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YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
白桜龍聖編
144/152

CAPACITYOVER・キャパイ・地を這う白龍

「これよりノルマを課すッ!! 時間は60秒ッ!! その間、どちらかの足を必ず畳に付け続けるのだッ!!」


 宣告と同時に、ENo.52第7師団(だいななしだん)破戒鎮圧隊(はかいちんあつたい)』によって生み出された氷の兵隊達が、一斉に動いた!!

 彼らの握りしめる氷製の銃。

 その冷たい銃口が、再び白桜(はくら)東郷(とうごう)の両者へと突きつけられる!!

 試合会場を取り囲む、肌を刺すような冷たい殺意。

 だが白桜は、その圧に一切ひるむことなく、静かにそして必死に、状況判断へと意識を集中させていった!!


(うっわ~また自分ルールやってきたよぉ~……んで今度は畳に足を付け続ける~? ……え? そんなんでいいの? ん~……何企んでんだろ。面倒(ウザ)くなる前に、こっちもやることやっとこっかなぁ)


「……金田一(きんだいち)監督!! そろそろいくよ!!」


「むッ!?」


(でたなそれ……ワシらの動きでに分析しているのか? こいつらのことだ……なんか知らんがろくでもないことを考えているのだろう……だが、考えてもよく理解(わか)らん以上、時間の無駄だッ!! 無視(しかと)して攻勢に出させてもらうぞッ!!)

 

 試合序盤から続く、奇妙(みょうちきりん)な動き。

 その意図に頭を悩ませる廻偵(かいてい)高校の面々をよそに、主将の東郷は淡々と割り切り、白桜との組手争いへと踏み込んだ!!

 攻め込んでくる巨体を前に、白桜は態勢を低くして身構える。

 脱力した構えから一転―――

 どこからともなく吹いてきた追い風に背を押されるように、予備動作なしで前へと一瞬で間合いを詰める!!

 その勢いのまま、東郷の道着(まとい)を相手よりも先に握りしめた白桜。

 大して東郷は、予備動作なしに動かれたことで、反応が一瞬遅れてしまう。

 慌てて掴み返そうとするも、白桜は小さな体を敏捷(はしっこ)く操り、掴ませまいとするかのように間合いをずらし続ける。

 その動きに翻弄され、東郷の手は、なかなか白桜の道着(まとい)を捉えられないのだった!!


「ちッ!!」


(さっきのはNo.49縮嵐(しゃくらん)だな? 全く、小技ばかり使いおって……ッ!! だが、火力のある技は見たところ、月下氷刃(げっかひょうじん)以外にはなさそうだな。それ以外に警戒すべきは……燕返しなどの返し技か? 火力不足を補うために、あれこれ頭を使って戦っておるのだろうが……それも、ここまでだッ!!)


「白桜ぁッ!!」


「はぁい!? なんでしょう!?」


「これより、禁止事項の内容を告げるぞッ!! 準備(スタンバ)ってるかッ!?」


「えぇ~!? あれやるの!? 今度にして!!」


「却下だッ!! さぁ一言一句聞き逃すでないぞッ!!」


「くぅ……くそぉ~こうなったら、やってやるぅ……!!」


「これより二進数、ワンワンワンワンゼロゼロ秒間、先に攻撃した際に自護体を取ること、並びに返し技を使用した場合に、他の技に繋げることで相手を投げ飛ばさないことを禁ずるッ!!」


「……………え? なんてなんてっ!? 謝罪(さっせん)っ!! もう一回……うぎゃぁ"ぁ"!?」


 No.52死戒(しかい)によって、東郷が宣告した内容は即座に禁止事項として現実(げんじつ)のものとなった。

 同時に白桜の脳みそは、その内容を解読しようとして完全に思考停止する。

 一転を凝視した後、疑問が頭に浮かぶと同時に、体が左右へと強引に揺さぶられ、情けない悲鳴を上げてしまった!!

 白桜が硬直した隙を逃さず、東郷が既に道着(まとい)を掴み返しており、現状は互いに利き腕が重なり合う喧嘩四つの状態。

 体格で大きく劣る白桜は、一刻も早く、この状況を打開しなければならない。

 のだが―――

 先ほどの東郷の宣告内容がいつまでも頭から離れず、それどころではなかったのだった!!


(この禿頭(はげちゃびん)、さっきなんて言ったの? 二進数でワンワンワンワンゼロゼロ秒間? えぇ~……60……秒? で合ってるよね? それで先に攻撃した時に自護体を取る? 攻めてるのに守りの構えを取る? 何言ってるの? 返し技を使って他の技に繋げて相手を投げ飛ばす……あれ? 投げ飛ばさないだったっけ?)


「……あぁ~もう!! なんか無茶苦茶言ってるんだけど!? 結局何を禁止したのさ!? これ実質、何も禁止してなくない!?」


「正解だッ!! そして……回答に辿り着くのが少し遅かったな……ッ!!」


 なんたる光景、吃驚仰天(おったまげ)!!

 白桜が敵の宣告内容を解読していた最中―――

 東郷はその動きが鈍った一瞬を見計らい、自身の道着(まとい)の襟を持つ白桜の左手を、体をでんでん太鼓めいて往復回転させながら、力ずくで切っていたのだった!!

 片腕が宙ぶらりんになる白桜。

 邪魔だった白桜の利き腕からの抵抗がなくなった東郷は、左足を白桜の右足の外側へと勢いよく踏み込ませる。

 同時に右足を大きく振りかぶりながら、白桜の体の右側面へと己の体を移動させていき、大外刈りで白桜を投げ飛ばそうと仕掛けていく!!

 だがそれは―――白桜の反撃の合図にもなったのだった。

 東郷が踏み込む瞬間、いち早く大外刈りが来ると察知した白桜は、踏み込みに合わせて右足を前へと動かし、上半身も併せて前へと突き出していく。

 体格差があるため、前へと倒れ込むように体重をかけて行われる大外返し。

 振りかぶった東郷の右足が振り下ろされるよりも前に、白桜の左足が、東郷の右ふくらはぎに襲い掛かる!!

 意表を突いた返し技の強襲に、東郷の巨体は背中から真後ろへと、畳に吸い寄せられるように倒れ込んでいくのだった!!


「やぁぁぁぁぁぁぁ……」


(んぐぅ……これちょっと仕留めきれないかも……!?)


「技ありぃ"ぃ"ぃ"!!」


 返し技は綺麗に決まった。

 だが体格差の影響が、ここでも如実に表れる。

 背中から倒れ込んでいた東郷は、体を強引に捩り、白桜の返し技を不完全な形へと変えていた。

 判定は技あり。

 一本には届かず、試合はなおも続行中であり、舞台は寝技へと移行していく!!

 背を畳につける東郷に馬乗りになる白桜。

 左手で敵の道着(まとい)の襟を握りしめ、右手は手持ち無沙汰になりながら、攻めるか引くかの判断が求められていた。


(やっば……仕留めきれなかった!! 制圧(おさえこみ)、いけるかな? ……重たっ!? これ無理~……さっさと離れて静止(まて)を貰っちゃお……)


「っ!? 手っ!! 離れないんだけどっ!?」


「ダハハハハッ!! 離すわけなかろう、馬鹿垂(ばかた)れがッ!!」


 畳に背をつけながらも、すでに迎撃の体勢に入っている東郷と正対した白桜は、寝技での攻防を諦め、距離を取ろうとする。

 だが、東郷の右腕が白桜の道着(まとい)の襟を万力めいて掴み続けており、どれだけ体を揺さぶろうとも外れようとしない。

 それどころか剛腕によって白桜の上半身は東郷のもとへと引き寄せられ、体の軸が真っすぐに伸びきっていく!!

 東郷は右足の裏を白桜の左足の脛に当て、真後ろへと勢いよく押し込んだ!!

 突っ張り棒めいて体勢が崩れる白桜の鳩尾に、今度は右足の裏を当て、神輿めいて真上へと担ぎ上げていった!!

 

「うげぇっ!? このハゲ~!!」


「……おい白桜」


「ん?」


「両足が畳から離れているぞ?」


「ん? …………あ、しまっ」


 東郷からの指摘に、白桜は唖然とする。

 思わず周囲を取り囲む氷の兵隊へと視線を移す。

 狙いを定めていた氷の銃口から、白桜目掛けて無数の弾丸が放たれており、もう間もなく被弾しようとしていたのだった!!


「げぇ!?」


「ダハハハハッ!! ノルマを守れなかったことに対する処罰(やき)入れだッ!! しばらく昼寝でもしていろッ!!」


「くっ……蜃気楼(しんきろう)―――」


「無駄だッ!! 被弾するまで氷の弾丸が放たれるぞッ!!」


 ENo.52第7師団(だいななしだん)破戒鎮圧隊(はかいちんあつたい)』によるノルマを達成できなかった白桜。

 自身の体を透過させることで被弾を免れようとするも、No.44蜃気楼の効果時間を優に超える弾丸の雨が降り注ぎ、やがてそれは白桜の体に無慈悲に突き刺さっていくのだった!!


「うげぇ―――」


「さぁ……仕上げの時間だなッ!?」


 実体を取り戻した白桜は、弾丸に被弾し失神(おち)る。

 一度は透過することで右手から離れていた道着(まとい)の襟の部分を、生き馬(ボンボン)の目を抜くかのように、東郷は再び握りしめる!!

 その手を引き寄せ、白桜の体を背中が畳につくようにすると、東郷は瞬時に飛び起き、白桜の上に馬乗りの形になった!!

 左足の膝の部分に白桜の頭部が来るようにかがみこむと、東郷は左腕を白桜の左肩に巻き付けるようにしながら、肩越しに帯の後ろ側を握りしめる!!

 右手は白桜の左太腿を握りしめ、制圧(おさえこ)む技、横四方固の変化技である、崩横四方固を繰り出していった!!

 試合時間を刻むタイマーは、抑え込みの時間を1秒から数え始めており、白桜の敗北までの時間を刻一刻と刻んでいる!!

 

「…………………っ!? 重たっ!? いまの状況は……僕、制圧(おさえこ)まれてんじゃんっ!?」


おはよう(ち~す)ッ!! ぐっすり眠れたかッ!? もうぼちぼち試合は終わるッ!! じっとしているんだなッ!!」


「このっ!! No.41空蝉(うつせみ)―――」


 拘束から逃れるため、東郷と位置を入れ替えようとする白桜。

 右足を振り上げようとした瞬間、彼ははっとして動きを止めた。

 不意に頭に浮かんだある仮説が、白桜の技の発動を無意識に止めていたのだった!!

 

(あれ? 僕の左足、この禿頭(はげちゃびん)に持たれて浮いてるよね? この状態で空蝉を使うために右足を振り上げたら、また狙撃されない? あれ……? これって……)


「詰み、だな……ッ!! 残念なことになぁッ!?」


「っ!? え……僕、なんか負ける流れじゃん……このぉ"ぉ"ぉ"」


「ダハハハハッ!! そう気を落とすなッ!! 確かに才能自体は貴様の方が上だッ!! だが柔道はそれだけでは勝負は決まらんッ!! 体格差、経験値、駆け引きの巧みさ、事前の下調べ、その他諸々ッ!! 全ての総合値の元で勝敗は決するのだッ!!」


「ぐぎぎぎぎっ!!」


「ワシら廻偵高校がなぜにここまで、敵の高校の下調べを徹底するか知っているかッ!? それはだな……才能という理不尽な暴力を……ッ!! 理解(わから)らせるためだぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッ!!」


 逃れようと必死にもがき続けた白桜。

 だが彼の努力は虚しく終わり、試合終了の合図を告げるブザー音が鳴り響く―――!!

 勝者は東郷。

 制圧(おさえこみ)による一本勝ちで、白桜を相手に勝利を飾っていくのだった!!

 両者は畳から体を起こし、試合の所定の位置へと戻っていく。

 一礼して試合会場を後にしようとする白桜の元へ、会場2階の観客(パンピー)席から、罵倒(こす)り声が耳に入ってくるのだった。


「あぁ~やっぱ白桜は駄目だったか~」


「ま、怪我から復帰したにしては、よくやってる方じゃね?」


「だよな~来年に期待って感じかな~? ま、ここから崩れていくかもしんね~けどさ? いとほしい奴だなぁ~」


「……ちっ、あの観客(パンピー)……(つら)、覚えたぞぉ……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 白桜が(つら)を歪める中、その姿を2階の観客(パンピー)席から見守る一人の中年男性。

 小学生の頃の師であり、気落ちしていた彼の背中を押した八角(やすみ)の姿があった。

 弟子へと浴びせられる罵声(がな)りに、わずかに眉をひそめている。

 それでも口を挟むことなく、ただ静かに白桜の行く末へと思いを巡らせていた。


「やはり怪我の影響は、少なからず出ていますねぇ……あの小うるさい観客(パンピー)をワタシが黙らせることも出来ますが……それでは納得しませんよねぇ~……? 白桜君、今は耐える時ですよ―――!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 聖鏡高校の面々が控える場所へと戻って来た白桜。

 次々と労いの言葉が飛ぶ中、次戦に備えて体をほぐしていた狐塚が、いつもの飄々とした調子で声をかけてきた。


「白桜、(おつかれさま)や。汗拭いて、今の試合の反省会しときぃや。そんでどうやった? 同格から格上相手に使う風属性の技は? 考えることが多くて、頭の限界(きゃぱ)、すぐに超えたやろ? 余計な情報叩き込まれて、若干混乱(ウニ)っとったしなぁ」


「うぅ……狐塚先輩~……」


「ま、こういうのは慣れや。今はとっとと切り替えなはれや。来年やなくて来月、お前の力が必要になってくるやろうしな。あの黒い柔道着(まとい)の連中と戦うんやで?」


「……ん?」


「なんや、負けて察しが悪うなったんか? ウチはあの禿頭(はげちゃびん)には負けへんから、反省会しながら安心して見ときぃって言っとんのや」


 理解(わか)りやすく悄気(しょげ)ている白桜を励ますように、すれ違い際に左手で、白桜の頭を2度軽くたたく狐塚。

 主将同士の戦いに挑む彼は、先に待ち受ける東郷の元へと足を進めていくのだった。


「来たか狐塚ぁッ!! 1年前に決勝でお前に負けた屈辱ッ!! 今でも忘れておらんからなッ!?」


「……」


「積年の恨み……ここで晴らさせてもらうわッ!!」


「……」


「ぬぅ~……えぇいッ!! さっきから無視(しかと)するでないわッ!!」


「あ? なんや、よく聞いてなかったわ……すまんが、もう1回言うてもろてええか? えぇ~と……ウチに負けて悔しくて、家で落胆(ぱおん)しとった……やったっけ?」


「殺す……ッ!!」


 挨拶(あいつき)代わりに敵を煽る狐塚。

 人を食ったような言動に一色触発(チョキレス)の東郷は、額に青筋を浮かべ、さながら般若めいていた。

 審判の合図とともに、次なる試合が幕を開いていく!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 聖鏡高校柔道部北海道大会決勝戦副将

 高校生ランク39位 化狐 「狐塚幻翔(こづかげんと)

       VS

 廻偵高校柔道部北海道大会決勝戦中堅

 高校生ランク59位 鬼軍曹 「東郷平八(とうごうへいはち)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


開始(はじめ)!!」


「さぁ、きてみぃや」


「こぉ"ぉ"ぃ"い!! これより30秒間、No.82狂飆(きょうひょう)、並びにENo.82欺偽仮騙(ぎぎかへん)の使用を禁ずるッ!! 貴様の思うようにはさせんぞッ!! 狐塚ぁッ!!」


「なんや、幻術が嫌いなんか? 自信過剰(えんじろう)な割には名指しで封じ込めてきよって……必死になっとるとこ悪いけど―――」


 東郷の宣告によって幻術の類が封じられる中、狐塚は東郷の懐へと果敢に踏み込み、左手の手のひらを東郷の腹部へと押し当てる。

 同時に、東郷の腹部には氷で出来た紋章が刻まれ、あるはずのない弱点が強制的に付加されていく。

 No.68―――


冥氷(めいひょう)刻印(こくいん)―――!!」


「ぬぅ……ッ!?」


「……さっき天方が言うとったけどなぁ……ウチら、一芸だけの選手やないんやで? 得意技(おはこ)封じられてもなぁ……いくらでも戦い方はあんねんで……!!」

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