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  作者: 鷹弘
電話
6/26

 その日、(ぎょく)は家で留守番していた。


「……暇ですねぇ」


 そこに一本の電話。



   *



「はい、呉凪(くれなぎ)でございます」

 __もしもし!姉ちゃん!?俺俺!


 先に言っておくと、玉は一人っ子である。これが所謂、“オレオレ詐欺”であることは一瞬にして分かった。しかし、彼女は暇だったので気にせずに会話を続ける。


「はい、どうかしました?」

 __俺、人を殴って病院送りにしちまったんだ……。

「あらまぁ、それは大変ですねぇ」


 彼女の返答に戸惑う詐欺師の様子が電話越しでも分かる。


 __あらまぁって……。そ、それで、入院費と慰謝料で二百万必要なんだ!

「入院費と慰謝料……」


 そこで玉は、困ったような声でそれを繰り返す。

 顎に手を添えて、言葉を続ける。


「それって、貴方から殴ってしまったのですか?」

 __え?あ、あぁ……。

「でも、貴方がそんな事する子だなんて、私知りませんでしたよ。何か理由があるのでは?」

 __え、えっとぉ……。そう!あいつが金寄越せって言うから、つい火事場の馬鹿力で……。

「あら、お金を払うのが嫌で殴ったのに、結局お金を取られてしまうのですか?それでは本末転倒では……」

 __いや、殴ったのは俺だし……。

「確かにそうですが、理由が理由ですし、相手方とお話されては?」

 __いや!相手とも話して、金が必要ってなったんだよ!兎に角、今から言う場所に金持って来て!相手の父親が取りに来るから!

「貴方は?」

 __相手の母親と話してる!良いから、金持って来てくれよ!弟の願いだろ!


 そこで、玉の顔の笑みに、翳りが見える。しかし、電話越しである相手にそれは見えない。


「あらあら……。それは駄目ですよ。貴方は弟という立場を利用して、姉をこき使うのですか」

 __きょ、姉弟だから助けてくれよ!

「助けるのは構いませんが、相手方のお母様とお話するのも、私のお仕事では?貴方一人で、息子さんないし、娘さんを傷つけられ、怒り心頭の親御さんを相手取れると?ご冗談を。」

 __……!


 相手が息を呑む音が聞こえたが、玉はそれを無視して話を続ける。


「無理ですよね。それに、何よりも不思議なのは、何故私が電話に出た瞬間にオトウサンか……オカアサンを呼んでくれと言わなかったのですか?」

 __そ、れは……。


 玉が、オカアサンと言う時に開けた間にも気づかずに、詐欺師は言い淀む、


「まぁ、この際はそれはいいです。兎に角、貴方は怒り狂った親というものを甘く見すぎです。少し反省なさい」

 __な、何説教してんだよ!いいから金持って来いよ!

「おーい、処女」


 とうとう、詐欺師の声が乱暴になる。そのタイミングで、いつもの彼が、やって来た声が玄関から聞こえてきた。

 玉は顔を若干輝かせた後、電話に先程より早口で告げる。


「では、もう電話切らせて頂きますね」

 __は!?おい、金は、

「それと、詐欺をなさるのなら、相手の家族構成は十分にお調べ下さい。私の家には、弟はいませんよ。では、暇潰しに付き合って頂き、ありがとうございました」

 __なッ!?


 相手が何か言う前に、無情にも切られた電話。ついでに、手近にあった鋏で電話線も切られてしまった。



   *



「あ?電話中だったのか」

蜻蛉(とんぼ)さん、いらっしゃいませ。いえいえ、もう終わったので」


 彼は、彼女の手に持った鋏を指さしながら、不思議そうに尋ねる。


「何それ」

「電話を少々」

「何でそうなった」

「オレオレ詐欺です」


 事もなく言いのけた少女に、蜻蛉は溜息を吐いただけだった。


「……電話、買ってやるよ」

「本当ですかっ。助かります、オトウサンになんて言おうか迷ってたんです」

「よく言う。これ狙ってた癖に」


 ニコニコとしながら胸の前で手を打ち合わせる玉に、蜻蛉は苦虫を噛み潰したような顔で答える。


「それにしても、お前にオレオレ詐欺って、そいつ可哀想だな」

「おや、そこは私が可哀想なのでは」

「阿呆。お前に電話する時点で、暇潰しにされるか、すぐ切られるかのどっちかだろ」


 玉は、その言葉に思い当たる節があるようで、何も言わずにニコニコする。


「しかも、電話線を切るってことは、そいつには二度と掛けて欲しく無いってことだし、手酷い言葉でも言ったんだろ」

「失礼な。ちゃんと、言われた質問に合う答えを致しました」

「それが酷いんだよ」

「でも、こういう場合は電話を買ってくれるんですよね」

「お前の親父さんが色々面倒だから」

「オトウサンがすみません」

「お前だろ」


 悪びれた様子も無く笑う彼女に、蜻蛉は呆れた視線を投げかける。いや、呆れたと言うよりは、面倒な事になったという視線か。

 本人は自覚していないが、玉は今、それなりにキレている。何となく、雰囲気が刺々しいのだ。しかし、話の内容を聞いていない蜻蛉には、どの言葉でキレたのかは想像つかない。この少女、いつも笑顔な分、キレた時は分かりやすいのだ。



「さて、蜻蛉さん。今日も着物を、」

「いつも着てるみたいに言うな。着ねぇよ」

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