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YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
青桐龍夜編
14/139

CRONY・サンコイチ・止まった歯車

友との再会を素直に喜べず―――

懐かしき日々を羨むことになったとしても―――

君は柔道が楽しいか?

 2020年10月19日月曜日。

 蒼海大学付属高等学院の教室内は、青桐への質問攻めで騒然としていた。

 机の周りには女子生徒が押し寄せ、矢継ぎ早に言葉を投げかけている。

 あまりの勢いに、止めに入った石山まで巻き込まれ、もみくちゃにされていた。


「ちょ、みんな落ち着くばいっ!!」


「ねえ、青桐君!! 一緒に登校してたあの色男(まぶろく)って誰!?」


「青桐君の友達(ダチ)!? 連絡先(けいばん)知りたいよ~~!!」


「…………………」


(ちっ……うるせぇなぁ……元凶の隼人の野郎、1発ぶん殴りたくなってきたんだが?)


「よう龍夜(りゅうや)!! ちょっと聞いてくれよ、行く先々で(アマ)に……」


「「「「きゃ~~~~!!」」」」」


「うわっ!? ちょ、タイムタイム!!」


「……青桐君、あの黄色(きな)い声に囲まれてる人は……?」


「……俺の幼馴染の草凪隼人(くさなぎはやと)


「幼馴染!? 青桐君の!?」


「あぁ。鈴音(すずね)3人(サンコイチ)でよく稽古をしてたんだよ。小学生(ガキ)の頃かな。中学は別だったから3年ぶりか?」


「ばり優男(いろおとこ)たい……」


「そうだな……本当(ガチ)(ツラ)だけは良いよ」


「お、なんだ? 俺の話? いやいや赤面(てれ)るね~!!」


「……お前さ、この高校に来るなら何で言わなかったんだよ。音信不通にもほどがあるだろ」


「悪いって!! ……いや、俺はさ、ちゃんと4月に入学する予定だったんだぜ? なのに手続きが間違(ミス)ったって話でちょっと揉めててさ……んで、それら諸々が解決するのが今の時期だったって話」


「んだよそれ……もう10月も終わるんだぜ? 変じゃねぇのそれ」


「そうなんだよなぁ~……詳しく聞いても教えてくれないしどうなってんだかね。うん?」


「ねえ、話があるんだけど、彼女(すきぴ)はいるの?」


「名前は? 部活は何をやってるの!?」


「ちょ、龍夜!! この(スケ)達どうにかしてくれっ!!」


「知らねぇよ。お前足速いだろ? 走って逃げろよ」


「お、おい!! 見捨てるなよっ!? ぐぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?」


「あ、青桐君、あの人大丈夫と……?」


「大丈夫大丈夫、いつものことだから。それに……石山も慣れてた方がいいぞ、アイツの扱い方には」


「え?」


「アイツ、柔道部に入部するってよ」


ー-------------------------------


こんにちは(ちぃ~す)!! 自分、草凪隼人(くさなぎはやと)と申します。青桐君の親友(マブダチ)ですっ!! 今日から皆さんと共に練習していきますので、よろしく熱望(おねがいしゃっす)!!」


 放課後の道場内。

 部員達の視線が集まる中、草凪が簡単な自己紹介を行う。

 はっきりとした口調と柔らかな笑顔で頭を下げる彼に、部員達は好印象を抱いていた。


「ほ~う、青桐の親友(ダチ)にしては明るくていい奴そうだなっ!!」


「良い風が吹いているな。それで……外の女子生徒(えびちゃしぶき)達は?」


「えーと……俺のファンですかね」


「わりぃ草凪、さっき言った事はなかったことにしてくれ」


「風向きが変わったようだ」


「ちょっとちょっと!? 勘弁してくださいよ~先輩~」


 砕けた空気、太平楽(たのぴっぴ)

 入部早々に、先輩である木場(きば)花染(はなぞめ)にいじられる草凪。

 緩んだ空気を引き締めるため、井上(いのうえ)監督は拍手を数回する。


「おっし、そろそろ切り替えていくぞ。新たな仲間(ダチ)が加わったが、同時にレギュラー争いも熾烈になると思うことだ。彼の階級は81㎏級、木場と同じ階級だな」


「ほ~う……俺と同等(タメ)ねぇ」


「他の人間も来年のインターハイに向けて、自分を磨き上げていくように。それじゃ今日も博多駅に行くぞ」


 井上監督の指示に従い、部員達は荷物をまとめて道場から移動を開始した。

 行き先の見当がつかない草凪だったが、とりあえず周囲に足並みを揃えながら歩を進める。

 やがて博多駅から続く地下(いたばした)の修練場が見えてくると、かつての青桐達と同じように、彼も吃驚(ギョッティング)表情(ツラ)を浮かべた。

 そんな中、地下(いたばした)で待機していた飛鳥は、見慣れない顔ぶれが混じっていることに戸惑いの色を見せる。


「みんな待ってたよ。それで……その子は?」


こんにちは(ちぃ~す)、自分、草凪隼人と申します。本日転校してきたものです。これからよろしく熱望(おねがいしゃっす)


「あ、そうなの? 僕は飛鳥国光(あすかくにみつ)って言うんだ。この施設の管理人みたいなものだね。よろしく。それじゃ早速特訓しようか」


「はい、よろしく熱望(おねがいしゃっす)!! ……おい龍夜、何で命綱つけてんだよ。それに他の先輩達も」


 青桐を筆頭に、花染、木場、伊集院、石山らによって、草凪の体に命綱や安全器具が次々と装着されていく。

 唐突な状況に戸惑いを隠せない彼は、されるがままのまま、周囲をきょろきょろと見渡すことしかできなかった。


「よし行け隼人」


「どこにだよ。おい龍夜、俺今から何すんの?」


「今からあの綱を登れ」


「は? ……何mあるんだアレ」


「1000m」


「……はっ!? 1000m!? 馬鹿(パー)かお前っ!?」


「あ~いいよその反応。もうみんな見飽きてるから」


「ちょ、は!?」


「ゴチャゴチャうるせぇなぁ……さっさと逝って来いよ、ほらさぁ!?」


「お前、ぐぅ……うぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!!」


 一通りの器具が装着された草凪。

 周囲からの突き刺さるような視線に根負けし、彼は覚悟を決めてロープを全速力でよじ登り始めた。

 消耗(へば)る前に一気に登り切る作戦だったが、高度が増すごとに徐々にペースが落ちていく。

 そして、かつて青桐が到達した高さ――約30メートル付近に達した瞬間、彼の動きは完全に停止してしまった。


「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


「……数か月前の青桐みてぇだな」


「この風には既視感があるぞ」


「0割0分0厘、地球が滅びる確率で、1000m達成するのは不可能ですね」


「うわぁ……大変そうばい……」


「おら隼人っ!! 恐怖(いもひい)てんじゃねぇぞ!? あ"ぁ"!? キリキリ登っていかんかいっ!! そんなんだからお前はいつまで軟弱(ヘタレ)なんだぞ!?」


「がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


(龍夜の野郎、本気(ガチ)で好き放題言ってんなぁ!? あれ、おかしいなぁ!? 俺、アイツの力になるためにここに来たんだけど!? 何でこんなにいびられてんのっ!?)


 折角の端整な顔立ちが台無しになるほど、苦悶の表情(ツラ)を浮かべる草凪。

 両腕はとうに限界を超え、意思とは裏腹に指が開いていく。

 次の瞬間、数十メートル下へと垂直落下。

 かつての青桐と同じように、情けない悲鳴が修練場に響き渡った。


「ぎゃぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


ー--------------------------------


 地下(いたばした)修練場での練習を終え、現地解散となる蒼海高校の面々。

 今日が初参加だった草凪は、赤く腫れた目を擦りながら、震える四肢を引きずるようにして歩く。

 その後ろを、青桐、伊集院、石山が並んで歩いていた。

 生まれたての小鹿めいた足元がおぼつかない彼を、無事に帰らせるための護衛役といったところだ。


「龍夜ぁ……これ、毎日やってるの……?」


「ああ」


「なんでそんなに動けんの……?」


「慣れたから。2人もそうだろ」


「9割9分9厘、以前よりはな」


「前は歩くのも苦労したばい」


「おぉ……()ねぇ……俺はもうダメみたいだぜ……へへっ」


「お前なぁ……なんか昔もそんな言葉聞いたぞ? 鈴音(すずね)にどやされたろ、お前」


 今、この姿を追っかけの女子生徒(えびちゃしぶき)達が見たら、きっと幻滅して去っていくだろう。

 そう思わずにはいられないほど、草凪は騒がしく取り乱していた。

 その様子を静かに見つめる青桐。

 変わらない彼の言動は、青桐の記憶の奥深くに眠る過去を、鮮やかに呼び覚ましていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『龍夜、鈴音、ちょっと入店(ビニ)ろうぜ?』


『ん~買いたいものないからパス。龍夜は?』


『俺も別にいいかな』


本当(マジ)かよ……理解(わか)ったよ、俺一人で行って来るから勝手に帰んじゃねぇぞ!!』


『あぁ~……行っちまった』


『ワタシを待たせようなんていい度胸してるわねアイツ……明日の練習で念入りに柔道()ってやるわよ』


『おいおい……アイツ死んじまうぞ? 柔道()るならちゃんと加減しろよ』


『当然よ!! あ、龍夜も覚悟しなさいよ。アンタ今日の片づけ忘れてたでしょ?』


『あ? あ……』


『ワタシが全部やっておいたから良かったものの……あぁ~明日が楽しみねぇ!!』


『……了解(うぃ~す)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(3人でよく(べしゃ)りながら帰ってたなぁ……2人で盛大にやらかして鈴音に逆上(キレ)られて……今ここに鈴音がいたら、何て言ってんだろな)


 ぼんやりと立ち尽くしていた青桐。

 そのせいか、通行人と肩がぶつかった。

 咄嗟に謝るが、目の前の人物は無言のまま、古びた黒のコートを翻しながら赤い瞳を細める。

 光を宿さぬその眼差しが、青桐を鋭く射抜いた。

 一瞬で鳥肌が立つほどの異質な気配。

 伊集院、石山、草凪も、同じ不気(インタルゲーション)(マーク)を感じ取ったのか、場の空気は次第に張り詰めていった。


「……君が青桐龍夜だな」


「そうですけど……なんか用すか?」


「俺は刑事(デカ)九条大助(くじょうだいすけ)だ。警視庁(さくらだしょうじ)で働いているものだが……今日は君に用事があって探し回っていた」


刑事(デカ)? 俺に?」


「落ち着いて聞いてくれ。夏川鈴音(なつかわすずね)事件(ヤマ)なんだが……あれはどうも計画的な犯行だったらしい」

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