INDEPENDENCE・バグル・決別の一撃
試合会場に木霊する、仁王阿錬の張り上げた声。
それを合図に、阿錬は兄である吽錬へ向かって果敢に切り込む!!
勢いのまま左足を大きく振り上げ、吽錬の体の左側へ右足を踏み込む阿錬。
振り上げた左足を振り下ろし、吽錬の左足の裏側を刈り取る大外刈りを放つ!!
迎え撃つ吽錬は、右足で畳を強く踏みつけた。
その瞬間、地の底から轟くような音が湧き上がり、畳が軋みながら大きく揺れ始める!!
地震めいた衝撃を任意に引き起こし、相手の技を強制的に中断させる柔皇の技。
No.55―――
「山響……!!」
「ちっ!? クソが……っ!!」
「……」
(さて……お望み通り本気で相手するとしてだ。さっきの号令……結局あれは何だったんだ? ……この団体戦、あいつら全員が同じことをやってたが……結局、意味は理解らずじまいだな)
技を中断させ、目前まで迫ってきた弟の道着を掴み取る吽錬。
弟の阿錬もすぐさま兄の道着を掴み返し、互いの利き腕が交差する喧嘩四つの形となる。
わずかな仕掛けの気配も見逃すまいと神経を尖らせながら、阿錬は己の望む未来へ辿り着くため、試行の回数を重ねていくのだった!!
(単純な実力比べをしてたら、俺がじり貧で確実に負ける……こっからは我慢比べくせぇな!!)
「No.39―――地瀑牢!!」
阿錬の技によって、畳と畳の隙間から意思を持つ砂の塊が、蔓植物めいて無数に這い出してくる。
その軍勢は吽錬へ四方から忍び寄り、足元へ絡みつきながら地面へ縫い止めようとしていた!!
吽錬は顔を動かさぬまま、目だけで周囲を一瞥する。
両腕に力を込め、掴んだ道着を自らの方へ強引に引き寄せる!!
同時に己を支点として右へ回転し、渦潮めいた流れを周囲に巻き起こしていく!!
渦潮から得た遠心力をそのまま力へ変え、水を纏った右足で支釣込足を放つ柔皇の技―――
No.24珠玉廻し!!
足に絡みつく砂の塊ごと、阿錬の右足の脛を払い落としにいく!!
だが――振り払った砂の塊の一つが足を絡め取った。
阿錬の足を捉えることなく、技は途中で断ち切られてしまうのだった!!
計画御破算、荒涼感!!
「っ!?」
(なんだ、この硬い感触は……銀? ……阿錬のやつ、砂の中に銀の塊を混成していたのか!!)
畳を突き破り、銀色の氷柱めいた物体が地面から鋭く突き出ていた。
阿錬が密かに用いていた―――No.46銀砂。
それによって生み出されたものだと瞬時に見抜いた吽錬は、この日初めて、渋い顔を浮かべるのだった!!
「はぁ……はぁ……!!」
(へっ!! 引っかかってやんの、クソ兄貴!! つーか危機いなぁ……やっぱ真っ向勝負は避けた方が良さそうじゃねぇか!! ……思考を乱調らせるまで持つか、こりゃ?)
刃が首元に触れる寸前まで迫っていた阿錬。
血の気の引いていた体がようやく落ち着きを取り戻すと、畳を震わせながら無数の尖った岩を隆起させ、背後から兄へと襲い掛からせた!!
不意を突いた一撃。
本来なら、防ぎきれるはずのない強襲――
だが兄の吽錬は、それを振り向くことすらなく防いでみせる!!
弟と同じように、鋭く尖った岩を背を守るように隆起させ、互いにぶつけ合うことで相殺していったのだ!!
宙へと散開する砕け散った岩の破片。
それを全身に浴びながら、兄弟の至近距離での技の応酬は、なおも激しさを増していくのだった!!
「ちっ!!」
「お前が背後を狙ってくるのは大方予想がついた……昔から、散々狙ってきた場所だからな?」
「んだよクソ兄貴、俺のことを理解りきった気になってんじゃねぇよ!! No.39――地瀑牢!!」
足技で牽制し合う中、阿錬は再び砂塊を操る技を繰り出していく!!
その砂の奔流の陰には、周囲の光を受けて鈍く光る銀の砂も紛れ込んでいた。
自身を狙うそれらを、吽錬は阿錬の体を振り回しながら身を捩り、紙一重で避け続けていく。
そして反撃に転じるや、畳を突き破るように鋭く尖った岩を隆起させ、阿錬の右横腹へと叩きつけた!!
衝撃に体勢をぐらつかせる阿錬へ向け、吽錬はそのまま攻勢へと踏み込んでいく!!
「ぐぅ……!!」
「脇が甘いな!! む……っ!?」
体勢を崩した阿錬へ追撃をかけるため、吽錬は右手で握っていた道着の襟を離し、右腕で相手の頸を抱え込む。
体を左へ回転させ、そのまま腰に乗せて転がすように投げる、腰車を仕掛けた!!
背に体が乗り、技が成立する寸前―――
まるで先ほどの報復と言わんばかりに、勢いよく隆起した岩が、使用者である阿錬もろとも、吽錬の右脇腹めがけて突き刺さった!!
その衝撃……まさに、世界的ボクサーとして知られている、タイタン・マッカーソンめいた渾身のボディブローである!!
直撃した2人の体は、その場から勢いよく吹き飛ぶ!!
握り合っていた道着も、衝撃で互いの手から離れていった!!
仕留め損ねた吽錬は、すぐさま阿錬の方へ体を向け直す。
そして攻撃の意思を示すかのように、静かに距離を詰めていく。
宙を漂う砂状の銀。
地面から突き出す鋭い岩。
捕縛せんと、うねうねと蠢き続ける砂塊……
無数の脅威が同時に畳の上へと現れていた!!
距離を詰めながらも、吽錬は周囲の気配に神経を尖らせ続けている。
(阿錬のやつめ。こんなに畳の上に砂を撒き散らしたら、後で掃除する人が大変になるだろうが。 ……どれだ? あいつはどの技で俺を―――)
「金田一監督!! もう一回いくぞ!!」
「っ!?」
(なんだ……またあの奇妙な号令……さっきから気にはなっていたが、これに一体なんの意味が――)
「…………………………ん? 何も……起きない? ぐっ!?」
阿錬から放たれた言葉の弾丸。
その一言が響いた瞬間、吽錬の足は思わず歩みを止めてしまう。
この団体戦で繰り返されてきた奇妙な言動。
何かを仕掛けられているのではないかと、吽錬は必死にその意図を探っていた。
だが、結局答えは見つからないままだった。
――それも当然のこと。
聖鏡高校の面々が仕掛けていたこの言動には、最初から意味など存在しなかったのだ!!
彼らの真の狙いによって、吽錬の思考は無意識のうちに止められていた。
その結果、背後から迫る岩に注意が向かない。
背中を強烈に打ち据えられ、吽錬の体勢は大きく前へと崩れてしまったのだった!!
「……やっと気が付いたか? ……俺達がやってきたことの狙いが!!」
「っ!! 俺達を深読みさせるように誘導していたのか……!!」
「へっ!! 今頃理解っても遅ぇんだよバーカ!! クソ兄貴達が散々俺達の手札を調べ尽くしていたからよぉ……即席で新しい手札を作ってたんだよ!! 仕掛け人は罪炎のやつだ。なんだ? 噂江達との騒動のことも知ってるんだったっけ? そんだけ調べ尽くされてたら、こっちの既存の戦い方は全部対策されてるって考えるわな。だからチーム一丸となって、クソ兄貴達が知らねぇ情報を刷り込んでやったんだよ!!」
「ぐ……!!」
「俺らが頭を使った戦い方をしてくるってのは、クソ兄貴が一番知ってるだろ? 4月までウチにいたんだからなぁ!! だからこう考えたはずだぜ? あの号令にはきっと何か意味があるって。まぁ、実際意味はあったんだがよぉ……あの号令自体には何の意味もなかったんだよ!!」
「……っ!!」
「意味もねぇ号令に意味を見出そうとして、あれこれ考えてたみてぇだがよ……それが今みたいな深読みって結果になったんだよなぁ。それが俺達の本当の狙い……思考をハックして、判断をバグらせる……認識の逆利用だぜ!!」
(まぁ、1回目はイマイチ効果なくて結構焦燥だったけどな)
背中を押され、前へと倒れ込んでくる兄に背を向けるように、阿錬は体を右へと回転させた。
左手を腰に添え、そのまま相手の体を腰に乗せて転がすように投げる――左の腰車を仕掛けていく!!
それは、先ほど兄が放った技をそのまま返すかのような一撃。
やり返す意図を込めた、阿錬の腰車だった!!
横槍を入れられても崩されぬよう、兄と接触する部位は砂の塊で固められている。
絶対に逃がさない――そんな弟の執念さが、技そのものに宿っているかのようだった!!
その瞬間、兄の脳裏を過ぎる過去の記憶。
まだ10にも満たない、はかなし頃――
野外道場で乱取りをしていた日の光景が、走馬灯めいて蘇る!!
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『えぇ~!? お兄ちゃん、なんで俺の考えてること理解ったの~?』
『はっはっは!! そりゃ阿錬のことは間近でよく見ているからな? お前の考えていることなんて、お見通しなんだよ―――』
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「ぐぅ……阿錬、お前ぇ……!!」
「はっ!! んだよクソ兄貴? 今さら後悔しても遅ぇぞ!! ……狐塚先輩達のことも、俺のことも……全部知った気になってたんじゃねぇのか? けどよぉ、結局は大して理解っちゃいなかったってわけだ!! それなのに今の今まで俺を子供扱いしやがって……!! 今までの御節介な言動が、命取りになったなぁ!?」
この数年間、胸の奥に溜め込み続けていた鬱憤を、阿錬はすべて吐き出すかのようだった。
そこに身内への容赦や遠慮などはない。
兄を1人の敵として見定め、聖鏡高校の代表として打ち倒そうとする――
自立した1人の柔道家の姿が、そこにはあった!!
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『お、腰車か!! タイミングは良かったけどなぁ~……まだまだ練習が足りないな?』
『うわっ!! 返されちゃった!! むぅ~……今度こそは―――』
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「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」




