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SOLID STATE ANGEL ver.1.1  作者: 熊八


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第6話 セシィの横顔

 あたいの乗る多脚戦車のコックピットに、後方からの敵の襲来(しゅうらい)を告げるアラームが鳴り響いている。

 でも、あたいには動揺(どうよう)も心配もない。必要がないからだ。

 今ここにはジェフがいる。だから、今のあたいにはあらゆる危険が届かない。

「ほらほら。あんまり気を抜いていると、すぐに神様に呼ばれてしまうぞ」

 ジェフはなんでもないことのようにそう告げると、自然な動きであたいと敵の間に機体を割り込ませた。

 この次の行動は分かっている。ジェフが最も得意とする戦法で、敵の動きを止めてしまうに決まり切っている。

 あたいはそれに遅れないように、機体を反転させて敵の左舷(さげん)に出る。

 そして、あたいは内面の歓喜(かんき)の声を吐き出してしまわないように注意しながら、ジェフに返答する。

「いいんだよ。あたいの背中には、ずっと昔からジェフがいるんだから、さっ、と」

 (あん)(じょう)、ジェフが敵の武器を押さえつけているので、あたいは左右の手に持った剣を順番にふるった。簡単な作業だ。

 ああ。ジェフは本当にカッコいいなぁ。

 ジェフほどのいい男を、あたいは他に知らない。知りたくもない。

 もう記憶にも残っていないほど小さな頃からずっと、ジェフはさりげなくあたいを助け続けてくれている。

 いいや、違う。ものすごく残念だけど、ジュフのやさしさはあたいにだけ向けられているわけじゃない。周囲のみんなに平等に与えられる。

 みんなが少しでも快適にいられるようになる心配りを、ジェフはいつもいつも、さりげなく実行し続けてくれる。

 そして、そのことを決して(ほこ)るわけでもなく、さも当然のこととして気にもしていないみたいだ。

(たよ)りにされているのは、まあ、(うれ)しいんだけど、っな」

 続けて襲い掛かってきていた敵の体勢を、ジェフが難なく崩す姿が簡単に頭に浮かぶ。

 あたいは頭で考えるよりも先に自然と体が動き、いつもの連携で敵を(ほふ)る。

「ここいらの敵は少し任せるぞ。ちょっとウォルターのサポートに行ってくる。相手のグラディエイタースタイルの動きが素早くて、ちとてこずっているみたいだからな」

 ああ。ジェフが行ってしまう。

 ほんの少しの時間だけ、ほんの少しの距離だけ離れてしまうだけなのに、たったそれだけのことで、あたいの全能感は消え去ってしまう。

 あたいは心に浮かんだ不安が表情と声にでないように、とっさに気を配った。

「ああ、任せときな。こっち方面は後ろを気にしなくても良くなったからな。ウォルターのノロマに加勢してやんなよ」

 努力は必要だったけど、なんでもないことのように返答することができたと思う。

 少したってから、あたいは通信がオフになっていることをしっかりと確認し、声に出して気持ちを吐き出す。

「やっぱ、ジェフとあたいじゃあ、全然釣り合わないよな……」

 あたいには、女らしい魅力が全然足りていない。

 口調も男勝(おとこまさ)りだし、体つきだって、筋肉質で筋張(すじば)っていて、柔らかいだなんてとても言えない。

 ジェフは気にもしていないみたいだけど、この国の一般的な女性と違い、肌はとても(いろ)(ぐろ)だ。

 それに対して、ジェフは世界中を探して回ったとしても、あれ以上のいい男は存在しない。これだけは絶対だ。

 だから、あたいじゃダメなんだ。

 ジェフの隣には、もっと女らしくてかわいらしいお嫁さんこそがふさわしい。

「いつか、ジェフがふさわしい相手と出会った時、笑顔でお祝いを言えるようにならないとな」

 あたいはしっかりと声に出し、もう何度目になるのか分からなくなった決意を表明しなおす。

 あたいの気持ちなんて、ジェフにとって邪魔にしかならない。だから、ジェフにだけは、絶対に知られたらダメなんだ。

 遠ざかっていくジェフの背中を見つめながら、あたいはこの気持ちに、厳重に(ふた)をし続けた。

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