表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

A Spoonful of…【未来屋 環SS・掌編小説集】

ほしのなみだ

作者: 未来屋 環

「星になりたいんだけど」

ぽつりと彼女は呟いた。


「……どうしたの、急に」

意味を捉えかねて、問い返す。

「別に、どうもしないけど」

「どうもしなかったらそんなこと言わないだろ」

彼女の視線は変わらず落とされたままで、僕を捉えることはない。

「ねぇ、なんかあった?」

「……」

「言ってくれなきゃ、俺もわかんないよ。どうしたの」

彼女は諦めたように、溜め息を吐く。

「……だから、なんにもないんだよ」

「え?」

「なんにもないけど、どうしたらいいのかわかんないの。それがいやなの。特段いやなこともないのに、なんだか不安で、なんだか落ち着かないのがつらい」

そこまで言って、彼女は初めてこちらを見上げる。

「――バカみたい、でしょ?」

自嘲気味に呟いたその言葉はすぐに空気に溶けて消え、彼女はまた瞳を伏せてしまった。

「バカみたい、なんて思ってないけど」

「きみは優しいもんね」

「別に優しくないよ」

好きじゃない子には、とはさすがに言わない。

「……私、こんなに弱かったっけ」

ぽつりと、言葉がおちていく。

見ると、彼女の長い睫毛が震えていて、僕は息を呑んだ。

その気配を感じ取るように、すぅっと色素の薄い瞳が持ち上がって、口許は小さく笑う。

「――やぁだ、泣くと思った?」

その笑顔に、僕はまた息を呑んだ。

なんで消えてしまいそうなものは、こんなにも美しく感じるのだろう。

なんで喪われる瞬間のものほど淡い輝きを放つのだろう。

「……なにそれ、変なの」

僕がなにか言ったら、きっと君はまたその笑顔をしまって、呟くのだ。

「星のほうが、よっぽど綺麗に輝くわ」


(了)

最後までお読み頂きありがとうございました。

結構前に、雰囲気小説を書きたくてさくっと書いた短編です。文学の世界では、女の子は少し不思議ちゃん入っている方がモテる気がします。

でも、たまに意味もなく泣きたくなってしまうようなこと、きっと誰にでもあると思うのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
原因とか、特にないけれど不安にとらわれること、あるよなぁと思います。人間らしい複雑な感情の動き方とか、作った笑顔で誤魔化したりとか、リアルだなぁと。こういうときに掛ける言葉って難しいよなぁとも思いまし…
[良い点] 不思議ちゃんではあるのでしょうけれど、「星」という言葉に少しだけ「死」のニュアンスを感じて、ドキッとしました。 でも、消え入りそうな姿を見せられる誰かがいる間は、「消え入り」はしないのだろ…
[一言] 未来屋 環さん素敵な物語ですね。 淡くて切ない。 彼女の急にどこかへ消えていってしまいそうな所も、彼は惹かれるんでしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ