STUBBORNNESS・キタムキ・ちっぽけなプライド
持たざる凡人は勝つことが出来ず―――
ただただ他人の踏み台になり続けたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
意外な来客、吃驚仰天―――
柔祭り最後の相手。
それは、昨日の昇格戦で青桐と共に戦った男、不死原であった。
青桐達の足を引っ張り続けていた彼が、今再び青桐の前に立ち塞がる。
場内へと足を踏み入れ、目の前の敵を冷ややかに眼光人を射る青桐。
一方の不死原は、昨日までの頼りなさが嘘のように、腹を括ったような表情で青桐を静かに見据えていた。
「……また足を引っ張りに来たのかよ、不死原……!!」
「んだよ、そんなに睨むなよ。赤面ちまうじゃねぇか」
「何考えてんだか知らねぇが、テメェが5人目ならよぉ……全力で柔道らせてもらうからな?」
柔祭りの最後の試合が始まる。
審判の声を聞くや否や、一気に距離を詰める2人。
互いに道着を掴むと、自分の体へと引き付けるように、握りしめた道着を手繰り寄せていく……!!
(瞬殺してやんよ。この前の戯事た言動を後悔させて……)
「……あ"ぁ"!? んだよ、この……馬鹿力はぁ"!?」
敵を引き付けるため、両腕に力を込める青桐。
だが敵の体は、巨大な岩石めいてビクとも動かない。
そればかりか、青桐の体の方が不死原の元へと引き寄せられていくのだった!!
(この不死原、先週はクソ貧弱かったじゃねぇか!? たった一週間で精悍くなりすぎてんだろ!? ……コイツまさか)
「テメェ……ドーピングでもしたのか!?」
「……」
無言の返答で大方の察しがついた青桐。
両腕に力を込めながら深くため息を吐くと、目前の不死原へ吐き捨てるように啖呵を切っていく。
「…………不正しても勝てねぇってことを理解らせてやんよぉ!! おらぁ"ぁ"ぁ"!!」
不死原の煮え切らない態度に、ついに堪忍袋の緒が切れた青桐。
夜空に響く雄叫びとともに、腕だけでなく両脚にまで力を込め、畳を蹴って大きく動き出す。
会場を広く使い、圧倒的な力で不死原を引きずりながら、わざと上体を傾け、自らの体重すら武器として相手の体勢を崩しにかかる!!
しかし……
「……!?」
(この野郎……腕力だけで俺の動きを止めやがった……!! クソゴリラがっ!! あ"ぁ"!? コイツ……!!)
「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
硬直したように動かなくなった青桐。
力ずくで拘束する不死原は、必死の形相で白雲を生み出し、その隙に紛れ込ませた右足で青桐の両脚を横薙ぎに刈り取る。
それは青桐が常々に繰り出すNo.14の足技、八雲刈り。
練度では到底及ばないものの、荒々しい力任せの一撃が、青桐の体を無慈悲に宙へと弾き飛ばしていく!!
(不覚っ……!! 畳に背中が……)
背中から畳へと強く叩きつけられる青桐。
審判の判定は一本には至らなかったものの、不死原に技ありが与えられた。
同時に静止がかかり、試合は一時中断。
青桐は乱れた道着を整えつつ、再び試合開始位置へと歩を進める。
対峙する不死原も元の場所へと歩を進め、依然として油断なく構え続けていた。
青桐は決意を込めて息を吐くと、全身に華麗い清水をまとわせる。
その瞬間、乱れていた呼吸が徐々に整い始め、動きの精度が増していった。
それは体力が徐々に回復し、技の隙を減らす水属性の技。
No.80―――
「青桐、それは……静謐の構えか……!?」
「あぁ……習得したての技で、あんま使いたくねぇんだけどよぉ……特別に見せてやんよ……!!」
「開始っ!!」
青桐の動きが明らかに一段階引き上げられた!!
繰り出される足技は無駄がそぎ落とされ、反撃の隙が目に見えて減っている。
連戦の疲労で肩で息をしていた姿はもはや過去のもの。
時間の経過とともに呼吸が整い、青桐の動きは研ぎ澄まされていく!!
その様子を前に、不死原の表情には焦燥が滲み始める。
(クソ……!! 薬物使ったって言っても、アイツが疲労ってたからどうにかなってたのに……!! これじゃ目論見が台無じゃねぇかよ!! 俺が使えねぇ技を軽々使ってきやがって……!! あんなに練習しても使えなかった技なのに!! 八雲刈りですらまともに使いこなせてねぇのに!!)
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『はぁ……はぁ……!! クソが……!! また1回戦負けかよ……!! 俺ってこんなに貧弱かったのかよっ!?』
『うわすげぇ!! 青桐のやつ、瞬殺だぜっ!?』
『やっぱアイツ凄いわ~対戦相手が子供扱いじゃんかよ』
『言ってやるなよ? あの不死原が可哀そうじゃん』
(……クソがっ!! どいつもこいつも無礼やがって……!! 俺だっていつか、アイツをぶん投げてやるよ!!)
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『また1回戦負け。こんなはずじゃ……』
『おぉ!! 黒城、あのデカブツ倒しやがった!!』
『アイツ、頭悪いのに柔道は精悍いんだよなぁ~!!』
『いいよな~俺もあのくらい戦えたらなぁ~』
『……クソが。俺だって……俺だって……!!』
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『……んで結果が出ねぇんだよ。練習してんのに、なんでなんだよ……アイツらと何が違ぇんだよ!?』
『なあ聞いたか? 白桜ってやつ』
『あぁ。アイツ中学生なのに、高校生ランクの95位の奴を投げたって』
『うっひゃ~とんでもねぇ天才が出て来たなぁ!?』
『…………まだだ、まだだぁ……!!』
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『赤神さん、高校生ランク1位になったんだって』
『え? まだ1年生だろ!? うわ~……凄ぇなぁ~俺達とは物が違うっていうか』
『だよな~インタビューの受け答えもしっかりしてるし、男としてカッコいいよなぁ~』
『なぁ~……あ、謝罪!! ……んだアイツ?』
『さぁ~? 試合に負けた負け犬じゃね?』
『納得、みんなあんな顔面してるよな。支払い金がかさんで大変そ~』
『な~』
『………………』
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かつての記憶が脳を過る不死原。
彼が今まで味わって来た苦痛は、彼しか知らない。
だが今は、それらのノイズをかき消して、ただ目の前の相手を倒すことだけを考える彼。
道を歩むことを止めた彼の背中を押すきっかけ。
それは―――
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『ブルァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!』
『クソくだらねぇなぁ……!! 銭ゲバ小判鮫野郎がっ!!』
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(……あそこまでボロ負けして、あそこまでボロクソに言われて……それで黙ってられるほど、俺はまだ終わっちゃいねぇんだよ……!! 俺のこのちっぽけな自尊心を傷つけたテメェには、何が何でも勝ちてぇ。天才達に……勝ちてぇんだよ……!!)
「クソがぁ青桐ぃ……!!」
「……テメェみてぇな人間が、俺に勝てると思ってんのか? あ"ぁ"!? 思い上がんじゃねぇぞボケがぁ"!!」
「く……はっ!! 釈迦に説法、どうも感謝っ!!」
止まることを知らない荒波めいた連撃を捌き続ける不死原。
彼は先ほどと同様、力任せに青桐の猛攻を封じようとする。
だが、青桐も同じ手を食うつもりはない。
体を拘束される前に、迷いなく水属性最強の技を繰り出しにかかる。
まずは右足で軽く相手の左足を払う。
次の瞬間、四方八方から身の丈を超える巨大な波が襲いかかっていく!!
圧倒的な水流に呑まれ、不死原の体勢が……
「オ"ラ"ァ"ァ"ァ"!!」
万物を飲み込む自然の驚異に、真っ向から立ち向かう不死原。
彼は荒れ狂う波を力強く右手で切り裂き、自らの進むべき道を切り開いていく。
幾重にも押し寄せる波浪を捌ききったその刹那、荒波に紛れる青桐の道着の襟が視界に入った。
千載一遇の到来に不死原の心は静かに踊る。
彼は果敢に、それを右手で素早く掴み取ろうと攻め込んでいくのだった!!
「俺だってなぁ"ぁ"ぁ"!! ……!?」
(これは……2発目っ!?)
やっとのことで防ぎ切った大技を、再び放つ青桐。
一度目の猛攻をしのぐだけで、ほとんどの体力を消耗した不死原は、再び押し寄せる大波に飲み込まれ、もみくちゃにされていく。
その隙間から青桐が姿を現すと、不死原の体を鍛え上げた背に乗せ、左へと旋回。
荒波を束ね、桜の花びらが豪華絢爛に舞い散る!!
No.91―――
「桜花……水月ぁ"ぁ"ぁ"!!」
宙を舞っていく不死原。
彼は自分が数秒後に負けることを受け入れながらも、殺気をまき散らす青桐のことを、どこか羨望るそうに見つめていた。
(……良いよなぁお前達は。そんなに精悍いとさぁ……!! 柔道、楽しいんだろ……!?)
「一本ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ん!!」
高々と派手に飛び散る水飛沫と共に、審判から青桐に勝利が告げられていく。
歓声に沸く観客達の声を耳にしつつ、息を切らしながら、畳から上体を起こし、項垂れた様子の不死原へと詰め寄っていく。
「はぁ……はぁ……これで、理解ったか? ドーピング程度じゃ……」
「クソ……クソォ……!!」
「……あー」
暴言を吐き捨てようとした青桐は、不死原の項垂れる姿を見て言葉を遮る。
右手で髪を掻くと、バツが悪そうにしながらも、対戦相手を起こそうと、その手をそのまま不死原へと差し出す。
「えっと……おらよ不死原、手」
「あ、あぁ……」
「次柔道る時は、正々堂々と柔道ろうや」
「っ!! ……くぅ」
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柔祭り閉会の言葉を聞くことなく、試合会場を後にした不死原。
燃え尽きた様子の彼だったが、その表情からは憑き物が落ちきったようでもあった。
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「次柔道る時は、正々堂々と柔道ろうや」
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「次……かぁ……また昔みてぇに体鍛えなおそっかな? ……ん? 電話……はい、もしもし?」
『こんばんは、不死原さんですね? ちょっとお聞きしたいことがあるのですがぁ~」
「この声……財前さん? どうしたんだよ」
『この前渡した薬物、もう使いました?』
「あ、あぁ……」
『何時間前くらいに?』
「え? ……1時間前くらい?」
『おおっ!! そうですかそうですか。それでは小市民さん、ワタクシの部下がお迎えに上がりますので、目が覚めたら頑張って下さいねぇ~!! ではでは』
「目が覚めたら? おい、財前さん!? ……うぅ!?」
(視界がぐらついた!? ……眠気が……あぁ!?)
「おい、誰だよお前らっ!? 待て、離せっ!! 誰か、誰かぁぁぁぁぁぁ!!」
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「おほほほ……お~~~ほっほっほっ!! 薬物使う人間にぃ~次なんてないんですよねぇ!! これで奴隷が増えましたねぇ!! じゃんじゃん計画を進めていきましょうねぇ!! はぁ~人を誘拐って食う飯はぁ~……とってもとっても美味びますねぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!! 美味びます美味びます、超美味びィ"ィ"ィ"ィ"ィ"ィ"!! い"ぇ"~~~い"!!」
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