表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/41

先輩は鉄の処女

 リアはユウキの元へ向かっていた。セントラルの寮で生活を開始して数日経つがユウキの部屋だけが一階に存在する。


 その理由は明白でユウキの拷問部屋という存在だ。


 他の四人と部屋が離れている原因は全てユウキの趣味に尽きる。


 そして、リアはユウキの元へ向かう為に駆けていた。三階にある自分の部屋から廊下を走り階段を下りてまた走る。


「そこの走ってる奴!」


 リアの目線は前にしか無くて突然の呼び声に驚き振り向いた。


 目の前にはリアよりも二十センチくらい大きい……巨体が近づいてくる。


 リアは見上げると髪の毛は金髪で短い。目力が強くてリアは目を自然と逸らした。


 その先は迷彩柄の服に隠れる気が無い真っ赤な上着を羽織って手首にはアクセサリーを付けている。


 男の指先に嵌められた髑髏の指輪を見ていた。


 ――急いで走ってたのがダメだったのかな……怒られちゃうかな。


 身を縮めながら指輪を見ていると男が言いにくそうに口を開いた。


「その……えっと……これ落とした」

「あっ!」


 男の手にはリアがユウキから貰った伸び縮みする棒……ユウキの言葉を借りるなら『魔法の杖』が握られていた。


 ユウキが契約書を提出した後にリアへプレゼントした物で『魔法を使うなら指を指すんじゃなくて、こういうのを使わないとね』と言い渡していた。


 今は片手で持てるサイズになっており手提げカバンに入れていたが急いでいる途中で落とした。


「ありがとう」

「お、おおう。まぁ、気を付けてな」


 リアが真っすぐ男の目を見ると今度は目を逸らされた。


「急いでんだろ?」

「そうでした」


 男は踵を返し歩き始めたのでリアもユウキの元へと向かった。


 その足は先ほどよりも落ち着いて、ドタバタ音を鳴らす走りから少しの駆け足へと変わっていた。


 リアは扉の前に立ち少し息を切らしながらもドアをノックする。


 しかし、返事は無い。


 ――もうノックするの止めよう。何時でも入って良いっぽいし!


 リアは迷わずドアノブを回してユウキの部屋に入った。質素な部屋には誰も居ない。


 ここに急いで来た理由……そのきっかけはユウキからリアへ連絡があったからだ。


 契約後、二人は連絡先を交換していた。連絡端末を使って通話や文字でメッセージを相手に送れる。


 その端末から送られてきた文字は『少し困ったから来て』との短い文章だった。


 しかし、ユウキの部屋には一見……誰も居ない。机の上には飲みかけのマグカップが置いてあり、その隣には赤いボタン。


 迷いなくリアは押すと牢獄部屋への階段が姿を現した。


「いるんでしょユウキ」


 階段の向こう側に叫びながら一段ずつ降りる。照明は改善されていて、天井に複数の明かりを一列に吊るして光源を確保していた。


「やっときたー!」

「……えっ」


 返ってきた声は高音で少女っぽさが強い。


 ユウキ自身の声も中世的で女の子と間違える可能性は存在する。しかし、リアが聞き間違える事は無い。


 変な汗を掻きながら拷問部屋の扉の前まで急いで階段を下りた。そして、勢いよく扉を開ける。


 リアの視界に広がったのは牛さんの置物でもギロチンでも無い。


 可愛い女の子がロープに吊るされて身動きが取れない状態だった。その服装は病院で診察を受ける時の薄く、側面には肌が露出していて……色々と見えそうな姿をしている。


「ちょっと、大丈夫ですか?」

「大丈夫だけど……思ったより絡まっちゃって」


 拷問部屋の照明も改善されて周りが良く見える。ギロチン達は片付けられておりリアは気付かなかったがもう一つ奥に扉が存在する。


 天井を見るとロープが通され女の子を拘束していた。両腕、両足の自由を奪い宙に浮かせる悪行をしたユウキを探すが周りには居ない。


「えっと、どうしたらいいんだろう……」


 女の子は正面にリアを捉え下半身が上に位置する。リアからは緩い首元から色々と見えているが気にしない。


「ロープを全部燃やしたらいいんじゃないかな?」

「そう……そうだよね。今はそうするしかないよね」


 不安げな表情のリアだが、指先をロープに向けて止まった。数秒の間があり、自身のカバンから魔法の杖を取り出す。


 伸縮可能な杖を手で伸ばすと約八十センチ程の長さになった。先端には透明な丸い水晶が付いている。


「えっと……ファイア!」


 リアがそう告げると先端の水晶から天井近くのロープへ向かって炎が吹き荒れた。器用に女の子を巻き込まない様に離れた所を燃やす。


 一部が燃えて千切れるのを合図に綻びが広がり女の子は地面に落ちる。


「ぐえっ」


 日常生活では絶対にあげない声をリアは聞いた。黒魔法を止めて地面に落ちた女の子の元へ駆けつける。


「大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫だよ」


 リアの目で確認する限り大きな怪我は無いので、そっと胸を撫でおろす。


 ――ユウキ……拷問部屋に女の子を放置するなんて!


 攻撃的な熱い炎を瞳に宿しながら女の子に向かってリアは腕を伸ばして立ち上がらせた。


「ねぇ、ユウキは何処? ちょっと怒らないと……駄目かも」

「ここに居るよ。怒るなら是非、さっきの黒魔法を……」


 ――ん?


「空耳かな……改めまして。ねぇ、ユウキは何処に居るか知ってる?」

「うん。ここに居るよ」


 リアは目を丸くして女の子を観察する。身長はリアと同じくらいで髪の毛はユウキより長い。そして、何よりお胸がリアよりも大きい事に気付く。


 ――確かに、ユウキは私と背があんまり変わらないけど……。


「し、失礼します」


 リアはそっと女の子の胸に手をやり感触を確かめる様に揉んだ。


 ――絶対に本物……あれ。


「くすぐったいんだね。意外と」

「私わかんない。どういう事?」


 混乱しリアは頭を抱えてしゃがみこんだ。その様子を女の子は困った表情で傍に屈む。


「僕の力……ジェンダーって呼んでるんだけどね。性別を変える事が出来るんだよ」

「……本当にユウキ?」


 ――確かに顔をよく見るとユウキにしか見えない。


「そう、僕だよ。どうかな、ちゃんと女の子の体になってるかな?」

「ええっと……うん。なってる……なってるよ」


 にこっと笑う顔にはユウキの面影がとても強く残っている。


「リアが初めて気を失った時にね。参考にしたからいい感じだね」

「へぇー、私を参考に……ん?」


 ――初めてユウキを見たのは確かバラバラで……それで私を参考?


「もしかして……色々触ったり?」

「うん。僕の部屋に運ぶ時に……ついでに?」


 気を失ってる間に自身を弄られていた現実にリアは目が死んだ。


「でも、測ったりだよ。服の上からだから数字上は僕の胸の方が大きくなるのは必然で――リアのトップとアンダーの差は」

「すとっぷ。ちょっと、黙りましょうね。深呼吸させて」


 リアはゆっくり息を吸い、長く深く息を吐いて居た。


 ――別に、脱がされて色々弄られた訳じゃないし……セーフよね。セーフ。


 落ち着いたリアは立ち上がってユウキの前に腕を組んで立つ。


「触るなら私が起きてる時に触ってよねユウキ」

「ん……うん?」


 困惑するユウキにリアは尋ねたかった事を訊いた。


「で、どうして女の子になってロープでぐるぐるされてたの?」

「あぁ、それはね」


 ユウキも立ち上がり膝をポンポンと叩いてリアの前で笑顔になる。


「女の子の方がこういうのは見栄えがいいかなって思ったの」

「……」


 固まるリアにユウキは首を傾げるが何かを思い出した様に自分の掌を叩いて奥の部屋に向かった。


「あと、これこれ。こんなのを手に入れたんだよ」


 自慢のおもちゃを見せつけるユウキにリアは苦笑いしていた。


 ユウキが持って来た物を一言で表現するなら、鉄の棺桶だった。


「アイアンメイデンって言ってね。ほら!」


 ユウキがそう言って中を開けた。その中身には細い針が無数に散りばめられておりリアは顔をしかめる。


「鉄の処女って言われるし男より女の方が似合わない?」


 そう言ってユウキは中に入り、リアの前で自分を串刺しにした。


「あっ……ん!」


 妙に妖艶な喘ぎ声が直後に漏れる。


「ってちょっと!!!」


 流れるような自虐行為にリアは頭を抱えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ