第十四話 ななちゃん、豆まき鬼退治の巻
今日は節分です──
ろく、なな、はちの三人は、食堂のおばさんに巾着を持って来るように言われ、何をするのか不思議がりながらやって来ました。
「おはよごじゃまちゅ!」
「おはよう。よかったぁ。今日は三人にお願いがあるのよ」
「おねがいでちゅか?」
「うん。実はね? 今日は一年に一度、鬼がやって来る日なの」
“鬼”というものが何なのか、よく分かっていないようで、お客様が来るのだろうかと、わくわくする三人。
「ちゃんと巾着を持って来てくれたのね。それじゃあ、これをあげるから紐を緩めてちょうだい」
食堂のおばさんは、それぞれの巾着に炒ったお豆を入れてあげました。
「おまめしゃんでちゅ」
「たべていいでしゅか?」
「ろく、おまめしゃんしゅきでしゅ。かわいいでしゅ」
おやつにお豆さんをもらったと思っているようですが……。
「鬼が来たら、それを撒いてね」
「えっ! たべものを、えいってちたら、いけないって、かなしゃんがいってまちた」
「おまめしゃん、はち、たべたいでしゅ」
「ろく、おまめしゃん、おにしゃんに、あげるでしゅ」
果たしてこの三人に任せていいものかと疑問に思いつつも、戸の外で待機している鬼役のかなちゃん先生に、合図を送る食堂のおばさん。
「おっほん! そろそろ鬼がやって来る頃ね」
引き戸がゆっくりと開いたので、みんなの視線はそちらへ集まります。
「いらしゃいまちたぁ」
「おまめ、たべましゅか?」
「ろくのあげま……きゃあぁぁぁ!」
入り口に一番近かったろくちゃんは、見てしまったのです。
「おにぃぃ! こわいこわいでしゅうぅぅ!」
その声に、なな、はちの二人も驚き、思わず持っていた巾着を放り投げてしまいました。
宙を舞う巾着から、床一面に散らばるお豆達。
鬼役のかなちゃん先生は、その事に気づいていません。
(怖がってる怖がってる。やっぱりまだまだ子供ね。ちょっぴりおどかしたら、適当に退散しよう)
食堂へと一歩踏み入れたかなちゃん先生は、お豆を踏んでしまい……。
「うわぁぁ! どういうこと? 何これっ!」
足を取られたかなちゃんは、手足を大きく動かしながら転ぶのを堪えています。
それを見た三人は、更に泣き出し、食堂は地獄さながらといった具合です。
「ま……参ったぁ!」
結局、特に何もしないまま、今年の鬼は帰ってしまい、食堂のおばさんはその後、大泣きの三人をなだめるのに苦労したようです。
「おにぃ! もうこないでくだちゃい!」
「はちの、おまめぇぇ!」
「こわいでしゅうぅぅ!」
意図せぬ形で鬼を退治した、ろく、なな、はちの三人でした──




