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先輩ごめんなさい先っちょだけで我慢してください

 突然の申し出にリアは言葉が詰まった。目の前のユウキは楽しみにしているが『黒魔法(ブラックスペル)』を人に使用した事は無い。


「私……ユウキに黒魔法はちょっと……」

「そこをどうにか……黒魔法の先っちょだけでもいいから……」


 ――黒魔法の先っちょってなんだろう……。


 両手を合わせて頼み込むユウキに返す言葉が無い。


「その……危ないですし」

「僕の力なら大丈夫だよ」


 ――切断した手首を一瞬で治すのを見た後だから説得力がある。でも、人に使うのは心の準備が……。


 必死に頼み込むユウキにリアは目を泳がせながら口を開いた。


「ダメです!」

「えー。んー……」


 両腕を組んでユウキは瞳を閉じて悩み込む。その様子を隣でリアは眺めていた。


 少し茶色っぽいショートカットと言えるユウキの髪が小さく左右に揺れている。


「じゃー、契約するに当たって……リアの力を測る為にも!」


 それっぽい理由を思いついたユウキは真っすぐリアを見る。


「仕方ないですね……とぉーっても弱い奴を使いますからね?」

「とぉーっても強い奴を使って欲しいんだけど……僕もまずは弱い黒魔法で我慢するよ」


 とりあえず、黒魔法を使ってくれるリアに満足したのかユウキは両腕を上にあげた。


「さぁ、いつでもどうぞ?」


 リアは少し呆れ気味に息を深く吐いた……そして、指先をユウキに向ける。


「えい」


 リアの掛け声と同時に指先から刹那の輝きが拷問部屋を照らしユウキへ一直線に向かう。


「あっ……あれ?」

「どうです……か?」


 リアは可能な限り弱めた威力の(いかずち)を放った。


「その……少しピリってしたと言うか……くすぐったいというか」

「さぁ、これで満足ですよね?」


 ――弱い黒魔法で我慢するって言ってくれたし。この雷でおしまい!


「その……もう少し……黒魔法の先っちょがこれくらいならもう少し深く……」

「黒魔法の先っちょが何か分かりませんが出来る限り弱くしたんですからね。いいですよね?」


 口をぎゅっと結んで不満そうな顔をユウキが浮かべる。


「それより、ユウキの力が私は気になります」


 ――セントラル最強のユウキがヒールと呟いて怪我を治していた。最強という意味が分かんないし……確かに、怪我が治るのは凄いけど。


「んー。じゃ、教えるからもう少し強い炎の黒魔法をお願い出来……る?」


 リアはじとーっとユウキを見る。負けじとユウキは両手をこすり合わせていた。


「パートナーとして教えてください。その後に黒魔法をお披露目するか悩みますので!」

「あー、それずるい。でも……僕は寛大な心で受け入れます」


 子供っぽくユウキは笑い説明を始めた。


「えっとね。基本的な魔力については知ってるよね?」


 魔力――それを使って何かしらの力を使う。体力、精神力に続いて存在する魔力。


 この魔力が尽きると力を行使する事が出来ない。リアも魔力が無くなれば黒魔法を使えない。


 逆に、魔力が無限にあればずっと黒魔法を使える。


 強力な力を使う為には比例して消費する魔力量も変動する。


「もちろん、知ってますよ。私達は魔力を変換して自分の力を顕現しています」

「そうそう、それでね。さっき見せた奴」


 ――さっき見せた奴……ヒールしか見てない。


「ヒールって言って自分の怪我を治した奴ですよね?」

「そー。ちなみに聞くんだけどリアの使ったさっきの技は何て言うの?」


 きょとんとした表情のリアを見てユウキは大げさに驚いた顔をした。


「まさか無いの……ダメだよ。技に名前を付けないと! シンの部屋にある本で技名は大事って書いてあったんだから!」

「……シン?」


 突然ユウキの口から出てきた他人の名前にリアは首を傾げる。


「あぁ、シンってのは同じクラスの子だよ。一応、序列があって僕が一位で彼は二位。近いうちに会うから覚えて無くてもいいよ。その時に自己紹介したらいいからね」


 ――あ、もしかして舞台に立ったユウキしか見て無かったけど隣にいた背の高い金髪の人かな……。


「で、話を戻すけど。技名は大事! 分かった?」

「分かりました!」


 最強の教えを素直に受け入れたリアは大きく頷く。


「で、僕のヒールを説明すると……僕を元の状態に戻す力だよ。例えば……僕の腕を切断して地面に落ちるとするでしょ? そこでヒールを使うと落ちた腕が消えて僕の肩にくっつく感じ。時間を戻して正常にする……が正しいのかな?」


「凄い。でも、それって……魔力を沢山使いませんか?」


「そこで、リアには安心して欲しい。僕の魔力量は桁違いで何度でも治せるからね。異界の門でSランクに行けるのはセントラルで唯一僕だけなんだよ」


 異界の門――リアが持っていた書類の中に記載がありセントラルで対処出来るのは基本的にBランクの異界だけ。それ以上は、更に上の機関に頼む事となっていた。その中でセントラル最強のユウキは唯一Sランクの異界を攻略できる人物。


 それが、ユウキを最強と称える証。


「だからこそ、ユウキが居る時に限りAランクの異界も挑戦出来るんですよね?」


「そーだよ。リアは勤勉だね。異界の門は事前に危険度をランクで教えてくれるからね。本当に便利だよねー、誰が作ったんだろう。まぁ、僕達のクラス五人全員が参加する時はAランクに挑めるよ」


 ――私は今までクリアしたのはDランクの異界だけ……やっぱりユウキは凄い。目の前に居るのは紛れも無い最強で異常者で自分を虐めるのが好きで……あれ?


 少しだけリアの表情が曇る……それを見てユウキは首を傾げつつも続けた。


「で、僕がリアの黒魔法でも無事な事は伝わったと思うしそろそろ次をお願いしたいんだけど……」

「待ってください!」


 真剣に耳を傾ける様に大人しくユウキは真っすぐリアを見る。


「異界って様々な敵が出ますよね? 異形の者から気持ち悪い感じの奴とか……ユウキのヒールだけじゃ倒せないですよね?」


 至極真っ当な意見にユウキも関心したように小刻みに頷く。


「そうだね。いくら僕が回復出来るとしても倒す術が無いと不思議に思うよね」


 そう言ってユウキは拷問部屋を駆けて何かを取り出しリアの元へ戻ってきた。その手には小さな石が握られている。


「さぁ、このそこらへんに落ちてそうな石はね。魔石と言います!」

「あ、異界で手に入る奴ですね」


 魔力を溜めこむ性質のある石――魔力量により輝きが増す……しかし、ユウキが握る石はくすんでいる。


「僕はこの技をバックフローって呼んでるんだけど……見ててね」


 そう呟くとユウキの手に握られた石がゆっくりと輝きを増していく。青白い光が綺麗なコバルトブルーになり段々と赤い色に変わる。


「この石だとそろそろ限界かな?」


 その直後、ユウキの握る石は軽い音を立てて弾け散った。


「魔力を相手に流して限界値を突破して崩壊させるんだよ」

「それって、手で触れたら相手を元気にして爆発させるんですか?」


 笑顔で頷くユウキを見てリアは驚いていた。


 ――相手の許容範囲を超える魔力を注ぐ……ユウキの魔力量は計り知れない。


「まだ色々と出来るけど……僕の話はこのくらいにして……ね?」

「はぁ……仕方ないですね」


 先ほどと同じようにユウキは両腕を上にあげた。


「さぁ、どうぞ。あ、技名をちゃんと言うんだよ。あと炎だからね?」


 大きく長く息を吸って、ゆっくり長く息を吐いたリアが指先をユウキに向けた。


「……ビリビリ」


 心なしか先ほどよりも少しだけ威力の高い雷を放った。


「リ……ア?」


 裏切られて絶望した表情のユウキが口をあけながらリアを見る。


「む、むりですー!」


 そう言ってリアは一目散に石造りの階段へ向かって駆け出した。捨て台詞を忘れずに叫ぶ。


「契約書は出してくださいね!」


 リアの声が拷問部屋に鳴り響いた……ユウキは唖然とリアが立ち去った階段を眺めていた。

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