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決着後の興奮維持

 淫魔特有の能力の一つに『精力』と言う能力がある。


 これは対象の性欲などを掻き立て増幅させる効果がある。


 本来の用途はお察しの通りだと思うが、今回はそれを別の用途で扱う。


 この能力に犯された対象は強い興奮状態となる、その状態では体力の増加などが見られる。


 それを戦闘で利用する。


 大きな戦闘力の向上は見込めないかもしれないが、少しは向上するはずだ。


 一度も試した事が無いが、今はこれに賭けるしかない。


 「行くぞユリ」


 「は、はい」


 俺は戸惑いながらも、使い方が本能的に分かり、それを実行する。


 本能が問題ないと判断したって事はしっかり使えるのだ。


 俺はユリの頬にキスした。


 “戦闘中になにしてんの(ポカーン)”

 “あーやっぱ使えたか”

 “思った以上に健全だなぁおい”

 “もっと激しいのを期待してたぜ”


 “百合豚歓喜だな”

 “何映像かな?”

 “戸惑いのダークウルフさん”

 “大丈夫か?”


 ドクン、一度だけ大きく心臓が振動した。


 俺のではなく、ユリのが。


 瞬く間に頬は紅く染まり、目がうっとりとしだす。


 「ごひゅしんしゃま?」


 「選択誤ったか?」


 俺が肩に触れるとビクンと震える。


 「キャッ!」


 「ユリ?!」


 “感度が上がってやがる”

 “これって痛みも上がるのでは?”

 “なんか急に心配になってきた”

 “が、頑張れ”


 ダークウルフも戸惑い始めてやがる。


 俺は剣を持って再び構える。


 その光景を見て自分のやるべき事を思い出したのか、顔を染めたまま、キッと目付きが良くなる。


 ただ、「はぁ、はぁ」と息が少し荒い。


 使うのは失敗だったか?


 「なぜだか、身体の奥から熱いのが込み上げて来ます」


 呂律が回るようになったのか、普通に言葉を出してくれる。


 その熱いのが何かを深堀するのは止めよう。


 「きっと力だよ。行くぞユリ」


 「はい!」


 興奮状態だからか、血の流れている腹には一切意識が行ってないようだ。


 能力が解除された後が大変そうなので、さっさと終わらせる。


 「まずは俺から!」


 俺が先に動き出し、最初のダークウルフを狙って剣を振るう。


 しかし、俺との戦闘慣れがあるために空を斬る。


 しかも、攻撃終わりの俺にもう一体が横から牙を剥き出しに迫って来る。


 「やっ!」


 そこを懐に飛び込んだユリが浅くだが短刀で切り裂く。おかげで攻撃はキャンセルされた。


 「くっ」


 相手は攻撃を受けた時のカバーを意識しているのか、ユリの攻撃終わりにはもう片方が攻撃しに行く。


 必死に防御するユリだが、やはり力負けはしそうである。


 「俺もいるぞ」


 ユリが防いでいる間に大きな一撃を与えようと踏み込むと、彼女は俺に向かってダークウルフを蹴り飛ばした。


 その行動に驚き一瞬反応が遅れてしまったが、深く腹を斬る事には成功した。


 “ユリちゃん強い!”

 “なんかエロくて犯罪臭するのに、なぜ強い?”

 “まじでサキュバスの戦っている所見た事ねぇから分かんねぇ”

 “精力にこんな力あるのか?”


 「なんだが、相手の動きが遅い気がします」


 「かなり効果はありそうだな」


 今後も使えるかはともかく。


 後一押しで仇討ちは終わりだろうが、もう片方がどう出るかが怖い。


 今のユリならきちんと戦えそうだが、やっぱり危険はある。


 何よりも、本人は痛みを感じてない様子だが出血量が心配だ。


 今の俺では弱っていても二体同時に相手をするのは難しいので、ユリには戦ってもらうしかない。


 「そろそろ勝負を決めようじゃないか」


 俺は片手で突きの構えを取る。


 狙いは問題ない。後はタイミングだ。


 「私が奥を!」


 俺に向かって迫って来るウルフではなく、魔法を放とうとしているウルフにユリが向かう。スピードも上がっているようだ。


 俺は相手の攻撃に合わせて突きを繰り出す。


 「ちぃ」


 先端に噛みつかれて攻撃を防がれた。力任せに振り払う。


 ◆


 “再びユリちゃんのタイマン”

 “頑張れ”

 “見てるぞ!”

 “H用の能力のはずなのに⋯⋯戦闘に使えたんや”


 「魔法は使わせない!」


 顎に向かって短刀を突き上げる。


 ぐるっと顔を動かして回避され、反撃の魔法が腹に向かって放たれる。


 地面に足を着けていたので、足首を捻ってステップし、回避する。


 不思議な感覚だ。


 腹の奥底からゾワゾワとした熱い何かが込み上げて来る。


 ご主人様を見ると、無性に抱きつきたくなる。


 だけど、今は戦いに集中する時だ。


 集中力が上がっている気がする。攻防で減った体力も回復して、むしろ元気だ。


 「今の私なら、一太刀でも多く、お前に刃を、届かせる事ができる」


 相手の爪の攻撃を紙一重で回避し、無防備の腹を軽く斬る。


 血しぶきが舞い、私の目を覆いそうになるので目を瞑る。


 一旦バックステップで距離を取り、攻防の仕切り直しだ。


 私ではガツガツ攻めても倒せるまで戦えない。


 ご主人様に言われたから。命は大切にする。


 「まだやれる」


 “頬が赤いとなんかエロく聞こえるの俺だけ?”

 “ん〜かわいい”

 “百点”

 “娘に欲しい”


 再び接近して来る。同じように上からの爪攻撃。


 単調な攻撃⋯⋯ではなくフェイントか。


 再び噛みつき攻撃が来るのだろう。


 「ここ!」


 だから私も同じように爪を防ぐ動作に移る。


 相手が噛みつき攻撃に変えた瞬間に、シュッと短刀を正面に伸ばす。


 その刃は咄嗟に反応したダークウルフの片目を切り裂いた。


 怯んだ。攻撃が止まった。チャンス。


 「仲間の味をお前は覚えているか」


 相手の頭を鷲掴みにして、顎に膝をねじ込む。


 骨の砕ける音がしない。私の膝蹴りが弱い。


 掴んだ手を離して顔面を殴る。


 少しだけ胸の中がスっとした気がした。


 「トドメ!」


 相手の脳天を貫きに向かう。


 ダークウルフは残った片目で私を睨み、切羽詰まった様子で離れる。


 「回避されちゃった」


 だけど、今のアイツ相手なら私一人でも問題ないだろう。


 「え、ちょ」


 なんと、奴は私に背を向けて逃げ出した。


 「逃げるな!」


 追いかけたくても上手く走れない。てか、相手の方が速いからいくら走っても意味が無い。


 それでも追いかけてしまう。


 ここまで追い詰めて、逃がすなんてのはできない。


 殺す、今ここで。


 「待てやあぁぁぁぁ!」


 叫んだ。


 刹那、二点の赤い球体を纏った黒い影が上を飛来する。


 「お前にあるのは逃げ道じゃない。あの世への片道だ」


 “おっと無意識の厨二かな?”


 影の正体、それは当然ご主人様だ。


 上から剣を突き刺し、トドメを刺した。


 完璧な一撃である。


 「って、もう片方!」


 倒された仲間を見て、数歩後ろに下がり、踵を返して逃げ出した。


 手負いだ。ご主人様が追いかけたら倒せる。


 だけど、ご主人様は追いかける事はしないでその場で立っている。


 ◆


 「終わったな」


 俺は壁にもたれかかるように座る。


 カメラが正面に来たのでブイサインを送る。


 “ウィナー!”

 “ナイス”

 “お疲れ様”

 “GG”


 「ご主人様、腕は大丈夫でしょうか」


 オドオドしながら寄って来るユリ。


 庇ったからな。何かしらの責任を感じているかもしれない。


 「ああ。大丈夫だ」


 それよりもユリの腹の方が心配だ。


 ゴブリンに持たせているアイテムの中に包帯があるので、巻いておかないと。


 カメラはその時見えないようにする。写してたまるか。


 ゴブリン達とライムが仕事を始める。ウルフがダークウルフの肉を食ってやがる⋯⋯。


 「ご主人様、私⋯⋯」


 「いつまで泣いてんだ。怪我見せてみ。包帯巻くぞ」


 カメラの設定もしっかり変えた。


 “見えん”

 “見せてまじで”

 “見せろ見せろ”

 “声だけでも良き⋯⋯ミュートにするなああああ”


 軽くユリの腹に触る。怪我のない方に。


 「ひゃんっ!」


 「変な声を出すなぁあああ!」


 俺が犯罪者みたいじゃないか!


 「ご、ごめんなさい。でもなんか、その⋯⋯なんて言ったら良いですか⋯⋯」


 ああ、俺のせいだな。


 「怒鳴ってごめん。でも危ないから、包帯は巻こうな。少し服を上げて」


 「なんだか、恥ずかしいです」


 頬を染めて、瞳がうるっとした。


 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。これは犯罪行為ではなく止血です。


 邪な気持ちは一切ありません。

お読みいただきありがとうございます!

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