【洞窟に現れた男】
氷雨は、一人・・・。洞窟へとやって来ていた・・・。洞窟に入る前に、深呼吸をする・・・。
【氷雨】
「よし!たのもうーーーー!」
氷雨は、大声を出して、中にいるであろうあの男を呼んだ。
しかし、中からは反応はない・・・。
【氷雨】
「たのもうーーーーーーー!!!!」
やはり、中からは反応がない・・・。
【氷雨】
「次こそは・・・たのもうーーーーーーー!!!!」
氷雨は、今までの中で一番大きな声で言う。すると、なにかが洞窟の中から飛んで来る。氷雨はとっさそれを避けた。それは、氷雨の真横をすり抜け、地面へと刺さる。見れば、鋭い鎌だった。
【氷雨】
「ひぇーーーーーーーーー!!!!」
当たっていた時のことを想像して、氷雨はブルブルと震えた。
すると、中から声が聞こえる・・・。
「・・・人ん家の前で、騒ぐな。まったく、あいつに教えられなかったか?声をかけたなら、とっとと入って来い・・・。」
氷雨は、静かに洞窟へと入ると、中にはあの時と同じ。男の姿・・・。
【氷雨】
「空蝉さん・・・。頼みがあって来た。俺を弟子にして欲しい・・・。俺はあん時、酔っぱらいながらも少しだけ記憶がある。酔って気を感じとりやすくなったから、分かるんだ・・・。アンタただもんじゃねぇー。すごい忍びなんだろう?アンタから流れ出ていた気は、すごい量だった・・・。俺は・・・。」
氷雨はぎゅっと手を握りしめる。
【氷雨】
「一平が里を抜けた・・・。俺はあいつの兄貴と姉貴が、どこかの忍びに殺されたってことは知っていた。でも・・・あいつが、いつかはそいつに里を捨ててまで復讐してやろうなんて思ってるなんて・・・知らなかった。・・・そう、知らなかったんだ。俺はあいつとは長い付き合いなのに・・・家族なのに・・・・・。
でも、そんな俺にだって、分かる・・・。あいつは、殺人鬼なんかになっちゃいけねぇー男だ!あいつは、バカで、アホで、猿だけど、でも・・・優しい奴なんだ。あいつを絶対に殺人鬼になんてさせない!
でも、今の俺じゃあいつを連れ戻すだけの力はねぇー。あいつが今いるのは甲賀の国だ・・・。忍びがいる国の中でも強者揃いのな・・・。今の俺じゃ・・・全く歯が立たない・・・。頼む!!俺を弟子に・・・。」
氷雨は、真剣に話すのだが、空蝉は、顔色一つ変えずに言う。
【空蝉】
「・・・無理。」
あまりにも、キッパリと即答する空蝉に氷雨は、一瞬理解が追いつかなかった。
【氷雨】
「え"っ?もう少し、考えてくれても・・・。」
【空蝉】
「俺は、弟子をとらない主義だ・・・。」
【氷雨】
「そんな・・・。頼むよ!空蝉さん!あの時、頬に布を張った奴がいただろう?あいつが今、大変な状態にいるんだ!俺はあいつを連れ戻したい!だけど、今の俺じゃダメなんだ・・・。今の、俺じゃ・・・。
氷雨は、手をギュッと握りしめる・・・。涙を堪える・・・。泣いた所で何も変わらない・・・。あいつの闇にずっと一緒にいて、気づかなかった。ずっと一人であいつは苦しんでいたってのに・・・。友逹なのに・・・家族なのに・・・。あいつの苦しみを分かってやれなかった・・・。
なんとしても、ここで引くわけにはいかない・・・。
空蝉は、はぁーとため息をついた・・・。すると、そこへ酒瓶を持った男がずけずけと、洞窟に入って来たではないか・・・。
【男】
「おーい!空蝉。今日は良い酒が手に入ったぜ見てみろよ・・・。ん?誰だ?コイツは・・・。」
氷雨は、その男と目が合った。黒髪の癖毛に、鋭い目。頬と顎に黒いペイントを施した男・・・。
空蝉は、パイプタバコに火をつけて、一服吸う・・・。そして言った。
【空蝉】
「お前の弟子の弟子だ・・・。鵜飼。」
【鵜飼】
「え?マジか?あいつ、いつの間に新しい弟子をとったんだ?」
【空蝉】
「鵜飼・・・。コイツに修行をつけてやってくれ・・・。ちょっと訳ありのようなんでな・・・。知っての通り、俺は弟子はとらない。お前が指導してやれ・・・。」
弟子の弟子・・・。ということは、この人は師匠の師匠ってことか・・・?この人が・・・。
氷雨は、真っ直ぐにその男を見た。
【空蝉】
「喜べ。コイツも中々、強い男だ・・・。お前の師の師なんだからな・・・。たくさん強いてもらうと良い・・・。」
氷雨は、真っ直ぐ空蝉を見る。
【氷雨】
「ちょっと待った・・・。アンタ・・・一体、何者なんだ・・・?」
【鵜飼】
「俺達は、ただの甲賀の抜け忍だよ・・・。」
【氷雨】
「抜け忍・・・?」
氷雨が聞くと、鵜飼が答える。
【鵜飼】
「・・・そう、俺達はお前の師匠と同じ、甲賀のお尋ね者ってわけだ・・・。まぁ、抜けた理由は違えどそれぞれ違うだろうが・・・。俺は、上の方針が気に入らなかった。自分達の利益のためならば、仲間をも殺す。なんの罪もない仲間でも、疑わしければ、殺す・・・。殺す側も、殺される側もそこにあるのは地獄だけだった・・・。お前・・・。」
【氷雨】
「あ!東氷雨だ・・・。」
【鵜飼】
「そうか・・・。氷雨。お前、泡沫が笑ったところを見たことがあるか・・・?」
【氷雨】
「ちゃんと笑ったところは・・・。ってか、師匠って楽しく、皆とゲラゲラ笑うタイプの、人間じゃないっていうか・・・。」
すると、鵜飼は言う。
【鵜飼】
「今は、な・・・。」
驚く氷雨に、鵜飼はこう続けた・・・。
【鵜飼】
「昔のあいつは、お前みたいなガキだったよ・・・。うるさくて、活発で・・・。表情がコロコロと変わる面白いやつだった・・・。だが、忍びという生き様ゆえ、少しずつ感情が消えていった・・・。」
そう、始まりも残酷だった・・・。




