魔法少女ユウキ
リアは大人しいモナを見る……飴玉を口の中で転がしているリアよりも小柄な少女は視線に気づいた。
「うん?」
モナが左右に揺れて頭のうさ耳も連動しふりふりと動く。
「その……今年からパートナー契約が始まってクラスには五人って事はモナ……一人なの?」
「うん。そうだよ」
涼しげな表情で答えるモナにリアはユウキの顔を見る。
「あぁ、僕の力は色々と見せたけど……そうだよね。シンとローズがパートナーでモナは一人なんだけど」
言葉に詰まりユウキは唸りながら腕を組んでいた。
「モナは一人でも大丈夫だよ」
小さな手でピースサインをモナが作った。
「僕はシンよりもモナの方が強いと思うんだけど……」
「おい、俺の方が強いに決まってるだろ」
比較にシンを出してユウキは楽しそうに笑っていた。
「リア見ててね」
そう言ってモナは呟いた。
「出てきてスワさん」
モナの指先に一匹の燕が姿を現した。リアの掌に収まりそうな大きさ、口の周りは綺麗な赤色で背中の羽も艶があり、紺色に輝いていた。つぶらな瞳でモナを見るとスワさんはぴょんと飛びモナの頭の上に着地する。
「モナは一人だと何もできないけど……この子達がいるから大丈夫!」
「可愛い鳥さんだ」
そう言ったリアの肩にスワさんは飛び乗った。
「この子は主に偵察をしてくれる子なの。戦うのはブルベアさんや騎士王さんがいるの」
名前だけを聞いてイメージ出来ないリアがユウキを見た。
「まぁ、見たら分かるけど……大人数と戦うのはモナが一番だと思うよ。シンはほら……どちらかと言うと目立たないし」
「効率的と言ってくれ……むしろノウン。お前の方が目立たないだろ」
シンは紅茶を口に含み――噴き出した。
「あはは。ほら、拭いて」
「おまえ……」
呆れたシンはユウキの相手を止めた。
「リアが心配するよりモナは頼りになるからね。僕達の中でも安定してどんな異界でも活躍出来ると思うよ」
「凄いですね!」
リアはモナから受け取った飴を口に含んだ。
「モナは良いわよねぇ。一人の安定感が凄くて……私なんかダメよぉ」
ローズが円卓につっぷした。大きな胸が段差を作り額が円卓に当たる事は無い、その様子を見たモナが飴を手にローズの隣に移動した。
「ローズは……うーんと……」
言葉を選ぶ様にモナは悩みつつ、飴をローズの口に入れる。
「調子がいい時はシンより凄いし」
「モナ……お前まで……」
シンはモナへ寂しそうな眼差しを向ける。
「あ、そうだ。リアと皆で異界に行こうよ。とりあえず、リアの経験はDランクが最高だし僕達五人でCランクに行こう」
「そんな都合よくCランクに行けんのかよ」
心にダメージを負ったのか元気のないシンが虚ろな目でユウキを見ていた。
「うーん。『キング』とか『クイーン』のクラスが討伐予定の異界を無理やり盗もう」
「はーん。奴等の経験を奪いのは癪だが、リアの事を考えると……今回は良いかもな」
「あ、シンが少しやる気になってる。めずらしー」
「お前らがウザいから新入りに俺様の凄さを見せつけて挽回しねーとな。このままじゃ、俺のイメージが悪い」
――シンのイメージ……筋骨隆々でユウキより二十センチ以上背が高くて目つきが悪くて……。
そこまで考えてリアは失礼な事を胸に秘めている自分に気付いた。そして、反射的にシンへ小さく頭を下げる。
「ってかよぉノウン。おまえのふざけた格好をどうにかしろよ」
「えー。可愛いよねモナ?」
「うん……モナは可愛いと思う」
味方を見つけてご満悦なノウンにシンは追撃を与える。
「俺も百歩譲ってモナがその……なんだ。着ぐるみって言うか……ソレを着ていると可愛いと思うが、お前はノウンだしな?」
「あー、なんかムカついたから着替えてくる」
そう言ってユウキは席を立ちダッシュで部屋から出て行く。
「ははっ、んじゃ。アイツが着替えてきたら皆で異界に行くか」
「私がCランクの異界状況を確認しとくねー」
「任せたローズ」
ユウキが居なくなって皆は各々のやりかたで時間を潰していた。リアはスワさんに遊んでもらっている、モナとリアが合図を送るとお互いの腕や頭の上を行き来していた。
「スワさん……可愛い」
「ねー。可愛いよね」
二人でニコニコ過ごすのをシンは羨ましそうな目で見ていた。その様子に気付いたローズがニヤニヤとシンを見ている。
ローズが連絡を取った結果。午後にはCランクの異界へ挑戦する事が可能となった。他のクラスには悪い事をした。
しかし、現場はエースが出ないと駄目な異界なのかと……別の意味で混乱していた。
今までは助っ人としてエースのメンバーが参加する事はあっても全員で挑むのはAランクの異界しか無い。前例の無い申し出に困惑していたが、ローズは『気にしないでいいよ。今日は休んでてね』と深いことは伝えていない。
ユウキが遅くてリアが小さなあくびをすると、タイミング悪く大きな音を立てて扉が開かれた。
「ゔぉい、ノウンおせー……ぞ?」
扉を開けて入ってきた人物は、紅白のひらひら多めドレスを着て背中の腰に当たる部分は大きくて綺麗な桃色のリボンを付けていた。
あくびをした口を閉じられずにリアは目を奪われる。
「魔法少女ユウキ! 此処に参上!」
可愛い声で叫ぶと周りが静まり返った。
――何やってんのユウキ……これじゃ……。
我に返ったリアは見渡した。ローズはバカを見るような目でユウキを見ている、その隣のモナは可愛い服装に目を輝かせていた。
そして、最後にシン……ユウキの服装に文句を言い着替える発端を作り上げた人物。
――絶対に怒られるよユウキ……。
しかし、リアの予想に反してシンは誰よりも目を輝かせていた。それを知っているのかユウキはつかつかと自分の席――シンの隣に座って足を組んだ。
「どうよ!」
「……天使だ」
全員が耳を疑いシンに釘付けとなった。誰もが怒号を覚悟していた中で予想外の言葉にユウキも驚く。
「結婚してくれ」
耳に入ったその声でリアは顔面が蒼白になった。想い人であるユウキが目の前で他人にプロポーズされる事に重ねて男のシンが男のユウキに向かって信じられない言葉を告げた衝撃は凄まじく眩暈を起こす。
――あれ……今のユウキは……。
リアが無理やり正気を保ちユウキをよく見ると……体は鉄の処女に入っていた時と同様に胸が膨らんでいる。胸元を強調する大胆なデザインのドレスは男の視線を奪うのに十分な破壊力を持っていた。
当の本人であるユウキはシンの言葉に対して酷く冷静に返す。
「うわー……きもいねシン」
その一言を認識したシンは気を失って椅子と一緒に後ろへ倒れた。
「あっはっはっは。モナ見た? シンったらノウンにプロポーズしてたよ」
「あわわわ」
大変な出来事に対してモナも顔を隠している。
「ノウンじゃないぞ。魔法少女ユウキだーぞっ!」
「はいはい。よく見たら顔がノウンにそっくりなんだもん……あ、シンは直視出来て無かったのね。ばかねー」
そう言ってローズは魔法少女ユウキに近づいた。
「ちょっと、ノウン。これ何を入れて……ん?」
ローズはそっとユウキの胸に手を当てると動きが止まった。
「あれ……ノウン?」
「ユウキだよ」
そう言ってユウキもローズの大きなお胸に仕返しのつもりなのか手を当てていた。
「ちょっと!」
拳を振り上げるローズに向かってユウキは余裕の表情で告げる。
「女の子に手をあげちゃ駄目なんだぞっ!」
ユウキはピースサインを作り肘を上げピースの間に瞳を入れる。
すると、観念したのか振り下ろされる事なくローズは拳を収めた。
「ノウン……いえ、ユウキね。貴方は本当に予想できない事をしてくれるわね……」
その後、モナもユウキの服装をチェックして戯れていた。
この日、シンを除く四人には共通の秘密が出来た。男の子の時はノウン、女の子の時はユウキと呼ぶ決まり。
それはシンへの優しさでありユウキの正体がノウンだと気づいた暁に……シンがどうなるのか想像できないからだ。
プロポーズをした相手がノウンだと知ったら自害しかねない。
「ユウキはどうしてその恰好なの?」
「それはね。シンのお部屋に魔法少女の漫画が沢山あって参考にしただけだよ」
シンのイメージに合わない情報なので全員が他言しないと心に決めた。
顔合わせの会議で――『エース』は団結力を強める事が出来た。