逃亡。
「ぎぃやあぁぁあぁぁ……!!」
「!?」
瑠奈さんは、叫びます。
紫子さんは、瑠奈さんの叫びに驚いて、カチコチに固まってしまいました。
目を大きく開けて、瑠奈さんを見ている紫子さんのその後ろ!!
ナタを持った大きな影が、一瞬ビクッと身を震わせ、猛突進しながら走ってきます。
「いやあぁぁ! 来る! 来る来る! こっちに来るぅぅ……!」
瑠奈さんは慌てて紫子さんを捕まえました。
紫子さんは、ラジオを掴みます。
「そんなのいいから、早く早く……っ!」
瑠奈さんは、急かしました。
ナタを持った人物が、校舎のトビラをバンバン開けながら、こちらへ走って来るのです。
大柄なその体格とは裏腹に、ものすごいスピードで!
「捕まる、捕まる……捕まっちゃうよぅ……」
ガクガク震えるその足で、なんとか走ろうとするけれど、なかなか前には進まない。
「……!」
紫子さんは、そんな瑠奈さんを見て、ガツッとその腕を握りました。
「足、動かして……!」
「え……う、うん……」
グイッと紫子さんは瑠奈さんを引っ張ります。ものすごい勢いです。
「!」
瑠奈さんは、足を動かしました。
まるで飛ぶように進みます。
(は、速い……!)
自分一人で、こんなに速く走ったことはありませんでしたから、瑠奈さんは、目を丸くさせました。
一体どこに、こんな力を持ってたの──?
けれど疑問を持つような、そんな余裕はありません。
どうにかして逃げなければ、もしかしたら殺されるかも知れないのです……!
「ここ!」
「!」
紫子さんは更に引っ張ります。
「え、ここって……」
そこは以前に来た、大きな洋館でした。
ここには誰も住んでいないという、ご近所さんの話でしたが、本当かどうか分かりません。
だって庭が、とても綺麗に整えられているのです。
「だ、ダメだよ……」
瑠奈さんは、言いました。
どう考えても、人が住んでいる気配がします。
庭には七夕飾りが置いてありました。竹で組んだ、土台のようなものも見えました。
竹は明らかに新鮮な緑色をしていて、最近作られたもののようでした。
瑠奈さんは、焦ります。
勝手に入っては、間違いなく不法侵入。
通報されても、文句は言えないのです……!
──ズズ、ズズ……ズズ、ズズ……
「ひぃ……!」
けれど後ろから、何かを引きずるような音がしました。
振り返ると、あの大きな影が遠目に見えます。
通りは一本道でした。
隠れるところなど、この洋館しかありません……!
「い、いぃぃいぃぃ行こう、行こう……っっっ、」
「……ん」
瑠奈さんは、たまりかねて、洋館へと足を踏み入れる。
そしてそのまま門の影に、身を隠したのでした。
× × × つづく× × ×