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その日、蜻蛉は本屋で立ち読みしていた。読んでいたのは、女性向け雑誌。見ていたページには__。
“街角で見かけた美少女特集!今回のスタッフ一押しは、笑顔が可愛いこの子!”
「……あいつ何してんの」
*
「おい処女」
公園で本を読んでいた少女は、およそ渾名とは言い難い名称に反応して顔を上げる。目の前には、黒のTシャツに黒のスキニーと、不審者のような出で立ちの、眉目秀麗な男子。
「あら、蜻蛉さん。珍しいですね、こんな所でお会いするなんて」
肩口で切りそろえられた黒髪を耳に掛けながら、少女__玉は微笑む。
「これ」
蜻蛉は無言で、先程購入した雑誌を突きつける。そこには、目の前の彼女と同じように微笑む少女がデカデカと載っている。というか、本人だ。
「あら。これ、この前の……。こんな特集になってたんですか」
蜻蛉は雑誌を摘むように持ち上げて、玉と写真を見比べながら言う。
「『笑顔が可愛い』ねぇ。何処がだよ。この編集者、目ェ腐ってんじゃねぇの」
「それは失礼です。人の目を腐ってるだなんて」
「そこかよ」
玉のズレた反論に、彼は半目で答える。
「この笑顔が可愛いなんて、オレ一度も思ったこと無ェわ」
「おや、こんなキュートなスマイルですのに」
「言ってろ」
そう言って、完璧な笑顔を見せた彼女に蜻蛉は、そっぽを向きながら答える。
「てか、こんなんいつ撮られたんだ」
「この前、学校で使う手芸道具を買いに、都心に出た時ですかね。急に話しかけられたので、詳しくお話を聞いた後、写真を何枚か」
「こんなにデカデカと載ってたら、変な奴に目ェ付けられるかもな」
ケケケと笑いながら、彼は意地悪を言う。だが、玉はそれに笑顔で返す。
「まさか。私如きに目をつける方なんていらっしゃいませんよ。それに、もし万が一そんな事があっても、蜻蛉さんが助けてくださるのでしょう?」
それに対して、蜻蛉はヘッと、吐き捨てながら言う。
「阿呆か。助ける訳無ェだろ。そんな義理無ェし」
「それは残念」
予想していたのか、対して残念そうな顔では無い。それを横目で見た後、視線を元に戻しつつ、蜻蛉は小さな声で告げる。
「……一応、注意しとけよ」
「はい。まあ、私如きに興味を持つ方がいるかがそもそもの問題ですが」
そんな、警戒心が全く無い彼女の返答に、蜻蛉は溜息を吐くだけだった。
「お前、マジで何されても知らねぇからな」
「はい」