人形と人間
「おっ………ほっ………やっ……っと」
俺は暗い縦長の穴をロープを伝って底まで降りると、一安心と息をついた。
「ったく……何で俺がこんな奥にある奴を拾いに来なきゃいけねーんだよ……」
文句を呟きながら暗闇から姿を現した魔物を手に持った木の枝で吹っ飛ばすと、ちりになった魔物の後からいくつかのアイテムを回収すると、しけたものだと溜息をついて立ち上がった。
手にランプを持って火を灯すと、洞窟の奥に向かって歩き始めた。
暫く歩き続けていると、アレ特有の液漏れの匂いがして来た。
偶にやって来る魔物をしばき棒で倒しながら更に奥に進むと、そこには何体もの壊れたドールが転がっていた。
「ドール」、冒険者などが冒険のサポートとして購入することができる人形であり、非活性化の時は持ち運びが便利な小さな姿になるのだが、活性化させると人並みの大きさになる。
値段はまちまちで、高いものは自分で判断して行動できる高度な知性を持つタイプなら一等地に城を建てれる物から、通常の冒険者が一ヶ月で集める事が出来るほどの金額で荷物持ちやアイテムを回収、バフを付けるなどの簡単な行動しか出来ない物まで存在する。
「マジで……こんな所に捨てに来るぐらいならコッチに寄越せっての」
俺は全部で五体ほどのドールを確認すると、非活性化出来るか確認しようと近づくと全部のドールがこちらを向いた。
「っ!?」
一瞬でも身構えたが、全身が著しく破損したドール達の様子は、何かを恐れている様だった。
「……はぁ、どうも言っても分かるかどうか知らんがバーゲンカンパニーの『回収業者』のユーラシアな、今から回収するから攻撃はしない様に、ほれ、これがバーゲンカンパニーの社員証な」
俺は万が一の為に、会社の社員証をドール達に見せた。
すると、ドール達は身じろぎをして何かをしようとしたが、エネルギーが足りないのかピクピクと動くのみだった。
「動くな、シャットダウンしたら本格的に壊れるぞ」
俺の言葉を聞いてドール達は動くのを辞めた。
近づいてドールに非活性化の信号を送ると、ドール達はは非活性化したが、一体だけ非活性化せずにその場に残っていた。
「……?何で拒む?」
元々は見目麗しいドールだったのだろうが、頭にあったであろう髪は全て削がれ、手足はバキバキに折られていたドールは、口を開いた。
「ま…………だ…………下に……」
「あーハイハイ、連れて来てやるから一回寝とけ」
ドールは俺の言葉を聞いて安心したのか目を伏せて非活性化状態に戻った。
俺は五体のドールを丁寧に専用のケースに入れると、どこにまだ下があるのかと少し探し、丁寧に岩で隠されていた穴を見つけた。
しかも人一人しか通れなさそうな大きさの穴だった。
そんなに憎いほどの物なのか?
と、俺はそんな事を考えながら地面に杭を打ってロープを垂らして少しずつ穴を降りていった。
手がかじかみ、息で手を温めようと背中を壁に押し当てて息を吹いていると、下から泣き声が聞こえた。
「……ドールだよな?」
俺は一瞬冷たい物が背中を伝ったが、唾を飲み込んでまた慎重に降りていった。
そして、暫く下に降って行くと、何かを踏みつけた。
驚いて足を上げてランタンで下を照らすと、そこには手足をもがれたとても美しい女型のドールが服も何も着せられずに泥まみれになって転がされていた。
「……助けてくれますか?」
震える声でそう告げた彼女に俺は、正直恐怖を感じた。
何故なら本来ドールは感情を持たない物だ。
………いや、例外があるとすれば、
「自律思考型か?」
「……………はい」
かなりの沈黙の後、ドールはそう答えた。
俺は何故そんな高価なドールをこんな事にしたのか首を傾げながら、社員証を見せた。
「分かるか?バーゲンカンパニーの「回収業者』のユーラシアだ、今から助けてやるから非活性化状態に戻りな」
俺はポケットから非活性化をさせる為のリモコンを取り出すと、彼女に向けた。
すると彼女は待ってくださいと言った。
「地上の貴族様は今……どうなってますか?」
「一ヶ月前に一家諸共粛清されたよ」
「……奥様…… お嬢様は?」
「あー……それは分からん、幾ら探して死体は見つからなかったんだってよ……って、そんな事は後でいいだろ?」
「はい……最後にコレを……私と共に引き上げて頂けませんか?」
俺は彼女が頭を上げた下から何かロケットを取ると、頷いてポケットにしまった。
「それじゃあ非活性化にさせるぞ」
「はい……お願いします」
俺は彼女を非活性化させると、専用のケースに丁寧にしまった。
そして、もげた手足はどこを探しても見つからなかった為、捜索は諦めて引き上げる事にした。
元井戸から這い出ると、ボロボロになった屋敷跡を見上げた。
そして、俺は一度屋敷に向かって手を合わせると、とっとこと走り始めた。
店に戻ると、相変わらずおやっさんは忙しそうにしていた。
今回は変な話し方をするお客と何かを話していた。
「そうそう、それで勇者ちゃんがねー?」
「戻りやした!」
「おう!戻ったか!」
「あら、貴方の所の一番稼ぎ君?」
「そうだ!ユー坊!今日はどうだった!?」
おやっさんの声に俺の帰りを知った会社の連中は皆んな、俺の方へと集まって来た。
「今日はどんな子がいたの!?」
「今日は六機だな、一機は自律思考搭載型だった」
俺の言葉に会社が湧き上がった。
「えぇい!静まれぇい!ドール以外は仕事に戻れ!と言うか手術の準備をしてろ!」
『おいっす!』
おやっさんの言葉で人間の社員はまた急いで仕事へと戻っていった。
「やぁ、今日も元気がいい様で」
「あっ!社長!お疲れ様です!」
「あらぁ!ハルちゃーん!」
すると、一人の全体的に細身な未亡人の様な雰囲気を纏った珍しい白髪の女性がやって来た。
「やぁ、ユーラシア君、バーゲン君」
「ど、どもっす!」
「さて、本日の結果を見せてくれよ」
「う、うっす!先ずは井戸の最初の底で見つけた五機のドール」
俺はバックからケースを五つ取り出すと、開けて中身を見せた。
「うーむ……型的には十年ほど前の型に見えるな」
「そうねぇ、手足が酷い事になってるけど……中々見ないわねぇ、こう言うのは」
「うぅむ、ひどい物だね」
ドールは基本として要らなくなったり、壊れてしまった場合は修理業者に金を払って提出しないと行けないのだが、それを渋る人間は不法投棄を行なったりするのである。
しかしそれでも、今回の様に手足をぐちゃぐちゃにされる事は少ない。
その分今回はレアケースと言えるだろう。
「まぁ、コレぐらいなら一日で治るだろ、んで?肝心の自律思考搭載型ちゃんは?」
「コレっす」
俺は丁寧にケースを開いて小さくなった裸身の彼女をおやっさんの前に出した。
「ふむ……回路が剥き出しだな……よく壊れずに待ったな……直ぐに治してやるから待っておけ、野郎ども!急患六名!重傷者五名!重体一名、急げ!」
「オペ室の準備は完了しています!」
「型番は……!」
と、また一気に慌ただしくなって来た社員達を横目に俺は、ソファに座ると受付係の顔馴染みのドールから飲み物を貰うと、帽子を顔に乗せて眠ろうとした。
「ちょっといいかしら?」
「んぁ?」
帽子を取ると、俺の前に先程おやっさんと話していた客人が覗き込んでいた。
「おぉ!すいやせんっした!何でしょうか?」
「ちょっとお話しよ」
変な話し方をする男は俺の前のソファに座ると、話し始めた。
「ねぇ、世界を救うのに興味ない?」
俺は飲んでいた水を吹き出しそうになりながら咳き込んだ。
「そういや、さっきおやっさんと勇者がどうとか話してましたね?」
「あら、聞いてたの?」
「偶々聞こえたんすよ、他意は無いっす」
「あらそう……そうなの、ウチの所に今いる勇者君なんだけど今一人でね?君だいぶ強いらしいじゃ無い、どう?ウチで勇者君と世界救わない?」
この世界に蔓延る魔物の王、魔王を倒し世界に平穏をもたらすとされている聖職者である勇者、確かに彼と組めばコネやら何やらが手に入り今よりいい生活が出来るのは明確だろう、だが……
「勘弁して下さいよ、今でさえ結構一杯一杯なのに……これ以上は手に負えないっすよ」
「そう、残念ね……じゃあまた来るわね、勇者君が来た時には仲良くしてあげてね?」
「うっす………」
そう言うと、謎の客はスタスタと歩いて会社を出ていってしまった。
「じゃあ次は私だね」
「しゃっ!社長!」
俺は再び背筋を伸ばして、美しい社長に対面して座った。
「今回も大活躍だったね」
「い、いえ、手を回してくれた仲間達のお陰です!」
「ふふ、そう畏まらなくてもいいよ……あ、そこの君、コーラを持ってきてくれないか?」
社長は一人まだ比較的暇そうにしている受付人に声を掛けて、甘いジュースを頼んだ。
そして、やって来たコーラを美味しそうにストローで飲むと、ふぅ、と一息ついた。
その艶やかさを感じる振る舞いに生唾を飲み込んだが、
「私には思い人がいるから、詰め寄って来たら殺すよ」
と、とてつもなく物騒な事を言われたので思わず咳き込んでしまった。
「さて、そんな冗談は兎も角、君には近々遠くの出張も視野に入れて貰わないと行けなくなって来てしまったんだ」
「は、はぁ」
「近場に関しては君の素晴らしい報告文によって回収する事は可能だろう、勿論君には暫く育成をしてもらわないと行けないけどね、そして君には給料アップと昇格ついでに遠距離を視野に入れた新しいサービスとして、出張をお願いする事になりそうだ」
「まぁ、ノーとは言えない感じですよね、社長自らって事は」
「よくわかっているじゃ無いか……と言いたい所だけど、今回に関しては君の自由意志が尊重されるべきだと思うから、7日館待つからその間に決まったら報告を頼むよ」
「了解しました」
そして、社長は立ち上がると自分のオフィスに戻って行ってしまった。
あの人はこの世界で初めて株式と言う概念を考え、小さな町工場から今の大企業へと進化させた超すごい人なのである。
「すげなぁ……」
俺はそんな凄い人の後ろ姿を見送ると、今度こそと俺はハットを顔に被せて仮眠を始めた。
そこから眠りの世界に入るのは一瞬であった。
「起きろ、ユー坊、お嬢ちゃんがお呼びだ」
「ユートピアッ!?」
「誰だよユートピアって……ほれ、お前が助けた一目惚れした自律思考搭載型ちゃんが呼んでるぞ」
「一目惚れしてないっすよ」
俺は体を起こして立ち上がると、一度伸びをして彼女がいる部屋へと案内された。
部屋に入ると、月光の元、そよ風に靡く銀色の髪が俺の目を奪った。
「……訂正するっす……コレは一目惚れ不可避っすね」
「馬鹿野郎」
小さな声で呟いた俺におやっさんは拳骨を食らわせると、俺の背中を押して扉を閉めた。
「……貴方がユーラシア様ですか?」
「やぁ、あー……久しぶり……じゃねーな……初めましてだな……うん、初めまして俺はここの会社の専属回収業者のユーラシア・タリクだ」
「ユーラシア様……私を救って頂き有難うございます……あの……」
「は、は!?あ、あれね!ハイハイ!」
俺は彼女の顔を見て思い出すと、ポケットから彼女の物と思われしロケットを手渡した。
彼女の手は修理された直後とは思えない程滑らかで、自然に動いていた。
非常に良い事だ。
「有難うございます……お願いがあるのですが」
「はい?」
俺は彼女の手に見惚れていると、彼女が俺の手を握ってコチラを見つめている事に気がついた。
「貴方様は世界各地を巡り、私の様なドールを回収しているとお聞きしました……どうか私も連れて行って下さいませんか?」
「………はい!?」
考えろ俺、こんな美人のドールを連れて歩けるのは一つのアドバンテージだぞ?
いやいや、そんな不純な事は考えるな俺、何か大事な用事があるに違いない、そんな期待はするな俺。
「もしお望みでしたら……今はその様な機能は無いのですが……いつか絶対にお望みの機能を搭載してご奉仕も致します」
だってよ
無表情の彼女だったが、瞳は片方が無くなっていた為、型番が合うのはそれしか無かったのか別の色の瞳をそれぞれしていたが、そんな彼女目はその表情からは感じることの出来ない、悲壮感と、燃え盛る様な覚悟を感じた。
……つーか、普通に考えて女の子が会ったばかりの人に股開くか?
答えはノーだよな
でもこのドールのねーちゃんは……
ここで嫌ですと答えたら、男が廃るよなぁ?
そう考えた俺の答えは勿論、
「イエスだぜ、んで、そんな事をしてもらう必要はねぇよ、お前さんが俺の前から居なくなりたいと思ったら自由にしてくれ、その代わり俺の仕事はハードだぜ?」
「はい……有難うございます」
こうして握手を交わした彼女と俺はペアとして社長に報告して世界各地を巡る事となったのである。
まさか社長、このこと知ってて……
いや、まさかな
そうしてある時は火山の奥地に置いて来ざるを得なかった、仲間であると言うドールを助けに、
ある時は吹雪が凄まじい寒冷地隊で家族である子供を守る為に潤滑液が凍ってしまった、ドールを助ける為に、
ある時は魔界の奥地で勇者のパーティーとして行動を共にしていたドールを助けに、
様々な場所を巡った。
そして、そんな場所を巡っているうちに彼女は自身の目的を明かした。
彼女は高性能の戦闘用かつ屋敷のメイドとして購入されたのだが、守るべき対象の屋敷のお嬢様は病弱で、よく彼女が面倒を見ていたそうだ。
そして、彼女達はドールと人間は、そして女同士であると言う壁を超えて、友情を超えた感情を互いに抱く様になった様である。
まぁ、それを聞いた時の俺の正直ガッカリ感は否めなかったが、それでもいい人である為に彼女の行方を俺は独自のルートを使って探した。
そして、どうやら彼女は屋敷の秘密の通路を使って生き延びたらしく、魔界の方へと逃げて行ったらしい事が判明した。
それを聞いて俺達は暫く会社に有給を取ると、魔界への長旅へと向かった。
魔界に向かう途中で魔界の魔物に使役されているドールを見つけては話を聞いて時には助け、時には話を聞いて修理などを行うなどして、彼女の主人であるお嬢様の行方を追った。
そして、魔王城の近くの村で衝撃の事実を聞いた。
彼女は魔王としてなるべくして生まれた存在であり、彼女は体内にある魔力を制御しきれなかったが為に病弱であったと。
しかし、ドールの彼女の世話もあり魔力の制御が出来る様になって来た頃、魔王の伝承を知る王国からお嬢様の刑罰が言い渡され、当主はそれを知りドールである彼女達に八つ当たりをしたらしい。
そして、当主は娘であるお嬢を守る為に最後まで戦い、その間にお嬢は魔界まで逃げおうせたと。
だが、そこで一つ矛盾が生じる事になる。
今までいた魔王はでは何者なのだと。
それも、親切な変な話し方をする魔物が教えてくれた。
「そりゃあ、ここ最近の魔王は、ずっと魔王の代わりに乗り移って来たんだから、ガワは違っても中身はずっと同じよ」
こうして俺達はドールの嬢ちゃんの主人様を取り戻すべく魔王城へと向かうのだった。
魔王城に凸を仕掛ける前夜、ドールの彼女は俺に自分の名前を求めた。
ドールが名前を求めると言う事は、名前を付けた人物を主人として認めると言う事である。
……それまで彼女はずっと自分自身の事を主人であるお嬢様が呼んでいた童話に因んだアリスと呼んでいた。
俺は彼女に星を意味するシューティと言う名前を付けた。
彼女はいつだって一人だった俺の心の道標である星そのものであった。
特に目標や夢などない、俺に目標を与えてくれた星である。
だが、その後目標は、夢は叶う事の無いことと知っていたが、俺はそれでも満足だった。
魔王との決戦日、既に勇者とその妻である女騎士、そしてよく分からない男が一人が既に取り込まれたお嬢様と戦闘を開始していた。
何とかお嬢様から魔王の魂を引き剥がそうとして、シューティは自分の体からメモリチップを無理矢理抜き取り、弱った体のお嬢様から魔王の移り先となり、自壊することで魔王を弱らせた。
だが、弱っただけでまだ戦えた魔王は、俺達を追い込んだが、後からやって来た、変な話し方をする男と社長、そしておやっさんと後一人よく見知った焦げた匂いのする男が、トドメを刺して魔王は消滅した。
美味しいところを持って行った男に俺達は物凄くキレて、八つ当たりを割と本気でしたが、男は笑ってそれをいなすだけだった。
男の目的は何にしろ魔王は消え去り、俺達はお嬢様を連れて会社へと戻った。
男の秘術によりシューティは肉の体を手に入れ、お嬢様と幸せに暮らすかと思ったが、どうやらまだお嬢様なの為に世界を見て、社長が新開発したカメラという物で、その景色を見せたいらしく、俺達の旅はまだまだ続くようだった、
「さて、その後お嬢様とシューティ、ユーラシア達が複雑な結婚をするのはまた別のお話な訳でして……」
そう言ってゼロはスクリーンを幕を張って閉じた。
「さて、次のお話は……」
すると、スポットライトの影から、黒い人影が出て来てゼロに耳打ちをした。
「あれ?もう来たの?分かった、対応するからちょっと待ってもらってて」
ゼロはコチラの方を向くとペコリと一礼をして、
「すいません、コチラの事情で一旦席を外します、直ぐに戻りますのでそれまで暫しの休憩と致します」
そう言って一歩下がりスポットライトの外に出てしまった。
暇になった貴方は、自分の周りに何やら人の気配を感じる。
立ち上がろうとすると肩に手を置かれて、座ったままにさせられた。
「まぁ待ちなさいよ、慌てないで、次は私達からのお話をしましょう」
すると、貴方の目の前にあの変な話し方をする男が立っていた。
「さて、次のお話は……」
彼がそういうと、スクリーンや幕から何やら煙が上がり炎がついて燃え広がった。
とてもの熱さに貴方は顔を手で守ろうと上げたが、貴方の周りには何故か火は近づいてくる様子は無かった。
「燃える男と、二人の男の物語、始まり始まり〜」
そういうと、燃え上がっているスクリーンに動画が映し出されて声が聞こえた。
「魔王と勇者である俺は、武器を片手に睨み合っていた……」