七夕。
心優しき《クマもどき》は、雨で濡れた二人にお風呂を貸してくれ、その上、浴衣まで出してくれた。
「……何故、浴衣があるの……?」
瑠奈さんはそう思ったけれど、有難く借りることにする。
紺色に紫陽花の花をあしらったその浴衣は、大人っぽくて、瑠奈さん好み。
片や紫子さんは、淡いピンクの朝顔模様だった。
二人ニコニコで戻ってくると、大きな猫さんは何やら竹を組み立てている。
紫子さんが言うには、竹やぶに近い、あの廃校を借りて、流しそうめんの土台を作っていたんだそう。
(あぁ、それでナタを……)
瑠奈さんは思い出して、納得する。
ラジオから流れた
優しい音は、七夕飾り。可愛らしい鈴がついていて、風が吹くたび優しく鳴った。
小学校で聞こえたのは、竹を割る音。
竹は太いものを選んで、ナタで半分にし、節を削るとそうめん流しの台の出来上がり。
それから最後にズズ……って引っ張っていたのは、流しそうめんの台を引きずっていた音。
何もかも、今日の準備の音が聞こえていただけの事……。
原因が分かれば、なんてことはない。
紫子さんは、あの雨宿りした廃校で、大きな猫さんを見掛けたのだそうだ。
けれど以前、瑠奈さんは、《連れて帰ってはダメだ!》と言ったので、黙っていたのだそう。
(そうだったのね……)
と瑠奈さんは反省する。
怖がるのも程々にしないとね……。
大きな猫さんは、この前仲良くなった紫子さんにも来て欲しくて、手紙を書こうと思ったらしいのだけれど、猫は字が書けない。
だから仕方なく、ラジオを送ったんだそう。
「…………何故、ラジオ?」
瑠奈さんは呆れ返る。
そもそもの事件は、あのラジオから始まった。
訝しげな瑠奈さんに、大きな猫さんはマイクを持って、歌ってみせた。
──ニャーにゃニャニャ〜、ニャニャニャ、にゃゃーニャー。
「……要はジャックしてんのね……」
それってやっちゃ、ダメなやつじゃ……? と瑠奈さんは、思ったけれど、繋がるのはこのラジオだけらしい。
(要は、一方通行のトランシーバー……?)
「……」
ひどく解せない何かを感じたけれど、突っ込むのはやめにして、みんなでそうめん流しを楽しんだ。
今日は七夕。
織姫と彦星が一年に一度出逢う日。
大きな猫さんは、『字が書けますように』。
瑠奈さんは、『走るのが速くなりますように』。
そして紫子さんは、『病気をしませんように』。
そう願いながら、おやつに用意された索餅……唐人巻きをコリコリと食べました。
《索餅》
その昔、帝の子どもが七月七日に亡くなりました。
亡くなった子どもは悪霊となり、疫病を流行らせたそうです。
帝が、その子どもが好物だった索餅をお供えしたところ、その疫病の流行が止まりました。
それ以降、無病息災を祈願して、七夕のこの日、索餅を食べる習慣ができました。
そしてその代わりとして、日本では索餅に似た素麺を食べるのだとか。
今年一年が、健康に過ごせると良いですね。
2022.7.7 22:00 投稿完了
よし。
なんとか書けたw
《唐人巻き》本当は《よりより》って書きたかったんだけどね。
よりより……好きなんです。
ただ、索餅がよりよりなのかは分かりません。
形一緒だから、同じだと思うんだけど……?