表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【時雨の里】  作者: 有馬波瑠海
第12章 【泡沫の一番弟子編】
94/225

【満月の夜の悲劇】

 満月の夜・・・。今日の森は、虫の鳴き声もしない不気味な夜だった・・・。こういう夜は、昔から不吉な予兆とされている・・・。任務の帰り道、鵜飼(うかい)は嫌な予感にかられていた・・・。何かは分からないが、俺は必死に家路を急ぐ、姉と甥っ子達が待つ、あの家へ・・・。月明かりを頼りに、森の中を駆け抜ける。そして、家の近くまで来た。


 子供の泣き声が聞こえる・・・。


ああああああぁあああぁあぁああああああぁあぁぁ

うああああああああぁぁああああああぁあぁあああ


 泡沫(うたかた)・・・?


 玄関の前で、ぐったりとする母親を抱いた7才の子供が泣いている・・・。


鵜飼(うかい)

泡沫(うたかた)!お前、どうしたんだ!?」


泡沫(うたかた)

「あいつが・・・来たんだ・・・あいつが・・・。」


 鵜飼(うかい)は、すぐに月夜の脈を計るが、もう冷たくなっていた・・・。




       ・・・姉貴・・・




 泡沫(うたかた)の話では、姉貴は、師走(しわす)という男に殺されたと言っていた・・・。師走(しわす)は、月夜の夫で泡沫(うたかた)幻像(げんぞう)の父である男の弟だった・・・。


 師走(しわす)という男は、昔から月夜に惚れていると噂されていた男だった。しかし、月夜が惚れたのは、師走(しわす)ではなくその兄の方だった・・・。結局、月夜は全く振り向くそぶりも見せず、そのまま師走(しわす)の兄と結婚した・・・。


 姉貴は、師走(しわす)と会う度にいつか自分は殺されるんじゃないかと不安がっていた・・・。


 なぜなら、師走(しわす)の目にはいつもただならぬ殺気を宿していたからだった・・・。しかし、結婚したにも関わらず、兄が任務で家に帰ってくる来なくなってからは、師走(しわす)は家に来なくなっていた・・・。


 そんな矢先にこんな恐ろしい惨劇が起きてしまった・・・。


 葬式は、家族だけで(おこそ)かに行った。


 こんな時ですら、父親は帰って来なかった。


 月夜(つきよ)の墓の前に、線香と、白い花束を置く。月夜(つきよ)が死んでから今日で49日目だった・・・。鵜飼(うかい)は、弟をおぶる泡沫(うたかた)に聞いた・・・。


鵜飼(うかい)

「・・・父さんに、会いたくないか・・・?」


 泡沫(うたかた)は、首を横に振る・・・。そうだよなと思った・・・。妻を守れなかった男、父親として何もして来なかった男に会いたいなどとは思わないだろう・・・。鵜飼(うかい)は、そう思った。


 しかし、そうではなかった・・・。


泡沫(うたかた)

「父さんに・・・見せる顔がない・・・。俺は、母さんを・・・護れなかった・・・。」


 驚いた・・・。泡沫(うたかた)は、父親を恨んでなどいなかったのだ・・・。


鵜飼(うかい)

「お前・・・。寂しくないのか・・・?」


泡沫(うたかた)

「寂しくないよ・・・。俺には、幻像(げんぞう)に、孫にぃーちゃんがいるから。でも、もう俺はにぃーちゃんのことを叔父さんだとは思わないことにする・・・。」


 泡沫(うたかた)は、一切の甘えを捨て、覚悟を決めた真剣な眼差しで鵜飼(うかい)のことを見る。


泡沫(うたかた)

「俺の先生になって・・・。俺を一人前の忍びにして欲しい・・・。」









 それから、月日は流れ12才となった泡沫(うたかた)は甲賀七人集の一人となっていた。これはそんなある日のこと・・・。



 狼の部隊を率いることとなった12才のある日、泡沫(うたかた)は、5才下の弟である幻像(げんぞう)と、数名の部下を連れて、井賀にある申神(こうがみ)の里まで偵察に行った。申神(こうがみ)里は、侍の里と言われ数々の侍の名家が並んでおり、その中でもその里を納める申神(こうがみ)一族は、代々伊賀の殿の側近として仕えるほどの腕がたつ者を出している。


 しかし、最近は、その殿が暗殺されようとしているという情報が入った。今回は、その情報収集のため、殿様に仕える申神(こうがみ)一族の家に侵入し伊賀の殿の現状を知る手はずだった。


 きっと上は、殿が暗殺されれば、伊賀内部は混乱いると読み、その混乱に乗じて攻めこもうという考えなのだろう。だが、実際、里について見れば、里は火に包まれていた。


幻像(げんぞう)

「兄さん。これは一体!」


佐吉(さきち)

「夕暮隊長、どうしますか?」


 狼の面を被った一人の男が声をかけて来る。甲賀の忍び部隊は、それぞれの隊長以外は、その部隊の動物の面を被るという伝統がある。


泡沫(うたかた)

「生存者を探せ。」


 泡沫(うたかた)は、暫く辺りを見渡すと、そこには、先にきたと思われる何の面をつけていない甲賀の忍びの姿があった。


泡沫(うたかた)

「あなたは、(こよみ)さん?」


 泡沫(うたかた)が声をかけると、(こよみ)は言った。


(こよみ)

「・・・お前は、先日、狼の隊長になった、夕暮か?」


泡沫(うたかた)

「はい。(こよみ)さん、その人は?」


 見ると、(こよみ)の隣には、一人のまだ若い男が立っていた。見るからに侍の格好をしていて、着ているものを見ても良いところの出だというところが分かる。しかし、泡沫(うたかた)は、一つ気になることがあった。その男は、自分の里が火の海だというのにも関わらず、笑っていたのだ。


(こよみ)

申神(こうがみ)万年(はんねん)申神(こうがみ)里を、納める申神(こうがみ)家の跡取り息子だそうだ。しかし、この里を里を焼いた張本人でもある。そして、どうやら、甲賀に協力したいそうでな。情報を提供する代わりに仲間に入れて欲しいと言ってきたから、これから上に掛け合うつもりだ。だから、もう、この里を調査する必要はないぜ。こいつから、全部聞けば良いからな。・・・じゃあな。」


 (こよみ)がその男を連れて立ち去ろうとする。その背中に泡沫(うたかた)は声をかけた。


泡沫(うたかた)

申神(こうがみ)さん。あなた、弟がいますよね?」


 万年(はんねん)は、立ち止まる。そして、振り替えって一言。


万年(はんねん)

「さぁ・・・。」


 ・・・笑っていた。その言葉と共に、万年(はんねん)(こよみ)と共に夜の森に姿を消す。


佐吉(さきち)

「隊長。あちらに一人子供がいます。」


 泡沫(うたかた)は、佐吉(さきち)の言われて方へと走って行く。するとそこには、火の海の中で、正座をした、まだ6、7才の少年が、小刀を握りしめその刀を自分の小さな腹に刺そうとしていた。


 泡沫(うたかた)は、あまりの光景に言葉を失った。真っ赤に燃え上がる業火の中、呆然と立ち尽くしていると、泡沫(うたかた)に気づき、上を見上げた少年と目が合った。


 あちこち擦り傷だらけになった、その少年泣き声一つ漏らすことなく、泡沫(うたかた)のことを見つめた。少年の容姿は、笑ってこそいないものの、さっきの男と瓜二つだ。兄弟であることに間違いは無い。


 さしずめ、里を焼いて里人を全員の暗殺を試みたが、弟だけは殺し損ねたといったところだろうか。そして、残された少年は、今ここで切腹をしようとしている。


 切腹の理由なんて、沢山あるだろう。自分の兄の不始末、両親や、里の人を守れなかった責任や罪悪感、兄を止められなかった自分への嫌気。若干6、7才の子供だったとしても、そこにいるのは、紛れもなく、自分のやってしまったの責任をとろうとする真っ直ぐな魂を持った一人の侍だった。


 

    ・・・しかし・・・。




泡沫(うたかた)

「それで良いのか・・・?・・・兄貴に復讐をするため、死んでいった仲間や親の分も幸せになるため、理由はなんだって良い。ここでくたばるんじゃねぇーよ。生きて、生きて、そして、いつか誰よりも強くなれ。俺が、教えてやる。」


 里の中で拾った赤い傘をさして、あちこちに降り注ぐ火の雨に打たれないよう、その少年の上に傘をさす。そして、泡沫(うたかた)はその少年に手を伸ばした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ