


 そうなったら俺は⋯⋯心が砕けて死ねる。


 「夜に飛行練習⋯⋯一番目立たないけども不安があるし。何よりも寝る時間や起きる時間の生活ルーティンは崩したくない」


 ならば朝のランニングを飛行練習に変えるか。


 「それが確実か?」


 だが、それだと朝早くからあの姿で外を飛ぶ事になるんだよなぁ。


 地域の人に見られたら⋯⋯ランニング中あまり人とすれ違わないけども。


 「どうしたもんかな」


 「どったの。ブツブツと帰って来て。キモイよ」


 妹からのキツめの一言を受け止めて、晩御飯を食べ始める。


 左腕が噛み砕かれているのでギプスをしている。ちなみに翼は無いが背中がめっちゃ痛い。


 背中は無傷だけどね。


 翌朝、俺はランニングの時に種族になる事を決意した。


 翼が出ると服は破けてしまうため、最初は上だけ脱ぐ。


 「ふぅ。行くか」


 いつまでも練習しなければ上手くなれない。


 俺はサキュバスの姿になる。


 種族になると下着っぽい黒い布を胸に装備している。下も同様。


 だが、それだけになると露出度が多く、恥ずかしい姿となっている。


 人目に付かないうちに高く飛んでおこう。


 飛ぶことは本能的、産まれた時からできているかのようにできる。


 しかし、高速で飛んだり自由自在に飛ぶにはやはり練習が必要だ。


 学校の行く時間となったので、アリスを起こして学校に向かう。


 「眠い〜」


 「明日は土曜日だから頑張れ」


 「明日部活〜」


 ⋯⋯それって俺が起こさないとダメなのかな?


 明日は休みだから朝からダンジョンに潜る気満々なんだけど。


 アリスのご両親に頼まれたらやるって事にしておこう。あの二人にはお世話になってるし。


 「ナグモさんおはよう」


 「シオトメ先輩おはようございます!」


 笑顔の先輩に頬を少しピンクに染めてアリスが元気に挨拶するので、俺も少しだけ顔を前に倒す。


 薄く目を開けて一瞥されただけで終わった。俺はシオトメ先輩に嫌われているらしい。


 特に何かした訳じゃないが、アリスと関わっているのがそんなに気に食わないのだろう。


 「それじゃ、また部活でね」


 「はい!」


 最近毎朝この二人の挨拶を見ている気がする。


 何も無ければ良いんだけどなぁ。


 「キリヤはもっと人に愛想良くした方が良いよ。だから友達できないんだよ」


 「るっせ。そっちもその調子だと高校在学中に彼氏できなさそうで⋯⋯」


 茶化す前に肩を脱臼させられた。


 謝って嵌めてもらい、俺達は教室に向かう。


 アリスが青春できている様で嬉しい限りだ。


 小学生の時から何かと俺と関わっていたせいで、遠巻きに見られる側だったからな。


 だからこそ、アリスを応援してやりたい気持ちもあるが、彼女と関わらないようにはできないと思う。


 「あ! 体操着忘れた!」


 「安心しろ持って来てる」


 時間は経過して、部活の時間となったので俺は部室に向かう。


 今日は何をするのだろうか。


 完全に治った訳じゃないので左腕に違和感がある。背中の痛みは無くなっている。


 「こんにちわ!」


 部室には誰も居なかった。


 早く来てしまったらしいので、筋トレと授業の復習をしながら待つ事にした。

お読みいただきありがとうございます!

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性格悪そうなシオドメ先輩、心配せんでもやっとることはオカンムーブやで
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