夜襲
夏休みが終わってから俺は行動をしていた。
サナエさんからの情報を元に本部があると思われる場所を全て調査させた。
その結果、一つだけ異様な気配を感じた施設が発見された。
そこが本部だと考えている。
アリスとマナは家に帰したし、そこに数多くの護衛を残してある。
ナナミの方にも一応護衛は用意しているが、気づかれたら護衛を振り切る可能性がある。
既にオオクニヌシが全員に手出ししている線も考えて、俺も一時間は待機したが特段それっぽいのは無かった。
強いて言えば、ナナミから『大丈夫?』と言う謎のメッセージが来たくらいか。
「オオクニヌシの幹部は三人、前に倒したヤガミを除いて残り二人」
本部の上空を飛びながら、魔法の準備をする。
「行けるかツキリ」
『おっけーだよ』
「そんじゃ。ド派手に行こうか。【数多な月光】」
俺がこの日を選んだ理由は単純、満月の日であるからだ。
サキュバスとしての力が一番強くなる今宵、オオクニヌシの本部候補を数多くの光線が包み込む。
ニュースになろうがなんだろうが、関係ないね。
今までのフラストレーションを放出する時だと考えている。
マナを怖い目に合わせ、アリスを辛い目に合わせた。
それだけで俺がコイツらを潰す理由は十分だ。
家族に手を出す奴らは許さない。絶対に。
それにサナエさんの件もある。
「それじゃ、終わらせようか」
カンザキさんとトウジョウさん、一応仲間の魔王関係者の二人は誘ってない。
この二人にも家族がいるし、こんな夜中に助太刀は頼めない。
特にカンザキさんは小さなお子さんがいるんだからな。
ド派手に破壊してやるつもりだったが、あんまり壊れた感じはしない。
『特別な素材でも使ってるのかね? それとも結界か』
「両方だろ」
地面に足を着けると、影の中から大量のホブゴブリンとアンデッド軍、そしてウルフ達が顔を出す。
俺の戦力のごく一部。
コボルト軍はアララトを中心にアリス達の護衛を任せている。
幹部クラスでもない限り問題ないだろう。
「行けるよな?」
「問題ありません」
「悪いな。祭りの後で」
「いえ。奴らがこちらの私生活を把握しているなら、その方が油断している可能性がありますから」
それはどうかな。
むしろ今日って思っていたかもしれない。
そう思う理由は大きな魔力の塊を感じるからだ。迎え撃つ準備として受け取れる。
俺は真正面からボスを叩きたいと思っている。幹部が現れたら鬼っ子に任せる予定だ。
その他の下っ端共は全員敵とし、生きていると今後も家族を狙う可能性を考慮して、残らず消す。
その許可をジャクズレに出してある。
俺の仲間の中で膨大な軍勢を誇るジャクズレは数の戦いでは圧倒的有利だ。
「現れたな月の⋯⋯」
俺の前に現れたらツキリが無言で魔法を使い脳天をぶち抜く。
『別に良いんだよね? 今更怖いとか言わないよね?』
「あっちは既に殺す気なんだよ。だったら殺されても文句は無いでしょ」
タチの悪いモンスターと思っているし、今更引き返すつもりは無いよ。
奥に進みながら迫り来る敵は全員瞬殺する。
サナエさんの言葉によれば訓練を受けている子供がいる可能性もあるとか。
ま、事後処理は終わった後に考えるとしよう。
とにかく魔力の多い場所へと足を運ぶ。
あっちから来ないのは間違いなく、俺を待っているんだろうな。
「⋯⋯影に入れ」
俺の指示に全員が影の世界に入り、俺は飛び立つ。
刹那、建物を破壊して木の根っこが伸びて来る。
「ライム」
剣に擬態したライムを振るって切断する。
トウジョウさんと同じ種族、か。
ドリアードである。
「ああ、来てしまった。本当なら僕の完璧な作戦で倒せたハズなのに!」
どこからか声がする。姿が見えない。
木を人型にしたかのような見た目だと思うのだが⋯⋯どこにいるんだ?
「とっ」
『根っこから声を出すとかウザったいわね! うるさいし!』
あちこちから伸びる根っこを回避しながら、本体を探す。
初撃を躱せたのは運命の魔眼を発動させていたからだ。
どこだ。どこの方向に行けば本体を見つけられる。
相手の身体の一部がこの木だろ? ならば見つけられるはずだ。
その運命を、示せ。
『敵100%』
左側の壁にテロップが出現する。
「出て来いよ僕っ子野郎! 【月光線】」
魔法で壁をぶち抜くと、木の根っこが張り巡らされた空間に出る。
ベッドなどの生活感がある、めっちゃ広い空間。
学校の教室二つ分はあるだろう。
「うっ」
「ああ! ぼ、僕の部屋を、よ、良くも壊したな!」
土臭い。自分の種族的に有利な環境なのは認めるが、とにかく臭い。
それに湿気も凄いし。とても陰湿としている。
だいたい、自分の能力で壁を壊して俺に攻撃して来たんだ。
俺が魔法で壊しても関係なくね?
「幹部の立花だな?」
「な、なんで僕の名前を!」
「完璧な作戦ってのはなんだ?」
トウジョウさんと同じ種族ならば魔眼も一緒⋯⋯俺の弱点を視ている。
⋯⋯ああ。そっか。
「そ、そんなの決まってるよ。お前の家族を殺して、精神的に弱らせたところで全勢力をぶつけて殺す! だって、君は絶対にぼ、僕らの思想に共感しないし、敵になるから。き、危険は先に処分しないとね!」
「なぜ、俺を執拗に狙った」
「い、良いよ。教えてあげる。君は若いしまだ強くなる、警戒したんだよ。結果は見事に的中! 君は進化してる!」
なるほど。俺を脅威だと思っていたのが。
カンザキさん達は既に脅威に思ってないから無視していた。
最近は会ってないけど、時々娘の写真を送って来るくらいの過保護な普通の父親だからな。
トウジョウさんは戦闘を得意としないし、タチバナが一人でも勝てるだろう。
正直、コイツは強いよ。
「じゃあね」
だって、同時に十本の刀を操るんだから。
「ライム二刀流」
でも、二本の剣があれば切り裂く事は可能だ。
『全族特攻』
シンプルな能力だがここでも役に立つ。簡単に根っこが斬れる。
「ありゃ」
会話をしながら自分の身体を操るかのように、部屋に張り巡らされた根っこを操る。
視界に映る物がミミズのように動く光景は神経を逆撫でする。
この部屋は正しく敵の領域だ。
どこにどんな武器がどれくらい隠されているか分かったもんじゃない。
全部一気に破壊しようとしても、難しいかな。爆薬とかあったら大変だし。
「あぁ、でもイライラする。お前なんだな。マナを。アリスを狙うように指示を出したのは!」
「うん。だって、それが君の弱点なんでしょ? 僕には分かるんだよ」
こんな技術や強さを得る機会があり、実際に力があるのに。
なんで、なんで人を害す事に使うんだ。
「どうして、この道を選んだ。人を人とも思わぬ所業を続ける道を選んだ」
「力があるのに使わないのはバカだろ? 僕はバカじゃないんだよ」
ツキリが呟く。
『陰キャっぽいのは演技だったか。キモイな』
俺が今こうしている原因のほとんどがコイツだろう。コイツの作戦が俺をこの道に入れた。
あと少し、遅れていたらマナはどうなっていたのかを思い出す。
サナエさんは迷いが生じて脅迫の道を選び、皆で生き残れる道を選んだ。
でもマナはそんなの無かった。
あの時の光景が、怒りが再発する。
「ころ⋯⋯」
怒りに呑まれる瞬間、影から出て来たユリが俺の手を引っ張る。
「ここは私が」
「でも、危険だぞ」
幹部連中は強い。今のユリには厳しいかもしれない。
ヤガミと同等以上だと考えて間違いないからだ。
「大丈夫です。お怒りを私に、二割程度分けてください。自分の怒りも乗せて奴を斬ります」
ユリの覚悟を決めた瞳を見て、俺は先に進む事を決意した。
今の彼女なら、大丈夫だと思った。訓練で身をボロボロにしていたあの時は違う。
ユリを置いて先に進む時、俺は影の中にいるダイヤとジャクズレに指示を出す。
「お前らは群れや軍を動かすのが得意だ。この施設を徘徊して⋯⋯殲滅しろ。ホブゴブリンの指揮はジャクズレに任せる」
「「はっ!」」
ローズとアイリスが出て来て、俺の横を走る。
ようやくボスが居そうな部屋に辿り着きそうだったのに、門番的な吸血鬼がいた。
色々とバグったが、吸血鬼の魔王後継者候補が本来持つ魔眼は俺と一緒。
さすがにここは三人で⋯⋯。
「主人」
「姫様」
「「行って」」
二人の目は敵を見ているようで見ていない。
「カンザキさんとは違う。きっとあの人よりも強い。気をつけろ」
「大丈夫」
「俺らならもう負けない」
俺が先に進もうとすると、当然血の壁を作って妨害して来る。
「邪魔だ」
「強いな」
それを扉ごと斬り裂いて、俺はオオクニヌシのボスとご対面した。
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