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「あら、千夏ちゃんじゃないの?」

「あっ、サトミさん!」

 千夏は非常にびっくりして、言葉が上手く口から出て来ずに、あわあわとしていた。

 サトミもまた遭遇したことに驚きを隠せないでいた。

「あらまあ、すごい偶然。で、その後、耳の調子はどうなの?」

「はいっ、お陰様で完治しました。その節はありがとうございました」

「治ったのね。よかった」

「サトミさんのお蔭です」

「私もあの時、千夏ちゃんに出会えて本当によかったわ。こちらこそありがとうね。でもここで何してるの?お仕事?」

「まあ、そうなんですけど、あの、サトミさんまだ時間ありますか?」

「うん、時間はたっぷりあるわ。とりあえず、先にチェックイン済ませたいんだけど、いいかしら。今空いてるので、並んでおきたいの」

「もちろんです。私もちょっと電話しないといけないので。とりあえず、チェックイン済んだら、この辺で待っててもらえますか?」

「わかったわ」

 サトミはチェックインの列に並び、千夏は少し離れて辺りを見回しながらスマホを耳に当て、たくさん人が溢れている中に紛れて歩いて行った。

 また最後で千夏に会えるとは思わず、サトミは偶然の導きに恵まれているように思えてならなかった。

 そして、チェックインをする時も、その偶然の導きがさらなる幸運を産んだ。

 オペレーショナル・アップグレードのオファーが舞い降りた。

 エコノミー席から、無償でビジネスクラスへの振り替えだった。

 春休みシーズン、卒業旅行者が増え、オーバーブッキングがあったのかもしれない。

 そこで、一人旅のそこそこ日米間を往復しているサトミに白羽の矢が立てられた。

 偶然もここまで来ると、確実にサトミはついているとしか考えられなかった。

 最後に、粋な計らいだわ。

 嬉しいのやら、寂しいのやら、泣き笑いするような気持ちだった。

 チェックインを済ませた後、千夏に言われた通り、辺りをキョロキョロしながら、通行客の邪魔にならないように適当に立っていた。

 いろんな人、それも世界中の人がここに集まって来ている様は、不思議なものだった。

 これから楽しい思い出を作りに行こうとしている人たち。

 すでに楽しい思い出を作って帰ろうとしている人たち。 

 空港は出会いの場でもあり、別れの場でもある。

 サトミの目には空港がこの時寂しいものに映った。

 その虚しさを追い払おうと大きく息を吐いた瞬間、サトミの前に誰かが立ちふさがった。

「サトミちゃん」

 自分と同じ年ぐらいの初老の女性が今にも泣きそうにサトミをじっと見ていた。

 その女性は確かに見たことがあると思った。

 遠い昔の辛かったあの時期。

 広まって行った二人の間の溝。

 今そこに橋がかけられ、時を超えてその人がサトミを呼びかけた。

「えっ、ハ……ルカ……ちゃん?」

 その橋を戸惑いながらサトミも渡った。

 橋の真ん中で二人が出会った時、もうそこには溝などなかったように埋まっていた。

 ハルカは涙ぐみ、サトミの手を取った。

「やっと会えた。サトミちゃん」

「えっ、本当にハルカちゃんなの? でもなんで」

 サトミは完全に困惑して、何が起こってるのかわからなかった。

 中学の時から時が止まっていたハルカはすぐさまあの時の事を口にした。

「サトミちゃん、あの時、音楽室で一人にしてごめんね」

「えっ、あの時って、中学の時の事? ああ、あれね、あれは私まだ恨んでるわ」

 サトミの言葉にハルカは驚き、喘いだ音が喉の奥から反射した。

「そんな…… 恨んでるって」

「そうよ、恨んでるわよ、木藤さんを」

「木藤さん? 利子さんの事?」

「そうよ。ハルカちゃんと喧嘩して、一人になって反省したのに、次のクラスで音楽室にいったら、木藤さんがハルカちゃんの盾になって私を近づけないようにしたんだもん」

 サトミはふんと子供っぽく怒るも、すぐに笑顔を見せた。

「あの時は仕方ないよね。私も我がままだったから、ハルカちゃんが怒るのも当然。そして素直になれなくて、逆切れしてさ。でも時間を置いたらやっぱり謝りたくなってさ。だけど、あんな風になるなんて思わなかった。私にはいい教訓だった。遅くなったけど、ハルカちゃん。ごめんね」

「サトミちゃん」

 感極まったハルカは泣いていた。

 反対にサトミは、すっきりした顔であっけらかんとしていた。

「そんな、今更泣くことないわよ。それにしても、すごい年月が経ったわね。私たちお互いに年取ったわ」

「サトミちゃんは、変わってない。生き生きとして、私なんかよりもずっと若い」

「そんな訳ないでしょ。いい年なんだから。だけど、どうしてハルカちゃんがここにいるの?」

「それは、なんだっけ、えっと、セレンディピティ? サトミちゃん知ってる?」

「セレンディピティ? 知ってるけど、偶然って事?」

「ううん、セレンディピティの神様が色んなことを繋げて巡り合せてくれたの」

「セレンディピティの神様?」

 ハルカの突拍子もない話に、サトミが頭に疑問符をいっぱい乗せてると、さっきから人ごみの中で隠れていた、唯香、貴光、千夏、そして美代が集まってきた。

「えっ! なんでみんな揃ってここにいるの」

 サトミは素っ頓狂な声を出して、大いに驚いていた。


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