ほしのなみだ
「星になりたいんだけど」
ぽつりと彼女は呟いた。
「……どうしたの、急に」
意味を捉えかねて、問い返す。
「別に、どうもしないけど」
「どうもしなかったらそんなこと言わないだろ」
彼女の視線は変わらず落とされたままで、僕を捉えることはない。
「ねぇ、なんかあった?」
「……」
「言ってくれなきゃ、俺もわかんないよ。どうしたの」
彼女は諦めたように、溜め息を吐く。
「……だから、なんにもないんだよ」
「え?」
「なんにもないけど、どうしたらいいのかわかんないの。それがいやなの。特段いやなこともないのに、なんだか不安で、なんだか落ち着かないのがつらい」
そこまで言って、彼女は初めてこちらを見上げる。
「――バカみたい、でしょ?」
自嘲気味に呟いたその言葉はすぐに空気に溶けて消え、彼女はまた瞳を伏せてしまった。
「バカみたい、なんて思ってないけど」
「きみは優しいもんね」
「別に優しくないよ」
好きじゃない子には、とはさすがに言わない。
「……私、こんなに弱かったっけ」
ぽつりと、言葉がおちていく。
見ると、彼女の長い睫毛が震えていて、僕は息を呑んだ。
その気配を感じ取るように、すぅっと色素の薄い瞳が持ち上がって、口許は小さく笑う。
「――やぁだ、泣くと思った?」
その笑顔に、僕はまた息を呑んだ。
なんで消えてしまいそうなものは、こんなにも美しく感じるのだろう。
なんで喪われる瞬間のものほど淡い輝きを放つのだろう。
「……なにそれ、変なの」
僕がなにか言ったら、きっと君はまたその笑顔をしまって、呟くのだ。
「星のほうが、よっぽど綺麗に輝くわ」
(了)
最後までお読み頂きありがとうございました。
結構前に、雰囲気小説を書きたくてさくっと書いた短編です。文学の世界では、女の子は少し不思議ちゃん入っている方がモテる気がします。
でも、たまに意味もなく泣きたくなってしまうようなこと、きっと誰にでもあると思うのです。