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銀杏の葉

作者: 椿 綾羅

「なつみちゃんはしょーらいなにするの?」

男の子は銀杏の葉を集めながら私に聞いた。

いつだったか忘れてしまうほど遠い過去に聞かれた質問。覚えているとしたら、その質問をした人も私もかなり幼く愚かで単純だったことぐらいだ。

「んー、____くんのおよめさんになる!」

多分、そんな感じのことを言ったのだろう。

質問してきた男の子は嬉しそうに笑い「なつみちゃんをりっぱなはなよめさんにしてあげる!」と言っていた。私は笑ってうん、やくそくだよと、小さい子供ならではの口約束をしたのだ、多分。小さな小指同士を絡めて笑いあっていた、幸せでまだ、世界が単純に見えていた頃の、小さで、愚かなーー


ピピッピピピピ……

「うーん……」

布団から手だけを出しうるさいアラームを止めた。本音を言えば二度寝したい。しかし、今日は早くから仕事の依頼が来ていた。覚悟を決めて布団を蹴り飛ばす。

「寒っ」

寒さと自分の寝起きの悪さに苦笑いを浮かべながらリビングに行った。テーブルの上には恐らく昨日呑んだであろう空き缶が転がっていた。溜息を着きながら片付け歯を磨いて着替える。今日は白のタートルネックにジーンズとお気に入りのベージュのコートにしよう。メイクは……めんどくさいのでベースメイクと口紅だけにした。

内心めんどくさいと思いつつ、フリーの仕事を仕方ないと言い聞かせてデッキシューズを履き家を出た。

目の前に銀杏の葉がひらりと落ちてきた。

「もう、そんな季節なんだねぇ……」

黄色い扇のような形の葉を弄びながら歩いて打ち合わせの場所へ向かった。

ふと、朝見た夢を思い出した。単純で幼くて愚かだった頃の記憶に似た夢。

「お嫁さん、か」

そう言えば、そんな痛いこと言った気がしないでもない。もっとも、相手の子の名前も顔も忘れてしまったが。

ただ、声とあの質問だけはよく覚えていた。

自分でも、何故だろうと首をひねってしまうが多分、とても大切な事だったのだろうと思った。

それにしても……

「似てたなぁ……どっかの馬鹿に」

私と白黒のフィルムカメラを置いて遠い世界に言ったあの馬鹿。好きだと言って、大事なことを隠そうとして最後は私の腕の中で旅立っていったアイツ。

『幸せに出来なくて、ごめん』

それが、最後の言葉だった。後で知った話アイツはネックレスを渡そうとしていたらしい。

そして、そのネックレスは今、私の手元にある。最初で最後の誕生日プレゼント……。

「馬鹿」

小さく呟き滲んだ視界を治すように袖で目元を拭った。あの男の子が誰だろうと関係ない。

思い出には、過去には帰れないことを知っているから。

軽く頭を横に振り足早に歩き始めた。


銀杏の葉は黄色く色づき、何かを伝えるように揺れていた……

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