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YAWARAMICHI  作者: ウィリアム・J・サンシロウ
青桐龍夜編
12/139

STUBBORNNESS・キタムキ・ちっぽけなプライド

持たざる凡人は勝つことが出来ず―――

ただただ他人の踏み台になり続けたとしても―――

君は柔道が楽しいか?

 意外な来客、吃驚仰天(おったまげ)―――

 柔祭り最後の相手。

 それは、昨日の昇格戦で青桐(あおぎり)と共に戦った男、不死原(ふじわら)であった。

 青桐達の足を引っ張り続けていた彼が、今再び青桐の前に立ち塞がる。

 場内へと足を踏み入れ、目の前の敵を冷ややかに眼光人(メンチ)()る青桐。

 一方の不死原は、昨日までの頼りなさが嘘のように、腹を括ったような表情(ツラ)で青桐を静かに見据えていた。


「……また足を引っ張りに来たのかよ、不死原(ゼニゲバコバンザメ)……!!」


「んだよ、そんなに睨むなよ。赤面(てれ)ちまうじゃねぇか」

 

「何考えてんだか知らねぇが、テメェが5人目ならよぉ……全力で柔道()らせてもらうからな?」


 柔祭りの最後の試合が始まる。

 審判の声を聞くや否や、一気に距離を詰める2人。

 互いに道着(まとい)を掴むと、自分の体へと引き付けるように、握りしめた道着(まとい)を手繰り寄せていく……!!


(瞬殺してやんよ。この前の戯事(ちょけ)た言動を後悔させて……)


「……あ"ぁ"!? んだよ、この……馬鹿力はぁ"!?」


 敵を引き付けるため、両腕に力を込める青桐。

 だが敵の体は、巨大な岩石めいてビクとも動かない。

 そればかりか、青桐の体の方が不死原の元へと引き寄せられていくのだった!!

 

(この不死原(コバンザメ)、先週はクソ貧弱(しょぼ)かったじゃねぇか!? たった一週間で精悍(ごつ)くなりすぎてんだろ!? ……コイツまさか)


「テメェ……ドーピングでもしたのか!?」


「……」


 無言の返答で大方の察しがついた青桐。

 両腕に力を込めながら深くため息を吐くと、目前の不死原へ吐き捨てるように啖呵を切っていく。

 

「…………不正(はつめき)しても勝てねぇってことを理解(わか)らせてやんよぉ!! おらぁ"ぁ"ぁ"!!」


 不死原の煮え切らない態度に、ついに堪忍袋の緒が切れた青桐。

 夜空に響く雄叫びとともに、腕だけでなく両脚にまで力を込め、畳を蹴って大きく動き出す。

 会場を広く使い、圧倒的な力で不死原を引きずりながら、わざと上体を傾け、自らの体重すら武器として相手の体勢を崩しにかかる!!

 しかし……


「……!?」


(この野郎……腕力だけで俺の動きを止めやがった……!! クソゴリラがっ!! あ"ぁ"!? コイツ……!!)


「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」


 硬直したように動かなくなった青桐。

 力ずくで拘束する不死原は、必死の形相で白雲を生み出し、その隙に紛れ込ませた右足で青桐の両脚を横薙ぎに刈り取る。

 それは青桐が常々に繰り出すNo.14の足技、八雲刈(やくもが)り。

 練度では到底及ばないものの、荒々しい力任せの一撃が、青桐の体を無慈悲に宙へと弾き飛ばしていく!!


不覚(やっべ)っ……!! 畳に背中が……)


 背中から畳へと強く叩きつけられる青桐。

 審判の判定は一本には至らなかったものの、不死原に技ありが与えられた。

 同時に静止(まて)がかかり、試合は一時中断。

 青桐は乱れた道着(まとい)を整えつつ、再び試合開始位置へと歩を進める。

 対峙する不死原も元の場所へと歩を進め、依然として油断なく構え続けていた。

 青桐は決意を込めて息を吐くと、全身に華麗(マブ)い清水をまとわせる。

 その瞬間、乱れていた呼吸が徐々に整い始め、動きの精度が増していった。

 それは体力が徐々に回復し、技の隙を減らす水属性の技。

 No.80―――


「青桐、それは……静謐(せいひつ)(かま)えか……!?」


「あぁ……習得したての技で、あんま使いたくねぇんだけどよぉ……特別に見せてやんよ……!!」


開始(はじめ)っ!!」


 青桐の動きが明らかに一段階引き上げられた!!

 繰り出される足技は無駄がそぎ落とされ、反撃の隙が目に見えて減っている。

 連戦の疲労で肩で息をしていた姿はもはや過去のもの。

 時間の経過とともに呼吸が整い、青桐の動きは研ぎ澄まされていく!!

 その様子を前に、不死原の表情には焦燥(あせあせ)が滲み始める。


(クソ……!! 薬物(ヤク)使ったって言っても、アイツが疲労(ヘバ)ってたからどうにかなってたのに……!! これじゃ目論見が台無(パー)じゃねぇかよ!! 俺が使えねぇ技を軽々使ってきやがって……!! あんなに練習しても使えなかった技なのに!! 八雲刈りですらまともに使いこなせてねぇのに!!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『はぁ……はぁ……!! クソが……!! また1回戦負けかよ……!! 俺ってこんなに貧弱(しょぼ)かったのかよっ!?』


『うわすげぇ!! 青桐のやつ、瞬殺だぜっ!?』


『やっぱアイツ(パな)いわ~対戦相手が子供(ジャリ)扱いじゃんかよ』


『言ってやるなよ? あの不死原が可哀そうじゃん』


(……クソがっ!! どいつもこいつも無礼(なめ)やがって……!! 俺だっていつか、アイツをぶん投げてやるよ!!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『また1回戦負け。こんなはずじゃ……』


『おぉ!! 黒城(こくじょう)、あのデカブツ倒しやがった!!』


『アイツ、頭悪いのに柔道は精悍(ごつ)いんだよなぁ~!!』


『いいよな~俺もあのくらい戦えたらなぁ~』


『……クソが。俺だって……俺だって……!!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『……んで結果が出ねぇんだよ。練習してんのに、なんでなんだよ……アイツらと何が違ぇんだよ!?』


『なあ聞いたか? 白桜(はくら)ってやつ』


『あぁ。アイツ中学生(ちゅーぼう)なのに、高校生ランクの95位の奴を投げたって』


『うっひゃ~とんでもねぇ天才が出て来たなぁ!?』


『…………まだだ、まだだぁ……!!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


赤神(あかがみ)さん、高校生ランク1位になったんだって』


『え? まだ1年生(ちゅーぼうあがり)だろ!? うわ~……(パね)ぇなぁ~俺達とは物が違うっていうか』


『だよな~インタビューの受け答えもしっかりしてるし、男としてカッコいいよなぁ~』


『なぁ~……あ、謝罪(さっせん)!! ……んだアイツ?』


『さぁ~? 試合に負けた負け犬じゃね?』


納得(あーね)、みんなあんな顔面(ツラ)してるよな。支払い金がかさんで大変そ~』


『な~』


『………………』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 かつての記憶が脳を過る不死原。

 彼が今まで味わって来た苦痛は、彼しか知らない。

 だが今は、それらのノイズをかき消して、ただ目の前の相手を倒すことだけを考える彼。

 道を歩むことを止めた彼の背中を押すきっかけ。

 それは―――


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ブルァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!』


『クソくだらねぇなぁ……!! 銭ゲバ小判鮫野郎がっ!!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(……あそこまでボロ負けして、あそこまでボロクソに言われて……それで黙ってられるほど、俺はまだ終わっちゃいねぇんだよ……!! 俺のこのちっぽけな自尊心(プライド)を傷つけたテメェには、何が何でも勝ちてぇ。天才達(テメェら)に……勝ちてぇんだよ……!!)

 

「クソがぁ青桐ぃ……!!」


「……テメェみてぇな人間が、俺に勝てると思ってんのか? あ"ぁ"!? 思い上がんじゃねぇぞボケがぁ"!!」


「く……はっ!! 釈迦に説法(マジレス)、どうも感謝(あざぁす)っ!!」


 止まることを知らない荒波めいた連撃を捌き続ける不死原。

 彼は先ほどと同様、力任せに青桐の猛攻を封じようとする。

 だが、青桐も同じ手を食うつもりはない。

 体を拘束される前に、迷いなく水属性最強の技を繰り出しにかかる。

 まずは右足で軽く相手の左足を払う。

 次の瞬間、四方八方から身の丈を超える巨大な波が襲いかかっていく!!

 圧倒的な水流に呑まれ、不死原の体勢が……


「オ"ラ"ァ"ァ"ァ"!!」


 万物を飲み込む自然の驚異に、真っ向から立ち向かう不死原。

 彼は荒れ狂う波を力強く右手で切り裂き、自らの進むべき道を切り開いていく。

 幾重にも押し寄せる波浪を捌ききったその刹那、荒波に紛れる青桐の道着(まとい)の襟が視界に入った。

 千載一遇(ワンチャン)の到来に不死原の心は静かに踊る。

 彼は果敢に、それを右手で素早く掴み取ろうと攻め込んでいくのだった!!


「俺だってなぁ"ぁ"ぁ"!! ……!?」


(これは……2発目(おかわり)っ!?)


 やっとのことで防ぎ切った大技を、再び放つ青桐。

 一度目の猛攻をしのぐだけで、ほとんどの体力を消耗した不死原は、再び押し寄せる大波に飲み込まれ、もみくちゃにされていく。

 その隙間から青桐が姿を現すと、不死原の体を鍛え上げた背に乗せ、左へと旋回。

 荒波を束ね、桜の花びらが豪華絢爛に舞い散る!!

 No.91―――


桜花(おうか)……水月(すいげつ)ぁ"ぁ"ぁ"!!」


 宙を舞っていく不死原。

 彼は自分が数秒後に負けることを受け入れながらも、殺気をまき散らす青桐のことを、どこか羨望(けな)るそうに見つめていた。


(……良いよなぁお前達は。そんなに精悍(ごつ)いとさぁ……!! 柔道、楽しいんだろ……!?)


「一本ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ん!!」


 高々と派手に飛び散る水飛沫と共に、審判から青桐に勝利が告げられていく。

 歓声に沸く観客(パンピー)達の声を耳にしつつ、息を切らしながら、畳から上体を起こし、項垂れた様子の不死原へと詰め寄っていく。


「はぁ……はぁ……これで、理解(わか)ったか? ドーピング程度じゃ……」


「クソ……クソォ……!!」


「……あー」


 暴言を吐き捨てようとした青桐は、不死原の項垂れる姿を見て言葉を遮る。

 右手で髪を掻くと、バツが悪そうにしながらも、対戦相手を起こそうと、その手をそのまま不死原へと差し出す。

 

「えっと……おらよ不死原、手」


「あ、あぁ……」


「次柔道()る時は、正々堂々と柔道()ろうや」


「っ!! ……くぅ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 柔祭り閉会の言葉を聞くことなく、試合会場を後にした不死原。

 燃え尽きた様子の彼だったが、その表情(ツラ)からは憑き物が落ちきったようでもあった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「次柔道()る時は、正々堂々と柔道()ろうや」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「次……かぁ……また昔みてぇに体鍛えなおそっかな? ……ん? 電話(つなぎ)……はい、もしもし?」


こんばんは(ちぃ~~~す)、不死原さんですね? ちょっとお聞きしたいことがあるのですがぁ~」


「この声……財前(ざいぜん)さん? どうしたんだよ」


『この前渡した薬物(ヤク)、もう使いました?』


「あ、あぁ……」


『何時間前くらいに?』


「え? ……1時間前くらい?」


『おおっ!! そうですかそうですか。それでは小市民さん、ワタクシの部下(パシリ)がお迎えに上がりますので、目が覚めたら頑張(きば)って下さいねぇ~!! ではでは』


「目が覚めたら? おい、財前さん!? ……うぅ!?」


(視界がぐらついた!? ……眠気が……あぁ!?)


「おい、誰だよお前らっ!? 待て、離せっ!! 誰か、誰かぁぁぁぁぁぁ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おほほほ……お~~~ほっほっほっ!! 薬物(やく)使う人間にぃ~次なんてないんですよねぇ!! これで奴隷(ニコヨン)が増えましたねぇ!! じゃんじゃん計画を進めていきましょうねぇ!! はぁ~人を誘拐(らち)って食う飯はぁ~……とってもとっても美味()びますねぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!! 美味()びます美味()びます、超美味(ぶっと)びィ"ィ"ィ"ィ"ィ"ィ"!! い"ぇ"~~~い"!!」

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