表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
白桜龍聖編
149/152

INDEPENDENCE・バグル・決別の一撃

 試合会場に木霊する、仁王阿錬(におうあれん)の張り上げた声。

 それを合図に、阿錬は兄である吽錬(ごうれん)へ向かって果敢に切り込む!!

 勢いのまま左足を大きく振り上げ、吽錬の体の左側へ右足を踏み込む阿錬。

 振り上げた左足を振り下ろし、吽錬の左足の裏側を刈り取る大外刈りを放つ!!

 迎え撃つ吽錬は、右足で畳を強く踏みつけた。

 その瞬間、地の底から轟くような音が湧き上がり、畳が軋みながら大きく揺れ始める!!

 地震(なまず)めいた衝撃を任意に引き起こし、相手の技を強制的に中断させる柔皇の技。

 No.55―――


山響(さんきょう)……!!」


「ちっ!? クソが……っ!!」


「……」


(さて……お望み通り本気(マジ)で相手するとしてだ。さっきの号令……結局あれは何だったんだ? ……この団体戦、あいつら全員が同じことをやってたが……結局、意味は理解(わか)らずじまいだな)


 技を中断させ、目前まで迫ってきた弟の道着(まとい)を掴み取る吽錬。

 弟の阿錬もすぐさま兄の道着(まとい)を掴み返し、互いの利き腕が交差する喧嘩四つの形となる。

 わずかな仕掛けの気配も見逃すまいと神経を尖らせながら、阿錬は己の望む未来へ辿り着くため、試行の回数を重ねていくのだった!!


(単純な実力(ウデ)比べをしてたら、俺がじり貧で確実に負ける……こっからは我慢比べくせぇな!!)


「No.39―――地瀑牢(ちばくろう)!!」


 阿錬の技によって、畳と畳の隙間から意思を持つ砂の塊が、蔓植物めいて無数に這い出してくる。

 その軍勢は吽錬へ四方から忍び寄り、足元へ絡みつきながら地面へ縫い止めようとしていた!!

 吽錬は(つら)を動かさぬまま、目だけで周囲を一瞥(ちょいみ)する。

 両腕に力を込め、掴んだ道着(まとい)を自らの方へ強引に引き寄せる!!

 同時に己を支点として右へ回転し、渦潮めいた流れを周囲に巻き起こしていく!!

 渦潮から得た遠心力をそのまま力へ変え、水を纏った右足で支釣込足を放つ柔皇の技―――

 No.24珠玉廻(しゅぎょくまわ)し!!

 足に絡みつく砂の塊ごと、阿錬の右足の脛を払い落としにいく!!

 だが――振り払った砂の塊の一つが足を絡め取った。

 阿錬の足を捉えることなく、技は途中で断ち切られてしまうのだった!!

 計画御破算(おじゃん)荒涼感(かなぴっぴ)!!


「っ!?」


(なんだ、この硬い感触は……銀? ……阿錬のやつ、砂の中に銀の塊を混成(ちゃんぽん)していたのか!!)


 畳を突き破り、銀色の氷柱めいた物体が地面から鋭く突き出ていた。

 阿錬が密かに用いていた―――No.46銀砂(ぎんしゃり)

 それによって生み出されたものだと瞬時に見抜いた吽錬は、この日初めて、渋い(つら)を浮かべるのだった!!


「はぁ……はぁ……!!」


(へっ!! 引っかかってやんの、クソ兄貴!! つーか危機(やく)いなぁ……やっぱ真っ向勝負は避けた方が良さそうじゃねぇか!! ……思考を乱調(バグ)らせるまで持つか、こりゃ?)


 刃が首元に触れる寸前まで迫っていた阿錬。

 血の気の引いていた体がようやく落ち着きを取り戻すと、畳を震わせながら無数の尖った岩を隆起させ、背後から兄へと襲い掛からせた!!

 不意を突いた一撃。

 本来なら、防ぎきれるはずのない強襲――

 だが兄の吽錬は、それを振り向くことすらなく防いでみせる!!

 弟と同じように、鋭く尖った岩を背を守るように隆起させ、互いにぶつけ合うことで相殺していったのだ!!

 宙へと散開する砕け散った岩の破片。

 それを全身に浴びながら、兄弟の至近距離での技の応酬は、なおも激しさを増していくのだった!!


「ちっ!!」


「お前が背後を狙ってくるのは大方予想がついた……昔から、散々狙ってきた場所だからな?」


「んだよクソ兄貴、俺のことを理解(わか)りきった気になってんじゃねぇよ!! No.39――地瀑牢!!」


 足技で牽制し合う中、阿錬は再び砂塊を操る技を繰り出していく!!

 その砂の奔流の陰には、周囲の光を受けて鈍く光る銀の砂も紛れ込んでいた。

 自身を狙うそれらを、吽錬は阿錬の体を振り回しながら身を捩り、紙一重で避け続けていく。

 そして反撃に転じるや、畳を突き破るように鋭く尖った岩を隆起させ、阿錬の右横腹へと叩きつけた!!

 衝撃に体勢をぐらつかせる阿錬へ向け、吽錬はそのまま攻勢へと踏み込んでいく!!


「ぐぅ……!!」


「脇が甘いな!! む……っ!?」


 体勢を崩した阿錬へ追撃をかけるため、吽錬は右手で握っていた道着(まとい)の襟を離し、右腕で相手の頸を抱え込む。

 体を左へ回転させ、そのまま腰に乗せて転がすように投げる、腰車を仕掛けた!!

 背に体が乗り、技が成立する寸前―――

 まるで先ほどの報復(かえし)と言わんばかりに、勢いよく隆起した岩が、使用者である阿錬もろとも、吽錬の右脇腹めがけて突き刺さった!!

 その衝撃……まさに、世界的ボクサーとして知られている、タイタン・マッカーソンめいた渾身のボディブローである!!

 直撃した2人の体は、その場から勢いよく吹き飛ぶ!!

 握り合っていた道着(まとい)も、衝撃で互いの手から離れていった!!

 仕留め損ねた吽錬は、すぐさま阿錬の方へ体を向け直す。

 そして攻撃の意思を示すかのように、静かに距離を詰めていく。

 宙を漂う砂状の銀。

 地面から突き出す鋭い岩。

 捕縛(ねか)せんと、うねうねと蠢き続ける砂塊……

 無数の脅威が同時に畳の上へと現れていた!!

 距離を詰めながらも、吽錬は周囲の気配に神経を尖らせ続けている。


(阿錬のやつめ。こんなに畳の上に砂を撒き散らしたら、後で掃除する人が大変になるだろうが。 ……どれだ? あいつはどの技で俺を―――)


金田一(きんだいち)監督!! もう一回いくぞ!!」


「っ!?」


(なんだ……またあの奇妙(みょうちきりん)な号令……さっきから気にはなっていたが、これに一体なんの意味が――)


「…………………………ん? 何も……起きない? ぐっ!?」


 阿錬から放たれた言葉の弾丸。

 その一言が響いた瞬間、吽錬の足は思わず歩みを止めてしまう。

 この団体戦で繰り返されてきた奇妙(みょうちきりん)な言動。

 何かを仕掛けられているのではないかと、吽錬は必死にその意図を探っていた。

 だが、結局答えは見つからないままだった。

 ――それも当然のこと。

 聖鏡(せいきょう)高校の面々が仕掛けていたこの言動には、最初から意味など存在しなかったのだ!!

 彼らの真の狙いによって、吽錬の思考は無意識のうちに止められていた。

 その結果、背後から迫る岩に注意が向かない。

 背中を強烈に打ち据えられ、吽錬の体勢は大きく前へと崩れてしまったのだった!!


「……やっと気が付いたか? ……俺達がやってきたことの狙いが!!」


「っ!! 俺達を深読みさせるように誘導していたのか……!!」


「へっ!! 今頃理解(わか)っても遅ぇんだよバーカ!! クソ兄貴達が散々俺達の手札を調べ尽くしていたからよぉ……即席で新しい手札を作ってたんだよ!! 仕掛け人は罪炎(ざいえん)のやつだ。なんだ? 噂江(うずえ)達との騒動のことも知ってるんだったっけ? そんだけ調べ尽くされてたら、こっちの既存の戦い方は全部対策されてるって考えるわな。だからチーム一丸となって、クソ兄貴達が知らねぇ情報を刷り込んでやったんだよ!!」


「ぐ……!!」


「俺らが頭を使った戦い方をしてくるってのは、クソ兄貴が一番知ってるだろ? 4月までウチにいたんだからなぁ!! だからこう考えたはずだぜ? あの号令にはきっと何か意味があるって。まぁ、実際意味はあったんだがよぉ……あの号令自体には何の意味もなかったんだよ!!」


「……っ!!」


「意味もねぇ号令に意味を見出そうとして、あれこれ考えてたみてぇだがよ……それが今みたいな深読みって結果になったんだよなぁ。それが俺達の本当の狙い……思考をハックして、判断をバグらせる……認識の逆利用だぜ!!」


(まぁ、1回目はイマイチ効果なくて結構焦燥(あせあせ)だったけどな)


 背中を押され、前へと倒れ込んでくる兄に背を向けるように、阿錬は体を右へと回転させた。

 左手を腰に添え、そのまま相手の体を腰に乗せて転がすように投げる――左の腰車を仕掛けていく!!

 それは、先ほど兄が放った技をそのまま返すかのような一撃。

 やり返す意図を込めた、阿錬の腰車だった!!

 横槍を入れられても崩されぬよう、兄と接触する部位は砂の塊で固められている。

 絶対に逃がさない――そんな弟の執念(ねち)さが、技そのものに宿っているかのようだった!!

 その瞬間、兄の脳裏を過ぎる過去の記憶。

 まだ10にも満たない、はかなし頃――

 野外道場で乱取りをしていた日の光景が、走馬灯めいて蘇る!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『えぇ~!? お兄ちゃん、なんで俺の考えてること理解(わか)ったの~?』


『はっはっは!! そりゃ阿錬のことは間近でよく見ているからな? お前の考えていることなんて、お見通しなんだよ―――』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ぐぅ……阿錬、お前ぇ……!!」


「はっ!! んだよクソ兄貴? 今さら後悔しても遅ぇぞ!! ……狐塚(こづか)先輩達のことも、俺のことも……全部知った気になってたんじゃねぇのか? けどよぉ、結局は大して理解(わか)っちゃいなかったってわけだ!! それなのに今の今まで俺を子供(じゃり)扱いしやがって……!! 今までの御節介(おたばこぼん)な言動が、命取りになったなぁ!?」


 この数年間、胸の奥に溜め込み続けていた鬱憤を、阿錬はすべて吐き出すかのようだった。

 そこに身内への容赦や遠慮などはない。

 兄を1人の敵として見定め、聖鏡高校の代表として打ち倒そうとする――

 自立した1人の柔道家の姿が、そこにはあった!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『お、腰車か!! タイミングは良かったけどなぁ~……まだまだ練習が足りないな?』


『うわっ!! 返されちゃった!! むぅ~……今度こそは―――』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ