PERVERSE・ツムジガマガル・狐憑きの柔道
北海道大会団体戦決勝は、両校の主将同士が正面から激突する展開となった!!
試合開始早々、東郷は狐塚の得意とする幻術を封じ込める。
しかし同時に、東郷自身も狐塚によって強制的に弱点を付加されており、出鼻を挫かれた状態に置かれていた!!
技を放った狐塚は、一定の間合いを保つために後退する。
両者の間に生まれた空間には、張り詰めた空気だけが静かに漂っていた……!!
「ぬぅ……ッ!!」
(狐塚のやつめ……余計な真似をしおってッ!! それに、あの氷を纏った両腕は……)
「……なんや? 攻めてこんのかいな。ほれ、いつでもええで?」
「ちッ!! 白々しいやつめ……ッ!!」
(No.37霰唄……組手争いの最中に砕け散った微細な氷が、こちらの呼吸を妨害してくる技……ッ!! 幻術が使えんと見るや、即座に別の妨害技へ切り替えよったなッ!! 胡散臭い見た目通り、面倒いことをしおってッ!!」
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『さあ、試合は互いに相手の出方を慎重に探り合っていますねぇ……あっ!! ここで試合が中断され、両者に消極的姿勢による処分が下されました!! 太江さん、今の状況をどう見ますか?』
『そうねぇ……一進一退で拮抗している、という印象かしら。体格で劣り、なおかつ幻術を封じられて一見不利に見えるけれど、即座に東郷君へ弱点を付加して、状況をイーブンに戻しているわね。試合は長引きそうだわ……絶倫じゃないと耐えられなさそう。ただ―――』
『ただ?』
『あの狐塚選手、こう……奥ゆかしくない、とまでは言わないけれど、あまり行儀のいい戦い方をする子ではないのよねぇ……』
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「開始っ!!」
審判の合図とともに、試合が再開される。
3つ目の処分が下されれば失格となる中、両者に科せられているのは1つ目の処分。
胸の奥にじわりと広がり始めた焦燥を押し殺しながら、互いに相手を出し抜くための戦いが、静かに幕を開けた―――!!
相対したまま、2人はじりじりと一定の距離を保ち続ける。
時間の経過とともに、白桜によって左肘と左脛に与えられていた氷の枷は、すでに東郷の体から自然に融解し、消え去っていた。
だが、腹部に刻まれた氷の紋章だけは、いまだ融ける気配を見せない。
精神的に追い込まれ始めている東郷とは対照的に、得意技の幻術を封じられているにもかかわらず、狐塚は涼しい表情を崩さない。
その視線は、いとほしそうに相手の足元を見下ろしており、それが東郷の苛苛りに、確かな火を灯し始めていた!!
「随分と余裕そうだなぁッ!?」
「そういうお前は、随分と余裕がないなぁ? ウチ、まだ大したことなんもしとらんで? 深読みせんと、はよかかってきぃや。あ、それと……金田一監督、そろそろ行かせてもらうでぇ」
「ぐぐぐ……ッ!!」
(こいつ、露骨に扇動ってきよる……ッ!! 何かあるな……お前みたいな邪智が、何も考えていないわけがないからなッ!! 聖鏡高校の前監督を追い出した件にも、お前が一枚噛んでいるという話は知っているッ!! 前科がある貴様の手口は理解っているぞッ!? ……どうする? ひとまず死戒の効果時間が切れそうだから……)
「これより30秒間、No.82狂飆、並びにENo.82欺偽仮騙の使用を、再び禁ずるッ!!」
「……ほ~ん、またか」
「当たり前だッ!! 貴様、この試合で容易く幻術を使えると思うでないぞッ!?」
(よし……これでいいッ!! だが……監督の名前を叫ぶ、あの理解らん動きについてはどうする? 無視していていいのか? クソが……ッ!! 次から次へと考えることを増やしおって……!! 第7師団『破戒鎮圧隊』を使う暇もないわ……ッ!!)
「……」
(東郷のやつ、また禁止してきおったな。ま、それはええとして……ぼちぼち冥氷の刻印も融けそうやな。ここでまた膠着して処分をもろてもええけど、できれば向こうだけに処分を負わせたいところや。 ……それと、どうやったら精神的に追い詰められるやろか?)
「さぁ……いつでもかかってこいッ!!」
「……ん~ん」
(えらい切羽詰まっとるなぁ? 頭がパンクしそうな感じか? ほ~ん……)
狐塚の糸めいて細い目が、タイマーに刻まれた残り時間を一瞥する。
束の間、思考を巡らせたのち再び東郷へと視線を戻すと、狐塚の心臓からどす黒い悪意が血管を伝い、全身へと駆け巡っていった!!
狐塚は、その場から一歩も動かず静止し続ける。
まるで攻める意思がないかのようなその姿勢に、東郷は一瞬、呆気に取られる。
ただ時間だけが過ぎ去り、試合の残り時間が無為無策と消費されていくのだった!!
「……ッ!?」
(こいつ……何を考えているッ!? 死戒の効果時間切れを狙っているのかッ!? いや……それにしては、なぜ霰唄を維持したままなのだ……ッ!? あれは幻術と同様、使い続ければ自身の気力も体力も確実に削られていく技のはず……こちらが痺れを切らすのを待っている……ッ? それとも……)
「失格を狙っている……ッ?」
「……ふっ」
「静止っ!! 処分っ!!」
タイマーの数字が、再び止まる。
試合開始以降、両者は依然として決定的な動きを見せていなかった。
審判が試合を止め、両者に再度処分が宣告される。
失格まで、残るはあと1つ。
先ほどから続く狐塚の不可解な振る舞いに思考を巡らせていた東郷は、2つ目の処分を受けた瞬間、ある確信に至った!!
狐塚が胸中に抱く、悪意に満ちた企図を――
「開始っ!!」
「……ッ!!」
(こいつ、失格を狙っているのかッ!? 体格差がある以上、正面からは投げ切れないと踏んで……ッ!! これまでの不可解な行動は、ワシに無駄な思考を強い、足を止めさせるためだったのかッ!? この野郎……どこまで根性が偏屈っておるのだッ!!)
「これよりノルマを課すッ!! 時間は30秒ッ!! その間、常に攻撃を続けることだッ!!」
(ならば、殴り合いで早々に決着をつけるまでだッ!! 処分はすでに取られた……だが、腹部に刻まれていた氷の紋章も、時間の経過とともに融けているッ!! もはやワシを縛るものは何もないッ!! 体格差を活かし、力で押し切るのみだッ!!)
「狐塚ぁ……貴様の狙いは大方把握したぞッ!! ここで勝負を……ッ!?」
「……やっとそれ、使ったなぁ?」
試合再開早々、東郷が氷の兵隊へと指示を出す!!
周囲を取り囲む氷の兵隊が2人に照準を定める中、狐塚は静かに笑みを零した。
狙い通りの展開になったことが、それほどまでに万々歳だったのだろう。
凍ったままの両腕を振るい、東郷との組手争いに臨む狐塚。
のらりくらりと東郷の猛攻をかいくぐり、懐へと潜り込んでいく!!
そのまま右足を敵の左足の脛に当て、両腕をハンドルを右へ切るように操作しながら放つ、左の支釣込足を、全身を使って繰り出した!!
当然、体格差がある以上、決定打にはならない。
だが、相手の体の向きを動かす程度であれば、何ら問題はなかった!!
狐塚の足技によって体の向きを変えられた東郷。
彼は背中側にタイマーを背負う形で狐塚と正対しており、残り時間を把握できずにいる。
対照的に、視界にタイマーを収めている狐塚。
互いに道着を組み合う喧嘩四つの状態のまま、足技の応酬による殴り合いの展開となるが、この状況を望んでいたはずの東郷から、焦燥の色が消えることはなかった。
視界にタイマーを収めようとするも、狐塚が足技に合わせて位置を微調整し続けており、東郷はなかなかそれを捉えられずにいた!!
「く……ッ!! 狐塚、貴様ぁッ!!」
「……あと何秒で、死戒の効果時間が切れるんやろうなぁ? くっくっく……!! せやけど、なんも仰天ることやないやろ。アンタらがタイマーで残り時間を確認するだろうことは、試合前から理解っとったことやで? まぁ、そらそうやろう……秒単位の攻防がある柔道で、いちいち死戒の効果時間を頭に入れたまま頭脳戦をやるなんて、普通は不可能ねん。頭がパンクするさかい。せやから、お前もやし他の使い手も、タイマーを確認しながら戦うんやけど……時計が見られへん状況で、正確に時間を把握できるんか? それも……他の制約をさらに重ねた、今の状況で……?」
「ワシに第7師団『破戒鎮圧隊』を使わせるために、あんなちんたら戦っていたのかッ!!」
「せやなぁ~……なんや色々考えて大変そうやったさかい、さらに負荷かけて、嬲ったろ思うてな?」
「とことん根性が偏屈っておるなッ!?」
「ぎゃぎゃ~、やかましいわ……それに、ええんか? もうぼちぼち効果時間、切れるで?」
「ぬッ!? 何だとッ!?」
「あ~切れる、切れるわ~……あっ、あっ!!」
「えぇいッ!! わざとらしく扇動るでないわッ!!」
「……ENo.82欺偽仮騙」
「ッ!? クソがぁッ!! これより30秒間、No.82狂飆、並びにENo.82欺偽仮騙の使用を禁ずるッ!! 時間はッ!?」
足技を使いつつ、体をハンマー投げの選手めいて大きく傾けながら、幻術の使用を禁ずる宣言を出す東郷。
同時に、狐塚の体を振り回しながら、首だけを勢いよくタイマーの方へと向けていった!!
時計のタイマーが示す残り時間。
それは死戒の効果時間が切れる、恰度1秒前を示しており、死戒の効果はいまだ継続中だった。
上書きができないという性質ゆえに、東郷が先ほど宣告した内容は―――
無慈悲にも破棄されることになる!!
尻に目薬である!!
「……ッ!! 狐塚、さっきのはッ!!」
「ブラフや。幻術はまだ使えんで?」
「くッ!! これより30秒間―――」
「……一歩遅かったなぁ」
東郷の頭に、偏頭痛めいた痛みが走っている。
するととと、どうだろu。
視kaいは、ゆらぎぎぎぎ、ノノノノノイズがはしり、視界がh)siしり、狐塚noすがががったあああは、あためんいなかまんじゅうおかる!!
「ッ!! これ……はぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッ!!」
「なんや東郷……悪夢でも見とるんか? ……大変やぁ、すぐに目ぇ覚まさせないとなぁ」




