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【時雨の里】  作者: 有馬波瑠海
第12章 【泡沫の一番弟子編】
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【洞窟に現れた男】

 氷雨(ひさめ)は、一人・・・。洞窟へとやって来ていた・・・。洞窟に入る前に、深呼吸をする・・・。


氷雨(ひさめ)

「よし!たのもうーーーー!」


 氷雨(ひさめ)は、大声を出して、中にいるであろうあの男を呼んだ。


 しかし、中からは反応はない・・・。


氷雨(ひさめ)

「たのもうーーーーーーー!!!!」


 やはり、中からは反応がない・・・。


氷雨(ひさめ)】 

「次こそは・・・たのもうーーーーーーー!!!!」


 氷雨(ひさめ)は、今までの中で一番大きな声で言う。すると、なにかが洞窟の中から飛んで来る。氷雨(ひさめ)はとっさそれを避けた。それは、氷雨(ひさめ)の真横をすり抜け、地面へと刺さる。見れば、鋭い(かま)だった。


氷雨(ひさめ)

「ひぇーーーーーーーーー!!!!」


当たっていた時のことを想像して、氷雨(ひさめ)はブルブルと震えた。


 すると、中から声が聞こえる・・・。


「・・・人ん家の前で、騒ぐな。まったく、あいつに教えられなかったか?声をかけたなら、とっとと入って来い・・・。」


 氷雨(ひさめ)は、静かに洞窟へと入ると、中にはあの時と同じ。男の姿・・・。


氷雨(ひさめ)

空蝉(うつせみ)さん・・・。頼みがあって来た。俺を弟子にして欲しい・・・。俺はあん時、酔っぱらいながらも少しだけ記憶がある。酔って気を感じとりやすくなったから、分かるんだ・・・。アンタただもんじゃねぇー。すごい忍びなんだろう?アンタから流れ出ていた気は、すごい量だった・・・。俺は・・・。」


 氷雨(ひさめ)はぎゅっと手を握りしめる。


【氷雨】 

一平(いっぺい)が里を抜けた・・・。俺はあいつの兄貴と姉貴が、どこかの忍びに殺されたってことは知っていた。でも・・・あいつが、いつかはそいつに里を捨ててまで復讐してやろうなんて思ってるなんて・・・知らなかった。・・・そう、知らなかったんだ。俺はあいつとは長い付き合いなのに・・・家族なのに・・・・・。


 でも、そんな俺にだって、分かる・・・。あいつは、殺人鬼なんかになっちゃいけねぇー男だ!あいつは、バカで、アホで、猿だけど、でも・・・優しい奴なんだ。あいつを絶対に殺人鬼になんてさせない!


 でも、今の俺じゃあいつを連れ戻すだけの力はねぇー。あいつが今いるのは甲賀の国だ・・・。忍びがいる国の中でも強者(つわもの)揃いのな・・・。今の俺じゃ・・・全く歯が立たない・・・。頼む!!俺を弟子に・・・。」


 氷雨(ひさめ)は、真剣に話すのだが、空蝉(うつせみ)は、顔色一つ変えずに言う。


空蝉(うつせみ)

「・・・無理。」


 あまりにも、キッパリと即答する空蝉(うつせみ)氷雨(ひさめ)は、一瞬理解が追いつかなかった。


氷雨(ひさめ)

「え"っ?もう少し、考えてくれても・・・。」


空蝉(うつせみ)

「俺は、弟子をとらない主義だ・・・。」


氷雨(ひさめ)

「そんな・・・。頼むよ!空蝉(うつせみ)さん!あの時、頬に布を張った奴がいただろう?あいつが今、大変な状態にいるんだ!俺はあいつを連れ戻したい!だけど、今の俺じゃダメなんだ・・・。今の、俺じゃ・・・。


 氷雨(ひさめ)は、手をギュッと握りしめる・・・。涙を堪える・・・。泣いた所で何も変わらない・・・。あいつの闇にずっと一緒にいて、気づかなかった。ずっと一人であいつは苦しんでいたってのに・・・。友逹なのに・・・家族なのに・・・。あいつの苦しみを分かってやれなかった・・・。


 なんとしても、ここで引くわけにはいかない・・・。


空蝉(うつせみ)は、はぁーとため息をついた・・・。すると、そこへ酒瓶を持った男がずけずけと、洞窟に入って来たではないか・・・。


【男】

「おーい!空蝉(うつせみ)。今日は良い酒が手に入ったぜ見てみろよ・・・。ん?誰だ?コイツは・・・。」


 氷雨(ひさめ)は、その男と目が合った。黒髪の癖毛に、鋭い目。頬と顎に黒いペイントを施した男・・・。

空蝉(うつせみ)は、パイプタバコに火をつけて、一服吸う・・・。そして言った。


空蝉(うつせみ)

「お前の弟子の弟子だ・・・。鵜飼(うかい)。」


鵜飼(うかい)

「え?マジか?あいつ、いつの間に新しい弟子をとったんだ?」


空蝉(うつせみ)

鵜飼(うかい)・・・。コイツに修行をつけてやってくれ・・・。ちょっと訳ありのようなんでな・・・。知っての通り、俺は弟子はとらない。お前が指導してやれ・・・。」


 弟子の弟子・・・。ということは、この人は師匠の師匠ってことか・・・?この人が・・・。


 氷雨(ひさめ)は、真っ直ぐにその男を見た。


空蝉(うつせみ)

「喜べ。コイツも中々、強い男だ・・・。お前の師の師なんだからな・・・。たくさん強いてもらうと良い・・・。」


 氷雨(ひさめ)は、真っ直ぐ空蝉(うつせみ)を見る。


氷雨(ひさめ)

「ちょっと待った・・・。アンタ・・・一体、何者なんだ・・・?」


鵜飼(うかい)

「俺達は、ただの甲賀の抜け忍だよ・・・。」


氷雨(ひさめ)

「抜け忍・・・?」


 氷雨(ひさめ)が聞くと、鵜飼(うかい)が答える。


鵜飼(うかい)

「・・・そう、俺達はお前の師匠と同じ、甲賀のお尋ね者ってわけだ・・・。まぁ、抜けた理由は違えどそれぞれ違うだろうが・・・。俺は、上の方針が気に入らなかった。自分達の利益のためならば、仲間をも殺す。なんの罪もない仲間でも、疑わしければ、殺す・・・。殺す側も、殺される側もそこにあるのは地獄だけだった・・・。お前・・・。」 


氷雨(ひさめ)】 

「あ!東氷雨(ひさめ)だ・・・。」

 

鵜飼(うかい)】 

「そうか・・・。氷雨(ひさめ)。お前、泡沫が笑ったところを見たことがあるか・・・?」 


氷雨(ひさめ)】 

「ちゃんと笑ったところは・・・。ってか、師匠って楽しく、皆とゲラゲラ笑うタイプの、人間じゃないっていうか・・・。」


 すると、鵜飼(うかい)は言う。


鵜飼(うかい)】 

「今は、な・・・。」


 驚く氷雨(ひさめ)に、鵜飼(うかい)はこう続けた・・・。


鵜飼(うかい)

「昔のあいつは、お前みたいなガキだったよ・・・。うるさくて、活発で・・・。表情がコロコロと変わる面白いやつだった・・・。だが、忍びという生き様ゆえ、少しずつ感情が消えていった・・・。」


 

 そう、始まりも残酷だった・・・。


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