天まで届け、ごぼうフライ
「千也さん!こんばんわ!」
「絢子さん、偶然だね。こんばんわ!」
今日の仕事終わり、帰り道。
最近よく会う知り合いの男性。
「千也さんも今日は、お仕事終わりですか?」
「うん。絢子さんもおつかれ。」
「ご飯ってもう食べました?」
「いや、まだだけど」
今日は彼にどうしても見せたいものがある。
鞄をさっと開いてチラシを取り出す。
「これ!見てください!!!!新しくオープンした炉端焼きのお店です」
「ああ、おとといオープンの。うちにもチラシ入ってたな」
「ここに、今日は行きましょう!!!」
「…予定もないし、いいけど。」
「やった!!!!今から予約取ります!!!!」
「え、あ、うん。」
私は勢いに任せてそのまま店舗に電話して予約を二名でとった。
「それでは、お待ちしてます」
「やった!今から向かってちょうどいいくらいの時間が取れましたー!」
「本当に行きたかったんだね。食べたいものがあるのかな?炉端焼き?」
「いやいや、ここのうりはそれだけじゃないんですよ。昨日行った人に見せて貰ったんですけど。楽しみにしててください!」
いざ!店までレッツゴー。
「いらっしゃいませー。」
炉端で職人さんが焼いてるところが見えるカウンターに通される。
「すごいねここ。」
「目の前で焼いてるところが見れてお得ですね」
「いらっしゃいませ。おしぼりとメニュー、こちらはお通しの地元野菜の盛り合わせになります。お好みでみそとマヨをつけてお召し上がりください。お野菜の説明はこちらご覧ください」
「わ!」
「それぞれで分けてあるけど一人分で結構すごい量だね」
皿の上に一人分の野菜スティック、キャベツなどがこんもりと盛ってある。
「なに飲もうか。」
「あ、じゃあ私はこれで!」
「僕も同じのにしようかな」
「すみません!」
「はいっ。お待たせしました!」
「飲み物がこれ二つと、あとごぼうタワーください!」
「はい、かしこまりました。ごぼうタワー積み上げますのでお時間少々いただきます」
「はい、わかりました。楽しみです!」
「ありがとうございます!お客様のためにすごく頑張りますね」
「お願いします!」
「千也さん、ごぼうタワーは初見でみてほしいのでググっちゃ駄目です!」
「わかった。ごぼうタワーってどんなのだろう」
「すごいらしいんですよー。食べきれなかったら袋にいれてお持ち帰りできるので安心してください。」
「量、多いんだね」
「でも必見ですよ!私も生でみてみたくて」
「楽しみだなあ」
「ドリンクお待たせしました!ごぼうタワー今絶賛建築中です笑」
「ありがとうございます!とりあえず乾杯しましょう千也さん!」
「よし、かんぱーい!」
ごくごくっと飲み物を飲む。
「美味しいーーーー」
「染みるなー」
「お通し食べましょ!わーい、ニンジン」
ポリポリポリ。
「「!!!」」
「ニンジンが甘い!」
「えっ?これ生のニンジンカットしただけだよね」
「たぶんそうですよ」
「みてこれ、解説かいてある。○○おやっさんの特製極甘ニンジンだって」
「味噌とか全然いらない。え、マヨとかもいらないかも」
「ニンジンでここまで美味しいってことは…」
根生姜、きゅうり、大根、セロリ、キャベツ、そしてニンジン。
これは…期待できる!
私は、次はどれにしようと皿の上でうろうろと手をさまよわせる。
「僕は次、きゅうり。まずはなにもつけないで食べようかな」
じゃく。しゃくじゃく。
程よい歯応えと、あふれでる水分。
ぱきぱきとした食感なのにみずみずしい。
「うわっ飲み物に合う!次は味噌つけよう」
その食べている様子を見て、私もきゅうりに手を伸ばす。
ぽりっじゃく。
あっ美味しい。味噌、これは味噌。
食べてすぐ味噌があうと思った。
味噌きゅうりの味を飲み物できゅっと洗い流し、そしてまた味噌きゅうりを食べる。
「美味し…うわ…めっちゃ美味し…」
次のメニューを考えるのも忘れてお通しを食べていると、近くに座っていた常連さんのオーダーが聞こえてきた。
「大将!海老の塩焼き、ホタテ焼き、穴子の一本焼きね!」
「はいよっ、今から焼きますからね!」
大将が手早く、炉端にオーダー品を準備していく。
「穴子の一本焼き。」
ぴくりと千也さんが反応した。
「絢子さん、穴子の一本焼きオーダーするね」
「はい!」
大将が話しかけてくる。
「お、お客さんも穴子の一本焼き頼むかい?」
「是非。僕穴子好きなんです。」
「お、そいつは良かった。今日のあなごはいいよぉ。近くの市場で買ったんだけどおすすめ。」
炭の面倒を見ながら大将が笑う。
「うちの穴子の一本焼きは白焼きでね、塩も特別いいのを使ってるんだ。今日は特別に目の前でお兄さん達のを焼いてあげるよ。カウンターだから特別。よーく見てて。」
大将は串に刺さった穴子に塩を振り、私達の目の前の炉端にブスッと刺した。
「わ、千也さん。本当に目の前ですよ」
「いいねここ。最高。穴子すごく大きい。」
「お嬢ちゃん、お兄ちゃん。今日は炉端焼きが目の前だからじゃんじゃんオーダーしちゃって。壁のメニュー、今日限定品。」
「絢子さん、僕ここ色々頼むけどいい?」
「食べれるならオッケーです」
千也さんがほっぽってたお料理メニューを真剣に見始めた。
「なんだと…穴子が限定販売…」
「そうなんだよ、兄ちゃん。その代わり質がいいからね。」
「うーん、大将、ほっけも追加でください。あとだし巻き玉子」
千也さんが追加注文。
「了解!ほっけとだし巻き玉子入りましたー!だし巻き頼みます!」
大将が別の焼き物の人にだし巻きを頼んだ。
その人がだし巻きのフライパンをさっと取り出して、卵と冷蔵庫から取り出した出汁をボウルにいれていく。
ちゃっちゃっちゃっちゃ。
卵を混ぜる音が響く。
だし巻きの準備に見惚れていると大将が大きなほっけの半身を網の上にのせていた。
「焼けたら炉端に置くからね!」
どうやら大きいので焼いてから炉端で炙るらしい。
ふいに、だし巻きの卵を混ぜる音が止んだ。
じゅうぅぅぅっと音がしたので見るとたっぷりの油を卵焼き器にしいてペーパーでぬぐっていた。
そして、じゃっ!と音を立てて卵液が卵焼き器のなかにはいりこむ。
しゅうぅぅぅぅ…。かっ、かっ。ぽんっ。
折り畳むようにだし巻き卵が作られていく。
「わあああ…。」
だし巻き卵や白焼きに見惚れる私達はまだ気づかなかった。
背後から訪れる巨大なそれに…。
「お兄さん、お姉さん。失礼します!ごぼうタワーお待たせしました!」
どどどん!!!!!
その姿はまるでスカイツリー。
ごぼう約三本分の輝き。
ごぼうを長いままスライスしてそのまま味をつけてフライヤーで揚げる。そしてそれを積む。積む。積む。
「すごい…。」
「ちょっと、今日ごぼう高さが低いんじゃない?」
「そりゃ大将と比較したらしょうがないっすよー」
大将が雑談混じりに運んできた店員さんに言っている。
「待ってください。これで低いんですか?」
「うん、俺が作るともっと高いよー。」
「これで…低い…。」
「いや、めっちゃタワーですが。」
「持ち帰りの袋もあるからね、兄ちゃん。」
「ありがとうございます。」
どうやって食べたらいいのだという目の前のごぼうタワー。
「手で崩して食べてね」
ほっけを目の前の炉端にうつすために移動していた大将。
私達の戸惑いに気づいて大将が食べ方を教えてくれる。
千也さんがタワー崩しに果敢にチャレンジ。
「揚げたてだから熱いよ!」
そうです。見るからに揚げたてでもくもくと湯気がたっています。
ぱきっ。ぱきっ。
「絢子さん、とりあえずこれ。」
千也さんが食べやすく割ったものを皿に置いてくれる。
大きく崩すのは触ってすぐに諦めたみたい。熱いもんね。
実食。
あっつあつのごぼうフライ。
ぱきぱき。ざくと音を立てて咀嚼する。
鶏ガラスープベースの味付け。間違いない美味しさだ!
届けてくれた店員さんが胡椒や七味で味変もありだと情報をくれる。
程よい厚みのあるごぼうがかりっと揚がっていて、濃すぎない味となっている。
ごぼうを直接削っているのがわかる。
食べている途中の厚みの違いが面白い。
「ポキッっとしてて美味しい。」
「手が止まらなくなりますね」
ポキポキ、パキパキ。パキポリ。
折ってひたすら口に運ぶ。
「うう、美味しい…熱いけど美味しい…」
二人で無言で食べ続ける。
ごぼうタワーの美味しさに負けてひたすら食べ続けているうちにだし巻き卵が出来上がったようだ。
「はい、だし巻き。」
大将がひょいっとふわふわぷるんのだし巻き卵をカウンターから渡してくれた。
大葉の上にたっぷりの大根おろし。
「うわぁーーーーー。」
「白焼きもできたよ!」
目の前の炉端から皿に置いて渡してくれる。
「いざ来ると思ったより全部大きいね」
「ですね!!!!」
「ほっけもお待たせ!!!!」
「全部来た!」
「さあ!食べよう!!!」
私はまずふわふわのだし巻き卵に箸をつける。
その瞬間、じゅわわーーーーっと出汁がしみだす。
「千也さん見てくださいこれ。」
「出汁がすごい!!!」
熱々のだし巻き卵をまずは一口。
じゅわっ。
口のなかが出汁の洪水におそわれる。
ほんのりとした卵の甘さに、鰹と昆布の効いたあわせ出汁。
「んーーーーー!!!!」
お次は大根おろしに醤油をちょちょっとかけてぱくり。
そしてドリンクできゅっと流し込む。
「はわぁーーーー、何て素晴らしい…。」
「だし巻きも最高だったんだね。穴子の白焼きも見てよ。こんなに肉厚でふわっふわ」
「美味しそうーーーーーー。」
「食べたけど身がふわふわで、炉端焼きの途中で塗ってた油が表面をぱりっとさせてるんだ。大根おろしなしがおすすめ。ぱりっふわを味わってほしい。」
「え、好き…まだ食べてないけど最高なのが伝わってくる」
「よーし、お兄さんがお口に放り込んであげよう。はいあーん」
「あーん」
パリパリふわっ。
「!?、んん?」
「もぐもぐが止まらない美味しさだろう」
パリパリの表面を歯で噛みきるとでてくるふわふわの身。
そのまま食べられるように処理された穴子。
ジューシーさを保ちつつ、熱々のふわふわの肉厚。
「今までの穴子は一体なんだったのってくらい美味しいー」
「ほっけも、骨をとるよ」
ぐっ、ぐぐぐぐぐ。綺麗に骨が剥がれた。
ぱりっとした焼き目の下からふわっ、ぷりんっとしたピカピカの身が現れる。
綺麗に輝く白い身。
千也さんが骨についてしまった身をこそいでいく。
私は、ほっけに箸をつける。
たぶんこれは、お醤油がいらない…。
ほっけに触ると綺麗に身がぷりっと取れた。
一口食べると旨味の嵐。感動の嵐。味が濃いほっけ最高。
ごぼう以外、全部に大根おろしがついているメニューだから、大根おろしパラダイスだ。
白いままの、大根おろしを掬ってほっけにのせてぱくり。
じゅっとでてくるほっけの味とさっぱり大根おろしがすごくあう。
「ええ、美味しい。語彙力が溶ける。」
食べてる合間に挟むお通しの生野菜が歯応えと、さっぱりとした口を演出してくれていくらでも食べられそう…。
パリっさくっふわっ。
しゃきしゃき、ザクッザクッ。
ポキポキ。じゅわわーーーーっ。
「うまぁ…。」
「美味しいね…。」
「気に入った?」
大将が話しかけてくる。
「ええ、とっても美味しいです。」
「兄ちゃん達さ、ここの塩焼きそばもおすすめなんだけど量が多いから今度また来て頼みなよ」
「食べきれなかったらお持ち帰りもできまーす!」
通りかかった店員さんがパックを持ちながら通りすがりに言い残していった。
「絢子さん。」
「千也さん。」
「「頼みましょう。」」
いやこれ絶対美味しいじゃん?
ごぼうタワーは山分けすることにして帰ってきた店員さんから持っていたパックをもらいました。
白焼き、ほっけ、だし巻き卵をせっせと食べていてなくした頃大きな皿がやってきました。
「海鮮塩焼きそばでーす」
どどんと来たそれは野菜と海鮮が沢山のっている、海のような塩焼きそば。
「千也さん。ここ、値段のわりにえぐいサイズで来ますね。」
「うん、でもとても美味しそう」
「美味しそうじゃなくて美味しいのよー。ここ、もっとパックちょうだい。先にとって明日の朝ごはんにしたらいいよ」
大将が気を利かせて食品パックと袋が追加でご用意されました。
ありがとう大将。
それぞれ皿に取り分けて、食べます。
イカや貝にホタテなど具だくさんの海鮮焼きそば。
キャベツやニンジン、モヤシのしゃきしゃき感も残っています。
もぐもぐ、もぐもぐ。
最初に口に飛び込んできたのは大きめのイカと焼きそば麺、それに野菜と海老。
「はわ…ぷりっと食感に、噛みきりやすいイカ、しゃきしゃきのモヤシ、それをまとめる焼きそば麺…。」
「語彙力溶けてる…僕もだけど…」
「美味し…おかわり…。」
「ね、無理ならまたパックをもらおうっておもったけど皿に残ったの食べきれる…」
パクパク、もぐもぐと食べ続け皿が綺麗になりそうな頃に店員さんがやってきた。
ラストオーダーにはまだ早い時間。
「お客様、あとご飯系のものって頼みますか?」
「いえ、もうお腹いっぱいです」
「それじゃ、〆の味噌汁です」
「え、ありがとうございます。」
まさかのラストサービス。
ちょうどいい温度の味噌汁。具はしじみ。
「デザートはさすがに頼めないなー。」
「お腹いっぱいですねー」
「アイスサービスです!大将から。」
しゅっ、とやってきた店員さんがアイスを置いていった。
「え!!!!ありがとうございます。」
「大将、いいんですか?」
「沢山頼んでくれたからね、ありがとね!」
「嬉しいです!」
今日の席、カウンターで良かった!
ごちそうさまでした!
お土産の袋を持ってレジへ。
会計を済ますと、店員さんがこちらお土産の味噌ですと味噌をくれた。
「千也さん、ここまた、来ましょうね」
「絢子さん、賛成。会計も安かった…」
面白いごぼうタワーを見ようと来たら、ものすごいおもてなしをうけてしまった。
まさかのお土産までできて、二人はまた来ようと心に決めてその日は解散したのだった。
ごぼうタワー、美味しい!ごぼうタワー、美味しい!