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YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
青桐龍夜編
5/129

GAME・ガチンコ・友喰い

肩を並べて戦えるとは限らない―――

時には相対さなければならないとしても―――

君は柔道が楽しいか?

 試合を終えた不死原(ふじわら)が場内から青桐たちの元へ歩み寄る。

 その顔には嘲笑が浮かび、青桐(あおぎり)をさらに煽るかのようだった。

 青桐は拳を握りしめ、額には(おこ)で浮き出た血管が脈打つ。

 瞬く間に右手を伸ばし、不死原の道着の襟を乱暴に掴んでいった。


「ぐっ!! お、おいおい……ずいぶんと威張(つっぱ)ってんなぁ!?」


「何が威張(つっぱ)るだよ……テメェ、なんでわざと負けてたんだ!? あ"ぁ"!?」


「はっ! 知りたいのか? だったら特別に教えてやるよ!! お前の足を引っ張れば金がもらえるって話さ。金髪アフロの大男からの依頼だ!! 割のいいバイトみてぇなもんだよ!!」


「……言いてぇ事はそれだけか?」


然り(うぃ~す)!! ご清聴どうも感謝(あざっす)~!!」


「クソくだらねぇなぁ……!! 銭ゲバ小判鮫野郎がっ!!」


 その姿、まさに憤怒(げきおこ)であった。

 青桐は乱暴に不死原の襟を放すと、溢れ出る激怒(げきおこ)な感情を押し込めたまま、試合会場へと歩みを進めた。

 その背中を見送りながら、不死原は満足げに笑みを浮かべ、これからの試合を興味深げに見つめていた。


(しゃぁ!! これで青桐の野郎は掻乱(ゆす)った……後は自滅(ポカ)るのを待つのみだぜ……!!)


「へっへっへ……」


「オメェ何か色々勘違いしてんなぁ……」


 不気味に嘲謔(げら)る不死原の隣で、呆れ返ったようにため息を吐く木場(きば)

 疑義の念を抱くよそ者に、木場は面倒くさそうに口を開けていく。


「青桐は怒りで自滅(ポカ)るようなヤツじゃねぇぞ、残念だったな」


「あぁ!? でもよ、心技体が大事だって言うだろ! 心が乱れりゃ、技も体も……」


「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


「っ!?」


 木場から視線を外し、場内にいる青桐を見た不死原。

 その目には、一本背負いで相手を豪快に畳へと投げ飛ばす青桐の姿が映る。

 試合開始からわずか3秒。

 相手を圧倒し倒すその姿、まさに鬼神めいていた。

 激昂(ごろば)る気持ちを内に秘めたまま、荒々しく道着(まとい)を直す青桐からは、殺気が溢れ出ていたのだった。


「ひぃ……あ、あぁ……」


「青桐はあんなんじゃ自滅(ポカ)らねぇよ。仮にあるとしたら……」


夏川(なつかわ)絡みだろうなぁ……)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 不死原の妨害にも動じることなく、青桐は次々と相手を投げ飛ばしていく。

 妨害工作が何であれ、青桐と彼の先輩である木場は、それを力づくで粉砕してきた。

 1人が敗れた状態から始まる異例の団体戦。

 しかし、その不利な状況下でも、青桐達は試合を着実に勝ち進んでいく。

 そして、ついに迎えた準決勝。

 対戦相手は、同じ高校の仲間(つれ)である、花染(はなぞめ)石山(いしやま)伊集院(いじゅういん)の3人であった。


(く、くっそ……負けたら終わりのはずなのに、こいつら全然怖気(ビビ)らねぇ……!! だけど次はこいつらの仲間(つれ)だ。派手(でーはー)掻乱(ゆす)ってやんよ!!)


 不死原は、再び試合でわざと敗北を演じた。

 それはまるで、数年前にアカデミー主演男優賞を受賞した名優、アントニー・ベイラーめいた演技である。

 先鋒の花染の技を受け、大げさに畳に背を打ちつけて一本負けとなった彼。

 第一試合を黒星で終え、形式的な礼を済ませた後、不死原は青桐たちの元へと戻って行く。

 青桐が突き刺す視線を送る中、不死原はわざわざ彼の目の前に立ちはだかり、あざけるように口角を上げて挑発を始めた。


「へへへ……!! おい青桐、次の相手、石山(いしやま)なんだろ!? アイツ、高校生ランク100位丁度(ドタ)らしいじゃねぇか!! ここで負けたら、全額免除の資格は白紙(おしゃか)だなぁ!? そんな相手に本気(マジ)柔道()れんのかぁ!? あ"ぁ"!?」


「……」


「へっへっへ……流石に仲間(つれ)相手には……」


「石山ぁ!! ……()()()()()、全力で柔道()ろうぜ」


「っ!? お、おい!? 待てよ!!」


 不死原を無視(シカト)して、青桐は場内へ向かう。

 彼の瞳には、一切の情けがない鋭い光が宿っていた。

 石山もそれを察し、ゆっくりと息を吐き、目を引き締めて構える。


「おいおいおい……!!」


(お前ら仲間(つれ)じゃねぇのかよ、何でこんなに本気(ガチ)でやれんだよっ!? 相手はランク100位の崖っぷちだぞ。お前、自分の仲間(つれ)を蹴落とすつもりかよ!?)


「うわ……」


 驚きに目を見開き、両手で口を覆う不死原。

 青桐は迷うことなく、100㎏を超える巨体の石山を一本背負いで投げ飛ばす!!

 その潔い一投が試合場を静まり返らせた。


「お前……本気(マジ)かよ」


「あぁ?」


「お前、自分の手で石山を蹴落としたんだぞ……全額免除の資格を奪取(ぎる)っちまったんだ。今回はわざと負けてやるとか考えねぇのかよ!?」


「勝負でわざと負ける? お前と同じことするわけねぇだろタコが……!! 強豪校の人間無礼(なめ)てねぇか? 喰い合い上等で柔道()ってんだよこっちはっ!!」


「……!?」


「そういうこったっ!! 喧嘩(ごろ)吹っかける相手を間違(しく)ったな~不死原ぁ!! あと青桐、お前さっきから口が悪いから気を付けろよ?」


「ぐぅ……!? 謝罪(さっせん)……」


「俺にじゃねぇよ、不死原にだよ」


「………………………ちっ……謝罪(さっせん)


「……ぐくぅ……!!」


 不死原は歯軋りしながら、俯いたまま立ち尽くしていた。

 ちょっかいをかけにきたはずの連中の覚悟が、想像を遥かに超えていると、初めて実感していた。

 ふと顔を上げると、続く3試合目、木場と伊集院(いじゅういん)が互いに真剣な眼差しで試合に臨んでいる。

 彼らのひたむきな姿を目にしながら、自分が生きている世界(シャバ)が、どれほど違うのかを感じずにはいられなかった。

 何度も敗北し、やがて腐ってしまった。

 そんな自分とは違い、今もなお挑み続ける彼らの姿を、ぼんやりと見つめていたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やぁ"ぁ"ぁ"!!」


「ぐぅ……」


「ふ~……(おつかれ)さん、伊集院。また実力(ウデ)上げたなぁオイっ!!」


「……どうも、感謝(あざっす)


 木場は右手で倒れた伊集院を引き上げながら、労いの言葉を交わす。

 こうして、青桐達のチームは決勝に駒を進めることになった。

 それぞれ、汗を拭きながら体が冷えないように準備を整え、次の試合への集中を高めていく。

 蒼海の仲間(つれ)達も続々と集まり、チームを取り巻く雰囲気は、静かに熱を帯び始めていた。


「今日は風が吹かなかったか……木場、頑張(きば)れよ」


「おう花染、任せとけって」


「みんな、(おつかれ)さん。石山、今回は残念だったが……また来月がある。気を落とすなよ?」


「監督……う、了解(ういっす)!!」


「青桐、木場っ!! これから決勝だ、気を緩めるなよ」


「「了解(うっす)っ!!」」


 一足遅れて集団に駆け寄って来た監督の井上(いのうえ)

 勝ち進んだ青桐達には激励の言葉を、奮闘した石山やその他のメンバーには労いの言葉をかける。

 選手達自身の判断力を養うため、今回の試合ではあえて試合中のコーチングを控えていた彼だが、決勝の相手を前にして、方針を変えざるを得ないと感じていた。

 勝利の重圧と相手の強さを踏まえ、彼は静かに決意を固める相手。

 それは会場中の誰もが予想していない選手達であった。


「……あれ? 監督、カナちゃんはどこに行ったんすか?」


「ああ、五十嵐(いがらし)は次の対戦相手の情報(データ)を纏めて貰っている。そろそろ帰って……」


「ややや危険(やば)いですよ皆さんっ!! あの、アレっ!! うぅっゲホゲホゲホっ!?」


 決勝の相手の情報を探るため、偵察に向かっていたマネージャーの五十嵐(いがらし)カナ。

 青桐の同級生で、陽気な明るい髪色と少し早口な話し方も相まって、いつも騒がしい印象を与える彼女だが、データ分析を駆使してチームを支える頼もしい存在である。

 だが、このときばかりは普段の彼女とは様子が違った。

 何か異常(バグ)ったものでも見たかのように混乱(ウニ)る彼女に、青桐は思わず理由を尋ねる。


「カナちゃん、……何があったん……」


「ややや、ヤツらが出ましたっ!!」


「え? ……誰が?」


「アレですよ、アレっ!! ()()()()()の……Rivolu(リヴォル)zione(ツィオーネ)ですよっ!!」

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