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YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
青桐龍夜編
32/139

忘却の記憶

積み上げた記憶は水の泡と化し―――

振り出しに戻ったとしても―――

君は柔道が楽しいか?

 豪華客船上での戦いを終えた青桐(あおぎり)達は、審判寺(しんぱんじ)一族が財前(ざいぜん)を捕らえ警察へと連行したのを見送った後、城南の高校に招かれていた。

 労いの意味を込めて、ジョンソンヘッドコーチが提案したBBQに参加する蒼海高校柔道部の面々。

 決戦後の賑やかな慰労会を少し離れた場所から眺める監督達。

 焼酎を嗜みながら、互いの健闘を讃えていた。


「お互い、今回は大変じゃったな」


「そうですね……修多羅(すたら)監督、今回はどうも感謝(あざっす)


「なになに、礼を言うのはこっちの方じゃよ井上(いのうえ)監督。おかげで理事長(えらぶつ)(ブタばこ)に叩き込めたんじゃからな。じゃろ? ジョンソンヘッドコーチ」


「え? えぇそうですね」


「……? どうした? さっきから請求書を眺めて」


「いやぁ~……審判寺(しんぱんじ)一族を呼んだ代金を振り込んでいたのですがね……えらい金額割引されてるんですよ。何でしょうかねこれ」


「ふぅむ……彼らを呼んだのはワシも初だからのぉ……良く理解(わか)らんな。まあ良いんじゃないか? 金が少ない分にはな。食費が(パな)いことになりそうじゃし」


大原(キャプテン)っ!! シャトーブリアン買って来たよっ!!」


大原(キャプテン)~!! なんか高そうな肉、適当に買って来たよぉ!!」


「……もう少し遠慮(いも)って欲しいねぇ」


幹事(おおくらしょう)は大変じゃのぉ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うへぇ~……油が多くて胃もたれしそうです……ん?」


「Hey~!! 蒼海のマネージャーだネ? Meも同じ同じ!!」


「あ、どうも……!?」


(城南のマネージャーって外国人!? ……うぉ、胸でっけぇ!! わた、私はっ!? ……壁ですねぇ!!)


 五十嵐(いがらし)マネージャーが城南の外人マネージャーに絡まれている中、先ほどの戦いの反省会を行う面々が、会場の一角に屯していた。

 十分に焼かれた肉を頬張りながら、顔を突き合わせ、自分の戦いを振り返っていた。

 

「俺、攻撃(かま)す意識ばもっと持たないかん……」


「俺はそうだな……ちょっと試行(シミュ)りたいことが出来た。9割9分9厘どうなるかは理解(わか)らんがな……試行(トライ&)錯誤(エラー)してみることにしよう」


龍夜(りゅうや)左利き(サウスポー)の技さ……一応実践で使い物にはなってたけどよ、攻撃手順(パターン)が同じじゃねぇか? 最後(ラス)の一本背負いなんて、相手に読まれてたぞ。もっと工夫しろよ」


「まだ足さばきが慣れてねぇから、工夫する余裕ねぇよ……つーか隼人(はやと)はもっと体力つけろよ。これから練習後は自主練で42.195㎞(フルマラソン)な」


「おま、無茶言うなよ……土日は古賀(こが)さんの所で猛練習(しご)かれてんだぜ? 過労(グロッキー)タヒる(しぬ)わ」


ー----------------------------------


 2021年4月19日月曜日。

 新学期に入り、学年が1個ずつ上がった青桐達。

 新入部員達が入部して1週間ほどの時間が経過しており、博多の地下修練場は活気に満ち溢れていた。


「ぐ……あぁぁぁあ!? 限界、限界、限界ぃぃぃぃ!!」


頑張(きば)れ、ここからだぞっ!!」


「んなこと言ったって……ギャァァァァ!!」


「あ、落ちた……アイツ、このロープ、何m登ったんだ?」


「えぇと……13mくらい……?」


「おぉ……結構頑張(きば)ったんじゃないか?」


「どうだろ……青桐先輩、1000m登ってるし……」


「せ、せんっ!? これ全部登ったのっ!? 化け物かよ、あの人……」


「ぐがぁぁぁぁっ!! ……もう無理」


「お、おい、大丈夫かっ!?」


「この鉄球を受け止めろって……何百㎏あるんだよ……何で石山(いしやま)先輩は、あんなに易々と止めれんだよ……」


伊集院(いじゅういん)先輩は数十台の組手マシーンを一斉に相手してるし、花染(はなぞめ)先輩は弾丸の雨を躱してるし……木場(きば)先輩は重石付けて(パね)ぇ~泳いでるし……」


「他の人達も後に続いてる……化け物しかいねぇぞここ……」


「ん、どうした一年生(いちねんぼう)?」


「あ、草凪(くさなぎ)先輩、お疲れ様ですっ!!」


「おう、(おつかれさま)。どうだ? 練習には慣れたか?」


「そうっすね……正直、ついていけるか不安っす……」


「あ~理解(わか)るはその気持ち……まっ、そのうち慣れるから気にすんなってっ!! 俺も(ウブん)ときは地獄見たけどよ。慣れてきたら……おらぁ"ぁ"ぁ"っ!!」


 人外じみた練習を軽々こなしていく蒼海の先輩達に委縮していた1年生達。

 偶然通りかかった草凪は、新入部員達へフランクに話しかけながら、彼らの頭上に落下してきた巨大な氷の塊を、人がいない場所へと投げ飛ばしていく。


「……ひっ!?」


「……こんな感じで動けっからよっ!!」


「お、了解(おっす)!! 頑張(きば)りますっ!! 練習の続き、やってきますっ!!」


「お~う!! 頑張(きば)れよ~」


「うへ、うへ、うへぇ!! 手が回りません……誰かぁぁぁぁ!! 応援要請(ヘルプミー)ぃぃぃ!!」


「……どうしたの、カナちゃん」


「おぉいいタイミング!? ちょっと買い出しに行きたいのですがね……絶対私じゃ持てない量なんですっ!! 誰かに来ていただきたいのですよっ!!」


「そうか……んじゃ俺も行こうか? ……龍夜(りゅうや)も連れていくか。お~い、龍夜っ!! ちょっと来てくれっ!!」


「……んだよ隼人(はやと)……怠惰(サボ)ってたのか?」


「違ぇよ!! ちょっと買い出しに付き合えよ。カナちゃんが救援(ヘルプ)を求めてるぜ?」


「ん、そうか。理解(わか)った……ちょっと待っててくれ」


「おう、早急(なるはや)にな~」


「お願いしますっ!!」


「おう……ん?」


「あ、青桐先輩だ……伊達男(やべぇ)……迫力ある……」


「……俺に何か用か?」


「ひぃっ!? いや、あ、え、その」


「…………」


「さ、謝罪(さっせん)でしたっ!! あ、練習い、行って来ますっ!!」


「あ、ちょっと……アレ? 何で……」


ー----------------------------------


 練習後の時間、近くのホームセンターで備品を買い集めている青桐達3人。

 テーピングやプロテインなどの消耗品を主に購入しており、その量はとてもじゃないが1人で持てる量ではなかった。

 段ボールを幾つも抱えながら支払いを終えた青桐達は、近くの公園で椅子に座り、缶ジュースを飲みながら休憩していた。


謝罪(さっせん)、2人共!! 想像以上に部員が増えちゃって、明日と明後日の備品がなくなってしまったんですよね……完全に見誤(ミス)りましたっ!!」


「ほー……そんな人増えたんだ」


「はいっ!! マネージャーも増えたので、教えることが多くて、手が回ってないですっ!!」


「大変そうだね……あ、そうだ龍夜」


「……ん、何だよ」


「お前さ、練習中に1年生に恐怖(ビビ)られてたぞ? 愛想が悪いんだよ……笑顔、分かる? えぇがぁおぉ~」


「……現実(マジ)か」


現実(マジ)だよ。そう思うだろ? カナちゃん」


「うへぇっ!? あー……なんですかね、人殺しそうな目をしてます」


「……」


天狗(いき)ってしまい謝罪(さっせん)したぁっ!! え、指詰め(エンコ)で勘弁してくださいぃぃぃぃ!!」


「龍夜、これが周りの印象だ。理解(わか)るか?」


理解(わか)らない……」


「えぇ……ん? お前まさかまだ引きずってたりする?」


「…………」


(ウソ)だろお前……」


「いやさ……事故の原因を作った財前(ざいぜん)が捕まったのは良いんだけどよ……なんだろな。今までと何も変わってないっていうか」


「……あの野郎が買収した土地で工事して、事故を装った計画的な犯行だったっけ?」


「警察の話ではな。 ……事件の全貌は分ったけどさ……それで鈴音(すずね)が目を覚ます訳じゃねぇし。やられ損じゃねぇかよ」


「……そうだな」


「う、……おぉ」


(パな)く……(パな)く重い空気が流れてますよ……こんな時、夏川(なつかわ)さんがいたらどうにかしてくれそうなのに……)


 息も詰まる空気が場を満たす中、マネージャーの五十嵐は、高校に入学して初めて夏川と会った時のことを思い出していた。

 昨年4月のあの日の事を―――


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『……ここが柔道部……なんか、厳格(イカつい)ですね……これ、入っていいのですかね? ダメ? うぅ……どうしましょうか』


『……ねぇ』


『……はい? ……っ!?』


(うわっ!? (パな)く美人で……おっぱい、でっかいっ!? 耳にピアスっ!? ……不良(わる)っ!? 違う違う冷静に私……えぇっと、赤髪の人と……後ろの青い髪の人、憤怒(げきおこ)っ!? ここでもたもたしてたからっ!? あ、()られる、今日が命日ありがとうお父さんお母さ……)


『ねぇ、もしかして、柔道部に入部するの?』


『ひぇっ!? はいっ!! そうでありますっ!!』


『マネージャー志望?』


『はいっ!! 僭越ながら、その通りでありますっ!!』


『やった~!! 実はワタシもなのっ!! ワタシ、夏川鈴音(なつかわすずね)っ!! よろしくねっ!!』


『私、五十嵐(いがらし)カナでありますっ!! よろしくお願い致しますっ!!』


『そ、そんなに硬くならなくても……』


『ひ、ひぃ!!』


『……? ……っ!! 龍夜っ!! アンタ愛想よくしなさいっ!! 五十嵐さんが恐怖(ビビ)ってんでしょっ!?』


『……え? 現実(マジ)で……?』


『この……ゴメンね五十嵐さんっ!! コイツ、私の彼氏の青桐って言うんだけど……年がら年中こんな顔してるからっ!! ね? 安心してっ!!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『でさぁ~……龍夜のやつ、周囲に迷惑かけ過ぎなのよぉ……世話する方の身にもなって欲しいのよぉ!!』


『うわぁ~……大変そう……』


『でしょ!? それに……アイツ、恋人関係になったのに、そういうこと一切して来ないのよ!! 『そういうのは高校卒業してから』ってさっ!? 何でそんなとこだけ糞真面目なのよっ!! ちょっとぐらい手ぇ出しなさいよっ!!』


『……ん? んんん!? 夏川さんっ!! ちょっと!!」


『どしたの、カナちゃん?』


『青桐さんが……面倒事起こしそうですっ!!』


『…………はぁ!? あの馬鹿……!! カナちゃん、教えてくれて感謝(あざっす)っ!! ちょっと行って来るわ!! これからも青桐の馬鹿がやらかしそうになったら、教えてね!! よろしくっ!!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 初めて出会ったにも関わらず、壁を作ることなく接してくれた、太陽のように明るい女性。

 その後も交流を重ね、親睦を深めていた2人。

 今は病院のベッドで眠っている彼女を思い、五十嵐の胸中は穏やかなものではなかった。


「……ん? 電話……花染(はなぞめ)先輩から? もしもし……えっ!! ……夏川さんが目を覚ました!?」


「はっ!? カナちゃん、今なんつったっ!?」


「あたたたたっ!! 青桐さん、肩、もげる、あ、死ぬぅぅぅ!!」


「龍夜落ち着け馬鹿っ!! カナちゃん、それ現実(マジ)っ!?」


「はいっ!! 学校に連絡があったって花染先輩がっ!! あっ!! 青桐さんっ!?」


 五十嵐マネージャーの電話の内容を小耳にはさんだ青桐。

 耳を疑う内容に、真偽を見極めることなく、その場から全速力で走り出した彼。

 後を追うように草薙と五十嵐も集合の場所へと駆け出していく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夏川が入院している病院の入口にいち早く到着した青桐。

 既に駆けつけていた蒼海のレギュラー陣である、木場(きば)伊集院(いじゅういん)石山(いしやま)が、青桐達の到着を待ちわびていた。

 

「青桐っ!! こっちだこっち!!」


「はっ!! はっ!! 木場先輩、(おつかれさま)です、あの、す、鈴音(すずね)はっ!?」


「今花染が受付に行ってる。おま、一旦落ち着けよ? 病院内は静かにだぞ?」


了解(うっす)。ふー……はは」


「9割9分9厘、このままだと夏川に説教(どや)されるぞ」


「青桐君、やっとばいね!!」


「伊集院も石山も感謝(あざっす)な、駆けつけてくれてよ」


「龍夜ぁ~……お前、俺達のこと置いて行くなよぉ……ゲホゲホっ!! 急に走り出すからよぉ!! カナちゃん見て見ろ、ホレ!!」


「お"え"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!! げぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!! ゲホゲホゲホ"ォ"ォ"ォ"ォ"!!」


「あぁ……わりぃ」


「風雲児が全員集合したか」


 全員集合した青桐達の前に、受付を済ませて来た花染が、病院の入口から顔を出す。

 彼の表情はどこか浮かない顔をしており、頭を掻きながら言葉を慎重に選んでいる。


「……お前らよく聞け。今日は帰らないか? もう時間も遅いしな」


「あぁ? 花染ぇ、急に何言ってんだよ」


「いや……」


「あの、花染先輩、俺もう行くっすね」


「あっ!! おい!! ちっ……疾風かアイツは? お前ら、直ぐに後を追うぞ」


「おい花染、何かあったのかよ? 何そんなに焦ってんだよ」


「そうだな……理由(わけ)は走りながら話そう。その前にお前ら、()()()()()()()()()、直ぐに取り押さえるんだぞ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 花染達を置いて、夏川がいる病室へと向かった青桐。

 定期的に訪れているその場所に早足で進み、病室の扉を勢いよく開け、中へと歩を進める彼。

 今まではベッドに横たわっていた彼女が、ぼんやりとした表情で、体を起こし窓の外の景色を眺めている。

 呼吸が早くなる青桐。

 待ちに待った日が突然訪れたことで、心の準備がまだ出来ていない彼。

 なんて声を掛けようか迷っていると、遅れて花染達も病室内へと到着した。

 大人数が室内に入ってきたことで、流石の夏川も彼らの存在に気が付いたのだろう。

 とろんとした目を青桐達へと向け、彼女はこう呟いた。

 青桐の言葉を遮る形で―――


「鈴音っ!! お前……!! 起きるのが(とれ)ぇんだ……」


「皆さん、誰……ですか?」

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