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YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
赤神龍馬編
152/152

BULLSHITTER・ヨタリスト・唯我独尊の集団

自我の強さに振り回されて―――

頭を悩ませることになったとしても―――

君は柔道が楽しいか?

 広い道場の中央。

 整然と並び、正座する部員達。

 その前に立つ赤神(あかがみ)は、鬼神めいた気配を纏い、微動だにせず仁王立ちしている。

 すぐ傍らには、部員達を冷ややかに見下ろす三船(みふね)の姿も。

 2人の存在が空気を支配し、道場には張り詰めた緊張が静かに満ちていった。


「……おい、お前ら」


「……」


「今日は勘解由小路(かでのこうじ)総理が来訪されるって言ってたよな?」


「……」


「全員知ってたよな? 昨日、俺と監督が直々に伝えたよな!? 全員理解(わか)ったって言ってたよなっ!? 俺、覚えてるぞ、昨日の光景は……!!」


「……」


「お前らさぁ………………もう高校生なんだからさぁ!? ……振る舞いぐらい考えろ、馬鹿どもがぁ"!!」


「よせ龍馬ぁ!! 殴りかかろうとすんじゃねぇ!! 今は催し中なんだよっ!!」


 頬を引きつらせ、震える右の拳を振り上げる赤神。

 その身体は吸い寄せられるように、正座する部員達へと踏み出していく。

 だが次の瞬間、背後から組み付いた三船の腕が、その進行を強引に断ち切った。

 日頃から同様の事態が続いているのだろう。

 理性の堰を越え、不満(むかちゃっか)大爆発(いんふぇるの)を剥き出しにする赤神の姿が、周囲の視線を集める中―――

 道場後方、入口付近。

 一連の騒ぎを静かに見守っていた監督の伊達(だて)と勘解由小路総理が、わずかな苦笑を交わしながら言葉を交わしていた。


「……お見苦しいところをお見せしてしまい、誠に謝罪(さっせん)……」


「あぁ~いえっ!! ……元気があっていいことですよ!! はっはっは」


「……この皇焔学園は、全国から実力(ウデ)に覚えのある人間が多く集うんすけど……いかんせん、我の強い連中が多くて。指導するのも一苦労と言いますか、手綱(しょち)なしって感じっすね」


「うん……うん、まぁ~アスリートですから、血の気が多いのは、何もおかしくないでしょう!! 普段はどのような指導を?」


「そうですねぇ。選手の素質や適性を踏まえて、個々に適した指導を行っていますね。AIなどの最新技術も積極的に取り入れて、全体を同時に見ていますよ」


「選手全員? ……100人近い数がいるように見えますが、可能なのですか?」


「えぇまぁ。長年やっていると、慣れで案外できるものなんすよ。監督室にモニターを設置していまして、気になるところは後で巻き戻し、映像を選手達に見せるって感じで。均一的な指示だと、どうしても持ち味を殺してしまうんすよねぇ。 ――ほら、あそこの3人。木村荒鬼(きむらあらき)山下篤詩(やましたあつし)嘉納英一(かのうえいいち)というのですが、それぞれプロレス、体操、スケートの技術を柔道に取り入れて、独自の戦闘スタイルを確立してるんすよ」


「ほう!! それは魅力的(ダラ)い!!」


「副主将の三船虎右魔(みふねこうま)は合気道……その他の選手も、他競技で活かせる技術は積極的に取り入れて、オンリーワンの戦闘スタイルを作り出していますね」


「なるほどなるほど……そして、正統派の戦い方で高校生ランク1位に立つ赤神龍馬(あかがみりょうま)頂点(てっぺん)に据えていると……ここまでタレントが揃えば、万全の布陣と言っても差し支えないのでは!?」


「まぁ、今のところはですねぇ……ただ、他校にも油断ならない選手が多くいまして。青桐龍夜(あおぎりりゅうや)黒城龍寺(こくじょうりゅうじ)白桜龍聖(はくらりゅうせい)……赤神と同じく龍の2つ名を持つ選手を擁する高校は、特に警戒してんますわ。柔皇の技――龍の力を宿す技を扱う可能性を秘めてますんで」


 煙草(しょっぽ)を口に咥え、年季の入ったライターで火を灯す伊達。

 収まる気配を見せない若者達の乱闘を、壮年の大人達はどこか虚ろな目で見守っていた。

 予定されていた催しは、すでに進行表から大きく遅れている。

 この不始末に対する始末書をどう書くべきか――

 そんな現実的な問題に頭を悩ませながら、伊達は吐き出した薄煙を、ゆっくりと肺へと落とし込んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


開始(はじめ)!!」


「しゃぁぁぁ!!」


「こぉぉぉぉい!!」


 審判の合図を皮切りに、催しの模擬試合が一斉に始まる。

 道場の至る所で、本番さながらの組み手がぶつかり合い、その熱気はあまりにも濃く、周囲で観戦していた中学生(ちゅうぼう)達は――ただ1人を除いて、圧倒されていった。

 業火めいた気迫の渦。

 それに呑まれることなく、ただ静かに試合を見据える1人の中学生。

 ジャッロミエーレ色の前髪を、渦を巻くように立ち上げた大柄な男――名前は岡田輝明(おかだてるあき)

 猛烈(はんぱな)さが増していく戦場を俯瞰しながら、彼はわずかに眉を曇らせ、不安を滲ませていくのだった。


「……これ、いつもより猛烈(はんぱな)くないか? ……先輩達、怪我とか大丈夫っすかね」


 岡田の不安は的中していた。

 その視線の先――副主将の三船と、プロレスの技術を柔道に取り入れた木村が、殺気を剥き出しにして激突している。

 三船の背後には、No.66魔羅組手(まーらくみて)によって呼び出された闇の化身が顕現しており、体格で勝る巨体の木村を、絡め取るように取り押さえようとしていた――!!


「おいおいおい!? いきなり(ゲロ)危険(やべ)ぇ技使ってんじゃねぇか!! この神奈川に生まれし巨星、木村荒鬼様の剛腕が~~~炸裂して……いっぐぅ!?」


「おい木村ぁ!! 試合中にべらべら饒舌(べしゃ)ってんじゃねぇよ!? 舌噛むだろがっ!? ん? うぉ!?」


「うげぇ!? ぶつかったしぃ~!?」


「……嘉納、てめぇ……うがぁ"ぁ"ぁ"!? おい、山下ぁ"!!」


「おっと? これは悩種(まいっちんぐ)だね……」


 闇の化身――魔羅の両椀が木村を抑え込んだ、その瞬間。

 周囲で組み合っていた嘉納と山下が、互いの確認を欠いたまま衝突してきた!!

 不意の接触により、三船の頭に血が一気に上る!!

 一歩間違えば大怪我に繋がっていた。

 その事実に、周囲で見守っていた赤神の怒号(どや)しが、道場に鋭く叩きつけられる!!

 

「おい嘉納、山下!! 周囲をちゃんと見ろ!! 九死(おしめんこ)だろがっ!!」


「お~い2人とも、ちょっとこっち来い!!」


 伊達の手招きに応じ、嘉納と山下が肩を落とし、とぼとぼと歩み寄っていく。

 その背後でも、接触寸前で身をかわす者が後を絶たず、場には一触即発の空気が張り詰めていた。

 それを肌で感じ取った岡田は、落ち着きなく視線を巡らせながら、周囲の動きを気にしていた。


「……これ、大丈夫じゃないな。あれ? ……あの観覧客(パンピー)は」


「まったく……これが今どきの未熟(あお)い選手なのか? 吃驚(ギョッティング)だな……ゴホッ、ゴホッ!!」


「お、おい老爺(こうしん)さん!! でけぇ咳してんじゃねぇよ、不潔(ばっちい)なぁ……」


「ゴホッ……ゴホッ……!! ……ち、おいお前、ちょっといいか?」


「あぁ?」


「これから起こる大規模な事件――その主犯が、空にいるんだが」


「あぁ……? 何言ってんだ? ボケてんのかよ、与太者(ヨタリスト)が」


「……嘘つき爺さんの逆井元野だな、ありゃ」


 観覧(パンピー)席で見かけた白髪の老爺(こうしん)

 体は枯槁(かまっきり)で、病を患っていそうな風貌の彼の姿を見かけた岡田は、ポロリと彼の醜名を呟いていく。

 誰にも理解されない言葉を投げ続ける奇妙(みょうちきりん)老爺(こうしん)

 その存在を横目に、岡田はゆっくりと視線を切り、再び赤神達の戦いへと戻していった――


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 2020年8月18日、月曜日の昼休み。

 夏休み期間のため通常授業は行われておらず、学内には補講で登校している生徒の姿が多い。

 購買部は人で溢れ、熱気に満ちている。

 その波を掻き分け、赤神は迷いなく生徒会長室へと歩を進めていく。

 ――ある人物に会うために。


「……冬島(ふゆしま)、いるか?」


「ん? あぁ、赤神君か。どうしたんだ、珍しいな」


「少し相談したいことがあってな」


 応接室を思わせる、生徒会長室。

 壁には表彰状が整然と並び、空間全体に厳かな空気が満ちている。

 その中央に置かれた黒いソファーに赤神が腰を下ろすと、対面するように、冬島と呼ばれる長身の女も静かに腰を下ろした。

 180センチを超える赤神と、ほぼ同じ高さで視線を合わせる長躯(じだま)

 赤神の同級生にして冬島財閥の令嬢である彼女は、スカイブルーの長髪をたなびかせながら、右手に持った缶コーヒーをゆっくりと口に運ぶ。

 その落ち着き払った佇まいを前に、赤神は単刀直入に切り出す。

 生徒会長としての仕事をしつつ、マネージャー陣を束ねる彼女に、部内に生じている不協和音を解消するための助言を求めるために。


「……アイツらの協調性の無さについてなんだが」


「あぁ……昨日のあの騒ぎのことか。各方面への謝罪は、こちらで(かた)をつけているから安心してくれ。ただなぁ……これが頻発すると、さすがの私でも厳しい。特に総理に無礼(なめ)た振舞いを働いた件はな……」


天網(てん)恢恢(くち)ってわけか……俺の方からも鉄槌(ずつき)(かま)しておいたが、あの無統制(うごう)がそう易々と変わるとも思えん。伊達監督とも話をしたが、解決策は見えてこず、といったところだ」


「そうか……協調性、ねぇ。全員で困難を乗り越えてみるとかどうだろうか? 協力しなければ生き残れない状況で一体感を身に着ける――例えば、無人島とかで命がけの生活をするとか」


「お前なぁ……いくらなんでもそれは無茶苦茶だろう……」


「ふっふっふ!! 冗談(あまの)だよ、赤神君。 ……まぁ、気が向いたらいつでも言ってくれて構わないぞ? 私は輸送機の操縦も出来るし、それっぽい無人島を探すなら、冬島財閥の総力を――」


「いや、大丈夫だ……そこまではしなくていい」


「そうか? それは……少しばかり残念だな。久々に暴れられると思ったのに……」


 肩をすぼめ、提案を退けられたことをどこか物寂しそうに受け止める冬島。

 手にしていた缶コーヒーの中身を飲み干すと、すぐさま表情を切り替え、話題の矛先を自然に変えていく。


「赤神君、それで話は変わるんだが……9月の新人(ぺーぺー)戦。その予算が下りたぞ。いつもより若干少ないんだが……」


「少ない……? 俺達の日頃の行いが響いたのか?」


「いやぁ……実はこの前、学園長が生徒会にご褒美をくれると言ってね。日頃の働きへの労い、というやつだ。それで……私が輸送機を買ってしまってな。結果として、学校の予算が少し厳しくなってしまったんだ」


「……」


「てへぺろ☆ ……どうだ赤神君? 今の、可愛(かわち)ぃか?」


「なにやってんだお前ぇ"っ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 2020年9月5日、土曜日早朝。

 赤神達は、新人(ぺーぺー)戦の舞台となる日本武道館へと向かっていた。

 列をなし、無言(ロム)ったまま歩を進める一団。

 その貫禄(だいびやく)ある姿を目にした見物人(パンピー)達は、言葉を失い、自然と歩道の脇へと身を退けていく。

 ただ圧倒されるしかない――そう言わんばかりに、彼らはその背中を見送っていた。

 だが、その場にいる誰1人として知る由もない。

 今日この日、黒い柔道着(まとい)着衣(きめ)た集団が、日本柔道の勢力図を塗り替えることになるという事実を――

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