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SOLID STATE ANGEL ver.1.1  作者: 熊八
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第5話 セシィ

 俺の初陣(ういじん)は散々だった……と思う。あいまいなのは、その時の記憶がないからだ。それはもう、ただひたすらがむしゃらに戦った覚えしかない。

 これは、後になって先輩から知らされたことだが、ナイトスタイルの多脚戦車乗りは、初陣(ういじん)で敵の初撃を受ける時が最も危険なのだそうだ。その一撃を受け(そこ)なって戦死する新兵が後を絶たないとか。

「だから新兵諸君、ジェフを見習え。新兵の間は、こいつみたいに臆病(おくびょう)なぐらいでちょうどいいんだ」

 と、戦闘終了後に先輩兵士から言われたほどだ。

 そんな俺も死線を(くぐ)り抜けるごとに経験を積んでいき、今では古参兵(こさんへい)とみなされるほどになっていた。ありがたいことに、仲間たちからも信頼されているようで、既に小隊長なんて過分な地位ももらっている。

 そして、今日も今日とてジェフリー小隊の仲間たちと共に最前線でお仕事に(はげ)んでいる。

 そんな最中、俺の小隊の一員から近距離レーザー通信が入る。

「今日は敵の陣営が薄いな。これなら楽勝そうだぜ」

 男口調で語っているが、こいつはれっきとした女だ。

 俺と(おな)い年の幼馴染(おさななじみ)で、名前をセシリア・ローレンソンという。仲間内からはセシィと呼ばれている。

 俺の国では珍しい黒髪に黒い瞳で、肌も若干(じゃっかん)色が濃い。大陸東部に多い人種で、帝国人と間違えられることも多かった。そのため、幼い頃はいじめの対象になりかけた。しかし、そんな時、彼女は決まってグーパンチで応戦していた。

 俺自身は忘れてしまっているが、ある時、俺はそんなセシィに加勢して大立ち回りをやらかしたらしい。

 セシィが言うには、その姿はとても痛快(つうかい)で、一緒にいじめっ子たちを殴り飛ばして回った爽快感(そうかいかん)が忘れられないとか。俺たちはその時以来の親友になっている。

 いつも一緒にいるので、付き合っているのかと言われることが多いが、残念ながらそんな甘い関係になった覚えはない。

 こいつは、そこそこいい大学に入れるだけの頭があるくせに、昔みたいに俺と一緒に敵を殴り飛ばしたいからという、ちょっと信じられない理由で軍大学の門を(たた)いていた。

 昔から体を動かすことが好きだったためか、多脚戦車乗りとしても優秀で、素早い動きを生かしたグラディエイタースタイルを乗りこなしている。

 俺はそんなセシィに注意を(うなが)しながらサポートに入る。

「ほらほら。あんまり気を抜いていると、すぐに神様に呼ばれてしまうぞ」

 セシィの背後に(せま)りつつあった敵のデストロイヤースタイルとの間に機体を割り込ませ、盾を斜めに(かか)げて攻撃を受け流す。

 そして、地面に派手に打ち付けた敵の両手持ちの剣にそのまま盾を押し付け、車体重量を預けて一瞬だけ相手の動きを固定する。

 セシィであれば、この一瞬の(すき)を見逃すはずがない。

「いいんだよ。あたいの背中には、ずっと昔からジェフがいるんだから、さっ、と」

 素早く敵の側面に回り込んだセシィの愛機が流れるような一連の連撃を食らわせ、敵の機体をスクラップに変える。

(たよ)りにされているのは、まあ、(うれ)しいんだけど、っな」

 そう言いながら、次に襲い掛かって来たナイトスタイルの剣を俺の盾で跳ね上げる。次の瞬間には、がら空きになったその胴体に、セシィの左右二本の剣から同時に繰り出された突きが深々と突き刺さる。

「ここいらの敵は少し任せるぞ。ちょっとウォルターのサポートに行ってくる。相手のグラディエイタースタイルの動きが素早くて、ちとてこずっているみたいだからな」

 俺がそう言うと、セシィは快諾(かいだく)してくれて、俺を送り出す。

「ああ、任せときな。こっち方面は後ろを気にしなくても良くなったからな。ウォルターのノロマに加勢してやんなよ」

 俺はそれに(うなず)きを返し、小隊のもう一人の仲間のもとへと急いだ。

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