【蛇の儚い恋 前編】
そう言えば・・・。あれだけの悪戯をし、激怒していた泡沫だったのだが、目の色は焦げ茶のままだったなと幻像は思う・・・。
【千年】
「・・・幻像。集中しろよ。怪我するぜ?」
【幻像】
「あ、悪い・・・。」
崖から落ちたように見えた泡沫は、間一髪、落ちる寸前に鍵縄を近くの木に投げつけ、事なきを得た。
崖の上に戻った泡沫に悪ガキ2人はこっぴどく叱られ、今はひたすら打ち合いをさせられている。
弥生は、岩の上で休すむ泡沫にお茶を持ってくる。
【泡沫】
「悪いな。弥生・・・。まったく・・・。どこで、育て方を間違えたんだ、俺は・・・・・?」
泡沫は、その2人を見る目は、まるで反抗期の子供を見る父親のような目をしていた・・・。
【弥生】
「間違えてなんてないわよ・・・。元気に育ってるじゃない・・・。ふふ。」
弥生は笑いながら言う。二人の悪ガキが、刃を潰した忍び刀で打ち合いをしている・・・。10才にして、2人の悪ガキは、いつ部隊長になってもおかしくないような実力を手にしていた。
しかし、それでもまだまだ悪戯をし、周りを困らせることの多い子供達・・・。
泡沫は、やれやれと言いつつもどこか、優しい眼差しで二人を見ていた・・・。
【弥生】
「泡沫は、良いお父さんになりそうだね・・・。」
【泡沫】
「どうだかな・・・。」
泡沫は、お茶を飲む・・・。弥生は、静かに話始めた・・・。
【弥生】
「私・・・ね、昔から思ってたの・・・。こんな世の中だし・・・私、忍びだし明日生きるか死ぬかの中で、生活してるけど、でもね、私・・・。ほら、千年と幻像も可愛いし・・・。泡沫となら・・・。ううん、泡沫のなら、その・・・なっても良いかなって・・・。」
・・・お嫁さんに・・・
冷たい風がその場に、吹いた・・・。
木の陰で二人の会話を聞くは、二人と共に育った一人の男・・・。蝮はその場に静かに座りこんだ・・・。
・・・ずっと好きだった・・・
毒村蝮・・・。彼の家系は昔からある甲賀の忍びの名家で、毒の扱いに長けた一族だ。そのため、甲賀変わらない甲賀の忍びの使う毒はそのほとんどが、毒村の一族が作ったモノである。
しかし、皆から尊敬される一方で、毒村家は、恐れられる一族でもあった・・・。
【子供1】
「おおお、おい・・・。毒村家の蝮だ・・・!逃げろ!どんな毒持ってるか、分からないぞ・・・。」
【子供2】
「た・・・助けて・・・!」
【子供3】
「うわあああああああああ!!!」
逃げて行く同じ年の子供達に向けて伸ばした自分の手をそっと下げる・・・。毒を持っている・・・か・・・。確かに、生まれてから毎日様々な毒を飲み、生まれて7才になる頃には世に出回っているほとんどの毒の体勢がついている・・・。
化け物・・・。確かにそうかも知れない・・・。
【弥生】
「・・・蝮・・・。一緒に遊ぼう!」
だが、彼女だけは、自分が下ろした手に触れて、沈んでいた俺を引っ張りあげてくれた。
【蝮】
「君は、俺のことが怖く無いの・・・?」
俺は、恐る恐る彼女に聞いた。今でも、かなり勇気のいる質問だったなと思う。でも、彼女は俺の不安を取り払うような笑顔で言った。
【弥生】
「うん!ぜーんぜん!」
そう言って弥生は笑う。破天荒で怖いもの知らず、いつもニコニコと笑顔の耐えないやつだった・・・。
【弥生】
「泡沫も、そうでしょう?」
でも、あいつは一人じゃなかった。見れば、近くに狼の面をした少年が一人・・・。
【泡沫】
「ん。毒なんて飲んだ所で、解毒剤飲めば無毒と同じだろう?何も怖くねぇーよ。」
すかしたやつだった・・・。でも、それでも、2人とも優しいやつだって分かっていた。俺のこと理解してくれてるって、分かっていた。だから・・・このままこの3人の関係が続いて欲しいと、心のどこかでは思っていたのかも知れない・・・。
でも、それは無理な話だったのだ・・・。時の流れと共に、俺は弥生の笑顔をずっと見ていたいと思ってしまった・・・。
でもきっと、俺があいつにそう思ったように、弥生は、泡沫に対して特別な気持ちを持つようになったのだろう・・・。
その場に冷たい風が吹いた・・・。
【泡沫】
「・・・・・。他をあたりな・・・。」
【弥生】
「やれやれ・・・。冷たいなぁー。もー。」
弥生は、力なく笑った・・・。しかし、泡沫はいつもと変わらぬ様子で言う。
【泡沫】
「茶・・・。ありがとう。旨かった・・・。」
そう言うと泡沫は、立ち上がり、稽古をする幻像と千年の元へ行く。そして、そのまま帰って行ってしまった・・・。
日も傾いて、辺りが暗くなっていく・・・。誰もいなくなったその場所で弥生は、1人、空になった湯飲みを見つめていた。そして、そっと手に持つと握りしめた・・・。涙が1つ・・・また、1つ・・・湯飲みの中に落ちる・・・。
蝮は、そんな弥生に何も声をかけることはできなかった・・・。




