先輩……死す
リアの目の前には鉄の処女が佇んでいる。その見た目は鉄の棺桶に見えるが少し丸みを帯びてユウキの顔に位置する場所に無表情の顔が金属で描かれている。
足元は植木鉢の水受けになっていて、赤い液体が溜まりつつあった。
「ユウキ……大丈夫?」
声を掛けた瞬間、金属の顔が横に開いてユウキが現れた。
「うん。大丈夫……だよ?」
血の気が引いて青白い顔のユウキは生気を失っている最中だと見て分かる。
「それ勝手に開くの?」
回復力を知っているリアの好奇心は自動で開いた鉄の処女に興味が向いていた。
「僕の力でテレキネシスって呼んでる技があるんだよ。これは、軽い物なら動かせるんだ」
その直後、リアの持つ魔法の杖が宙に浮いた。己の手を離れてゆっくり回る杖を見てリアは驚く。
「ユウキは多彩ですね」
「ふふふ。でも、自分の片腕で動かせる重量くらいが限界だから微妙だよ」
両手、両足が存在しなくても物を動かす事が出来る。リアが初めにユウキと出会った時もテレキネシスを使って自分の四肢を斬り落とした。
「そのテレキネシスでロープから出れたんじゃない?」
「それが、上手い具合に絡まってて一苦労しそうだったから……」
――なら……やらなければいいんじゃないかな。
呆れながらもユウキを眺めていると微笑んでいた。
「これね。すぅーっと意識が朦朧として……ふわーって」
「危ないですよ。もうそろそろ治してください」
ユウキの足元には赤い液体が溜まりつつある。
「でも、このアイアンメイデンは死なない様に出来てるんだよ。拷問器具であって処刑用じゃないからね」
――ギロチンは処刑用じゃないのかな……。
リアの心配そうな顔にユウキも観念したのか指示を出す。
「このアイアンメイデンの左脇にレバーがあるよね?」
ユウキの顔ばっかり見ていたリアは小さなレバーを見つけた。リアの右手に収まる大きさのレバーを握る。
「それを下げて」
「こう……ですよね」
リアは力を入れてレバーを下げると鉄の処女から音が聞こえた。内部でガチャガチャと音が鳴り響いている。
「このアイアンメイデンにはカラクリが仕込まれててね。それを動かすと……」
「……動かすと?」
ガチャガチャ音が鳴りやむと一呼吸置いてガシャンと大きな音が鳴った。
「僕は死ぬ」
「し……ぬ?」
ユウキの顔と同じようにリアも青白く頬を染めた。
「あっ……中の針が体の奥にめり込んで……」
「ユウキ!?」
今まで以上に真っ赤な池が足元に姿を現した。致死量を遥かに超えている。
「リア……」
「なに!」
涙を瞳に溜めながらリアは答える。今にも息絶えそうなユウキを前に出来る事が無い。
「……最後に……君の黒魔法を……強い魔法をこの身に……撃って欲しかった」
そう告げるとユウキは瞳を閉じてぐったりと動かなくなり、赤い池もこれ以上は水深が変わらなかった。
「ユウキ……撃ってあげるから! とっても強い魔法を撃ってあげるから死なないでー!」
涙を溢しリアは膝から崩れ落ち叫んだ。想い人に止めを刺した事実にさえ気づいていない、今は目の前のユウキしか頭には無かった。
「言質……取ったからね?」
「えっ?」
眼を赤くしながら顔を上げるとユウキが笑っている。
「……ユウキ死んでない?」
「一回死んだよ」
そう言ってユウキは鉄の処女を開いて飛び出した。中の針は禍々しくて直視できない、リアが視線を下に向けると先ほどまで存在した赤い液体は綺麗に無くなっていた。
「僕の力にリザレクションってのがあってね。魔力が尽きない限り死んでも勝手に生き返るんだよ」
身に纏う服は至る所に穴を作り、そこから見える肌には傷一つ無い。
リアは涙を袖で拭い立ち上がると杖を構えた。
「お、さっそく黒魔法を――」
ユウキが喋り終える前に杖でポコポコと頭を叩く。
「バカ! びっくりしたんだから!」
「あぁ、ごめんごめん」
何処か嬉しそうなユウキを見てリアは暫く叩いた後に、自身の行動は逆効果だと気づいて叩くのを止めた。
「もう心配しません。ユウキは殺しても死なない人です」
「あはは。僕はこれでも序列一位だからね」
頬を膨らませるリアにユウキは対応に困った。
「あと、ユウキ……今は女の子だから服をちゃんと着てください!」
「んーっと……可愛い服を買いに行こうか」
ユウキと出掛ける事に喜んだのか、リアの顔が明るくなる。
「はい、是非いきましょう」
ユウキと拷問部屋を後にし、まずは男物の服をリアが着せた。
そして、二人で街に出かける。
――あれ……ユウキとお出掛けは嬉しいんだけど……なんか違う気がする。
可愛い二人は可愛い服を求めてお店を巡った。