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चंद्र讚歌 -La L'inno per il Candra-

アイラブユー・ゲーム

作者: 関ひだり

20XX年 4月



 「アイラブユー・ゲーム?」

 「そ。帰国するまでに、このメンバーのうち誰か一人に『I love you』って言って、他の誰にもバレなければ勝ちってゲーム。簡単でしょ」

 カナダ旅行の最終行程、帰りの飛行機に乗る直前。メンバーの一人、リンが突然「アイラブユー・ゲームしようよ」と言い出したのだ。

 「誰得だよ、それ」

 ノブタロウが面倒臭そうに言う。ホシコもうんうん、と頷いている。

 「まあまあ、ただのゲームなんだし、良いじゃない。バレないように言うんだし、ね」

 バレた時はその時だけど、とエスは楽しそう。

 「でもそれって勝敗はわからないじゃないか」

 ホルヘは尤もな疑問を呈した。

 「いいのいいの。こーゆーのは『ゲームをする』ってことが大事なんだよ」

 リンがいたずらっぽく笑う。うやむやな感じで、いつの間にかゲームが開始されたらしい。

  ――どうせ、エスの言う通り、ルール的に「バレないように」アイラブユーを言えば良いので、裏を返せば、自分が言われない限りは誰が誰に言ったかなんてわかりっこないわけで、つまり本当に言ったかどうかすらも他の人には分かりようがないのだから、「誰にも言わない」というのが一番傷つかない最適解であるような気がする。そもそもリンがどうしてこんなゲームを発案したのかが謎である。もしかして誰かに言いたいのだろうか。



 ***



 カナダから日本へ帰るには当然国際線の飛行機に乗る必要がある。中学生五人組が搭乗したのは大きな飛行機だった。

 座席の配分は、窓側の列に二人、真ん中の列に三人と分かれてしまっていた。それぞれチケットに掲載されている番号に従って、窓列にはノブタロウとホシコ、中列には通路側から順にホルヘ、エス、リンが座ることとなった。



 リンとエスが話している。

 「二週間も滞在したけど、あっと言う間だったね」

 「そうね。でも、楽しかったなあ」

 「お土産、何買ったの?」

 「んー、メープルシロップにメープルクッキー、それから民族調の羽根飾り、かな。ホルヘは?」

 そこにホルヘが巻き込まれる。

 「僕は、エスと同じくメープルシロップやクッキー、その他には科学ショップで見つけた綺麗な鉱石を買ったよ」

 「え、それどこのお店?」

 私、ウエスト・エドモントン・モールでは見なかったけど。リンが身を乗り出した。

 「『サウスゲート』の方だよ。三日前に連れて行ってもらったんだ」

 「サウスゲート? 私も行ってみたかったな。残念」

 「それって『サウスキー』じゃないの?」

 斜め前からホシコが顔を出した。

 「ウエスト・エドモントン・モールの他に、サウスキーっていう大きなショッピングセンターがあるって聞いたのだけれど」

 「うーん、僕が看板を見た限りではサウスゲートだったと思うけれど……」

 恐らく、ホシコの方が、現地の人の発音を聞き間違えたのだと思われる。店内の様子や特徴を話しているのを聞く限り、ホシコとホルヘの話題にしている店は同じ店のようだ。

 「ノブタロウは? 何を買ったの?」

 エスが一番窓側のノブタロウに投げかける。

 「僕が買ったのは、トーテムポールの置き物やポストカード、ドリームキャッチャーだよ。やっぱり、せっかく海外に来たのだから、現地の歴史や文化を思い起こせるような品物が良いと思ってね。そもそもトーテムポールは……」



 ***



 窓の外の見た目は夕暮れだった。中学生たちはおのおの自分たちの経験してきたことについて話し合っている。

 「私はショッピングばっかりしていたなあ。特にウエスト・エドモントン・モールには何回も連れて行ってもらったよ。だって、あんなに大きなショッピングセンターだったら、毎日歩いて見て回ってもきっと飽きないわ」

 リンはHFのアマンダと一緒に仲良く買い物を楽しんだようだ。エスも頷きながら、

 「すごかったよね。事前に大きいとは聞いていたけれど、あそこまでなんてさ。プールもあったし!」

 「そうそう。それに、パットゴルフの施設もあったよね。ブラックライトだけで照らされた暗い空間でやるゴルフは初めてだったし、すごく楽しかった」

 ホルヘも思い出しながら語っている。

 と、

 「みんなでカーリングに行ったじゃない。私あれ初めて体験したのだけれど、日本でもできるのかしら」

 「どうだろう。確か青森にはカーリング場があるって聞いたことがあるけど。オリンピックでも種目になっていて日本の選手も出場しているから、探せばあるかもしれないね」

 ホシコとノブタロウも、スポーツの思い出話をしていた。

 「氷上のスポーツと言えば、ウエスト・エドモントン・モールのスケートリンクでアイスホッケーの練習をやっているのを見たよ」

 「あ、私も見た! ホッケーもやったことがないから、いつかやってみたいなあ」

 この話を拾ってか、ホルヘはエスとリンに話を振る。

 「DSM校で校長先生にもらった帽子って、エドモントン・フォイラーズ(foilers)のロゴが入っていたよね」

 「そうね。あれってカナダじゃ人気のホッケーチームなのかしら」

 「せっかく同年代の子たちと一緒だったんだし、そういうスポーツチームの人気についても聞いておくべきだったわ」

 「日本ではあまり馴染みが無いのよね。でも、興味が持てるわ」

 「そうだね。帰ったらいろいろ調べてみようか」



 そうしているうちに、夜になった。たくさんお喋りした五人は次第に眠くなってきた。

 「私、トイレに行ってくるね」

 リンが最初に席を立ったのを皮切りに、

 「次、私が行くわ」

 続いてホシコが宣言した。

 こうして一人ずつ支度をして、いつしか全員夢の世界へ旅立つのであった。



 ***



 結局、アイラブユー・ゲームは予想通り誰が勝ったのかわからず仕舞だった。もしかしたら、誰も誰にも言わなかったのかもしれない。

 日本に着いて、久しぶりに日本語に囲まれた空港のフロアで座っている。

 ホシコがホルヘを見て何か言いたげな顔をしていたが、ホルヘはこれを無視した。ノブタロウはその二人を見て変な顔をした。リンは欠伸をしていた。エスは売店で買ったらしいキャラメルを口に入れている。

 「何だか急に現実に引き戻された気分」

 リンが周りの日本人を眺めながら零す。

 「ほんと。夢みたいだった」

 ホシコが遠くを見る目をした。

 「またこのメンバーで旅行したいね」

 ホルヘが他の四人を見回しながら言う。

 「来年には卒業だし、卒業旅行と洒落込みましょうか」

 エスは笑っている。

 「その前に高校受験があるから頑張らないとな……あ、迎えが来たみたいだ」

 ノブタロウの指さした先に、2週間ぶりに見るそれぞれの家族が歩いてくるのが見えた。手を振っている。


 こうして、彼らの旅は終わりを告げた。



…I-Love-You Game


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