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美味しくご飯を食べる話  作者: いちじく
1/3

大人のお子さまランチ

顔良し、性格良し、ハイスペックで、ちょっとおっちょこちょいなところが玉に瑕。


最近仲良くなった知人。彼のことはそんな風に思っていた。


私が目の前で名刺入れを落とした彼に声をかけ、お礼にコーヒーを奢って貰ったのが出会いの始まり。

名刺入れは個人情報の固まりで絶対になくすわけには行かないからとても助かった。是非とも奢らせてほしいと紅茶を御馳走になった。


ここが美味しいんだと連れていかれた高めのカフェでホットの紅茶を頼んだら、大きいポットできた。

彼はコーヒーを頼んでいて、カップ一杯でおかわりするタイプだった。

チェーンの店だと一杯だけだからてっきりここもそうなのだと思ってホットの紅茶を頼んでしまった。

まずい、ポットの紅茶は飲み終わるまで時間をとらせてしまうと焦った。

そしたら彼に時間を潰す必要があるからおしゃべりに付き合ってほしいなと頼まれた。


お話していくうちに彼の家が近所なこと、可愛い映像を見るのが好きだということ、料理するのが好きなことなど色々知ることが出来た。


彼は、自分のことを売り込む人間が多くて話を聞いてもらうのは久しぶりだとホクホクした顔で楽しそうに自身のことを喋っている。

会ったばかりの他人だから、そんなに個人情報を話したら駄目ですよ。悪用されたらどうするんですかというと彼がちょっとだけ困った顔をする。

 

「ごめんね、君になら話していいと思ったんだけど嫌だったかな?」

「嫌じゃないですけど、私が強かな女性だったらどうするんですか。そんな情報聞いたらお兄さんみたいなイケメン、口説いちゃいますよ?」


「ほぉ、どうやって僕のことを口説くのか気になるな」

「えっ…えーっと、ごめんなさい、冗談です」

「そうなの?残念だなぁ」

「私がお兄さんみたいなイケメン口説くの、恐れ多いです」

「君にならいつでも大歓迎だよ」


次の日、通勤のためにマンションから出た私にたまたま通りかかった彼が気づいて昨日はどうもと声をかけてきた。

彼は健康のために少し前から歩いて通勤するようにしたようで、私と通勤途中で会って驚いていたように見えた。


「びっくりした。ここに住んでるの?僕の会社の社員も住んでるんだけどいいマンションだよね」

「そうなんですか。偶然ですね!うちの会社も住宅補助で住んでる人が多いんですよー」


エントランスがオートロック、スーパーが近くてちょっと歩けばいろんなものが売っている商店街がある。

買い物しやすく、会社もほどほどの遠さ。


公園も近いし、収納も多い。住みやすくて素敵な我が家。

お気に入りの住まいである。


「会社の通勤、付き合ってくれてありがとう。じゃあ僕、こっちだから」

「あ、いえいえこちらこそありがとうございました。楽しかったです。」


それから彼と私は、会えば話をするくらいの関係。

お互いに勤めてる会社も知らない程度の知人。


ある日、私は突然思い立って有給を取った。

ホワイト企業な私の会社は休みが多い。

思い立ったときに休みを取らないと有給を必要日数消化できないのだ。


今日の朝食はバターたっぷりクロワッサンとサラダ。

カリカリベーコンと半熟卵にオレンジジュース。

食べたあとは歯磨きを忘れず。


バッチリ可愛く決まったメイク。上手に仕上がった髪型。

お気に入りの白いワンピースに涼やかな花柄の日傘。

華奢なミュールにお気に入りの大きめ鞄。


「よーし!今日はおでかけだーーーー!!!」


玄関前で友達から貰ったユニセックスな匂いの香水をひとふり。

「わ、格好いい匂い。いってきます!」


玄関を出る。

近所の商店街を歩く。

駅までの道にある本屋さんで長編の小説を買う。

今日は思う存分ゆっくりする日。


どこかでお昼を食べて、この間お礼にと連れていってもらったカフェの紅茶が美味しかったので自分でもまた行って買ったばかりの本を読もうとうきうきしている。


もうすぐ駅につきそうだ。

てくてく歩いていると、人混みのなかに最近知り合った彼の顔が見えた。

身長が高い彼は、頭ひとつぶん周囲から飛び出ている。


今日もお仕事お疲れ様ですの気持ちをこめて、見えてないだろうけどぺこりと会釈した。


「!」

「あ。」


どうやら彼は私に気づいたようだ。

目があったのでにこっと笑っておく。


そのまま駅まで歩いてすれ違おうとしたら彼がずんずんとこちらに向かってきた。

そして、私に声をかけてくる。


「やあ、こんにちは。今日はとてもお洒落だね。」

「ありがとうございます。」


「お休みかな?」

「そうなんですよ!」


「今日は誰かとお出掛け?」

「いえ、一人です。この間連れていっていただいたカフェの紅茶が美味しかったのでまた行こうと思って。」

「ああ、あそこ。美味しいよね」


「いい店を教えてくれてありがとうございます!」

「いえいえ、とんでもない。」

「今日はお仕事ですよね!頑張ってください!それではまた!」

「あっ!ちょっと待って。」

「はい?」

「この近くに、美味しいオムライスのお店があるんだけどよければ今からお昼を一緒にどうだい?この間オムライスが好きっていってただろう」

「いいですけど…今、休憩中なんですか?」

「うん、まあ。そんなところ」


「どの辺にあるんですか?」

「すぐ近くなんだ。歩いて5分もかからないよ。あ、ごめん。ちょっと電話。」

「はーい。」


仕事忙しそうなのに私とお昼して大丈夫なのかな?

「お待たせしたね。じゃ、行こうか。」


彼のいうとおり、店はすぐ近くだった。


「えっ!お店すごい可愛い!!こんなお店あったの知らなかった!!」

フランスの片田舎にありそうな、エメラルドグリーンの壁に茶色の飾りドア、白い出窓。

入り口近くの植木鉢には実がなる小さな木が植えられている。

「君とあそこで会えて良かった。このお店が美味しいって聞いたことがあるんだけど…1人だと入りにくくて」


照れたようにいう彼。

それをみて可愛い店にオムライス食べに来るのにちょうどタイミングが良かっただけか、と納得した。

イケメンに誘われてちょっとだけドキッとしちゃった。あぶないあぶない。


「いらっしゃいませ。」

「やあ、こんにちは」

「お待たせしました。こちらへどうぞ」


美味しいって評判でこんなに可愛いお店なら大人気で待つんじゃないかなって思ったけど、予想に反して席は空いていた。


「席が取れて良かったですね!」

「うん、そうだね。君と来れて嬉しいよ」

「口がうまい!」

「はは、本音だよ」

「もー!からかわないで。」


雑談していると店員さんが近づいてきて水とおしぼり、カトラリーとメニューを渡してくれる。


「失礼します。こちらメニューになります。本日のおすすめは特別ランチメニューになります。こちら限定品となっておりまして、本日のみご注文可能となりますのでよろしければ是非お頼みください。あとは、通常メニューがこちらになります。ソフトドリンクはこちらにございます全てが対象です。それではお決まりの頃にお伺いします。」


店員さんが去っていく。


「聞きました?本日限定特別ランチメニューですって!私これにします!飲み物は…このオリジナルドリンクにしよう!」


特別メニューはオムライス、ハンバーグ、タルタルエビフライにサラダ、スープ。デザートにソフトドリンク一杯までつく。

お値段もお手頃で頼みやすく、お得!

こんなの本当にいいんですか?

大人のお子さまランチだ!いい店だなとホクホクした顔で私は笑う。


「美味しそう!僕もそれにしようかな。すみません、これ二つ。ひとつは大盛りでお願いします。ドリンクはこれとこれを。」


「ドリンクは食後にいたしますか。もうお持ちしますか?」


「あ、もう持ってきてください。」

仕事中のお昼休憩って何時までなんだろう。先の方がいいよね!


「かしこまりました。メニューお下げいたしますね」


あ!メニュー、他に何があるのか見忘れた。まあいいや、美味しかったら今度また来よう。


「飲み物は食前で大丈夫?」

「はい!お昼ご一緒させて貰ってますけどお仕事中ですし、遅くなってしまうと休憩終わっちゃいますし。あ…嫌でした?」

「そんなことないよ。気を遣ってくれてありがとう」

「いえ、とんでもないです」


「ところで、今さらなんだけど自己紹介をさせてください。僕の名前は福富千也」

「あっ、緑川絢子といいます。そういえば、名乗ってなかったですね。」

「お互いに名前を知らなくても仲良くなれてたからね。」


「福富さんですね。よろしくお願いします。」

「千也って呼んでほしいな。僕も絢子さんって呼ぶね。名字だと会社にいる気分になる。」


「あー、…せん…千也さん?」

うわ、イケメン名前呼びしてるめっちゃ照れる。

「はい、絢子さん。」


うっ…顔がいい。

嬉しそうな顔がとてもいい。

ちょっと照れた顔がとても可愛い。

えっ、待って待って。このイケメンオーラの照れ顔を目の前で浴びるの。

まってまって。


「むりぃ。」

「名前呼び、駄目だったかい?」

「いや、違います。千也さんがイケメンすぎてちょっと」

「ふふ…好みの顔かい?」

「ええ、とても。ドキドキしちゃいます」

キリッとした顔で私は答えた。


整った顔立ちでしなやかな筋肉がついてるとわかる程よい厚みのある胸板。

イケメンは手までイケメンっていうけど…本当だなー。

少し深爪気味のスラッとした長い指先。

薄めで骨張った掌は、私とふたまわりくらいサイズが違うように見える。

まあ、身長差もあるから手が大きいのも当然といえば当然ですが。


「ドリンクお待たせいたしました。こちら檸檬シロップをいれて、こちらはジャムをいれてお召し上がりください。よければお写真もどうぞ」


「ありがとうございます。どっちのドリンクも美味しそう!」

「うん、そうだね。写真撮ろうかな」

「私も!」

パシャっと1枚。


千也さんは、ちょっと多めに写真撮ってるみたいだから先に飲もうっと。


私は、ジャムをいれるオリジナルドリンク。

「いただきます」

まずはそのままストローでちゅっと味見する。

ヨーグルトベースの少し酸味のきいたドリンクの味がする。

そして、イチゴジャムをいれる。

ゴロゴロ果肉のイチゴを大きめのストローでぷちゅっと押し潰して混ぜる。

「…美味しいーーー。」


ストローに果肉が吸い込まれて食べながら飲むドリンク。

イチゴヨーグルト味。


「ね、このドリンク。みててごらん」

千也さんが、シロップ入れをつまんでゆっくりといれていく。

藍色だった液体がとろとろとした檸檬シロップに触れて徐々に紫色に変化していく。

「わっ綺麗!」


「こういうの、好きかなって思って。ん、味も美味しい。飲んでみる?」

「いいんですか?あ、じゃあこれも一口どうぞ」

「ありがとう」


お互いに交換して味見したけど、どっちのドリンクも美味しかった。


「バタフライピーってお茶のドリンクらしくてさっき気になって調べたんだ。」

「あの時!ずいぶん長く写真撮ってるなって思ってたら調べものだったんですね!」


ドリンクの味の感想を話してるうちにサラダとスープ。

少したつとハンバーグ、タルタルエビフライ、そしてオムライスがどん!と運ばれてきた。


「わ!千也さんのオムライス大きい!さすが大盛りだー!」

「ボリュームがあるな」


私のと比べて倍くらいあるオムライス。

「折角だから並べて写真撮ってもいいですか?」

「いいよ、並べて撮ろうか」


カシャカシャとシャッター音を響かせて撮影。

千也さんも写真撮ってるみたい。


「絢子さん、オムライスと写真撮ってあげるよ」

「あ、はい!じゃあよろしくお願いします」


にこっと笑って両手を広げてじゃじゃーんとポーズ!

カメラで無事撮れたかな。


「うまく撮れました?」

「ん、ごめん。もう1枚。手がみきれちゃうみたいだ」


「わかりました!じゃあこれで。」

ポーズを変えてもう1枚。


「うまく撮れたよ」

「千也さんも撮りますか?」

「うーん、僕はいいかな。」

「そうですか?じゃ、食べましょ!!!!いただきます!!!!」


千也さんはサラダから。

いろんな種類のベビーリーフ。

彩りにパプリカとニンジン、紫玉ねぎ。

オレンジ色のすりおろしニンジンドレッシングにさくさくオニオンフライがのっている。


私はじゅうじゅう熱いデミグラスハンバーグとプリプリエビフライから。

熱々のハンバーグにナイフを刺すと、じゅわっと肉汁が溢れてソースに混じる。

そして中からとろっと黄金色のチーズがとろけでてきた。

「千也さん!みてください!チーズハンバーグですよ!」

「本当に、豪華だね」


ソースに絡めてパクリと一口。

「……………!!!!!」

私の目がキラキラと輝いた。

めっちゃくちゃ美味しい!

これは期待できる!


さっくさくだよと主張するエビフライも食べよう。

別添えの卵ごろごろタルタルソースに一口大に切った海老をいれてとろんとすくいとる。

咀嚼すると口のなかでさくさくいってる!そこにごろごろとした卵があわさっていい感じ!


「あふい…!!!でもここのお料理とっても美味しいです!」

「美味しいね、サラダもいい味だしてるよ。」


そこから私はにこにこと夢中で美味しくいただく。

ふわふわ卵のケチャップオムライスも口のなかがさっぱりするコンソメスープも、付け合わせの野菜にだって焼き色がついて一工夫。


お互いに食べ終わった頃に店員さんが持ってきてくれたフルーツシャーベットでようやく一息。


綺麗に完食。


「ごちそうさまでした。あぁー、美味しかった!お腹いっぱい」

「ごちそうさまでした。美味しかったね。」


「千也さんは美味しいものを見つける達人なんですね」

「たまたまだよ。でも、絢子さんのおすすめのお店があったら教えてほしいな」


「なんかあるかな…考えておきますね!あ、千也さんお時間大丈夫ですか?お昼休憩…」

「ああ、大丈夫だよ。まだ余裕。僕はわりと時間の融通がきいて突然のアポがなければ自由なんだよね」

「なら良かったです。」

「食べ終わったしそろそろ出る?」

「そうしましょう!」


レジに向かおうとすると、千也さんからさっき絢子さんがお手洗いにいったときに払っておいたよと声かけがあった。


「え!ありがとうございます、いくらでしたっけ」

私は慌てて財布を取り出す。

「ここはいいよ。急に誘ったのはこっちだし」

「でも…」

「その代わり、またご飯につきあって。次は絢子さんのおすすめのお店で」

「わかりました。じゃ、ごちそうになります。」

「ん、それでよし」


千也さんが満足そうに笑った。

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