表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
白桜龍聖編
143/152

WATCHER・ソナムタン・鎮圧部隊包囲網

『団体戦はいよいよ中盤戦に突入しました。両校一進一退の攻防が続く中、現在は白桜(はくら)選手と東郷(とうごう)選手の一戦です。白桜選手は昨年秋、左膝前十字靭帯損傷という大怪我を負いましたが、見事に戦線復帰を果たしました。氷属性を主軸とした戦いに加え、新たに風属性を取り入れ、以前よりも完成度は高まっている印象です。ただ、気になる点を挙げるとすれば……やはり体格差でしょうか。太江(ふとえ)さん、いかがでしょう?』


『そうねぇ~……東郷選手との体格差は、体重でおよそ20キロ前後、身長も10センチ以上あるわね。ここまでの試合展開とは逆に、今度は白桜選手が押し切られる可能性も十分考えられるわね。それに……東郷選手はENoを絡めた攻防を得意分野(おはこ)としている選手。白桜選手には、これまで以上に冷静で柔軟な対応力が求められそうね。引き出しの多さに期待しちゃいましょ』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 自身より一回りも大きな相手へと、白桜は迷いなく挑みかかる!!

 小柄な体格を最大限に活かし、東郷の大木めいた太い両腕を紙一重で受け流しながら、その懐へと深く潜り込む。

 そして道着(まとい)を掴み、力を込めたその瞬間――白桜の直感が告げる。

 この相手は、自身の膂力でどうにか出来る相手ではないということを!!


「……っ!!」


(うぅ~わぁ~……!! なにこれ……電柱じゃん!? 技使っても動かせるのかなぁ……っ!?)


「うぉ!? 危険(やば)い!?」


「ぬぅ? 距離を取りおったか……!!」


 容易(ちょろ)く切り崩せる相手ではない。

 そう泣き言をこぼす暇もなく、東郷の右腕が白桜の道着(まとい)を掴み取ろうと伸びてくる。

 掴れたら最後、その腕力によって白桜の体は振り回され、形勢は一気に不利になるだろう。

 中学生(ちゅうぼう)時代、体格で勝る相手と幾度も相対してきた白桜は、その危険(やば)さを嫌というほど知っていた。

 だからこそ彼は、掴んだ道着(まとい)を自ら手放し距離を取る。

 経験に裏打ちされた判断で、仕切り直しへと持ち込んだのだった!!


「むぅ~……」


(正攻法じゃ無理っぽいよねぇ~……なら今まで通り、氷属性の技で弱体化させちゃお~っと)


「ENo.52―――!!」


「……げっ!?」


 白桜が巨漢と対峙する際に選ぶ戦い方。

 相手を直接ねじ伏せるのではなく、弱体化させ、その反応や動きを逆手に取り、力を利用して投げに転じる柔道。

 その戦術は、廻偵(かいてい)高校の選手であれば既に把握済みのものであった!!

 主将である東郷もまた、白桜の試合映像を幾度となく見返し、その戦い方を徹底的に頭へ叩き込んでいる。

 ゆえに彼は迷わない。

 出し惜しみをする理由はなく、最初から切り札を切るという選択に踏み切った!!

 試合会場を取り囲むように現れる、氷の兵隊。

 その冷ややかな視線は、戒めを破ろうとする者を逃がさぬ監視者(そなむたん)めいており、ひとたび逆鱗に触れれば、即座に死体(ほとけ)になることを雄弁に物語っている。

 死戒(しかい)を発展進化させた、彼だけの技。

 ENo.52―――


第7師団(だいななしだん)破戒鎮圧隊(はかいちんあつたい)』ッ!! さぁ、これよりノルマを課すぞッ!! 時間は10秒ッ!! 足技は2回だッ!!」


 猛々しい東郷の号令に呼応するように、試合会場を取り囲む氷の兵隊が一斉に動いた。

 氷で形作られた銃の銃口が、冷然と東郷と白桜へと向けられる。

 常軌を逸したその光景に、白桜は首を左右に振り、視界に映るすべてを脳裏へ焼き付けた。

 そして、大会前に開かれた、聖鏡(せいきょう)高校柔道部の部室で行われたミーティングの内容を、記憶の底から引っ張り出すのだった!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『それじゃ、ミーティングを始めるぞい。廻偵高校の要注意人物である東郷平八(とうごうへいはち)。こいつは廻偵高校の主将であり、ENoの使い手でもあるぞ』


『え~? 現実(マジ)で~? 狐塚(こづか)先輩と天方(あまかた)先輩以外にもいるんだ、北海道の柔道選手で』


『まあ、白桜が驚嘆(バビ)るのも無理はあらへんやろな。ENoは使い手が極端に少ないし、実際に相対する機会もそうそうあらへん。そんでもって、あの禿頭(じゃくろ)のENoはまあまあ面倒(ウザ)いで?』


『えぇ~どんな感じ?』


『せやな……簡単に言うたら、進化元の技……No.52死戒の強化版っちゅうところやな。死戒が禁止事項を設定する技やとしたら、東郷のENo.52第7師団『破戒鎮圧隊』は、両者に達成すべきノルマを課す技や』


『……え? 何それ?』


『何秒以内に、指定した動作をせえっちゅう感じやったはずや。達成できひんかったら、周囲を取り囲む氷の兵隊に狙撃されて喪神(のび)る。そうなった時点で、実質一本負け(くたば)ったのも同然やな』


『えぇ!? 何それ!? ブラック企業みたいな技じゃん!! 理不尽反対~!!』


『ウチに怨言(ごて)てもしゃ~ないやろ……ええか、白桜。使われたら、指定されたノルマはさっさと達成するんや。せやないと、時間が過ぎるごとに取れる選択肢が、どんどん削られていくさかい』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ダハハハハッ!! 逃がさんぞ新入生(ちゅぼうあがり)ッ!! 大人しく組み合わんかッ!!」


 血走った眼で白桜を視界に捉え、距離を詰めてくるその姿は、さながら脱走兵を力ずくで引き戻す鬼軍曹めいていた。

 制限時間が刻一刻と迫る中、白桜は自身に課されたノルマの消化に踏み切る。

 中途半端(なまじっか)な技を選べば、即座に返され、一本負け(くたば)ってしまうだろう。

 白桜は己の右足に冷気を纏わせる。

 左手で敵の道着(まとい)の襟を掴み、右手で敵の左袖を引き寄せると同時に、ハンドルを右へ切るように体を捻る。

 そして右足を、東郷の左足――脛の一点へと当て、そこを支点に一気に払い上げた!!

 支釣込足の強化技、No.16樹氷倒(じゅひょう)し。

 白桜の右足と接触した瞬間、東郷の左脛には重りめいた氷塊が絡みつき、その機動力を確実に奪っていく。

 そしてそれは、白桜も同様であった!!


「……っ!? そっちも!?」


「ダハハハハッ!! 一応氷属性の選手でなぁッ!? 当然習得しておるわッ!!」


 偶然の一致(おそろっち)吃驚仰天(おったまげ)!!

 差し違えるように東郷もまた、氷属性の足技、樹氷倒しを放っていたのだった!!

 右利きである東郷の一撃は、白桜の右足を正確に捉える。

 白桜は、右足に氷の枷を嵌められた形となった。

 この氷は時間経過でしか解けない。

 ひとたび食らえば、ただ耐え忍ぶほか術はない。

 最悪(げろげろ)そうに(つら)を歪ませる白桜。

 だが、怨嗟(ぶーたれ)ている暇はない。

 会社員(しゃちく)めいた覚悟でノルマ達成へと動き出す――その刹那、先に牙を剥いたのは東郷だった!!

 右手を白桜の後ろ襟の直下へと回し、そのまま抱き寄せるように強く引き付ける。

 同時に、己の右足を炭化させ、体を左へと旋回。

 畳をマッチ箱の側薬めいて使い、炭化した右足を摩擦によって着火させる!!

 そして、その勢いのまま、白桜の股下へ差し入れた右足で、左内腿を力任せに払い上げていく!!

 内股の強化技、No.64内股炭木薙(うちまたすみきな)ぎによる一撃で、試合を決めにいくのだった!!


「や"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"……むぅッ!?」


(技に手ごたえがない……なるほど、蜃気楼(しんきろう)かッ!!)


 輪郭を失った白桜の左足が、東郷の内股をすり抜けていく。

 己の肉体を透過させることで、敵の猛烈(はんぱな)い一撃を紙一重でやり過ごした少年は、そのまま宙を泳ぐ左足で、畳を強く踏みつけた!!

 それを合図としたかのように―――

 白桜と東郷、2人の体を包み込む翠色の風が渦を巻いて発生する。

 巻き上がる気流は一瞬で視界を塗り潰し、次の瞬間――互いの立ち位置を、音もなく入れ替えていくのだった!!


「これは空蝉(うつせみ)か……ッ!? 風属性の技、新たに習得した技かッ!! えぇい、次から次へと矢継ぎ早にッ!! 怪我をしてから、ますます狡知(あざと)くなりおったなッ!! 大概の選手は怪我で弱体化(だいがし)するものなのだがなッ!?」


「へっへ~んだっ!! 僕が弱体化(だいがし)? するわけないでしょ!! どんだけ僕が地獄(へるへる)を見てきたと思ってんだよ……!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『スポーツ選手の怪我なんてさ、ほとんど死刑宣告同然なのにな? なにをそんなに必死になってんだかねぇ……時間の無駄じゃね?』:


『柔道やってる連中の気が知れねぇよ。あんな無様(ダッサ)い掛け声上げながらさぁ~? やぁ~!! やぁ~!! くっくっく……!!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 冷笑系と呼ばれる人間が多くはびこるこの時代。

 天才と呼ばれる白桜も、当然その例外ではなかった。

 怪我による離脱、長いリハビリの最中、彼は幾度となく心無い言葉を浴びせられる槍玉(うしろゆび)を受け、そのたびに胸を締め付けられてきた。

 思うように動かぬ体に苛苛(あったま)り、焦燥(あせあせ)に身を焼かれた日々。

 復帰のため、血反吐を吐くほどにもがき、歯を食いしばり続けた時間が―――

 確かに白桜を、以前よりも精悍(ごつ)く成長させていたのだった!!

 東郷に背を向ける形で位置を入れ替えた白桜は、その場で弧を描くように左足を走らせる。

 続いて体を左へと捩じり、振り向きざまに氷で形作られた針めいた物体を、東郷の左肘へと正確に撃ち込んだ!!

 No.28雹針(ひょうしん)

 この技によって、氷針を打ち込まれた左肘は、どれほど力を込めようとも、真っすぐに伸びきったまま微動だにしない。 

 先手を取った白桜は、間髪入れず次の一手へと移る!!

 左手で東郷の前襟を狙い定め、道着(まとい)を掴み取るために刺し伸ばす。

 応戦しようと、東郷は右手でその腕を払いのけようとするが―――

 彼の体は、石に躓いたかのようによろめき、力を込めるはずの腕に、思うような力が宿らなかった!!


「むぅ……!!」


(右足を刈らんとする風の刃……No.25〆颪送払(しめおろしおくりばら)いかッ!? あの左足で弧を描いた時かッ!! 時間差攻撃とは鬱陶しいやつめッ!!)


 東郷の体勢を崩しつつ、足技2回のノルマを達成した白桜。

 追撃をかけるべく、氷属性最強の技――No.90月下氷刃(げっかひょうじん)を放とうとするも、寸前のところで踏みとどまる。

 長年積み上げてきた経験と勘が、大技の使用に待ったをかけたのだった。


(思ったより体制崩れてないっぽい? ……この状態で月下氷刃使っても、効果は薄そう……ってかこれ―――)


「全体的に火力不足……みたいだなッ?」


「っ!!」


「ちょろちょろと動き回ってはいるが、大技に移行するための崩しがイマイチ……さしずめ怪我による出遅れ、体がまだ仕上がり切っておらん……そういうところかッ!?」


「さ、さぁ~?」


「ダハハハハッ!! いずれにせよ、答えはじきに理解(わか)るッ!! さぁ……制約を課すぞッ!!」


「……え? それって―――」


 廻偵高校の選手が、戦いの主軸として据えている技。

 No.52死戒。

 再三振り回されてきた戒めの始まりを告げる、古本の一頁が、畳へと静かに舞い落ちる。

 呪われた畳、そして周囲を取り囲む無数の氷の兵隊。

 これからニ重のルールが課されることになる――その事実に、白桜は無言(ロム)ったまま、東郷へ抗議の視線を向ける。

 だが、その訴えを東郷は豪快に、そして無慈悲(さんぶんてき)に踏み潰した!!


「聖鏡高校の人間は頭がいいのだよなッ? ならば、ワシが追加するルールにも、即座に対応してくれるのだよなッ!? ダハハハハッ!! 頭脳派集団よ、期待しているぞッ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ