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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

似た者同士の結婚

作者: 奏凪

残酷な描写ありは保険です。

※この二人の話が、自分に合わないと感じたらそっとブラウザを閉じてUターンしてください。



 ──彼は、はっきりと告げた。


「そなたを妻として愛することはない」


 たった数時間前に夫となったばかりの男は、目を逸らすことなく律儀に告げた。これから初夜を迎えるというのに隠すことなく生真面目に言ったのだ。何を今更、そう呆れながらも思わず笑みが溢れ出た。


 ──ああ、この人はきっと学園時代に婚約者として過ごした時と変わることはない。この先、王として私を妃と扱うことはあっても、一人の男としては別の女性を愛し続ける。これから後継ぎを産むための儀式的な行為をするとしても、彼の心は未だに元婚約者に在ると隠すことなく告げているのだから。


 その事実が嬉しくて。彼の一途さはあの頃から変わっていないことにひどく安堵した。私はそんな彼だからこそ、共に歩む王妃となると決めたのだ。


「アルファード様、私は全て存じております。そして貴方も私のことを全てご存知であるから、妃に迎えたのでしょう?」


 金髪碧眼の美丈夫であるこの国の王、アルファード・セレスティアにはもともと私ではない別の婚約者がいた。五つ歳下の子爵令嬢であるその婚約者は、この国に偶に顕れるという未来を見通す紫眼を持っていた。教会の司祭の報告により、そのことが先代の国王陛下に伝わるとすぐに王家は動き、アルファードの婚約者という名目で珍しい能力を持つ彼女を保護下に置いた。もちろん、彼女の爵位が低いため一部の貴族から反発はあったものの、彼女の類稀なる能力とアルファード自身が婚約者を溺愛し大切にしていたことを鑑みて、多くの貴族は二人の婚姻に賛同を示した。そんな二人の様子は、当時領地にいた私にも届くくらい仲睦まじかったようだ。


 それなのに、二人はある事件によって引き離されることになった。王立学園に入学する一年前、立太子したばかりのアルファードは側妃を母に持つ腹違いの弟に命を狙われた。けれど、アルファードの婚約者が未来を見通していたおかげでその事件は未遂で済んだものの、その代償に狂乱した弟はあろうことかアルファードではなく婚約者に剣を向けた。その結果、婚約者は未来を見通す紫眼を失い、さらには精神を病んでしまった。つまり、次代の王妃に相応しくないと判断されアルファードの婚約者ではいられなくなったのだ。


 その事件が起きてから一年半後、私とアルファードは当時通っていた王立学園で仕組まれた出会いを果たした。次の王妃として相応しい令嬢は、身分と年齢が釣り合いその当時婚約者のいなかった公爵令嬢の私だけだったから。


「そうだな。……そなたは婚約者となった時も同じことを言っていたな。そなたが妃で良かった」


 淡く微笑む王に、私も笑いかける。私の言葉に嘘偽りはないことは、婚約期間中の間に知っているはずだから。


「アルファード様、私を愛せないことをどうか気にしないでください。私もまた、貴方と同じなのですから」

 

 初めてアルファードと出会ったときと同じ言葉を繰り返す。その真意を知っているのは、もう私とアルファード二人だけ。お互いに今なお別の相手を愛してると、全て了承の上で夫婦になったと誰が思うだろうか。傍から見れば、私たち二人の関係性は相思相愛のようにお互いを大切にしているように仕向けているのだから。アルファードは元婚約者を、そして私はもうこの世界にいない義兄を愛してると、誰も思わないはずだ。


 私たち二人の意見は一致している。アルファードは王族としての責務を、私は貴族令嬢としての義務を果たすためにお互いを利用する、そのための夫婦となると。敬愛や信頼の情は求めても愛を求めることはしないと。それが秘密裏に交わした約束。だから、これから行う初夜での行為は二人にとってただの儀式にしか過ぎない。


 それなのに、彼ははっきりと告げた。儀式の前に私を愛せないと、律儀に伝えてきたのだ。それならば、と私も彼に倣ってもう一度分かりやすい言葉で紡ぐ。


「アルファード様、私も貴方を夫として愛することはありませんわ」


 第三者が聞いていたら王族である彼に不敬を働いたと糾弾されるだろうけれど、彼はその言葉に笑みを深めた。その笑みで大丈夫だと感じるくらいには、きちんとお互いを理解している。だって、私たちは同じだもの。根底にある思いが、考えが、そして誰に愛を捧げているのか。だからこそ、この先の夫婦生活は円満に過ごすことが出来るだろう。


「そうだな。……ああ、そうだな。私──いや、俺たちは同じ境遇に身を置いている」

「ええ、そうですわ。アルファード様、どうぞこれからも宜しくお願い致します」

「こちらこそ宜しく頼む。そなたには重荷を背負ってもらうことになるだろうが、そなた以上に妃に相応しい女性はいない。遠慮せず、何かあればすぐに報告をして欲しい」

「ふふ。私の重荷など、アルファード様に比べたら大したことではありません。精一杯、私の役目を努めさせていただきます」


 数時間前に聖堂で愛の神様の下で誓い合った言葉以上に、今この場で告げた言葉の方こそ私たちにとって意味のあるもの。もう一度、二人の寝室で誓いを交わし合った後、彼は私を丁重に寝台まで運んだ。この後、何が起きるのか分かっているからこそ、少しだけ身体が強張ってしまう。それは決して彼に嫌悪感を抱いているとかではない。本当は純潔を捧げたい相手は別にいるけれども、それはまた彼も同じだろう。


「リリー、大切にするよ」


 月が美しく輝く夜、滅多に呼ばれることのない愛称で呼ばれながら彼に身を任せる。そうして、私たちの結婚初日は過ぎていった。


 ──後に、アルファード・セレスティアとその妃の間には三男二女の子宝に恵まれる。また、アルファードは王族として稀な妃以外の側室を持たないことでも有名な愛妻家であったと人々の間で語られるようになった。そして、妃自身も夫であり王であるアルファードを献身的に支え、国の安寧に一役を買ったとされている。それ故に、二人は最期まで他の相手を愛し続けたことは二人以外誰も知ることはなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


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