【あいつを連れ戻す・・・。】
時雨は、夕方そっと4人の子供達が眠る部屋へとやって来た。部屋の中に入れば、丁度、連雨が目を覚ました所だった・・・。
連雨は目を擦りながら、まだ半分夢の中と言ったところだろうか・・・。
【時雨】
「連雨、連日、弟達の面倒を見させてすまないな・・・。ホタルと、兄上が面倒を、見てくれるみたいだから、ちょっと外に出ないか?」
時雨は、そう言うと気を使って大丈夫だと言う連雨を少し強引に外へと連れ出した。
連雨と共に里の中を歩く・・・。辺りはすっかり、暗くなって来ていたため、どの家でも明かりが灯されて来ていていた・・・。家の中からは、楽しげな声が響く・・・。空にはどこまでも続く星空が広がり、月が美しく輝いていた・・・。
それかろ暫く歩くと、そこは青々と生い茂る麦畑だった・・・。その麦畑の中で時雨は寝そべる。連雨はそんな時雨の様子を見て、見よう見まねで自分も寝そべる。すると視界に広がっているのは、大きな大きな夜空だった・・・。白くキラキラと光る星に、夜空を時々飛んでいる野鳥は、巣に帰るのを急いでいるようだった・・・。
【連雨】
「うわぁー!綺麗だなぁー!」
連雨は声を弾ませて言った。
【時雨】
「この麦畑は、ワタシが連雨と同じ年の頃、皆とよく来たんだ・・・。」
連雨は、考える。皆とは・・・氷雨兄ちゃんと、ホタル姉ちゃんと、オト姉ちゃんと、それから・・・。
※オト姉ちゃん→ネネのこと
【連雨】
「・・・皆は、どんな子供だったの・・・?」
連雨は、時雨に質問する。
【時雨】
「今と何も変わらないと・・・。ホタルは努力家で、ネネは姉御肌で、兄上はお調子もので・・・。それから一平は、イタズラが好きたった・・・。兄上は、よく一平にイタズラを仕掛けられてキレて怒っていたな・・・。でも、皆、心優しい子供達だった・・・。今だって、それは変わらない・・・。変わらないんだ・・・。」
時雨は、ゆっくりと頭を上げると言った・・・。
【時雨】
「・・・慎んで承ります。・・・」
東十朗は、ホッとしたような面持ちになる。しかし、時雨は、こう続けた。
【時雨】
「しかし、条件がございます。」
周りは騒然とする・・・。東十朗は、不思議な顔をして、条件とは、何か?と時雨に聞いた。
【時雨】
「長継承の年齢は、17才になった年の七夕。つまり4年後の七夕までに、一平をこの里に連れ戻します・・・。もし、ワタシが一平を連れ戻すことができたら、この話は無かったことにし、許嫁の件も、威風の名を受け継ぐことの件も一平のままにしてください・・・。」
【東十朗】
「しかし、一平は、これから人を殺すと言っているんだぞ?人殺しを東の里の長にするわけにはいかない・・・。」
すると、時雨は、きっぱり言い切る。
【時雨】
「一平は、そんなことしませんよ。絶対に。この条件を飲んでもらえないなら、この話、ワタシは断らさせてもらいます・・・。」
真剣な眼差しで、東十朗を見る。すると、東十朗は言った。
【東十朗】
「よかろう・・・。しかし、あいつがこの里へ戻って来たところで、一平が人殺しになっていたら、この話は無効とする。時雨、お前にこの里の長となってもらう・・・。良いか?」
時雨は、黙って頷いたのだった・・・。一週間にも及んだ話し合いはこうして幕を閉じた・・・。
その後部屋には、ホタル、ネネ、氷雨、そして、泡沫が残る・・・。時雨は、まずネネと向き合って言う・・・。
【時雨】
「ネネ・・・。すまなかったね。こんな事になってしまって。しかし、こうしなければ君はどこの誰と結婚させられるか分かったもんじゃなかったし、一平以外のだれが、威風になれる?君なら分かると思うけど、一平は、この東の里の長になる男なんだ・・・。ワタシではその代わりは務まらない。必ず、一平を連れ戻すから、大丈夫だよ・・・。」
ネネは、泣きながら、うん。と頷いた・・・。ホタルと、心のどこかで安心している自分がいた・・・。安心・・・してしまった。
きっと、時雨様なら一平様を連れ戻すだろう・・・。そう、必ず・・・彼はそういう人だ・・・。
【ネネ】
「ありがとう、時雨様。でも、アタシも一平様を探すわ・・・。」
あの人はアタシに言った・・・。もし、自分が、道を踏み外したら、アタシに止めて欲しいって、そう言った・・・。きっと、一平様はこうなるんじゃないかって、思ってたのだろう・・・。
ならば、あの人がどこにいたって、止めに行く・・・。
【ホタル】
「私も、探すの手伝うわ!」
【氷雨】
「もちろん!俺もだぜ!あのバカ猿をなんとしてもこの里に連れ戻すぞ。」
時雨は、黙って頷いた・・・。
【時雨】
「師匠・・・。甲賀の忍びは、どこに潜伏しているんですか・・・?」
【泡沫】
「甲賀の忍びは、基本的に1つ場所に留まらない。沢山ある隠れ里を転々としている・・・。探すのは、骨が折れるし、今のお前達の力量じゃ返り討ちにあって終わりだな・・・。俺もついて行くとしても、何千といる忍びの前では、あまりにも多勢に無勢だ・・・。安心しろ・・・。時間はある。なぜなら、一平は、まだ未熟者だ・・・。そして、一平を連れていった奴は、一角さんに、蝮に、千年だ・・・。あの中で、七人集のまとめ役の一角さんはかなりの人格者だ・・・。一平がちゃんと忍術を会得するまでは、人殺しなんてさせないというか、里からも出さないだろうな・・・。あの人は、死ぬと分かっていながら、部下を戦地に送るようなことはしない人だ・・・。どんなに少なく見積もっても、後2年は、人殺しにはならないだろう・・・。」
【氷雨】
「じゃあ、今の俺達ができることって・・・。」
【時雨】
「強くなること・・・。」
【泡沫】
「あぁ・・・。その通りだ・・・。」




