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YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
青桐龍夜編
7/129

SAKURA・カザシグサ・桜舞う水平線

体を犠牲に掴み取る勝利―――

先の長い戦いが待ち構えていたとしても―――

君は柔道が楽しいか?

「技ありっ!! 静止(まて)っ!!」


『さあポイントが入りましたっ!! 入ったのは……西村(にしむら)選手だぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!』


 審判の右手が、畳と平行に伸びる―――

 ポイントが入ったのは西村(にしむら)

 試合は一時中断され、乱れた道着(まとい)を直しながら、白いテープの前に戻る両者。

 先制を許した青桐(あおぎり)は、わずかに息を整えつつ、先ほどの攻防を頭の中で冷静(チルアウト)に反芻していた。


(ちっ!! 俺の背中が先に畳についたのかよ……!! 内股はダメだとして、次は背負い投げか一本背負い……いや、最大火力フルパワーのアレしかねぇな)


 その場で次の攻め方を瞬時に組み立てる青桐。

 だが、その冷静(チルアウト)さを一瞬だけ乱す思考が頭を過ぎる。


(……コイツでランク14? 上にはまだまだいるってのかよ……!!)


 無意識に歯を噛みしめる青桐。

 その内心には、沸々とした(おこ)焦燥(あせあせ)が混ざり合う。


(急に御出座(しゃしゃ)ってきて、でけぇ(ツラ)しやがって……どいつもこいつも……!!)


 夏川鈴音(なつかわすずね)との約束(ちぎり)を守るため――

 その執念が、青桐の体を熱く駆り立てる。


(邪魔くせぇんだよ……クソがっ!!)


 青桐が道着(まとい)を整え終えるのを確認すると、審判の声が再び試合開始を告げる!!

 稲妻めいた鋭い動きで組手に挑む西村。

 そのスピードは目で追うことすら難しい―――

 先に技ありを取ったことで勢いに乗る西村は、あと一つ技ありを取れば一本勝ちになる状況。

 その事実が彼をさらに前がかりにさせていた。

 勝利への執念が黒衣の武人を突き動かし、このまま青桐を封じ込めようと試合を一方的に展開する!!


(先手必勝は有言実行ッ!! だが……油断(なめぷ)禁物ッ!! さっきの返し技で決めきれなかった以上、攻撃の手は緩めんッ!!)


「オッスッ!! このまま押しき……」


「……さっきから心驕(イキ)ってんじゃねぇぞっ!!」


 突進してきた西村の右腕を青桐は瞬時に右手で外側へと流し、左手でその袖を掴む。

 勢いを利用し、出会い頭に背を見せ、青桐の一本背負いが炸裂していく!!

 なんたる早業、吃驚仰天(おったまげ)!!

 平凡(ボンクラ)な選手なら、今頃体が宙を舞っているであろう―――

 しかし西村は、全身の筋力でその勢いをねじ伏せたのだった!!


「ぬぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッ!! (ちぃ”ぃ”)(ぃ”ぃ”す)ッ!!」


「……っ!!」


(野郎……!! 踏ん張って力で強引に止めやがった……!! だけど……足元がおざなりだぜ……!!)


「大内刈……」


「オラぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッ!!」


 青桐の反撃を察知した西村は、力任せに相手を振り回し、ハンマー投げめいた回転で青桐の技の起点を潰していく。

 (くものつづみ)をまとったかのような勢いで、黒衣の柔道家が場を支配していた。

 試合時間は残り半分を過ぎ、両者の体に確かな疲労が刻まれている―――

 肩で荒く息をつく青桐。

 一瞬の小休止を狙い、互いに組み合ったまま睨み合いの膠着状態へ移行する……かに見えた。

 

「オ"ッス"ッ!!」


「あ"ぁ"!?」


 一瞬の静止から急転、再びエンジン全開となった西村。

 まるで亀が突如疾走を始めたかのように、青桐を強引に引きずる!!

 対照的に、スタミナ切れの兆候を見せる青桐。

 疲労に沈む彼の目に映るのは、余裕(よゆう)綽々(よっちゃん)な西村の姿だった!!


怪力馬鹿(てっぱん)体力馬鹿(あんぽんたん)かよっ!? 欲張り過ぎんだろ馬鹿(はなたらし)がっ!!)


「オォ"ォ"ォ"スッ!!  最後()まで……己の武器、ブチかますのみッ!! No.71ッ!!」


 西村の体が、まるで雷そのものになったかのように紫電を纏い始める!!

 その異様な気迫に気を取られている青桐。

 その隙を突くかのように、背後からトラック事故めいた激しい衝撃が襲った!!

 西村の放つ電磁力が、青桐の背中を無理やり押し、体勢を崩させる!!


「……っ!?」


 不利な姿勢のまま懐に潜り込まれる青桐。

 紫電を撒き散らす閃光めいた一本背負いが繰り出される!!

 No.71―――


紫電(しでん)投げぇ"ぇ"ぇ"ッ!!」


 観客(パンピー)達は息を呑み、その場に立ち尽くした。

 青龍と称される高校柔道トップ選手の青桐が、またしても敗北を喫するのか――

 異次元(レべチ)な力を持つRivolu(リヴォル)zione(ツィオーネ)には、やはり誰も敵わないのか。

 そんな諦めの空気が広がる中、誰もが目を伏せ、この試合の終了を悟った。

 ()()()()()()()()()―――


「……ッ!?」


(右膝から畳に投げつけられただとッ!? 怪我が怖くないのかッ!?)


 青桐は風前の灯めいた状況に追い詰められていた。

 だが、諦めるという選択肢は彼の中にはなかったのだった!!

 相手に担ぎ上げられたその瞬間、青桐は腰を強引に捻り、背中からではなく右膝から畳へと飛び込む。

 その結果、西村の投げは相手を制して畳につけるという条件を満たせず、不発に終わった。

 しかし―――代償は大きかった。

 受け身で緩和されるはずの衝撃を右膝が全て受け止め、青桐は立ち上がる際に思わず(ツラ)を歪める。

 大怪我には至らなかったものの、膝には激痛が走る。

 それでも、彼は即座に立ち上がった。

 その瞳にはまだ戦う意思が宿り、満身創痍の体で最後の一撃を狙う……!!


「ざっけんなよ。こんなところで……足踏みしてるヒマなんかねぇんだよっ!!」


 ――滴り落ちた汗が畳を濡らしたその瞬間。

 周囲の世界が静かに変化していく。

 月明かりが肌を照らす月夜(じおでら)の中、(かざしぐさ)が舞い散り、西村の目の前にはウユニ湖めいた幻想的な光景が広がる。

 

「……ッ!!」


(これは……不味(やば)いッ!! 早く回避を……ッ!?)


「遅ぇよ……鈍感野郎(のろま)がぁ"っ!!」


 これから繰り出される技をいち早く察知した西村。

 だが、彼は隙の大きい技を使った直後であり、次の動作に移る余裕はなかった。

 一瞬のもたつき――

 その刹那、彼の足元に荒れ狂う水流が迫る!!

 水中に引きずり込まれるようにバランスを崩した西村の体が、大きな津波の中で翻弄される。

 その波を切り裂くように迫る青桐。

 敵の懐に背を向け、背負い投げをベースにした水属性最強の技を仕掛ける。

 柔皇・西郷三四郎(さいごうさんしろう)の技で最も優美(はく)いとされているその技は、荒波を束ね(かざしぐさ)を着飾り、月明かりが絢爛に勝利を彩る―――

 No.91―――


桜花水月(おうかすいげつ)!! や"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


 宙を舞う西村、担ぎ投げる青桐。

 その瞬間、彼らの周囲に水飛沫が天高く舞い上がり、試合場全体が光に包まれる。

 畳に叩きつけられた衝撃音が響くと、会場は一瞬、静寂(あおいろ)に支配された。

 その幻想的な光景に息を呑む観客(パンピー)達。

 時間が止まったかのような空気の中、審判が意を決して声を張り上げる!!!!!!


「一本ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ん!! 終了(それまで)っ!!」


 青桐の体が静かに立ち上がる。

 汗と水飛沫に濡れた髪を振り払い、湧き上がる歓声の中、彼は拳を強く握り締め、雄たけびを上げる!!

 その瞳には、次なる戦いへの決意が燃えていたのだった!!

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