防具でここまで困る人いる?(泣)
クジョウさんと場所を移動した。
気配を消して移動した事でヤマモト達をしっかりと撒いている。
「えっと、今日は、元気そう」
「はい。その。昨日は冷たく当たってごめんなさい」
俺がクジョウさんに謝ると、彼女はとんでもないっと言う様子で顔を横に振る。
「何かあったのは分かるから。もう大丈夫そうだね。良かった」
僅かだが口角が上がった気がする。俺の視力が落ちてなければだけど。
彼女が僅かだが、薄らと笑った事に内心驚いた。
「心配かけてすみません」
「謝らないでよ。大丈夫そうなら、うん。良かったよ。いつか一緒に探索しようね」
「それはごめんなさい」
俺はキッパリと断った。
同級生にサキュバスの事を知られるのは辛い。
「そっか。残念」
凹んだクジョウさんになんとも言えず、俺達はヤマモト達のところに戻る。
戻る途中に俺はお礼を述べた。
「気にかけてくれてありがとうございます」
「お礼はいらないよ」
「そうですか。でもありがたいので感謝しますね」
なんで俺に気を使ってくれたのか分からないが、多分同じ部活のメンバーだからだろう。
二人で戻ったら、二人に根掘り葉掘り聞かれたので適当に「昨日一緒に武器見に行った」と伝えた。
すると二人の殺気は増して、グチグチ言って来た。それはもうねちっこく。
俺もクジョウさんもその二人の言葉を右から左へと流して、弁当を食べ終えた。
「さっさと帰ろう」
俺はアリスに一言残して、ダッシュで家に帰った。
さっさと金を稼ぐには、一秒でも無駄にしたくない。否、できない。
お金に余裕がある訳じゃないが、防具を買おうと思う。
防具は早めに用意して身体に慣らしておく必要があるのだ。
動きに支障が出るのが一番の負け筋。
問題はある。
それは性別や身体が変わってしまう事だ。
殆どの人は防具を種族に変えてから選ぶ。つーかそうじゃなきゃ意味が無い。
ダンジョンの中では強制的かつ永続的に種族になるのだから。
普通の人達なら気にすること無く種族を変えて、防具を選ば良い。
しかし俺は性別が変わるのだ。しかも淫魔!
性別が変わると防具は厄介な事が起こる。
男物の防具は三階、女物の防具は四階なのだ。
性別によって身体の形は変わるので、一箇所に集めようとするとこうなるらしい。
まぁ、ダラダラと言い訳を並べても意味は無いので諦める事にしよう。
持っている服の中でも一番ブカブカのを選んで来たので、人目のつかない場所で種族に変身する。
外でサキュバスになるのって、変にソワソワするって言うか周りを意識してしまう。
サキュバスの人ってあんまり探索者にならないし。
四階に向かって、俺は防具を値踏みする。
鉄製などのガチガチなのはまだ必要ないと思うので、丈夫な革の防具を選ぶ。
軽装で動きを阻害しないようにする。女性物は当然初めて着るので難しい。
サイズの方は⋯⋯サキュバスの能力で微調整は可能だ。
でも妥協はできないよな。下手に間違ったサイズを買うと後悔する事になる。
他のお客さんがいなくて良かった。
「このサイズは良いかも」
後はステータスカードを提示して購入すれば⋯⋯ステータスカード?
しまった!
防具とか武器はギルドが管理するから回収される。その時には当然ステータスカードを出す訳だ。
これまずくね?
女性物の防具をギルドに管理してもらう。当然受付を通す。
冷や汗が流れ始めた。
「落ち着け俺。共通の防具を考えれば良いんだ」
軽装だと男女の区別がとてもしやすい。何かないかな?
そこで俺が選んだのは鎖帷子だ。
防御力を向上させるのはもちろん、内側に仕込めるしあまり動きも阻害しない、何よりも男女共有の見た目ってのがありがたい。
サイズを気にされる事は無いだろう。
「ただなぁ」
鎖帷子だとウルフ系の噛みつき攻撃に対して不安が残る。
鎖帷子は一旦やめて、腕と足などの胸以外の防具を見る事にした。
これも男女の区別はしにくいし、ウルフの噛みつき攻撃への対策にもなるだろう。
ただ、それ単体で売っているのが無い。基本的にセットだ。
頼んでみるか?
「てか、ステータスカードの名前でおかしいってバレるかな?」
防具選択ってかなり難しいな。
一旦人間に戻って、三階にある男物の防具をチェックする。
さっきのでサイズは確認している。形はやっぱり少し変わるが大差は無いな。
これなら問題ないだろう。
俺はサキュバス時のサイズに合わせて、男物の丈夫な皮装備の軽装を購入した。
それを装備するには更衣室に行くのだが⋯⋯そこでサキュバスになる訳にもいかない。
はぁ。マジで不便だ。
トイレに行き、そこでコソコソと装備を着替える。
初心者用に貰えるレザーアーマーの上に重ねるようにして装備する。
ちょっと窮屈感を感じるが、調節は可能なので大丈夫そうだ。
胸元はさすがに無理だったので、そこは諦める。
でもダンジョンに入るまでは必要か。
なんともヘンテコな格好だ。
「⋯⋯よしっ」
人の気配を感じ取って誰もいないと分かった瞬間にトイレから出る。
胸板が邪魔になるが、そこはしかたないだろう。無いのは不自然だし。
今の俺の格好もだいぶ不自然だ。内側に装備すれば良かった。
今後の事を考えながらダンジョンに入り、ユリとライムを呼び寄せる。
「仲間を増やしたいところだけど、目先の目標はユリの強化だ。俺の防具で既にすっからかん、金を貯めたらユリの武器を買う。良いな?」
「はい!」
ライムも同意してくれた。
俺はライムを頭に乗せ、ユリを抱き抱えて翼を広げる。
まずは二層に最速で向かう。
壁キックを利用して飛ぶ速度を加速させる。
「ユリの武器を購入したらポーションを揃えて、仲間も新たに増やす。そして、アイツを倒すぞ」
「はい。仲間の無念を晴らすのです」
「力みすぎるなよ?」
「もちろんですっ!」
階段を滑空しながら進み、二層に到着した。
ゴブリンとエンカウントした場所を思い出して、昨日の夜にまとめたノートも思い出す。
そこからゴブリンとエンカウントしそうな場所をしらみ潰しで探す。
見つけたゴブリンは倒して、魔石だけを回収する。
ライムが少しだけガッカリしたけど、納得はしてくれたと思う。
「俺もいずれ、勇気を出して、心を殺して、防具をしっかりとしないとな」
信頼できる人が受付をしてくれたら良いのだが、俺にそんな知り合いはいない。
悲しいね。
ゴブリンと前にエンカウントした場所には嬉しい事に二体のゴブリンが立っていた。
手を離してユリが地面に着地すると、すぐさまゴブリンに向かって走る。
俺もライムを頭に乗せながら突き進む。
「せい!」
ユリがゴブリン達のヘイトを集めて攻撃を防ぎ、その間に背後に回った俺が深く背中を切り裂く。
一撃で沈めるために斬る場所と角度は意識している。
「ユリ!」
残りの一体の脚を蹴って転ばせ、崩した体勢に容赦なく突き刺すユリの一撃。
沈めたゴブリンの心臓を雑に抜き取って魔石を回収する。
ライムに預けて綺麗にしてもらい、綺麗になった魔石はカバンに入れてもらう。
もちろん、その工程は頭の上で行ってもらい、移動は常にしている。
「ご主人様、今度は一人でやらせてくれませんか?」
「時間は無駄にしたくない。一分以内に終わらせられるなら良いよ」
「ありがとうございます!」
喜んでいる。
ゴブリンを発見して、ユリを下ろすと数秒で勝負を付けた。
ユリの成長がとても早い気がする。
「正確に一撃で倒しているな⋯⋯」
俺がゴブリンを瞬殺するのを観察して、自分で効率的に倒す方法を模索していたのだろう。
ユリの強くなりたいと言うモチベが成長に繋がっているのかもしれない。
それはありがたい事だ。
「うっし。次行くか」
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