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ヴァンパイアとサキュバス

 ナナミとの魅了を終えた俺達二人はボーッと足を組んで座っていた。


 見上げても見えるのは星と英雄くらいで綺麗なモノは無い。


 己の中にある虚無感と戦っている。


 「ナナミ、理解できたか。これが本当の魅了なんだよ」


 「うん。私にはできそうにない。キリヤは凄いな」


 「なんだろう。褒められても嬉しくない」


 はは、っと乾いた笑い声を出すナナミ。


 そんな彼女に一言言おうと思う。


 「それにしてはノリノリだったじゃないか。あそこまでされるはずでは無かったらしいぞ」


 コメントを見て分かった。


 顎クイはあった。セリフも一緒だった。


 しかし、ナナミの独断で尻尾と頬キスが追加されたらしい。それに連なるセリフもだ。


 緊張で思考が混濁していたのは分かる。だけど、その中であの行動ができたのは彼女が密かに秘めている思いがあるからだ。


 それに気づいてしまうと、なんか変な目で見てしまう。


 身の危険を感じる。


 「あ、あれは違うんだよ。テンパったと言いますかなんと言いますか⋯⋯すみません」


 「別に怒っては無いよ。怒って、無いよ?」


 「徐々に疑問になるの止めてよ。怖いじゃん」


 珍しくオドオドと可愛らしく慌てるナナミが見れたので、正直の所怒っていない。


 それよりも、何よりも、ナナミに魅了の時に感じる俺の感情を感じさせた事に喜びを感じている。


 いつも心無しの会議結果に翻弄され、メンタルブレイク寸前まで追い詰められている俺の気持ちを理解してくれる人が増えた事。


 その事実が俺に微かな安らぎをくれているのだ。


 性格が悪い? なんとでも言え。


 俺は一人でも多くこの羞恥プレイに引きずり込み、被害者を増やしたいのだ。


 その先に何が待っているかと問われたら、口を閉ざす事になるだろう。


 だってこれは単に俺の精神回復を行う八つ当たりに近い行為なのだから。


 ちゃんと自覚しているからこそ、心の中に広がるのは虚無感である。


 「ほんと、初めての体験」


 「また一緒にやる?」


 「やらないよ。キリヤは緊張しないの?」


 「しなかったら今よりも人気は出てないだろうな」


 「フフ。確かに」


 え、そこ納得できるところなの?


 俺には分からない世界を皆は見ている。


 俺はそんな人達の要求に応え、本心に基づき行動している。


 その結果が今である。


 正直、多少の格好やセリフなら平常心を保てるくらいの精神力は身についている。


 例えばビキニタイプの水着でグラビアポーズをするとして、それをカメラに収められる。


 これに関してはもう恥ずかしいと感じる事は無いだろう。


 しかし、ここに仲間の視線が入ると話は変わる。


 誰かの視線を感じながらやると同じ内容でも恥ずかしいと言う感情が湧き上がるのだ。


 普段の俺はこんな事しないと言う、小さなプライドも影響しているかもしれん。


 本来とは違う、望んでない自分を見られるのは恥ずかしい事なのだ。


 末期の厨二病患者ならば自分の世界を否定する奴らが阿呆だとして見る事ができるだろう。


 でも違う。俺は違うのだ。


 しっかりとやっている内容、求められている事を理解している。


 だからなぜこうなったのか、時々自問自答してしまう。


 「なぁナナミ」


 「何?」


 「やっぱり魅了を全部ライムに任せるべきだと思わないか?」


 「私はそれを全部キリヤだと想定して観るね。学校でアリス達と昨日あった魅了配信について語り明かそう」


 「ごめん冗談」


 ナナミもあっち側に行ってしまった事を理解した。


 冷静に淡々と地獄のような事を語るナナミは正直、閻魔よりも怖いと思ったね。


 「ねぇキリヤ」


 「なんだね」


 「感想は無いの?」


 「感想?」


 疑問符を浮かべていると、ナナミがそっと俺の頬を撫でる。


 その手にある人差し指を自分の唇に軽く押し当て、言葉を繋ぐ。


 瞳は斜め下に向かい、頬を染めている。照れているらしい。


 「キスの」


 「あんなものに感想があると思うか?」


 「え、酷くない?」


 「酷いと思うのなら、もう少し理性を保って欲しかったな」


 「え〜なんか厳しくない?」


 俺は無意識にナナミの唇に触れられた所を触る。


 触ると、そこの感覚が麻酔を打たれた後のように無かった。


 唾液に濃密な電流が含まれていたのだろう。数秒もせずに感覚が麻痺した。


 その事は言っていない。言う事でも無いだろう。


 『ユリちゃんと普通にキスした事あるし、今更あんな子供じみたチューに感情は揺さぶられないか。オスねぇ』


 うるさい黙れその口を閉じろ。


 『ここにも子供じみた子がいたわ』


 ツキリ、本当にやめてくれ。


 大体な。既に魅了工程で心臓はバクバクなの、あれから一つ増えても何も感じれないのよ。


 コップに満タンの水があり、そこに新たな水を与えても量は変わらないんだよ。


 入る余地が無いの。


 「もっと冷静な時だったら変わっていたかもな」


 「嫌じゃ無かった?」


 「⋯⋯まぁ?」


 最近のナナミは積極的だ。だからだろう、魅了の時と同じ事をした。


 尻尾で隠して、誰にも見られないように。


 魅了会議に集中しているユリ達に見つからないように。


 「これなら、少しは意識する?」


 「ナナミ⋯⋯ごめん」


 俺は頬の感覚が麻痺した事を素直に打ち明けた。そして魅了の後だからかなり冷静な自分がいる事も。


 それから時間は流れて会議が終わり、俺達は呼び出された。


 「あれ? ナナミに主君、どうしました?」


 「いや、なんでも」


 「うん。なんにも無いよ。早くやって」


 あからさまにテンションが低いナナミ。


 表情はいつもと変わらなくても、尻尾が素直に感情を表現している。


 ユリもそれは分かっており、視線を落としてからにこやかな笑みを浮かべた。


 「ユリ、嬉しそうだね」


 「そんな事無いよ〜」


 ユリとナナミの間に険悪な空気が流れたが、ローズが断ち切った。


 次はローズと魅了するらしい。


 強くなった力を無駄技能として使ったローズと魅了か。


 「ローズと二人でやるのは初めてかもな」


 前回はユリと一緒だった気がする。


 魅了の事はあまり思い出したくないし、忘れていてらごめんだな。


 「少し楽しみです」


 「なんでやる立場で楽しみになるんだよ」


 その精神はおかしいよ。ほんと。


 しかたない。頭を切り替えてやるしかないだろう。


 さて、どんな魅了かな⋯⋯。


 また内容を確認する前に動かれる。


 「主人失礼します」


 「だが断る。内容確認しないでやったらエスカレートするんでねぇ!」


 ローズの変幻自在の血を弾くげく剣を⋯⋯あれ?


 俺の手に剣は無かった。


 俺の装備は全てライムが担当している。つまり、ライムに裏切られた。


 「ちくしょう!」


 回避が遅れて俺の身体が血によって拘束される。


 なんで皆して嬉々として俺にこんな事をするんだよ!


 「え⋯⋯なんだこの格好!」


 まるでくノ一だ!


 巫女、教師、忍者、和風からの洋風からの和風か!


 頭おかしなるわ。


 良し、ここは一旦冷静になってどんなストーリーか想像しよう。


 拘束されたから⋯⋯侵入したくノ一が捕まった的な?


 “ローズちゃんじゃないとできない事がある”

 “やっぱりこれだよなぁ”

 “これしか無かったんだ”

 “今回の魅了会議は早く終わったな”


 “さて、鑑賞鑑賞”

 “楽しみやで”

 “ローズのパワーを見せる時”

 “やったれ!”


 思考放棄しそうな俺を我に返すのは他の誰でも無いローズだった。


 俺がユリにしたように背後から抱きしめられる。


 「ひっ!」


 がっしりと掴まれるヒップ。手つきがまるで時代劇の悪役だった。


 「我が城に侵入とは、度胸はあるようだなぁ」


 悪役が似合ってますねローズさん!


 「てか、ここはうちゅ」


 俺がツッコミを入れようしたら柔らかい手で抑えられる。


 「シーですよ主人」


 最近耳元で囁き言葉で話すのが流行っているのかもしれない。


 左手は未だに俺の尻をにぎにぎしている。


 「アナタを雇ったのは誰ですかぁ?」


 「え、しら⋯⋯」


 「そうですか話しませんか⋯⋯じゃあ身体に聞くしかありませんねぇ!」


 俺何も知らないし言わせても貰えないの?


 尻を執拗に攻めていた手が胸へと腰を撫でるようにして移動する。


 未だに俺に言葉を出させないように口を塞いで来やがる⋯⋯。


 「強情な方でも眷属にすると、素直になるんですよ。さぁ、アナタも欲望に忠実になって溺れると良い」


 なんか段々と普段の魅了からかけ離れている気がするのは気のせいか? 迷走してないか?


 “前置きが、長いっ!”

 “エッチだけど!”

 “なんか長編になってる!”

 “ローズちゃんもやりたかったんだろうなぁ”


 揉んでいた手を肩へと移動し、服を剥がすように手に力を込めた。


 「んっ!」


 露出するのは肩である。


 ゆっくりと服を剥がされると背徳感と言うか恐怖心と言うか、ゾクッとする。


 勘違いしないで欲しいのは興奮しているとかでは無い。


 「はーむっ!」


 ローズが小さな口をめいっぱい開けて、肩にかぶりついた。


 ゆっくりと牙を食い込ませていく。


 痛みは感じない⋯⋯毒によって麻痺させたのだろう。


 変な配慮だ。


 しかしあれだな。慣れてしまうとどうって事は無い。


 「むぱっ」


 二つの歯型が残った肩。そこから垂れる血をこれまたゆっくりと舐め取る。


 ジュルっと音を立てて。


 「美味しいぃ」


 「⋯⋯」


 なんかさ。今回の魅了はローズの狂気を感じる魅了だったな。


 “やっぱり吸血鬼って来たら吸血だよな!”

 “マニアックと言われようがマイナーだと言われようがそこにエロスはある”

 “これに興奮しないのはどうかしてる”

 “綺麗な肌に立つ白い牙ってエッチよな”


 “二人魅了ってなるとストーリーが長くなるな”

 “もっと簡略化するべきだった”

 “普段のサキュ兄は衣装、ポーズ、セリフで簡潔だからなぁ”

 “しかし、サキュ兄には伝わってないのかピンッと来てないなコレ”


 「自分は魅了が下手なのでしょうか。主人の恥じらいを感じません」


 「そんなの感じなくて良いから⋯⋯」


 「ふむ⋯⋯」


 「ローズ?」


 ローズがどんな思考をしたか知らないが、急に視界が動く。


 ローズが俺の正面に現れて、抱き締めて来る。


 そして正面から、鎖骨辺りをカプっと小さく噛んだ。


 「んっ」


 身体が密接し重なる状態。


 閉じている瞳を軽く開けるローズ⋯⋯その瞳はどこか儚く見えた。


 だからだろう。俺は無意識に彼女を抱擁した。


 右手をローズの頭に持って行き、身体に押し付けるように軽く力を込める。


 「⋯⋯良いよ、もっと吸って」


 「⋯⋯はい」


 目を逸らし彼女を直視しない。する事ができないのだ。


 なんだ、この胸のザワつく感じは。


 背徳感かなんなのか⋯⋯これは母性なのか?


 いやいや落ち着け俺。俺の中は男だ。


 でも、大人びたローズが甘えん坊のように抱きついてくるのはちょっとこそばゆかった。


 ユリやナナミとは違う方向で俺の頬は染まり、口元を緩めた。


 “あー尊死”

 “なんだろうこの⋯⋯親子感”

 “正面からだから重なるメロンっ!”

 “ポーズとセリフ、完璧。いつもの魅了やん!”


 “最初の吸血動作も良かったが、拗ねた子供が甘える吸血も良き”

 “なんだろう。新たな扉を開きそう”

 “片方の肩を出して鎖骨の辺りを吸血⋯⋯え、もはや赤ん坊の食事やん。くっそエロいやん”

 “もうローズってアドリブ十割の方が良くね?”


 “完璧やん”

 “最高”

 “スクショ撮って印刷して壁に飾るわ。最高”

 “良いやん”


 “最初は長いだけの安いエロかと思ったが、最後ので全部持ってかれた”

 “サキュ兄が恥らわなかったから不貞腐れたローズ、これが良いアクセントになってる”

 “不貞腐れた子がムキになってる。やばいな”

 “ストーリー性もバッチリ、と”


 “もう誰だよ赤ん坊の食事魅了とか妄想したやつ。それしか出てこねぇ”

 “あかん。白と赤の液体が下と上から出て来る”

 “一枚絵とセリフで完結する、これがサキュ兄魅了だよな。なんか変な方向に行きそうだったから良かった”

 “初心に戻った感じ”

お読みいただきありがとうございます

評価【★★★】《ブックマーク》、とても励みになります。ありがとうございます

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