BIRTH・オメタン・柔県
圧倒的な力による蹂躙―――
高き壁にぶつかったとしても―――
君は柔道が楽しいか?
静まり返る日本武道館。
おとぎ話のような光景に目を疑う観客達。
黒衣の集団、そのリーダー格である銀髪の男は、武道館全体に響き渡る口上を上げていく。
「聞けっ!! 我らはRivoluzione、この世界に反旗を翻す集団っ!! 柔道を取り巻く歪んだ世界を正すため、今日は宣戦布告にきた!!」
「……宣戦布告とな? 神聖な武道館を爆撃しおって……どの口が言っとるのかのぉ……!!」
「審判寺一族の人間か……かつて八百長問題を引き起こした一族の分際で、偉そうな口を利くじゃないか。手始めにだ……上を見ろっ!!」
銀髪の男は右手を高く天へと突き上げた。
爆撃で穿たれた天井の大穴から、青空が無言のまま広がっている。
武道館の崩れた天井から侵入した無数のドローンが、液晶テレビめいた形に編隊を組み、鮮明な映像が空中に映し出され始めた。
どうやらそれは臨時ニュースのようであり、柔道に関わる行政機関、柔道省の明星博文柔道大臣が、今まさに口を開こうとしているのであった。
『えー……今日未明に正式に決まった事なのですが、三重県から南に300㎞程離れた地点。ここに誕生した人口の島を柔県と命名し、第48番目の県として今後は調整していこうと考えております』
口が開いたままその映像に釘付けになる観客達。
真偽を確かめるべく、スマホを手に取りネットニュースを確認すると、映像で流れた内容の記事が次々と表示されていた。
CGか何かだと思われていた映像は、本物のマスメディアが流している映像だと悟る観客達。
風の音すら聞こえない程の静寂な空間は、次第に工事現場をも凌ぐ大きなざわめきの声で満たされていくのであった。
「やっと理解ったか……聞け観客よっ!! 我らは来年のインターハイ、全ての選手の頂点に立つ……その時が革命の始まりだ。旧弊の全てを壊し、新たな時代の幕開けとさせてもらう!!」
「……長々と喋ってるから黙って聞いておけばぁー……頂点に立つだと……? そりゃ~俺に勝つって意味で言ってんのかぁ~~? あ"ぁ"!?」
長々とした演説に痺れを切らした黒髪化石頭の人物。
青桐と同じように将来を期待されている4人の若者の内の1人、『黒龍』黒城龍寺が、稲妻を轟かせながら黒衣の集団の前に堂々とその姿を現した。
いや、それだけではない。
同じように歩を進める3人の若者。
『白龍』白桜龍聖。
『赤龍』赤神龍馬。
『青龍』青桐龍夜。
鉄砲玉のように飛んで行った黒城に続いて、龍の二つ名を有する3人が、謎の集団の前に立ち塞がる。
「貧弱い奴ほどよく遠吠を上げるな……四龍か。随分と放縦ているようだな? 俺達以下の分際で」
「んだとっ!?」
「黒城、一旦俺に喋らせろ」
「あ"ぁ"!? ……ちっ、理解ったよ赤神」
「アレコレ言うのは勝手だが、大会の邪魔をした責任を取って貰おうか。柔道でな……!!」
「……」
「随分と実力に自信があるようだが……高校柔道の頂点に君臨する俺を無礼るなよ……!!」
「……失笑るな。 烏川!! 天蠍!! 刃狼!! 準備しろ、柔道るぞ!!」
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高校最強の男、赤神の提案により、急遽始まることになった模擬試合。
その試合の審判を務めることになった審判寺一郎は、大会責任者と人目を避けて打ち合わせをしている。
「審判寺さんっ!! 本気でやるんですか!?」
「そうじゃ……正直、このまま中断ることも可能じゃが……あの集団の実力を拝見したいからのぉ……!! それで、警察には連絡が繋がらんのか?」
「ええ……さっきから連絡しているんですが……そもそも電波が繋がらないようです」
「妨害か? ……全く、今日はとんだ厄日よの」
大方の打ち合わせが終わると、審判寺は白いテープを目の前に挟み、両者を静かに試合会場へと招き入れる。
1試合目は青桐と烏川と名乗る男。
両者は殺気を帯びた視線を交わしながら、無言で睨み合っていた。
法律が無ければ、この場で死人が出ていてもおかしくないだろう。
大宝律令を作ったとされている文武天皇もそう言っているのだから間違いない。
「両者前へっ!! ……神前に礼っ!!」
「懇願!!」
「お互いに礼っ!!」
「懇願!!」
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蒼海大学付属高等学院柔道部
高校生ランク3位 青龍 「青桐龍夜」
VS
?????????????
高校生ランク?位 ??? 「烏川炎樹」
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「……開始っ!!」
試合開始を告げる老審判。
審判暦数十年の大ベテランである彼は、目前で繰り広げられる試合運びに、久方ぶりに目を見開き驚愕してしまう。
先ほどまで競い合っていた学生達の技が、ナマクラめいて見えてしまうほどの研ぎ澄まされた投げ技。
軸が一切ぶれることのない回転から、澱みなく繰り出される背負い投げにより、青桐の体は宙を舞った。
試合時間僅か―――2秒!!
「……っ!! 一本っ!!」
「な……あ"ぁ"!?」
「へっへっへ~……楽勝~圧勝だぜっ!!」
「うぇ!? 青桐先輩がっ!? つ、次は僕だよっ!!」
「あら可愛い。じゃあ次はアタシね、よろしく~♡」
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聖教中学校柔道部
中学生ランク1位 白龍 「白桜龍聖」
VS
????????
高校生ランク?位 ??? 「天蠍氷聖」
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「開始!!」
2試合目、白桜と天蠍と名乗る男の対決。
初手は慎重に様子を見ることを決めた白桜。
試合開始の合図が鳴り響くも、その場から動かず相手の出方を伺う。
一方、天蠍は相手の作戦など意に介さず、鼻歌交じりに歩を前へと進めていく。
白桜は胸が締め付けられるように呼吸が苦しくなるのを感じ、返し技の機会を狙うが、気が付けば自身の体が宙を舞っていた。
畳に背が触れた瞬間、全てを理解する。
天蠍の動きは、まるで視時間が飛んだかのように反応の出来ない動きであり、白桜の左足は時が止まった最中に刈り取られていたのだ!!
反応すら許されぬ速さにより、白桜は天を仰ぎながら優しく倒される。
顔を覗き込む天蠍は、満面の笑みで軽やかに挨拶をする。
「乙~♡」
「えぇ!? う、夢でしょ……」
「どけぇ!! 次は俺だっ!! おう、そこの野蛮人。ここからが本番だぞおら!!」
「BA・HA・HA~!! 随分と心驕てるなぁ"!? え"ぇ"!?」
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落陽山高校柔道部
高校生ランク2位 黒龍 「黒城龍寺」
VS
????????
高校生ランク?位 ??? 「刃狼剣山」
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「……開始!!」
3試合目。
黒城と刃狼と名乗る大男の試合。
野獣の如き雄叫びを上げると同時に、黒城は短期決戦を仕掛ける!!
彼が使う技の中で、最強の火力を誇る一撃を、試合開始早々に繰り出そうとしていたのだった。
天から無数に降り注ぐ雷を全身に纏い、落雷めいた速さで突進しながら繰り出される大外刈り。
その雷は無差別に試合会場に降り注ぎ、触れた瞬間、敵は体の自由を奪われ、回避はほぼ不可能となる。
雷属性最強の技。
No.93―――
「覇光雷轟っ!! ……っ!?」
轟音が武道館全体に響き渡る。
離れた間合いから一気に距離を詰め、両手で相手の道着を握りしめると、渾身の大外刈りを繰り出した黒城。
彼の代名詞とも呼ばれるこの技は、今まで多くの強敵を薙ぎ払ってきた。
例え高校最強の赤神であっても、この技を防ぐことは容易でない。
ましてや耐える事など不可能に近いのである。
だがしかし!!
彼は右腕一本で、全ての衝撃を受け止めたのだった!!
「あぁ"~? おいおいおい!? こんなもんなのかぁ"?」
(おいおいおい!? 並みの大人だったら、軽々ぶとばせんだぞっ!? ……コイツ、山みてぇにビクともしねぇ……!? つ~かなんか、掴まれた時に俺の態勢がぐらいついた気が……っ!!)
「B"A"A"A"A"A"A"A"A"A"A"A"っ!!」
大外刈りを真正面から受け止めた刃狼。
右足に掛けられている足を力ずくで後方へと刈り取り、普通の大外刈りで黒城を畳へと押し倒していく!!
同時に、畳に叩きつけられた衝撃が、武道館全体を揺るがす衝撃波となって襲いかかったのだった!!
「ぐぁ"ぁ"ぁ"!?」
「なんだなんだぁ"!? 歯ごたえが無さすぎるぞぉ~~~~え"ぇ"!? この程度の実力の連中が、高校トップの選手だとぉ"!? 嘲謔るなぁ"~嘲謔るなぁ"!?」
「黒城っ!? お前まで……!?」
「……後は貴様だけだな赤神」
「ぐっ……!!」
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皇焔学園柔道部
高校生ランク1位 赤龍 「赤神龍馬」
VS
???????
高校生ランク?位 ??? 「獅子皇星爾」
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「開始ぇ!!」
4試合目、赤神と銀髪の男との対決。
高校最強の男、赤神は、目の前の相手が自らの想像を遥かに超える強敵だと即座に認識を改めた。
組手で優位に立ち、自分のペースに持ち込むべく、試合開始と同時に一気に距離を詰める赤神。
灼熱の業火を全身に纏い、両腕を突き出して突進する!!
骨すら塵と化すはずの業火と対峙しても、銀髪の男は涼しげな顔でただ静かに待ち構えていた―――
「俺の名は獅子皇星爾……高校柔道頂点の男よ、よく覚えておくがいい……!! 一本負けぇ"!!」
迫りくる火の粉を右手で軽々と払いのけた獅子皇。
がら空きの横襟と左手の中裾を瞬時に掴み、業火を断ち切るような背負い投げで、赤神を畳に叩きつていく!!
4人連続の1本勝ち。
合計試合時間はわずか11秒……
高校トップクラスの実力を誇る男たちは、突如現れた黒衣の集団に完膚なきまでに打ちのめされた。
唖然とする観客達。
息を呑む選手達。
この日を境に、柔道界が大きく揺れ動くことになるとは、誰も予測することができなかった……
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