表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
白桜龍聖編
142/152

PARROTING・ケモノヘン・稀代の食わせ者

 もしこの場に、ものまね芸人チョコレートバースデイの曽根田がいたならば、観客(パンピー)席でただ1人、スタンディングオベーションを送っていたであろう。

 模倣(おっかぶ)せ、さらに進化させる――その独自の戦い方の真価を、天方(あまかた)は今まさに発揮していた!!

 手札を無限に増殖させていくその男は、場の空気を制するかのように静かに宣言する。

 これから両者に等しく課される、決して破ることのできない戒めを―――


「これより30秒間、畳1畳以上の距離を取ることを禁ずる……これで合ってるんだっけ~?」


「こやつ……やつがれの真似を……!! 鸚鵡男(けものへん)が!!」


「ん~? まだ宣言が終わってないんだけど~? 2()()()―――これより30秒間、静止することを禁ずる~」


「………………っ!? 2()()()、だと……」


 本来、死戒(しかい)で課すことのできる制約は1つのみ。

 だが天方が模倣(おっかぶ)せ、さらに進化させたその技は、オリジナルの限界を軽々と踏み越えていた!!

 彼が封じたのは、移動できる距離と、待ちに徹するという行為。

 そこから導き出される天方の狙いは―――


(やつがれとの殴打(どつ)き合いを所望か……!! 会場全面が毒畳となっている以上、互いに長期戦という選択肢はない。だが、体格(ガタイ)はこちらが貧弱(しょぼ)い……)


 手を伸ばせば互いの道着(まとい)に届く、逃げ場のない間合い。

 マグロめいて動きを止めることは、一本負(くたば)るに等しい状態に置かれた2人。

 狭い空間を絶え間なく動き続けながら、毒畳に蝕まれる身体で、両者は次なる一手を探り合う。

 自らの技を逆用され、否応なく窮地へと追い込まれていく風間(かざま)

 天方が攻撃を誘っていることには薄々気づきながらも、決定的な打開策を見い出せずにいた。


(先に手を出させたいのだろうな……何か策があるのは明白。ならば、その策ごと先んじて封じるのみ……!!)


「これより30秒間、やつがれより後に技を使用することを禁ずる!!」


「……お?」


(流石に誘っていることには気づいたか~……要するに、俺に先手を打てってことだよね~? でもこれ……俺に好都合(かうま)なんだけどさ~どこまで読まれてるんだろ~……? ……ま、利用しない理由はないよね~)


 相手の思考を読むには、その深さを揃える必要がある。

 でなければ、過度な読み込みが裏目に出る――駆け引きの難しさは、まさにそこにあった。

 互いに刀の鞘へ手を添え、斬りかかる瞬間を量る天方。

 その均衡が破れる時は、風間の宣告から、ほんの数秒後に訪れる!!

 天方は風間の両手を振り払うと、後方へと飛び退き、畳一畳分の距離を確保した。

 攻撃の気配を察した風間が身構える、その一拍すら与えず――

 天方は、彼にしては珍しく、周囲にまで届くほどの声で、ある男の名を叫ぶ!!


金田一(きんだいち)監督~そろそろやるよ~」


 その一声を合図に、天方のギアが一段階引き上げられる。

 両脚に雷を宿し、爆発的な加速で一気に距離を詰め、風間の道着(まとい)を掴みにかかる。

 勢いを殺さぬまま左脚を股下へと差し込み、地を這う稲妻を走らせる。

 その軌跡をなぞるように、敵の左足――踵の裏を刈り取る、No.40稲妻刈(いなずまが)りを―――


「No.9影踏(かげふ)み!!」


 天方の左足が、風間の左足へと触れようとした、その刹那。

 風間の右足が畳を―――天井のライトに照らされ、長く伸びた天方の影を、正確に踏み抜いた!!

 次の瞬間、天方の両足は金縛りめいて硬直し、その場へと縫い止められる!!

 1秒にも満たない、ほんの僅かな拘束。

 しかしその影響は決定的であり、天方の放った稲妻刈りは、不発に終わった。

 互いに道着(まとい)を掴み合ったまま、仕切り直しとなる両者。

 だが、貼り付けにされたままの天方に、ここで致命的な不都合が生じる。

 彼は模倣(おっかぶ)せた技によって、30秒間――静止することを禁じていたのだ。

 自らが定めた禁忌に、自身が触れる。

 この瞬間、天方の身に訪れるものとは何か。

 その答えは―――


「……勝機と見たり―――!!」


 禁止事項を侵さぬように、天方の上半身が、意思に反して不規則に揺れ始める。

 右へ、左へ―――そして次の瞬間、風間の方へと、上体だけが前のめりに崩れ落ちていった!!

 訪れた好機を逃すまいと、風間は即座に反応する。

 体を反時計回りに回転させ、背に担ぎ上げる形で投げ飛ばすべく、全身を捩じるのだった!!


(このまま投げ飛ばさせてもらおう……!! しかし、先ほどの奇行……監督の名を呼んだ件が引っかかる。罪炎(ざいえん)の時も同じだ。あの合図と同時に戦い方が変化しているのは、偶然とは考えにくい……むっ? 拘束が解けたか……だが、自護体を取る素振りは……ない? ならば―――行うことは1つ……!!)


 影踏みによる短い拘束が解けた直後、投げを避けるために自護体という防御姿勢を取る――それが本来の定石である。

 しかし天方は、そのセオリーから明確に逸脱した行動を選び取ろうとしていた。

 風間の体が回りきる、その寸前。

 天方は左足で畳を――いや、風間の足元から伸びる影を強く踏みしめ、逆に彼の動きを拘束せんとする!!

 だが、その一手すら、風間の想定の内だった。

 幾度となく己の技を模倣(おっかぶ)されてきた彼は、すでに学習を終えている。

 拘束されるよりも早く、背負い投げによる一本勝ちを狙い、迷いなく踏み込んだ!!


(影踏みの模倣(おっかぶ)せ……だが牛歩(とろ)い!! すでに背中には、やつの体が乗っている……仮に拘束されたとしても、背を向けた状態からの返し技は、裏投げなどを除けば数えるほどしかない。技を使用した後の硬直時間を計算しても―――)


失敬(ちぃ~す~)


「っ!?」


(もう目の前に回り込んでいる!? 技を使用した後の硬直は……? ……やつがれの足が、動く? ……拘束されていない!? 馬鹿な……影踏みを模倣(おっかぶ)したはずでは……)


模倣(おっかぶ)せはさ~、あくまで手札を増やす手段なんだよね~それを必ず使わなきゃいけないルールもないし~手札を作った上で、使わずに廃棄(ちゃり)することだって、普通にあるでしょ~?」


「……っ!! ブラフ……!!」


「読み合いしたいのは理解(わか)るけどさ~……ウチらの高校相手には、さすがに無謀じゃないの~?……やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


「一本ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ん!!」


 非常な決着、覆水不返(おそかりしゆらのすけ)―――

 担がれた状態から上体を強く捩り、背負い投げが完成する直前で体勢を切り崩した天方。

 その反動を殺さぬまま風間の前方へ回り込み、道着(まとい)を掴み取る。

 同時に左足を走らせ、風間の両足を薙ぎ払い、その背を畳へと叩き伏せた!!

 あえて模倣(おっかぶせ)せた技を用いず、相手の読みを根底から欺瞞(あやか)す――天方の一手である!!

 この勝利により2連勝。

 聖鏡高校は、団体戦のリードを奪うことに成功したのだった!!


「……………」


(あぁ~疲れた~……模倣(おっかぶ)せる技、燃費が悪すぎるんだよね~……次、誰だっけ~? 東郷? ……うっわ、この状態で~? はぁ~……しゃ~ないな~もう少しだけ、頑張(きば)ってみるか~……)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


「うわ~」


「一本ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ん!!」


 天方の次なる相手は、廻偵高校の主将にして、団体戦の中堅を担う東郷(とうごう)である。

 闘志をむき出しにした雄叫びが会場に轟き、審判は勝敗を告げるべく右手を高く掲げた。

 一礼を済ませ、天方は静かに試合会場を後にする。

 出迎えたチームメイト達の視線はどこか冷ややかで、言葉を呑み込んだままの金田一監督が、慎重に選んだ言葉を胸に秘めつつ、天方へと歩み寄ってきた。


「先ずは……2連勝、よくやったぞい」


感謝(あざっす~)


「それと……のう天方よ」


「……はい~?」


「……今の試合、もう少し粘れんかったのか?」


「……いや~……模倣(おっかぶ)しの連発でぇ~……正直、もう動けなかったっすね~……」


「…………そうか」


 目を閉じ、俯いたまま動かない金田一。

 頬を引きつらせた天方は、申し訳なさを滲ませながら、主将である狐塚(こづか)の隣に胡坐をかいて腰を下ろした。

 何も語らぬ狐塚の沈黙(スフィンクス)が、その場の空気をより重くしており、2連勝を挙げて戻ってきた選手とは思えないほど、天方の表情(つら)には焦燥(あせあせ)の色が浮かんでいた。


(うっわ~……瞬殺されたせいだなこれ~……前の監督だったら、絶対怒号(どや)されてたわ……理性のある監督で助かった~)


「ふっふん~!! みんな安心してていいよ!! 天方先輩の仇は僕が取ってくるからさ!!」


「俺まだ昇天()ってないんだけど~? ってか白桜、相手は東郷だけど大丈夫なの~? 無礼(なめ)て勝てる相手じゃないんだけど~」


「えぇ~? 天方先輩こそ僕のこと無礼(なめ)てない!? だって僕は―――」


()()()()()()()()()()()()()をやった上で、勝ち切れるのかって聞いてるんだけど~?」


「うん? う~ん……まあ、大丈夫でしょ!!」


 根拠のない自信に突き動かされ、準備(スタンバ)っていた白桜は、意気揚々(イケイケ)で戦場へと足を踏み出す。

 聖鏡高校、廻偵高校――次に畳へ上がるのは、いずれも団体戦の中堅を任される者同士。

 すでに2敗を喫している両校にとって、この1戦は流れを引き戻すための、まさに背水の勝負であった。

 勝敗ひとつで空気が一変する攻防の只中へ、満を持して白桜が挑んでいくのだった!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 聖鏡高校柔道部北海道大会決勝戦中堅

 高校生ランク27位 白龍 「白桜龍星(はくらりゅうせい)

       VS

 廻偵高校柔道部北海道大会決勝戦中堅

 高校生ランク59位 鬼軍曹 「東郷平八(とうごうへいはち)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


開始(はじめ)!!」


「こぉ"ぉ"ぉ"ぉ"い!!」


「ダハハハハッ!! いい表情(つら)構えだッ!! 始めようじゃないか、なぁ天才ッ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ