世界規模の魅了に向けて
スライムの数を増やして世界中に映像を広める計画は着々と進んでいる。
次に大規模な魅了をするための舞台を用意したいと考える。
そのために国の偉い人に相談しに行く事にした。
「てかさツキリ。国を頼って俺を勝手に英雄にしてくれたら解決じゃね? わざわざ魅了する必要あるの? 洗脳で信仰集めて意味あるの?」
『え、それを今更考える? それはあれよ。魅了の方が確実でしょ。心の底から崇めて貰わないと』
「そうかもだけど⋯⋯はぁ。荷が重いよ。ツキリが代わりにやってくれよ」
『アーシじゃ意味無いでしょ。勘違いしないで欲しいのは、アーシにとって重要なのは君だけだから。その意味分かる?』
俺は皆を守るために戦っている。そんな俺を守るのがツキリ。
ツキリにとってはナナミもアリスもマナもレイ達だって二の次なんだろう。
自分の身体である俺を守れるならそれで構わない。つまり、わざわざ世界を断絶したり戦ったりする危険を犯す必要は無い。
俺が無事ならそれで良く、そのための行動なら全面的な協力を得られるのだろう。
『こうして君のために頑張ってるのも、君が頑固者だからだよ。大切な人達と一緒に適当な場所に逃げる選択肢だってある訳だからね。初代魔王がしたように違う世界に飛ばすように』
ツキリのこれらは本心だろう。
「分かったからもう言わないで。心が荒む」
『分かった。そろそろ着くんじゃない?』
俺は一度だけ偉人達と会った事がある。その中で話のできそうな人を一人だけ選んだ。
世界中を魅了するんだから、当然世界中の人達の位置を把握している。
うちの情報網は侮れないのだ。ま、そこに俺は一切関与してないんだけどね!
なんか勝手に動いて勝手に情報集めてるから、聞けば教えてくれる。
オオクニヌシと言う世界規模の巨大組織を潰したのも大きいかもしれん。
さて、玄関からお邪魔するのも良いがここはカッコ良くベランダからお邪魔しよう。
不法侵入?
気にしたら負けだよ。
そもそも外で身勝手に種族になるのも本当は良くないから。平然とやっているから気にしてないが。
ベランダに向かう。
金持ちだと思うが、住んでいる家は一般的な戸建てである。
ベランダに向かうと、そこで月を眺めながらワインを飲んでいる男がいた。
今回の目的の人である。
「⋯⋯」
「⋯⋯こ、こんにちは」
予想してなかったな。まさかベランダにいるなんて。
「不法侵入だよサキュ兄さん」
「申し訳ありません。内密な話をしたいと思っていたので」
ま、別に秘密にする事じゃないので真っ赤な嘘なんだけどね。
それを彼は知らないし、勝手に想像して真剣な面持ちになるだろう。
「美味しいワインが⋯⋯降りたまえ。聞こうでは無いか」
「それでは遠慮無く」
一体なんの話をされるのか、相手は冷静に表情を保ちながら思考している事だろう。
「実は⋯⋯世界中を魅了しようかと考えてまして」
「つまり世界征服するために全世界の人々を魅了し洗脳すると?」
「間違いではないですが言い方に悪意を感じますね」
実際そうなるだろうな。
魅了したら誰もが俺の言葉に従う事になるだろう。それを目指しているのだから否定できない。
でも俺は支配者になるつもりは無い。
俺が目指すのはただ、皆で平和に暮らす日常だけだ。
包み隠さず目的について話した。そして協力して欲しいと願う。
今回はさすがにダンジョンじゃできない。
きちんとした設備を利用したい。
「武道館を使いたいと?」
「そこまでは望んでません。ただ、複数人が同時に立てて動き回れる程のステージが欲しいんです」
「ふむ。⋯⋯どうしてその話を僕に?」
「家から近か⋯⋯話が一番できそうだとこちらで判断したからです」
「そうか。君の家はこの付近なのだね」
しまったよ。本音が⋯⋯。
まぁ良いか。
「世界の侵略は世界で対処するべき厄災だ。それを君一人で食い止め、阻止する事ができるのかい?」
当然の疑念だろう。俺は高校生だし。
政治やら色々と興味が無く、ただ憧れに盲信して進んでいただけに過ぎない。
「俺は一人ではありません。護りたい人や仲間がいます」
心が沈んだ時に浮かせてくれたマナ。小さい頃から周りと馴染めない俺を気遣い今でも支えてくれるアリス。
共に剣を交え隣で戦ってくれるナナミにユリ。
他にも沢山の仲間がいる。
俺は一人で戦っている訳では無い。
「そうか。それと一つ疑問を述べても?」
「はい」
「君の話を聞くに、スライムが人間に擬態してメディアに顔を出しているらしいね」
「はい」
「戸籍など⋯⋯その辺はどうしたのかね?」
「⋯⋯」
それについて俺はどう答えるのが正解なのでしょうか。
「身分の偽装⋯⋯」
「違います違います! いや、違くはないけど違うんです!」
俺が潰したオオクニヌシのメンバーの戸籍を使っている。
全員が全員、子供の頃から育てられたメンバーと言う訳では無いのだ。
「まぁ良いか。一つと言ったがもう一つ、同性愛者は魅了できるのかね?」
「へ?」
「少なくとも今、僕は君に一切の魅力を感じていない」
目の前にいる男は同性愛者らしい。俺の周りにはいなかったので少し珍しいと感じる。
でも当然の疑問か。俺も言われて気になってしまう。
正直、目の前のおじさんに魅力を感じられたら凄く嫌な気持ちになるけど。
「試して良いですか?」
「堂々と政府関係者を洗脳宣言するね」
「試さない事には」
「良いだろう。ワインのツマミとして、愉快な魅了を眼前で楽しもう」
「性格悪いですね。一応俺高校生ですよ」
「少年法で守られていると高を括るのはよしたまえ。法で守り切れない行いだって存在する」
「ですね」
俺はどうするべきか考えた。
まずは俺がやるべきなのだろうが、正直嫌だ。
何が悲しくておじさんの前で普段の魅了をしないといけないのだろうか?
「あ!」
俺はスマホを取り出して動画を見せる事にした。
スマホから特定、なんて事を避けるために映像はライムのホログラム映像で。
数十分、ひたすらに垂れ流す魅了を見た男はワイングラスをコツンっと机に置いた。
「愉快だね」
「言わないでください」
「同性愛には通用しないようだ。僕は貴方に魅了されていない」
そのようだ。魅了した感覚が得られてない。
映像越し、だからと言う理由では無いだろう。そこは関係ないと証明されている。
女性相手ならいくらでも通用するのに⋯⋯。
女性でも美人な女性相手には綺麗や羨ましいと言った感情が出るだろう。それが魅力を感じる事に繋がり魅了できる。
他者に興味が無い人でも同じく魅了可能だ。だってスライムを魅了できるからね。
しかし、魅力を感じる相手が男だけである場合は話は変わるらしい。
「まぁその時の対策がコレなんですけどね」
俺はライムに男バージョンサキュ兄になって貰う。
俺の人間状態よりも断然綺麗な顔立ちをしている。
それもそのはず、今の俺は容姿の優れたレイの遺伝子が色々な人間の遺伝子によって薄まっているのだから。
そのためサキュバスになると顔の整い方が異次元レベルに変わる。
「ふむ。僕好みだ」
値踏みするように下から上まで舐め回すような視線で見ると、ライムが怯えた。
「大丈夫だ。襲って来たら斬るから」
「殺人未遂かな?」
今回は俺は抜きにしてライムが一人で魅了する事に。
近い顔立ちにする事で無意識に俺を連想させ、それによって魅了を完了する。
俺に対して魅力を感じていなくても、俺に近い何かに魅力を感じた状態で俺の事を微かに思い浮かべるだけで魅了できる。
これが魅了の結果だけを奪うと言う、俺が一時期考えた事だった。
実際にやったら目も当てられない過激な魅了のオンパレードになり、俺は引きこもりになるだろう。
「これは⋯⋯確かに凄いな。なんとも思っていなかったはずなのに、君のためならなんだってしてあげられる気持ちになる」
「冷静に言葉にされると気味悪いですね」
「そうだろうね。問題無い事は証明された。話はしっかりと通しておくよ」
「ありがとうございます」
「しかし、僕の推しだった俳優がスライムだなんて、少し残念だ」
一人のファンの心を弄んでしまったらしい。⋯⋯ごめんなさい。
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